ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か4

2016-12-10 10:23:19 | 国際関係
●「国民経済・雇用を重視する経済政策
 
 トランプの経済政策は、国民経済・雇用を重視するものである。選挙期間中にトランプが出した契約書には、TPPの離脱の他に、アメリカの雇用を守る、NAFTAの再交渉・離脱等の政策が書いてある。トランプが掲げる経済政策の柱は、(1)保護主義的な通商政策、(2)インフラ投資拡大、(3)大型減税、(4)金融規制の緩和などである。
 まず(1)の保護主義的な通商政策については、貿易不均衡の是正策として、輸入制限などの保護主義的な政策を行うと見られる。トランプは選挙期間中、メキシコからの輸入増を問題視し、北米自由貿易協定(NAFTA)を「史上最悪の協定だ」と断じた。メキシコには、トヨタ自動車やホンダが製造拠点を構え、メキシコで作った車を関税なしで米国に輸出している。これに関し、トランプは「日本車にかける関税を38%に引き上げる」と発言したこともあり、日本車への関税引き上げが議論されるだろう。世界第一の経済大国・米国で保護主義的な傾向が強まると、世界的に自由貿易による貿易が縮小し、経済規模が縮小すると予想される。
 次に(2)のインフラ投資拡大について、トランブは公共投資を拡大すると言っている。この政策は、「小さな政府」で政府はできるだけ市場に介入しないという共和党の伝統的な考え方とは異なる。だが、インフラ整備のような巨大な事業は、政府が計画的に行わないと、民間に任せていたのでは、容易に進まない。1980年代にレーガン政権は、軍備増強を強力に進めた。軍備増強は政府が行う公共事業である。トランプ政権の安全保障政策については、次の項目について書くが、予想される軍備増強を実施すれば、公共投資によるGDP拡大になるだろう。
 (3)の大型減税、(4)の規制緩和については、レーガンの経済政策、レーガノミクスを想起させる。法人税の減税や各種の規制緩和は、供給する側の力を強化する改革であり、サプライサイド強化策となる。サプライサイドとは企業側を指す。トランプがこれらの政策を(1)(2)と合わせてどのように、またどの程度行うかは、未詳である。
 レーガノミクスの場合を振り返っておくと、レーガン政権は、新自由主義・市場原理主義を取り入れた政策を、8年間にわたって行った。新古典派的なフラット税制を導入して、法人税と所得税を極端に低くし、一部の富裕層と株主や経営者の所得を最大にする財政政策をとった。大幅減税で税収が激減し、財政赤字が拡大した。またインフレ抑制とドル資金をアメリカに呼び寄せることを目的に高金利政策とドル高政策をとったために、製造業は海外に生産拠点を移した。その結果、輸出が減り、輸入が増えて、貿易収支の赤字が拡大した。
 レーガン政権はマネタリズムを取り入れた政策を行った。その一方、ケインズ主義的な積極的大型赤字財政で、ソ連の軍拡に対抗して軍備増強を進めた。それによって、ソ連を軍拡競争に引き込み、経済力の違いによって、ソ連を崩壊に導いた。だが、軍事費の増大は、国家財政を圧迫した。これらの要因が重なり、アメリカは財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」を抱えるようになった。
 1985年(昭和60年)9月、アメリカはドル高の是正のため、先進5カ国に協力を求め、プラザ合意が結ばれた。軍拡競争でソ連を破ろうというアメリカの世界戦略に、日本は経済面で協力した。価値が下落したドルを支えるために行ったプラザ合意で、わが国は、急激な円高、その影響による土地・株のバブル、バブルの崩壊、デフレ不況といった苦難を味わった。戦後、先進国でデフレに陥ったのは、日本のみである。第2次安倍政権は、20年以上続くデフレからの脱却に取り組んでいるが、容易な課題ではない。
 トランプの経済政策は、レーガノミクスと共通点があるので、わが国は同じような結果に陥らないようしっかり研究して、主体的に対応することが求められる。
 トランプの経済政策について、レーガノミクスとの類似を指摘するエコノミストの一人に、産経新聞編集委員の田村秀男氏がいる。田村氏は、12月3日の記事で「インフラ整備を目標とした財政出動を言明し、『小さな政府』を掲げたレーガン政権とは異なるのだが、政策の対外的な帰結は似通ったものになりそうだ」と見る。そして、「レーガン政権は主なターゲットを日本とし、プラザ合意(1985年9月)によるドル高是正と貿易相手国に報復する通商面での強硬路線をとった。トランプ政権は今回、中国を対象に同様の策に出そうだ」と、対象は日本ではなく、中国になりそうだと予想している。
 トランプが大統領選で勝利すると、最初は「まさか」の衝撃が世界を走ったが、間もなく市場はトランプ政権への期待を感じさせる動きを見せている。ドル高、金利高が始まっている。米国債が売られて金利が上昇し、株式とドルが買われるという展開である。田村氏は、次のように見る。「来年1月の政権発足までには拡張財政がより具体化すると同時に、FRBも利上げに転じるので、金利高・ドル高傾向が定着しかねない。ドル高は米産業の競争力を減じ、輸入を増やすので、トランプ政権の製造業の復活というもくろみを潰しかねない。そこで響き渡るのはトランプ氏の『一律45%の中国向け関税』適用案だ」と。そして、「人民元安に誘導してきた中国を為替操作国として認定し、制裁する。かつて日本を主要対象とした米通貨・通商政策が中国に向く。『米中版プラザ合意』になるのか、それとも激しい米中貿易戦争になるのか」と書いている。
 これは、レーガノミクスに類似したトランプノミクスは、日本経済よりも中国経済に対して大きな影響を与えるという予想であり、注目に値する。

 次回に続く。

関連掲示
・レーガノミクスに関しては、下記の拙稿をご参照下さい。
 「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」
http:/khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13i-2.htm
 「救国の秘策がある!~丹羽春喜氏1」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13j.htm
・プラザ合意とその後の日本経済については、下記の拙稿をご参照下さい。
 「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13d.htm