ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

菅氏が総裁選に出馬、石破氏では反日自滅政権になる

2020-08-31 10:12:32 | 時事
 菅官房長官が総裁選に出馬の意向と伝えられます。二階幹事長は菅氏を支持する方針を固めたとのことです。おそらく8月20日の二階・菅会談で合意されていたことでしょう。安倍氏が辞任後も指導力を発揮するためにも、また安倍政権がやってきた内外諸政策をしっかり継続するためにも、ここは菅氏が後継するのが最も望ましいと私は思います。岸田氏や河野氏らには、その次に向けて実力を蓄えていってもらいたいと思います。
 仮に今回、石破氏以外の政治家が後継したとしても、石破氏に勝てるだけの支持者を集められる真正保守の政治家が現れないと、いずれ石破氏が日本のかじ取りになってしまいます。石破氏が首班となったならば、たとえそれが自民党を中心とした政権であっても、平成5年成立の非自民・非共産8党派連立の細川護熙政権や、平成21年成立の民主党政権に近い反日自滅政権になると思います。その時、わが国はとんでもない迷走に陥るでしょう。
 ところで、2年前の自民党総裁選の時、安倍氏の対抗馬だった石破茂氏は、「石破茂総裁選特設サイト」に「正直、公正、石破茂」という文字を掲げました。そのサイトのプロフィールには、かつて自民党が野党だった1993年に、自分が党の方針に反して「政治改革関連法」に賛成し、それを機に離党し、小沢一郎氏らと新進党結党に参加した事実が書かれていませんでした。都合が悪いことは隠そうという魂胆が見え見えでした。これでは、正直ではなく「不正直」、公正ではなく「不公正」です。私は、彼のこういうところが、人相によく表れていると思っています。

関連掲示
・拙稿「安倍首相、辞任表明。石破氏以外の後継者を」
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/00c4879be31c62e0e47e39a07df04378

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

仏教47~シナ文明における仏教史の概要

2020-08-30 08:28:15 | 心と宗教
◆シナ文明における仏教史の概要
 仏教は、インド文明において、紀元前3世紀、マウリヤ朝のアショーカ王の保護の下にインド全域に広がった。やがて西北インドから中央アジアを経由して、紀元1世紀には、シナの中原地方に伝来した。
 シナ文明への仏教の伝来の時期は、後漢の第2代皇帝・明帝の時代、紀元後67年が通説である。だが、それ以前にも、シナでは西域と呼ぶ中央アジア諸国との交渉を通じて、仏教の影響があったと見られる。伝道は、武力による侵攻・支配に伴うものではなく、宗教・文化の伝播として行われた。
 仏教は、インドの宗教であり、現世否定を基本とする。現世における不老長生を希求し、先祖の葬祭儀礼を重んじるシナ文明にとっては、異質の宗教思想である。このため、シナにおける仏教伝道の歴史は、文明間における異文化の衝突となった。
 仏教は、漢字を用いた翻訳を通じて受容された。シナには、すでに儒家・道家・法家等の思想が発達していたので、仏教はシナ土着の思想を土壌として理解された。受容と研究と実践の過程で、自ずと仏教はその思想の影響を受け、仏教のシナ化が起こった。さらに、仏教の摂取が進むと、シナ独自の仏教が出現した。
 後漢末から魏晋の時代には、インド仏教の空と、道家に基づく老荘思想の無の類似性が自覚され、仏教の思想や用語をシナの伝統的な思想・用語にあてはめて解釈することが行われた。ここに生まれたシナ独自の仏教を、格義仏教という。これがその後のシナ仏教を性格づけた。
 インドでは仏教の教義は歴史的に段階を踏んで発展したが、インドの近隣諸国では、歴史的に発展した各段階の教義を、全体としてまとめて、教義として受け取ることとなった。チベットでは、初期仏教から密教にいたる様々な教えを一つの体系のもとに統合するという試みがされたが、シナでは、経典の評価付けを行って特定の経典を重視する宗派が形成された。『法華経』を中心経典とする天台宗、『華厳経』を中心経典とする華厳宗等である。これらの宗派では、高度な教学が発達した。
 こうした学問重視的な宗派が発達する一方、特定の行法にしぼって実践する実践中心的な宗派が出現した。インド伝来の浄土思想が体系化され、仏教の主要な潮流を形成して、民衆の信仰を集めた。また、座禅の実践に徹する禅宗が生まれ、浄土信仰と並ぶ潮流となった。また、シナでは、インドではヒンドゥー教に吸収された密教が、シナでは仏教の宗派として確立され、発展した。
 だが、シナ文明の精神的な中核は、儒教であり続けた。古代からシナの政治思想の基礎となった儒教は、法家の統治思想と融合し、儒仏道三教の合一を進めて、シナ文明の精神的中核としての機能を発揮し続けた。
 儒教は、家族的・氏族的な宗教であり、また政治的な宗教である。現世志向が強く、主に集団救済を目的とする。そのため、個人の救済や来世の救済を求める人間の欲求には、よく応えられない。逆に、仏教は個人の救済や来世の救済を主たる目的としており、儒教では満たされない欲求に応えるものとして、シナ社会に浸透し得る可能性を持っていた。シナの仏教は、儒教の道徳を受け入れ、その思想に基づく偽経がつくられた。これも、仏教のシナ化を示す動きだった。
 シナ文明には儒教では満たされない欲求に応える宗教として、道教が発達した。道教は、儒教もそうだが、仏教と異なり、輪廻転生を明確には信じず、単生説に立つ。人生を楽しみ、現世肯定的で、俗世間を離れて、天地大自然と一体化した生き方に努め、不老長生を目指す。仏教が本来、一切皆苦を説き、現世否定的で、輪廻世界からの解脱を目指すのとは、対照的である。シナ人の多くは、輪廻転生を信じず、解脱の必要性を切実に感じない。そうしたシナ人が仏教に主に期待するものは、現世利益と心の平安、死後の安心の保証ということになった。
 インドから中央アジアを経てシナに伝わった仏教は、その地で独自の発達をし、シナからさらに朝鮮、日本、ベトナムへ伝わった。この経路で伝播した仏教を北伝仏教という。北伝仏教は大乗仏教や密教を主とするが、部派仏教の聖典も伝えられた。
 シナ文明は、仏教とともに、儒教・道教を東アジアや東南アジアの一部に伝えた。こうして伝わった仏教は、儒教・道教の影響を受けたり、それらと混交したりしたシナ独自の仏教だった。シナ仏教は、特に日本文明において一層の発達をした。また、同時に様々な思想・宗派が保存されることにもなった。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

人種差別12~抗議デモの要求がエスカレート

2020-08-29 08:36:20 | 国際関係
●抗議デモの要求がエスカレートしている

 ミネアポリス白人警官黒人殺害事件をきっかけにした抗議運動は、一部が過激化・極端化している。抗議デモは、当初、人種差別に反対する「黒人の命は大切」(Black Lives Matter)というスローガンの下、暴力を振るった警官の厳正な処分や事件の再発防止に向けた警察改革を要求していた。黒人殺害事件を機に、警察官の行動規範改革や黒人差別の改善を求めるのは、正当な運動である。
 ところが、抗議運動は途中から、正当な要求から大きく逸脱し、「警察解体」や「警察の予算削減」が主な目標になりつつある。これらは、アメリカの極左翼や黒人武装組織が宿願としてきた目標である。警察組織を解体しないまでも、予算を削減するならば、雇用できる警察官の人数が減ったり、警備に必要な器具・機械等の質と量が低下する。
 事件の発生地・ミネアポリス市は、中西部の最北に位置するミネソタ州にある。カナダに近く、白人が多数を占める。黒人が多い南部の州の町ではない。地域経済の中心都市で、貧困が支配する町ではない。そういう都市で警察解体という極端な動きが高まってしまうところに、現在の米国の根深い病がある。
 同市の市議会では、議員7割弱が警察解体に賛成し、市長の拒否権を覆せる賛成数ゆえ、警察解体が実現可能性を持っているようである。市長が民主党、13人の市会議員中12人が民主党、1人が緑の党であり、共和党の市議は一人もいない。ミネソタ州では、民主党最左派で女性イスラーム教徒のイルハン・オマールが連邦下院議員に選出されている。このようにリベラル勢力が非常に強い地域だからこその警察解体の動きも見られる。
 ミネアポリスでの事件の後、南部ジョージア州のアトランタで、警察に従わずに逃亡を試みた黒人犯に銃を放って死亡させた警官が懲戒免職になり、重罪で告発された。6月12日夜、通報によって現場に着いたアトランタ市警の警官が黒人男性の飲酒運転を摘発しようと飲酒検査をした。基準値以上のアルコールが検出されたため、拘束しようとしたが、黒人男性が抵抗したため、スタンガンの一種「テーザー銃」を取り出して鎮圧を試みた。だが、黒人男性は警官からスタンガンを奪って逃走した。警官が追いかけると、黒人男性が振り返ってスタンガンを撃ったため、警官が発砲し、黒人男性は死亡した。翌日、市長は市警察署長が辞任すると発表した。事態の拡大を恐れての辞任だろう。
 似たような動きが米国各地に広がりつつある。これによって警官の職務モラルの是正が促進されるだろうが、その反面、警官が犯罪の取り締まりの手を緩めて、市民の抗議や市当局による処分を受けないように保身に走る恐れもある。
 わが国には、大東亜戦争の敗戦後、占領下で警察が機能しなくなった時期があった。三国人の一部が暴れまわり、土地の強奪、強盗、婦女暴行等が横行した。警察が取り締まれない状況で、対抗暴力をふるったのが、いわゆる暴力団だった。治安機構が機能しない状況では、暴力には実力で身を守るしかない。しかし、民間暴力は新たな問題を生む。闇社会の成長である。ギャングの横行は、警察の過剰警備以上の問題になるだろう。
 もう一つ、アナーキーな状況を積極的に作り出し、それを自らの目的に利用しようとする者たちがいることにも注意しなければならない。政治権力を奪取するために暴力を正当化し、革命を起こそうとする勢力である。革命運動は、しばしば無頼の徒の振る舞いと区別がつかない破壊・強奪・放火から始まるものである。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

安倍首相、辞任表明。石破氏以外の後継者を

2020-08-28 22:30:06 | 時事
 安倍首相、記者会見で辞任を正式に発表。持病の潰瘍性大腸炎の再発が原因。世界的なコロナ禍、戦後最悪の経済状況、共産中国の脅威増大、凶暴化する自然災害・・・わが国のかつてない国難にあって、安倍氏という、またとない指導者の突然の辞任は、誠に残念です。
 安倍氏は、後継総裁選びを二階幹事長に一任。二階氏は、党員・党友の投票を省略し、国会議員と都道府県連代表3人による投票で実施する方針を固めたようです。この方法であれば、地方では支持者が多いものの国会議員の間では支持者が少ない石破茂氏が選ばれる可能性は、低くなります。石破氏が総理大臣になれば、安倍氏が懸命に進めて来たことは、ことごとく否定され、ひっくり返されます。これだけは、絶対避けたいところです。石破内閣の誕生は、左派の野党、中国共産党、韓国反日派、北朝鮮が大喜びするでしょう。
 安倍氏は、首相を辞任した後、次が石破氏以外であれば、後継首相の指南役として力を振うことができます。それを期待したいと思います。安倍氏には、難病の克服、健康の回復を優先しつつ、可能な範囲でその類まれな指導力を、日本のため、アジアのため、世界のために発揮し続けてほしいと思います。

関連掲示
・拙稿「石破茂氏を総理大臣にしてはいけない」
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/3a0841aa668e857d05a0574208527697
・拙稿「石破茂氏は愛国的な政治家か」
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d0ef7435c2cca2380c771e4825f08277
・拙稿「石破茂氏に漂う偽善のにおい」https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/fd803bed491aba884db5d1053afbb9bd

仏教46~シナ文明の宗教と思想の特徴

2020-08-27 10:16:52 | 心と宗教
●シナ文明における仏教

◆シナ文明の独自性
 仏教は、インド亜大陸でインダス文明が滅んだ後に発達したインド文明で創始され、シナ文明に伝来した。世界の三大宗教のうち、古代の代表的な文明の系統を引く文明の間で伝播したのは、仏教だけである。
 ここで、シナを含む古代世界の諸文明について記すと、世界最古の文明は、今から約5000年前に、エジプトのナイル川流域に発生したエジプト文明と、西アジアのチグリス・ユーフラテス川流域に発生したメソポタミア文明だった。続いて、今から約4500年前に今のパキスタンであるインダス川流域のインダス文明、今から約3500年前にシナの黄河流域の黄河文明が起こったとされている。以前はこれらの文明を世界の古代四大文明というのが通説だったが、シナ大陸では、長江文明や遼河文明等の文明の遺跡が各地で発見されている。本稿では、シナ大陸で発生した黄河及び長江流域の諸文明を総称して、シナ文明と呼ぶ。シナ大陸の古代諸文明は、黄河文明に同化・吸収された。それが現代に続くシナ文明である。
 文化人類学者のフィリップ・バグビーは、世界の歴史には、一度地域帝国ができると、地域帝国は興亡を繰り返すが、全体としての文明は解体せずに受け継がれていく事例があるとして、古代エジプトとシナを挙げた。トインビーは、この説を受けて、文明の型には、「誕生→成長→挫折→解体→滅亡」をたどる「ギリシャ=ローマ・モデル」とは別に、政治的変遷はあるが、社会そのものは維持されていく文明の型もあるとして、これを「シナ・モデル」として定式化した。
 私見を以って補うと、シナ文明においては、単に政治的変遷ではなく、支配する民族が何度も入れ替わっている。それにもかかわらず、社会そのものは維持されてきたところに特徴がある。
 シナ文明は、独自の宗教、政治制度、文字、芸術、技術等を発達させた古代世界の主要文明である。そうしたシナ文明に、インド文明が生んだ仏教が伝来したのである。


◆シナ文明の宗教と思想の特徴
 仏教が伝来する前、シナ文明には、独自の特徴を持つ宗教や思想が発達していた。その宗教・思想の主な特徴は5点ある。
 第一は、多神教の高度宗教であることである。シナ文明における宗教の原始形態は、アニミズム・シャーマニズムな信仰と考えられる。それを土台として、儒教・道教という固有の宗教が発生し、発達した。仏教がシナに伝来した時、シナ文明には、こうした土着の宗教が存在した。儒教における祖先崇拝はアニミズムに基づくものであり、巫術はシャーマニズムの漢語である。道教はアニミズム・シャーマニズムが高度宗教に発達したものである。
 第二は、古代ユーラシアの遊牧民族に広く見られる天空父神への信仰が高度に発達したことである。人類学者のジェームズ・G・フレイザーによると、未開人は、王の生命力が旺盛な時には、この世はすべてうまくいくが、王の力が衰え、死に至ると、世界も同時に終わると考えた。古代のシナでは、こうした観念が発達して、天人(てんにん)相関思想が生まれた。天と人との間、すなわち自然界と人間界との間には、因果関係があり、君主の政治の善悪が、自然界の吉祥や災異を招くという思想である。 
 古代シナ人は、この思想のもとに、君主は、徳を備えた人でなければならないと考えた。君主が徳を持ち、徳のある行いをしていれば、天はこれに呼応して、世の中は平和で作物も豊作となる。しかし、君主に徳が欠けると、飢饉となり疾病が蔓延し、地震などが起こると考えた。
 古代シナ人は、天を人格化して天帝と仰ぎ、天地・宇宙・万物を創造し支配する神として尊崇した。天帝は、自然神というより宇宙神である。元始天尊、上帝、天皇大帝等とも呼ばれる。
 こうした天人相関思想や天帝信仰を背景として、古代シナでは、紀元前5~6世紀から儒教・道教が発達した。これらは、アニミズム・シャーマニズム的な信仰に天空父神への信仰が加わっており、政治的また哲学的に深められた高度宗教になっている。
 第三に、道(タオ)を中心的な概念とすることである。道は、真理・原理・理法・法則・本源・根源・本体・規範等を意味し、シナ文明を一語で象徴する言葉である。道は、根本的な真理であり、その動きは陰陽の対概念を以って理解され、また人は天の道を模範として生きるべきものとされ、現実の生活における生き方をも道という。道を説いた代表的なものに、『老子道徳経』がある。
 後年、こうした道の思想の取り入れた民俗信仰として、道教が現れた。道教の語は、初めは「先王や聖人の道の教え」としての儒教を意味した。儒教は道学ともいい、これを発展させた朱子学は、またの名を道学という。仏教の伝来後、道教の語が仏教をも意味した時代があった。仏教は仏道とも呼ばれる。このように、道は、儒教・道教・仏教を貫き、それらの根底にあるものとして、シナ思想の中心的な概念となっている。
 第四に、陰陽という両極を立てる考え方をすることである。シナ文明には、すべての事物には陰陽があるとし、その対を以って思考する傾向がある。陰陽を矛盾・対立するものととらえるのではなく、相関的にとらえ、その両極の調和と安定を重んじる。また、しばしば陰陽を循環するものととらえる。
 陰陽の概念は、基本的には人間の男女の両性に基づく発想だろう。また、昼と夜、光と闇、天と地のように対比されるものを自然の中に見出して、一般化したものだろう。その際、特に四季の変化のように循環する自然の動きに注目したものと思われる。
 第五に、現世的また現実的な考え方が強いことである。シナ文明では、現世を離れた来世への志向より、現実をいかに生きるか、どうすればよいかに、宗教と思想の重点が置かれた。現世を否定せず、現世における不老長生が希求され、また、家族的・氏族的な共同体の維持・繁栄が目指された。個人の死後の魂の救済よりも、集団の現世の政治的な安寧に重点が置かれた。
 仏教は、以上の5つの特徴を持つ宗教や思想の発達したシナ文明に伝来した。そして、その土壌に定着した仏教は、アニミズム・シャーマニズム的な民俗信仰が根強く存続するなか、儒教・道教という固有の宗教と相互作用しながら、独自の発達を示した。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

人種差別11~白人が黒人より、黒人が黒人を殺す確率は50倍

2020-08-26 10:12:28 | 国際関係
●人種差別問題と2020年米大統領選挙

 今年(2020年)の大統領選挙は、民主党にとっては前回の雪辱戦であり、白人警官黒人殺害事件を選挙に最大限利用しようとするだろう。また、民主党最左派につらなる急進的な思想を持つ諸団体は、今年の大統領選挙に向けて、何かしら計画を立てて行動してきているだろう。それらの団体の一つが、「黒人の命は大切(BLM : Black Lives Matter)」である。BLM他の急進的な諸団体については後に詳しく書くことにして、ここでは島田洋一氏の所論の紹介を続ける。
 島田氏は、ミネアポリスでの黒人死事件と大統領選挙について、産経新聞令和2年6月15日付に「反警察運動 全米デモの不都合な真実 本当に『黒人の命』のためか」と題した記事を寄稿した。そこに次のように書いている。
 「事件以来、全米各地で『黒人の命は大事だ』をスローガンに警察糾弾のデモが起こり、混乱に乗じた暴徒による略奪放火が数日間続いた。多くの商店やビルが壊され、従業員が職を奪われた。警察官を含め死者も出た。(略)略奪が主目的の暴徒はデモに便乗した犯罪者である。警察と対峙する形でプラカードを掲げシュプレヒコールを上げる本来のデモ隊と違い、彼らは警察を避け、警備が手薄な箇所を狙って商店を襲う。政治的主張は二の次である。店を壊されたある年配の黒人女性が怒りを吐露する動画が、ツイッターで注目を集め、共感を呼んだ。『あなたたちは“黒人の命は大事だ”と言う。見てくれ。この略奪は何だ。私は黒人だ。カネが要るなら私のように働け。盗みはやめろ。この街は私たちが築いた。あなたたちがそれを叩き壊した』 女性の悲痛な叫びの要約である。ホワイトハウスもリツイートしている」
 「今回、極左が編み出した新スローガンが『警察の資金を断て』である。これに動揺し、影響された民主党系の首長や地方議員らが早速、警察予算の削減方針を打ち出している。さすがにバイデン大統領候補はじめ民主党の主だった政治家は『資金を断て』とまでは言わないが、『警察組織には人種差別意識が浸透しており、抜本的改革が必要だ』とのスタンスをとる。一方、トランプ大統領ら保守派は、『法と秩序』をスローガンに治安体制の充実を掲げ、『命を危険にさらして人々の安全を守る警察官を不当な誹謗中傷から守らねばならない』を合言葉とする。主流メディアや民主党側が大統領選などの選挙の争点とするなら大いに歓迎との立場だ」
 「不当な警察攻撃が広がることで、最も被害を受けるのは黒人が多く住む地区の中下層の人々である。近年、暴動を伴う反警察運動が起こった地域では、いずれもその後、凶悪犯罪の数が顕著に上昇している。下手にトラブルに巻き込まれ『黒人に暴行した』と言われると解雇、起訴となりかねないため、警察がパトロールを避けるのである。その結果、無法地帯化し、商店が去り、雇用が失われる」
http://blog.livedoor.jp/shimadayoichi/archives/1077480037.html

●白人が黒人より黒人が黒人を殺す確率は50倍

 米国の殺人事件は、低所得層居住地区において黒人が黒人を殺害というケースが最も多い。このことについて、日本再興プランナーの朝香豊氏は、6月10日のフェイスブックの記事で、次のように考察している。
 「FBIの統計によると、2018年の1年間で白人が黒人を殺した件数は234件であるのに対して、黒人が白人を殺した件数は514件であった。ちなみにアメリカの人口の6割が白人で、黒人は13%ほどであることから計算すると、白人が黒人を殺す確率に対して黒人が白人を殺す確率は、ざっと10倍大きいということになる。
 さらに、黒人が黒人を殺した件数を調べてみると2600件で、全殺人のほぼ40%を占めている。ここにも同様に人口比を計算に入れると、白人が黒人を殺す確率に対して黒人が黒人を殺す確率は50倍大きいことになる。
 もう一度繰り返すが、黒人が黒人を殺す確率は白人が黒人を殺す確率の50倍なのだ。黒人を殺しているのは、白人よりも圧倒的に黒人なのだ。人種差別があり、黒人に対する優越意識が白人にまだまだ残っているから、黒人の命が粗末に扱われているというのが本当なら、結果は逆にならないといけないのではないか。白人が黒人の命を大切にしていないように言っているが、黒人の命をもっとも大切にしていないのは黒人だということになる。
 もちろん、アメリカ社会において一般に黒人の社会的地位が低いことがこうしたことに影響を与えていることは理解できる。では、だからといって、白人が黒人を殺すよりも黒人が白人を殺す確率が10倍高く、さらに黒人が黒人を殺す確率が50倍も高いのは、『取るに足らない』話だと言えるのだろうか。」
https://nippon-saikou.com/3923?fbclid=IwAR1jbeOLjx5fpcIUzT2vn_tRysPMkBMCENSZi9jtN18zrHZ9Y2_BWDOdkmU
 朝香氏の挙げている数字について補足すると、米国勢調査局の資料が示す2019年7月9日の推定値では、米国の人口のうち白人は76.5%で、うち非ヒスパニックは60.4%。黒人は13.4%である。
 朝香氏が、白人が黒人を殺すよりも黒人が白人を殺す確率が10倍高く、さらに黒人が黒人を殺す確率が50倍も高いと書いていることは重要である。こうした実態を無視して、単に白人と黒人の人種差別の問題ととらえると、米国社会の複雑さを見落とす。もちろん、低所得居住地区における黒人間の殺人事件も、大きな構図で見れば、白人/黒人の二元構造による経済格差が主要な原因である。貧困の問題と犯罪は切り離せない。だが、現実に起こっている犯罪に対しては、公権力で対処しなければ、ならない。朝香氏が指摘したことを言い換えれば、米国の警察官は、白人から黒人を守る公務よりも、黒人から黒人を守る公務の方が50倍も多いともいえる。その警察に対して「警察解体」や「警察の資金を断て」と主張する要求を容れた自治体では、多くの黒人にとって、今以上に不安で危険な状況が生まれるだろう。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

仏教45~中央アジア、チベット等での展開

2020-08-25 08:27:11 | 心と宗教
●中央アジア

 紀元前3世紀頃のマウリヤ朝のアショーカ王の時代に仏教の伝道師は中央アジアにも派遣された。また、2世紀前半、クシャーナ朝の頃からガンダーラ王国で造られた仏教美術とともに、仏教や敦煌やトルファンなどの中央アジアに広がった。中央アジアは、シルクロードと呼ばれる交易の道だったが、その道を通って、仏教は、東アジアにも伝わっていった。
 その時代には、中央アジアでも仏教が栄えたが、7世紀にイスラーム帝国が西アジアから中央アジアに侵入したことによって、中央アジアの仏教は衰退し始めた。現在この地域は、イスラーム教が支配的である。
 たとえば、ウズベキスタンでは2~3世紀に仏教が最盛期を迎えたが、11世紀にイスラーム政権が成立すると、偶像崇拝の禁止によって仏像が破壊され、13世紀には仏教はほぼ消え去ったと見られる。ピュー・リサーチ・センターによる2009年の調査結果によると、人口の96.3%がイスラーム教徒となっている。
 なお、中央アジアの東端ともいえるモンゴルは、チベット仏教が伝播したので、次の項目に書く。

●チベット及びその仏教の影響圏

◆チベット
 チベットは、はじめ7世紀半ばにシナから唐代の仏教を輸入した。その後、8世紀後半、チソンデツェン王がインドから後期大乗仏教と密教に通じた高僧たちを迎えて、国家事業としてサンガの設立や仏典の翻訳を大々的に行った。当時のインドにあった仏教の諸宗派・諸思想を数十年という短期間で一挙に導入した。そして、インドからの大乗仏教・密教とチベットの民間信仰(ボン教)が融合してチベット独自の仏教、すなわちチベット仏教が出来上がった。
 チベットがインドから取り入れた仏教聖典を、西蔵大蔵経という。それはインドの大乗仏教・密教を伝える貴重な文献となっている。翻訳に当たってサンスクリット語の原典からチベット語へ、原文をできるだけ意訳せずにチベット語に置き換える逐語訳がされたという。シナにおける漢訳は、しばしば意訳が行われ、また儒教・道教という土着の高度宗教の教義が混入した。それに比べ、チベット語訳の聖典は、インド仏教の研究において非常に重要な位置を占めるものと評価されている。
 チベット仏教は、チベット人僧侶によって、周辺国はもとより、中央アジアから東アジアへ布教され、モンゴル、南シベリア、シナ北部等に広がった。
 チベットでは、インドからの本格的な仏教の導入後、数百年のうちに、カダム派、カギュ派、サキャ派、チョナン派、ニンマ派等に分かれた。大乗仏教のどの思想に重点を置くか、タントラ仏教にどういう立場を取るか等が分裂の理由である。そうしたなか、14世紀末にツォンカパが改革を行い、密教以外に大乗仏教の教義を研究し、中観派の思想を基礎に置いて、仏教を統合しようとした。彼の思想による集団を黄帽派、従来の宗派を紅帽派という。黄帽派はゲルク派ともいい、以後、チベットでの仏教の主流となった。ゲルク派の指導者はダライ・ラマと称して、チベットの君主となり、宗教・政治・文化をすべて統率する体制が出来た。ここからチベット仏教をラマ教と呼ぶ通称が生まれた。
 チベットは、近代以降、イギリス、ロシアの侵入を受けた。さらに第2次世界大戦後は、共産中国に侵攻されて自治区とされ、支配体制に組み込まれ、激しい弾圧を受けている。1956年のチベット動乱において、ダライ・ラマ14世(テンジン・ギャツォ)は59年にインドに亡命し、インド北部に宗教自治区を形成している。ダライ・ラマ以外の高僧やチベット人も多数インドやネパールに亡命した。チベットから海外に亡命した僧侶たちは、アメリカヨーロッパ等に広がり、そこで宗教活動を行って欧米人にチベット仏教の信奉者・理解者を増やしている。
 ダライ・ラマを宗教的指導者でありかつ国家指導者とする制度は、仏教の他の宗派には見られないものであり、ユダヤ教にも、キリスト教にも、イスラーム教にも類例のないものである。ダライ・ラマは単に政治をも担う宗教指導者ではない。活仏と信じられているからである。活仏とはチベット仏教独自の思想であり、優れた僧侶を生き仏と仰ぐものである。活仏には2種類あり、ダライ・ラマは観世音菩薩、パンチェン・ラマは阿弥陀如来が転生した化身とされる。また、彼らは死後、民衆を救うためにこの世に転生すると信じられている。死後49日間に受胎し生まれた子どもの中から転生者を探し出して、これを将来の指導者として育成・尊崇するという慣習が続けられている。だが、中国共産党政府は2007年、チベット自治区の化身ラマが転生する際、政府の許可なしの転生は認めないことを決定した。
 活仏の思想は、輪廻転生と菩薩信仰に基づく思想である。もし輪廻転生が生命の事実であるならば、釈迦が転生を繰り返して、民衆を救済し続けているべきだろう。だが、仏教ではそのように考えない。釈迦が涅槃寂静に入ったのであれば、入滅後、衆生を救うことはない。そこで、救いへの希求が如来・菩薩という理想的な救済者のイメージを生み出したのだろう。
 この仏教における救済者願望を一つの制度としたチベット仏教では、衆生済度のために現世に転生し続けているのは、観世音菩薩と阿弥陀如来だという。これらは、もともと架空の存在である。それゆえ、その架空の存在が化身として現れるということも、化身とされた僧侶が転生を繰り返しているということも、死後49日間のうちに受胎して生まれた子どもがその生まれ変わりだということも、すべて虚構とみなさざるを得ない。
 現代のダライ・ラマは、中国共産党の弾圧を受けている。チベットでは多数の僧侶・民衆が暴行を受けたり、殺害されたりしている。共産主義の暴虐非道に対し、観世音菩薩が転生化身したと信じられているダライ・ラマは、現実的にはほとんど無力に近い。自らの信徒を守ることも救うこともできていないと言わざるを得ない。これはチベット仏教の限界であるとともに、仏教の法と力の限界でもあるだろう。チベットの惨状に対し、チベット以外の諸国の仏教徒の一部は、宗派を超えて、心を痛め、祈りをし、支援も行っている。だが、それもまたチベットの僧侶や民衆を救うことには至っていない。このこともまた仏教の法と力の限界を示すものだろう。

◆ネパール
 ネパールは、インドと中国のチベット自治区に隣接する小国であり、シナ文明・チベット文化・インド文明の影響を受けてきた。釈迦の生地ルンピニーはネパールにあるが、今日のネパールでは、仏教よりヒンドゥー教の影響が大きい。ヒンドゥー教は近年まで長く国教だった。現在は国教扱いではなくなっているが、2011年の国勢調査で、ヒンドゥー教が81.3%を占めた。仏教は9.0%、イスラーム教は4.4%となっている。仏教は、主にチベット仏教とネワール教というヒンドゥー教の影響を受けたネパール独自の仏教とされる。

◆ブータン
 ブータンは、中国のチベット自治区とインドに国境を接する小国である。シナ文明・チベット文化・インド文明の影響を受けてきた。チベット仏教を国教とする仏教国である。百科事典『ブリタニカ』の年鑑2009年版によると、仏教徒が74.70%とされ、そのほとんどはチベット仏教である。残りはヒンドゥー教徒が多い。

◆モンゴル
 モンゴルには、チベット人僧侶の活動により、チベット仏教が伝わり、以後、チベット仏教が信奉されている。13世紀にチンギス・ハンが出て、ユーラシア大陸に広大な帝国を築き、シナでは元朝を建国した。だが、帝国は各地で衰退して崩壊し、シナでは17世紀末から満州系の清朝の支配下に置かれた。
 モンゴルは、ロシア革命の影響を受けて民族意識が高まり、1921年に革命を起こして独立を宣言した。この時、チベット仏教の化身ラマすなわち活仏とされるジェプツンダンバ・ホトクト8世を君主とする人民政府を樹立した。だが、24年に活仏君主が死去すると、人民共和国に政体を改め、社会主義国となった。東欧・ソ連の共産主義体制が崩壊した時期に、モンゴルは一党独裁体制を廃止し、1992年にモンゴル人民共和国からモンゴル国に国名を改め、新憲法を制定して社会主義を完全に放棄した。新憲法は信教の自由を保障している。
 チベット仏教は、社会主義時代には衰退したが、民主化以降は復活し、再生しつつあるという。リリジョン・ファクツのサイトによると、仏教55.1%、民俗宗教3.5%、イスラーム教3.2%ほかとされる。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

仏教44~東南アジアでの展開:仏教国全般

2020-08-23 10:13:48 | 心と宗教
◆マレーシアとシンガポール
 マレーシアでは、もともと仏教・ヒンドゥー教が分布していたが、13世紀からアラブ商人やインド商人がイスラーム教を伝え、イスラーム教が優勢になった。14世紀末に樹立されたマラッカ王国の国王が15世紀初めにイスラーム教を国教とした。16世紀初めから西欧諸国の進出を受け、ポルトガル、オランダ、イギリスの植民地とされた。大東亜戦争で日本はマラヤ全域を占領した。敗戦によりこの地域はイギリスの植民地状態に戻ったが、1957年にマラヤ連邦として独立した。63年シンガポール、イギリス保護国北ボルネオ、イギリス領サラワクがマラヤ連邦と統合し、マレーシアが成立した。その後、65年にシンガポールがマレーシアから独立した。
 マレーシアは、イスラーム教を国教とする。日本外務省の資料によると、イスラーム教が61%を占める。だが、民族構成が複雑であることの反映として、仏教が20%、ヒンドゥー教が6%いる。仏教徒の多くはシナ系であり、シナ系の国民は仏教・道教を主に信仰している。ヒンドゥー教はインド系に多い。
 シンガポールの宗教は、シナの浄土系の仏教が主に華人により信仰されており、2015年現在、人口の33.2%を仏教徒が占める。華人には道教も多く、人口の10.0%に上る。キリスト教18.8%、イスラーム教14.0%、ヒンドゥー教5.0%である。

◆インドネシア
 インドネシアは、世界最大のイスラーム教徒を有する国である。仏教徒は人口の1%に満たない。しかし、かつては仏教が栄えた時があり、ジャワのボロブドゥール寺院の遺跡が有名である。
 インドネシアは、古代には、インド商人を通じてヒンドゥー教の文化が浸透していた。それが地域の名称の由来となった。また、歴史的には東インドと呼ばれた。ヒンドゥー教とともに仏教が栄えたが、当地には上座部仏教ではなく主に大乗仏教が伝わった。7世紀にスマトラ島に建国されたシュリーヴィジャヤ王国は大乗仏教が盛んで、インドからも多くの僧侶が学びに来る仏教の一大中心地だった。また、8世紀半ばからジャワ中部で栄えたシャイレーンドラ王国は、密教が広まり、在来の祖先崇拝と融合した混交宗教が生まれた。同国で建造されたボロブドゥール寺院は、8世紀末に完成したと見られる。長くその存在は忘れられていたが、19世紀の初めに、密林の中に埋もれていた建物が発見された。オランダの植民地になっていた時代である。今日この寺院は、世界最大級の仏教寺院であり、ウェーサーカ祭には、世界各国から仏教徒が集まって、祭儀がされる。
 12世紀以降、ムスリム商人がイスラーム教を広めたことにより、イスラーム化が進んだ。イスラーム教が支配層に浸透するに従って、ジャワ仏教は衰微し、15世紀以後にほぼ消滅した。
 大東亜戦争で日本がオランダから主要部を獲得・占領し、民族独立運動を支援した。日本の敗戦後、インドネシア人はオランダと戦い、1949年に独立を勝ち取った。
 日本外務省のサイトによると、2016年の宗教省の統計では、仏教徒は人口の0.72%とされる。そのほとんどは、新たに入ったスリランカ系の上座部仏教の信徒である。人口のうち、圧倒的に多いのはイスラーム教で87.21%、次いでキリスト教9.87%、ヒンドゥー教1.69%である。
 インドネシアは、イスラーム教国といえるが、インドネシア政府はイスラーム教だけでなく、ヒンドゥー教、仏教、キリスト教プロテスタント、キリスト教カトリックの5大宗教を国教に定め、憲法上平等な権利を保障している。

◆東南アジアの仏教及び仏教国全般
 1980年代後半または90年代から、東南アジア諸国連合(ASEAN)の諸国は目覚しい経済発展を見せている。それによって、急速な近代化及びそれに伴う都市化が進行している。また、情報通信の発達によって、人々の生活は大きく変化している。その中で民衆の価値観が変化しつつある。東南アジアの仏教の主流をなす上座部仏教は、出家者の教団であるサンガを中核とする。古代的で保守的な上座部仏教は、経済と社会と文化の変化への対応を迫られている。
 東南アジアのタイ、ミャンマー、カンボジア等では、上座部(テーラワーダ)仏教が継承されてきた。その伝統的な瞑想法が簡略化されたものが、今日アメリカでインサイト・メディテーションあるいはマインドフルネスとして普及している。この点については、後に現代のアメリカや日本の仏教に関する項目に書く。
 東南アジアの上座部仏教は、土俗信仰を排除していない。大乗仏教ほどではないが、異なるものを受け入れたり、共存したりしている。それは、仏教の持つ寛容性の表れだろう。この点は、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教というセム系の唯一神教との大きな違いである。また、仏教は、各国内において、これらの唯一神教を含む他宗教と共存している。
 東南アジアは、世界で最も宗教的に多様な地域である。ASEAN10か国のうちミャンマー・タイ・カンボジア・ラオス・ベトナムの5か国は仏教国、インドネシア・マレーシア・ブルネイの3か国はイスラーム教国、フィリピンはキリスト教国といえる。残るシンガポールは複数の宗教が大差なく併存している。ベトナム・マレーシアでは、ヒンドゥー教徒もかなりの割合を占める。世界の主要宗教がモザイクのようになっている。また、どの宗教も地域全体を主導し得る勢力とはなっていない。そのため、ASEANは、キリスト教を共通の文化とするEU(ヨーロッパ連合)とは、全く異なる宗教的・文化的な事情を抱えている。多宗教・多民族の地域における諸国連合は、人類の歴史における壮大な実験ともいえる。その実験において、仏教及び仏教国がどこまで諸宗教の連携や融和に貢献し得るか注目されるところだが、歴史的に見ると、仏教はそうした現実的・社会的な力は弱く、多くを期待することはできない、と私は考える。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

人種差別10~人種問題の米国大統領選挙への影響

2020-08-22 10:17:11 | 国際関係
●人種問題の米国大統領選挙への影響

 今年(令和2年[2020年])は、11月に大統領選挙が行われる。5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで白人警官による黒人死事件が起こり、これに対する抗議デモが全米各地に拡大しことによって、にわかに人種差別問題が選挙の一つの争点として浮かび上がった。それと同時に、米国社会の深刻な事情が浮かび上がった。
 福井県立大学教授で国際政治学者の島田洋一氏は、米国の黒人と治安の問題について掘り下げた考察を行なってきた。今から4年半ほど前、島田氏は月刊正論2015年11月号の「アメリカの深層3」に、次のように書いた。
 「2014年8月、ミズーリ州ファーガソンで起こった事件を、日本のメディアは、アメリカの主流メディアにならい、通常、『丸腰の黒人少年が白人警官に射殺された』と表現する。警官が不起訴となった直後に大規模な抗議デモが発生、一部が暴徒化して略奪、焼き討ちに発展した。Hands Up!Don’t Shoot(手を挙げた!撃つな)、Black Lives Matter(黒人の命は大事だ)が、以後、運動の標語となり、同名の政治団体も生まれた。
 が、ファクトはどうだったか。『丸腰の黒人少年』とされるマイケル・ブラウンは身長193センチ、体重133キロの18歳で、警官と遭遇する前、コンビニ強盗をしていた。公開された監視ビデオ映像を見ると、店員を突き飛ばし悠々と歩み去っている。両手を挙げたのに警官が発砲したという通行人の証言(後に、この『通行人』はコンビニ強盗の共犯と分かる)に反して、ブラウンは警官を襲い銃を奪おうとしたという、別の目撃証言(複数)も現れた」
 「ウォール・ストリート・ジャーナル記者のジェイソン・ライリー(黒人)は、『黒人の命にとって、現実には、マイケル・ブラウンのような男の方が警察より遙かに大きな脅威なのだ』と疑問を呈する(2015年9月8日付)。事実、アメリカの殺人事件は、低所得層居住地区において黒人が黒人を殺害というケースが最も多い。
 同記者は、『警察が萎縮することで最も危険に晒されるのは黒人だ』というある知事の言葉を引きつつ、警察バッシングが続いたファーガソンなどいくつかの地域で、凶悪犯罪の検挙件数が顕著に減る一方、発生件数が顕著に増えている事実に触れる。警察が『おとなしく』なった分、犯罪者が大胆になったと見る他ないだろう」。
 「『正義なければ平和なし』(No Justice, No Peace)を掲げ、白人警官糾弾運動の先頭に立ったアル・シャ-プトン師を、主流メディアは『黒人指導者』と描くが、保守派は典型的なデマゴーグと捉える。トークラジオ・ホストのケビン・ジャクソン(黒人)は、シャープトンらを『人種ゴロ』(race pimp)と呼んだ上、彼らの煽動のせいで強盗、焼き討ちに遭い、営々と築いた資産や職場を失った商店主、従業員こそ真の犠牲者ではないのかと怒りを露わにする」
https://jinf.jp/feedback/archives/17548
 島田氏は、本年5月のミネアポリス白人警官黒人殺害事件の後、ファーガソンでの黒人少年射殺死事件について補足を書いた。7月15日付け産経新聞の同氏の記事によると、「複数の証言によれば、(註 射殺されたブラウンは)パトカーの窓越しに警官を殴って銃を奪おうとし、さらに車外でも襲いかかったため警官が発砲した」という。また、「大陪審は正当防衛と判断し警官を不起訴とした。しかし、暴動となったため、州当局が再検証を行い、さらにオバマ大統領の指示でホルダー司法長官(黒人)主導の再々検証も行われた。そのいずれも警官は不起訴相当という結論に達している。 にもかかわらず、リベラル・メディアは『白人警官が無抵抗の黒人少年を射殺』を暗示する報道を続けた。『手をあげた!撃つな』のプリントシャツを着るスポーツ選手や芸能人も多数出た。何よりオバマ大統領が『構造的な人種偏見が事件の背後にある』とした当初の発言を取り消さず、逆にBLMのリーダーを招いて指導力をたたえるなどしたことが大きい」と島田氏は書いている。
 さて、日本では、今年5月の白人警官による黒人殺害死事件で初めて“Black Lives Matter” “No Justice, No Peace”というスローガンを知った人は、日本に多いだろう。だが、これらのスローガンは4年以上前から使われているものである。黒人殺害事件への抗議デモは、この事件によって突発的に起こったものではない。組織的な活動が行われてきているのである。しかし、日本のマスメディアの報道は、こういうことを視聴者にほとんど伝えていない。島田氏が「アメリカの殺人事件は、低所得層居住地区において黒人が黒人を殺害というケースが最も多い」と書いている事実についても、日本のマスメディアの多くは伝えていない。
 2016年の大統領選挙は、民主党ヒラリー・クリントンと共和党ドラルド・トランプが争った。人種差別問題は争点の一つになった。島田氏は、大統領選挙を前にして月刊正論の同年9月号の「アメリカの深層13」に次のように書いた。
 「アメリカではもう一つ、治安における懸念事項がある。『警察の人種差別に反発』した黒人による白人警官射殺事件が相次いで起こるなど、オバマ政権下で顕著に悪化した『黒人対警察』あるいは『警官との戦争』(war on cops)と呼ばれる状況である。草の根保守に絶大な影響力を誇るトークラジオ・ホストのラッシュ・リンボーは、『昔は親が子に、警官に逆らうな、素直に応じろと教えた。今や何か事件が起こるたびに人種差別を示唆する大統領の下、警察への反抗こそ正義という雰囲気になっている。オバマは差別の要素がないと明らかになっても、決して発言を訂正しない。そんな状況下、警察による“脅威の誤認”も増えざるを得ないが、それをまた偏見のせいにされる』と述べる。
 ここ数年来、対警察抗議デモの中心にあったのが運動体『黒人の命は大事だ』(Black Lives Matter, BLM)である。民主党や様々な左翼団体のタニマチとして知られる相場師のジョージ・ソロスが最大の資金提供者となってきた。オバマ大統領も、リーダーらをホワイトハウスに招き、その指導力を称えるなど、BLMの社会的認知に一役買ってきた。
 一方、保守派はこの運動を厳しく批判する。ニューヨーク市の治安を劇的に改善させたことで知られるルドルフ・ジュリアーニ元市長は、『黒人の命が大事だというなら、極めてまれな白人警官による発砲死にのみ焦点を当てるのではなく、黒人が14時間に一人の割合で、主に黒人によって殺されているシカゴ(オバマ大統領の地元)に行って問題に取り組むべきだ』と発言し、物議を醸した」
 「民主党のヒラリー大統領候補は、従来からの黒人の支持層を固めるべく(黒人の90%以上が民主党に投票)、オバマ氏同様、警察の人種偏見を示唆し続けている。一方、共和党のトランプ候補は、犯罪分子に迎合しない『法と秩序候補』を自称し、警察全面支持を打ち出している。『治安』がますます大きな争点となってきた」
https://island3.exblog.jp/26187469/
 最後に島田氏が触れている2016年の米大統領選は、得票数ではヒラリーがトランプを286万票上回ったが、獲得した選挙人数ではトランプが306人で、ヒラリーの232人を上回った。米国の主要メディアは、直前までヒラリーの大勝を予想し、わが国のマスメディアはその予想を真に受けて流し続けた。選挙後、主要メディアは実際の世論の動向を把握していなかったことが明らかになり、マスメディアへの信頼は大きく低下した。

 次回に続く。

関連掲示
 私は、米国の大統領選挙について、2012年の民主党バラク・オバマと共和党ミッド・ロムニーの戦い、2016年民主党ヒラリー・クリントンと共和党ドナルド・トランプの戦いについて、それぞれの時期に書いた。
・拙稿「オバマVSロムニー~2012年米国大統領選挙の行方」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12m.htm
・拙稿「トランプVSヒラリー~2016年史上最低の米国大統領選挙」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12.htm
 目次からD08へ
・拙稿「トランプ時代の始まり~暴走か変革か」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-3.htm

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

米大統領選は接戦のなか、バイデンに認知症疑惑

2020-08-21 10:03:25 | 国際関係
 米大統領選まであと2カ月半。これまでの主要な世論調査では、民主党ジョー・バイデン元副大統領の支持率が共和党の現職ドナルド・トランプ大統領の支持率を最大14ポイント上回り、このままバイデン圧勝かと見られてきた。しかし、CNNの委託を受けた世論調査会社SSRSによる最近の調査では、その差が縮まり、バイデンが50%、トランプが46%と4ポイント差。8月17日付のCNNの記事は誤差を±3.7ポイントと書いたが、過去の実績から各種の世論調査の誤差は5ポイント程度と考えられるから、両候補の4ポイント差は誤差の範囲である。またCNNの報道は極端に民主党寄りのため、補正してとらえる必要がある。際どい接戦の様相を呈してきたと思う。
 トランプ大統領は、武漢ウイルス対応の責任を追及され、コロナ大恐慌の不満をぶつけられる立場。「トランプでなければ誰でもいい」と感情的な判断をする有権者もいるだろうが、方や反発の受け皿となるバイデンは、認知症が相当進んでいる模様である。
 現在77歳のバイデンに関する認知症の疑いは、今年の3月頃から報じられるようになった。「スーパー・チューズデー(火曜日)」を「スーパー・サースデー(木曜日)」と言いかけたり、演説の決定的な部分で引用するはずだった米国の独立宣言の有名な一節を思い出せなかったことが話題になった。だが、その前から、バイデンは明らかにおかしな発言を繰り返している。昨年(2019年)8月には、予備選の演説で、アフガニスタンでの戦争体験談を語った。だが、その話は大きく事実と異なっていた。単なる記憶違いではなく、妄想が混じっている。この時点で、側近や医師たちが彼の出馬を辞めさせるべきではなかったか。それ以降も、バイデンは、バージニア州にいた時に「ここはノースカロライナ州ではないか」と発言したり、オハイオ州とアイオワ州を間違えた。自分が副大統領だった時代の体験を語るなかで、当時の大統領だったオバマの名を思い出せず、「私のボスだった大統領」と言いつくろった。そのうえ、自分が大統領選挙に出馬していながら、「今度の上院議員選挙に勝ちます」と訴えた。
 今年の6月下旬、バイデンは、ペンシルベニア州の集会に参加した際、「アメリカではコロナウイルスで1億2000万人が死んだ」と発言した。だが、実際のアメリカの死者はその時点で12万人だった。thousands と millions の言い違いだろうが、このすさまじい言い違いに気づかないのでは、ボケ老人と言われてもしかたがない。
 6月29日に、世論調査機関ラスムセンがバイデンの認知症疑惑に関する調査結果を伝えた。それによるとバイデンがなんらかの形の認知症を病んでいると思うと答えた人が38%に上った。この調査結果は、産経新聞の古森義久記者によってわが国でも伝えられた。
 ラスムセンより少し早く6月17日に、別の世論調査機関ゾグビーが伝えた調査結果では、有権者の55%が「バイデンは初期の認知症であると思う」と答えた。若者ではその比率は60%を超えている。また、共和党支持者では77%、民主党支持者でも32%だった。
https://zogbyanalytics.com/news/943-the-zogby-poll-a-majority-of-voters-believe-biden-is-in-the-early-stages-of-dementia-60-of-younger-voters-think-so-swing-voters-less-likely-to-think-biden-has-dementia
 バイデンの認知症の進行状態は、日本なら責任ある政党は国政選挙で絶対公認しないレベルだろう。8月18日、民主党はバイデンを大統領候補に正式に指名したが、他に党員の支持を集められる心身ともに健康な人材は、本当にいないのだろうか。
 民主党の大会が開催された日、共和党支持のFOXニュースは、バイデンが脳神経の手術を3回受けたことがあると報じた。wikipediaによると、バイデンは45歳だった1988年2月に脳動脈瘤の破裂で手術を受け、同年5月にも脳動脈瘤の手術を2回受け、7か月で復帰したという。この年に計3度である。FOXは脳動脈瘤ではなく、脳神経の手術としているというから、情報が一致していない。45歳の時のことであれば、30年以上前のことである。
 仮に彼が過去に脳神経の手術を受けていたとして、そのことが現在の認知症の原因となっていると考えられるのか。それとも認知症が進行したので最近、手術を受けたということか。もしそうなら選挙戦への影響は大きなものとなるだろう。ちなみに認知症のうち手術で治るといわれているのは、慢性硬膜下血腫、特発性正常圧水頭症、脳腫瘍、甲状腺機能低下症等である。専門家の見解を聞きたいものである。
 いずれにしても、11月3日の米大統領選挙は、事実上、現職のトランプか対抗のバイデンかの選択となる。米国の有権者の多くは、コロナ禍と経済危機の混迷の中で、自らの運命を、認知症の疑われる老人に托すのだろうか。米国の大統領は、単にアメリカ合衆国という一国の指導者の役職にとどまらない。世界人類に重大な影響をもたらす極めて重要な役職である。その立場にある者は、一瞬の記憶の混濁、一時の判断の遅滞、一言の言い違いで世界に混乱や摩擦を引き起こす。米国の大統領選挙は、そういう役職に就く人間を選ぶ選挙である。他国民にとっては、米国民の良識に期待するしかない。
 以下は、バイデンの認知症疑惑を伝える報道記事。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●FNNニュース 令和2年3月5日

https://www.fnn.jp/articles/-/25694
「寝ぼけたジョー」が目を覚ましたか  しかし独立宣言の一節を思い出せず“軽い認知症?”との指摘も スーパーチューズデーで大躍進のバイデン氏に「?」
木村太郎
2020年3月5日 木曜 午前7:05
(ジャーナリスト)

(略)次に問題になりそうなのが、前副大統領が軽い認知症かかっているのではないかという指摘だ。というのも、同副大統領は集会やマスコミとのインタビューで「失言」で済まない間違いを起こしているからだ。
 最近の例でも、1日に行ったフォックスニュースのマイク・ウォレス氏とのインタビューの終わりに「チャック、ありがとう」と言ってウォレス氏を面食らわせた。「チャック」というのは、ライバル局MSNBCのキャスターのチャック・トッド氏と考えられるからだ。
 その翌日テキサス州で開かれた集会でもバイデン前副大統領は「スーパー・チューズデー(火曜日)」を「スーパー・サースデー(木曜日)」と言いかけたり、演説の決定的な部分で引用するはずだった米国の独立宣言の有名な一節「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造者によって、生命、自由および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている・・・」を思い出せなかった。
 「すべての男性も女性も生まれながらにして・・・・ほらあれだよ。分かるだろう」(略)

●MSNニュース 令和2年7月8日

https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E3%81%AA%E3%81%9C%E4%BB%8A-%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%A7%E5%9B%81%E3%81%8B%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3%E6%B0%8F%E3%81%AE%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E7%96%91%E6%83%91/ar-BB16slFu
なぜ今? 米国で囁かれるバイデン氏の認知症疑惑
古森 義久
2020/07/08 06:00
(産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 (略)米国のある世論調査では「米国有権者の4割近くがバイデン氏はなんらかの認知症を病んでいると思っている」という結果が出ている。本格的な選挙戦を前に、バイデン氏の健康問題がにわかに浮上してきた。(略)
 6月29日に、大手世論調査機関ラスムセン社による、バイデン氏の認知症疑惑に関する、ある調査結果が大きく報じられた。
 ラスムセン社は、「ジョー・バイデン氏の頻繁な失言や混乱した発言は、なんらかの形の認知症を病んでいるからだという批判があります」と前置きの説明をつけたうえで、一般有権者に「あなたが見たこと、読んだことから判断して、あなたはジョー・バイデン氏がなんらかの形の認知症を病んでいると思いますか」と質問していた。回答は「そう思う」「思わない」「わからない」からの選択だった。バイデン氏に認知症の症状があると思うか? というストレートな質問である。
 ラスムセン社の発表によると、「そう思う」と答えた人が全体の38%だった。一方、「そうは思わない」が48%、「わからない」が14%となった。注目すべきは、「バイデン氏がなんらかの形の認知症を病んでいると思う」と答えた人が4割近くもいたことである。
 同調査では、「そう思う」と答えた人たちを政党支持別に分けると、民主党支持層では全体の20%、共和党支持層は66%、無党派層は30%という結果が出ていた。つまり、民主党支持者でも5人に1人はバイデン氏が認知症を病んでいると思っているのだ。
 この世論調査は、6月25日から28日にかけて全米約1000人の有権者を対象に実施された。ラスムセン社は多数あるアメリカの世論調査機関のなかで最大手の1つとされ、大統領の支持率調査を毎日、実施している唯一の組織である。2016年の大統領選でも世論の動向を最も正しく伝えた調査会社として評判が高い。
 共和党も民主党もこの調査結果に驚かされた。とくに民主党には大きな衝撃を与えた。(略)同時にこの結果は米国の各種メディアによって広く報じられ、大きな波紋を広げた。民主党支持のメディアにはこの調査結果を無視するところもあったようだが、今後の選挙キャンペーンで重要テーマの1つになっていくことは確実であろう。
 なぜ、バイデン氏の認知症疑惑がこれほど語られるのか。それは、77歳のバイデン氏が事実と異なる発言や物忘れを頻発するからである。
 たとえばバイデン氏は6月下旬、珍しく自宅を離れ、隣のペンシルベニア州の小さな集会に出た。そのときバイデン氏は「アメリカではコロナウイルスで1億2000万人が死んだ」と発言した。だが、実際のアメリカの死者はその時点で12万人だった。また、予備選の最中にバージニア州内にいたとき、「ここノースカロライナ州では」と発言した。オハイオ州とアイオワ州を間違えたこともあった。さらには、自分の副大統領時代の体験を語るなかで、当時の大統領だったオバマ氏の名を思い出せず、「私のボスだった大統領」と言いつくろったこともある。
 とくに有名なのは、2019年8月にニューハンプシャー州での予備選関連の集会で演説した「アフガニスタン戦争体験談」である。
 この集会で同氏は次のように語った。「私は副大統領としてアフガニスタンを訪れ、米軍将兵の激励に赴いた。コナー地域では、20メートルほどの深さの谷間に取り残され敵の猛攻撃を受けている兵隊がいた。米海軍大佐がロープを伝って、その部下を助け出す場面を私は目撃した。その後、私は副大統領としてその海軍大佐に銀星勲章を授与することになった。だが大佐は、助けた部下が結局死んでしまったことを理由に勲章を辞退しようとした」。
 しかしその後すぐ、この話は多くの部分が事実とは異なっていることが判明した。バイデン氏がアフガニスタンを訪れたのは、副大統領としてではなく、上院議員としてだった。部下の救出にあたったという軍人は海軍大佐ではなく陸軍士官だった。その士官がバイデン氏から銀星勲章を受けたという事実はなかった。バイデン氏が救出の場面を目撃したという話も根拠がなかった。だが、バイデン氏は同じ話を他の場所でも何度も繰り返していた。
 こうした事例が重なり、バイデン氏には認知症の兆候が出ているのではないかという疑問が提起されるようになった。そしてついには、米国有権者の4割と目される人たちが「バイデン氏は認知症」という認識を持つまでに至ってしまったのである。
 いずれにしてもバイデン氏のこの問題が大統領選キャンペーンで主要な課題となる見通しは確実とみられる。今回のラスムセン社の世論調査は、バイデン陣営にとって厳しい逆風の材料となりそうだ。(略)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************