産経新聞特別記者の田村秀男氏は、独自に経済データをグラフ化して分析できる数少ないエコノミストである。令和元年6月1日の産経の記事に、田村氏は、大意次のように書いた。
トランプ政権は、中国に対し、制裁関税に加え、厳しい対抗策をハイテク全般に広げる準備を進めている。田村氏は「対中規制分野を金融に広げれば、対中封じ込め策が完成する」という。
「中国の通貨金融制度はドル資産を発行する人民元資金の裏付けにすることで成り立っている。外貨難が続くと金融の量的緩和は困難で、金融面での景気刺激策は大きな制約を受ける。そこで、頼りとするのがカネ余り日本である」として、田村氏は日銀の異次元緩和で巨額の円資金が国際金融市場が流れ、ドル金融を膨らませており、「中国の企業や金融機関はやすやすとドルを海外で調達または借り入れる」ことになっていると指摘する。
日銀は異次元緩和で国債を買い上げ、その代金が市中銀行の日銀当座預金に振り込まれ、国内金融市場を膨張させている。ところが、「国内向け貸し出しは、デフレのために需要が弱くて伸びない」。そのため、「円資金は対外貸し出しに回り、対外金融債権に変わる」ということになっている。
田村氏は、自ら作成したグラフによって、「アベノミクスが始まった2012年末を起点にした日銀資金の増量相当分はほぼそっくり海外に回っている。
それら資金のトレンドと、中国の対外借り入れ動向を重ね合わすと、ぴったりと連動している」と指摘している。
私見を述べると、わが国は、トランプ政権が貿易戦争を戦っている中国を、間接的に助けていることになっている。これでは、トランプ政権の対中対抗策は、決定的な効果を上げることができない。
では、どうすればよいか。わが国は、財政出動を含む積極財政を行って、デフレ脱却に徹し、国内で資金需要を増大することである。また、そのためにも、デフレ圧力になる消費増税実施を中止することが必要である。
昨年11月19日のマイブログに書いたが、田村氏は消費増税をすれば、「デフレ圧力は強まり、国内資金需要低迷は確実、余ったカネは中国へと流れる」と警告し続けている。
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/7d33fc0c0bfdd42e0b4d1686714b5372
上記の田村氏の記事は、国際金融面からこの主張を裏付けるものである。わが国は、国内事情だけでなく、世界的な経済事情を巨視的に把握して、経済政策を誤らないようにしなければならない。
以下は、田村氏の記事の全文。
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●産経新聞 令和元年6月1日
https://www.sankei.com/premium/news/190601/prm1906010003-n1.html
【田村秀男のお金は知っている】トランプ米政権の“強硬”姿勢受け… 習政権がすがる先は「カネ余りの日本」
2019.6.1 10:00
先に来日したトランプ米大統領と安倍晋三首相の親密ぶりは至るところで満開だったが、少し気になったのは米中貿易戦争に関する両首脳間の「温度差」である。
記者会見で、安倍首相は「米中両国が対話を通じて、建設的に問題解決を図ることを期待」と発言したのに対し、トランプ大統領は「中国は取引を望んでいたが、取引をやる用意はなかった」とにべもない。
首相は6月下旬に迫った大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議のホストとして無難な言い方をしたというよりも、政府・与党や経済界の親中路線に引き寄せられている。
トランプ氏との会談の詳細は不明だが、米中貿易戦争についてはかなり突っ込んだ意見交換もあったはずだ。首相は明確にトランプ側につくとはコミットしなかったのではないか。
トランプ政権の対中強硬策は制裁関税に加え、通信機器大手、ファーウェイに対する輸入禁止と部品や技術の輸出制限にも踏み出した。さらに、トランプ政権は厳しい対抗策をハイテク全般に広げる準備を進めている。対中規制分野を金融に広げれば、対中封じ込め策が完成する。
金融こそは習近平政権最大の泣きどころである。中国金融は対米貿易黒字によって稼ぐドルをベースに築かれているが、米国の対中圧力を受けて資本逃避が加速し、虎の子のドル準備を取り崩して人民元を買い支えざるをえない。習政権は対外借り入れを急増させて、外貨準備に繰り入れ、外準3兆ドル台維持に躍起となっている。
中国の通貨金融制度はドル資産を発行する人民元資金の裏付けにすることで成り立っている。外貨難が続くと金融の量的緩和は困難で、金融面での景気刺激策は大きな制約を受ける。
そこで、頼りとするのがカネ余り日本である。日銀は異次元金融緩和策を続け、巨額の円資金を増発している。円は堂々たる国際通貨であり、しかも金利はゼロ以下である。そのコスト・ゼロの円資金が国際金融市場に流れ、ドル金融を膨らます。中国の企業や金融機関はやすやすとドルを海外で調達または借り入れる。
グラフはそんなカネの流れを表している。異次元緩和は、日銀が市場で流通する国債を買い上げ、代金を市中銀行の日銀当座預金に振り込む。当座預金はこうして膨らみ続け、国内金融市場を膨張させる。国内向け貸し出しは、デフレのために需要が弱くて伸びない。とどのつまり、円資金は対外貸し出しに回り、対外金融債権に変わる。グラフが示すように、アベノミクスが始まった2012年末を起点にした日銀資金の増量相当分はほぼそっくり海外に回っている。
それら資金のトレンドと、中国の対外借り入れ動向を重ね合わすと、ぴったりと連動していることがわかる。中国は直接、日本から借り入れているわけではないが、国際金融市場から吸い上げるのだ。トランプ政権はそんな日中の緊密な関係にいずれ目を向けるだろう。(産経新聞特別記者・田村秀男)
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ケルトン氏は、現代貨幣理論(MMT: Modern Monetary Theory)の主唱者である。MMTは、独自の通貨発行権を持つ政府は、インフレにならない範囲で積極的な財政支出を利用すべきという理論である。自国通貨を発行できる政府は、紙幣を印刷すれば借金を返せるため、デフォルト(債務不履行)に陥ることはなく、財政赤字で国は破綻しないと説明するものである。国家の債務とは、見方を変えれば、国民の貯蓄であり、国債という形で持つ国民の資産であって、富の一部であると考える。
ケルトン氏は、「日本が『失われた20年』といわれるのはインフレを極端に恐れたからだ」と述べ、「日本がデフレ脱却を確実にするには、財政支出の拡大が必要である」と主張している。国債発行によって生じる政府の財政赤字に関しては、「公的債務の大きさに惑わされるべきではない。(社会保障や公共事業などで)財政支出を増やすことで雇用や所得は上昇する」とし、アベノミクスについては、「あまりにも中央銀行(註 日銀)に依存することは支持しない。民間にお金を借りる意欲がなければ金利引き下げは役に立たない」と述べ、金融政策より財政政策の比重を高めるべきだという考えを示した。また、「消費増税の目的は消費支出を減らすことで、インフレを冷やすなら理にかなっている。だが、インフレ問題を抱えていない国にとっては意味がない」と述べている。
わが国では、デフレの時は積極財政を行うべきと主張してきた経済理論家に、宍戸駿太郎氏、菊池英博氏、 田村秀男氏、三橋貴明氏らがいる。デフレ脱却には金融政策一本やりではなく、財政支出を組み合わせてこそ効果が上がるという考え方である。ケルトン氏が女性であり、また米国人ということで、マスメディアが活発に報道しているが、ケルトン氏の考え方は、基本的に先に揚げた人たちと同じものだと思う。財務省や日銀を厳しく批判してきたエコノミストを再評価すべきである。
★ロイターの記事
https://jp.reuters.com/arti…/japan-ctax-kelton-idJPKCN1UB0Q2
★各種報道のまとめ
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190718_kelton/
関連掲示
・拙稿「日本経済復活のシナリオ~宍戸駿太郎氏1」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13h.htm
・拙稿「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13i-2.htm
・拙稿「アベノミクス総仕上げのため、消費増税は中止すべし~田村秀男氏」
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/2279e906546cc089a6890974b1fd58b0
・拙稿「デフレを脱却し、新しい文明へ~三橋貴明氏」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13f.htm
財務省の増税路線を厳しく批判するエコノミスト、田村秀男氏は、産経新聞平成31年3月24日付けに、現在日本を覆っている増税の「空気」を吹き飛ばさんと議論を展開している。
「空気」とは、山本七平の用語で、わが国独特の社会心理現象を指す。私の理解によると、島国的な共同体である日本の社会において、重要な事案について抗しがたい情緒的な気分が人々の心を支配し、客観的な見方による合理的判断ができなくなっている集団心理状態をいう。
田村氏は、この「空気」にのみ込まれずに、モノを言う論客である。そのベースには、経済データの独自の分析がある。今回の記事では、平成8年度から30年度における消費税収と消費税収を除く正味家計消費の増減額を、自らグラフ化し、消費増税がいかに強烈なデフレ圧力となってきたかを明示している。 その分析の部分は、後掲の記事に譲り、記事の大意を以下に掲載する。
「消費税率は平成9年度、26年度に引き上げられたが、いずれも強烈なデフレ圧力を招き寄せて経済を停滞させた。安倍晋三首相は10%への引き上げは2度延期したのだが、「予定通りの実施」を口にせざるをえない情勢が続く」
「安倍首相は教育無償化や子育て支援の財源に増税による収入の一部を回すことや、軽減税率、ポイント制導入などで増税による消費者への負担減にもぬかりはないと再三再四にわたって表明してきた」 消費税率を3%から5%に引き上げた9年度以降、「2度、消費が水面上に浮上する勢いが出たが、19年度はリーマン・ショックで押しつぶされた。26年度は税率8%への引き上げ実施とともに急激に落ち込み、アベノミクス効果は吹き飛んだ。リーマンという外部からのショックではない。消費税という人為による災厄である」
「最近はようやく家計消費が持ち直したというのに、今秋に増税リスクをまたもや冒そうとするのは無謀としか言いようがないではないか。税率10%というかつてない重税感という別の「空気」が家計を追い込む。脱デフレ、日本経済再生の道は閉ざされる。安倍政権は中国や米国景気など外需動向に構わず、増税中止を決断すべきなのだ」
以下は田村氏の記事の全文。
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●産経新聞 平成31年3月24日
https://www.sankei.com/premium/news/190324/prm1903240006-n1.html
【田村秀男の日曜経済講座】増税「空気」を吹き飛ばせ 消費税10%で自滅の恐れ
2019.3.24 08:00|プレミアム
日曜経済講座
家庭でも職場でも「空気を読めない」と俗世間は渡り難いが、国家は別だ。政策が「空気」で決まるようなら、その国は自滅しかねない。消費税増税はどうだろうか。10月に税率を10%に引き上げるべきという「空気」が政官学とメディアを覆っている。
「空気」とは何か。評論家、故山本七平さんの「『空気』の研究」(文春文庫)によれば、「非常に強固でほぼ絶対的な支配力を持つ」判断の基準をさす。太平洋戦争時、必ず失敗するというデータを無視した戦艦大和の特攻出撃を例に、「『空気』に順応して判断し決断し(中略)客観情勢の論理的検討の下に判断し決断しているのではない」と述べ、失敗の責任を問われない日本の「空気」に切り込んだ。
消費税率は平成9年度、26年度に引き上げられたが、いずれも強烈なデフレ圧力を招き寄せて経済を停滞させた。安倍晋三首相は10%への引き上げは2度延期したのだが、「予定通りの実施」を口にせざるをえない情勢が続く。
拙論は空気を読まない。首相に近い自民党有力議員はあきれ顔で「田村さん、10月10%実施は決まった過去の話よ」。3度目の延期は念頭にもない。国会の議論はもっぱら社会保障財源にどう使うかで、のんびりしたものだ。
増税反対を表明する立憲民主、国民民主両党は、消費税率8%、10%への2段階引き上げを目指す「3党合意」を主導した野田佳彦政権時代の旧民主党が母体だが、増税が引き起こした災厄に何の反省もない。「与党の時に進めていた政策を、野党になったら、反対する。気持ち悪くてしょうがありません」(元民主党議員)と元同僚から愛想をつかされる始末である。
政界のみならず、財界、経済学者、メディアの多数派を取り込み、増税の空気をじっくりと醸成してきた財務省は悠然と高みの見物を決め込んでいる。同省某幹部は「安倍総理が増税先送りを決断しても、新年度予算の関連項目の執行を凍結すれば済むので、予算組み換えで大混乱することはないでしょう。ただし、その場合、実施を公約してきた以上、政治責任を問われるかもしれませんね」とグサリ一言。
安倍首相は教育無償化や子育て支援の財源に増税による収入の一部を回すことや、軽減税率、ポイント制導入などで増税による消費者への負担減にもぬかりはないと再三再四にわたって表明してきた。首相は自ら発する言葉で自らを縛った感がある。
安倍首相はそれでも増税推進という「空気」を突破できるだろうか。拙論は日本経済再生というアベノミクスの原点に回帰すれば可能とみる。
グラフを見よう。消費税率を3%から5%に引き上げた9年度以降の、8年度水準に比べた消費税収と消費税負担を差し引いた正味家計消費の増減額の推移である。
家計消費に「正味」と付けたのは、国内総生産(GDP)統計上の「家計最終消費支出」が消費税の影響を正確に反映していないからだ。同支出はマイホームを持つ家計が家賃を自らに支払っていると仮定し、みなし家賃(「持ち家の帰属家賃」)を合算している。みなし家賃はナマの消費とはいえない。GDP2次速報によれば、30年(暦年)の「家計最終消費支出」297兆円のうち帰属家賃は50兆円にも上る。
あぜんとさせられるのは正味家計消費は9年度、26年度の増税後、ともに強烈な下押し圧力を受けている。増税分の支払いを除くと、正味家計消費は8年度の水準に比べ水面下に沈んだままだ。8年度に比べ、30年度、消費税収は14・7兆円増え、正味家計消費は7・8兆円増える見込みだが、増税分の負担を考慮すれば正味家計消費は同6・8兆円も少ない。家計は22年前に比べ100円消費を増やしたとして、200円近い消費税を多く支払う計算になる。
この間2度、消費が水面上に浮上する勢いが出たが、19年度はリーマン・ショックで押しつぶされた。26年度は税率8%への引き上げ実施とともに急激に落ち込み、アベノミクス効果は吹き飛んだ。リーマンという外部からのショックではない。消費税という人為による災厄である。
最近はようやく家計消費が持ち直したというのに、今秋に増税リスクをまたもや冒そうとするのは無謀としか言いようがないではないか。
税率10%というかつてない重税感という別の「空気」が家計を追い込む。脱デフレ、日本経済再生の道は閉ざされる。安倍政権は中国や米国景気など外需動向に構わず、増税中止を決断すべきなのだ。(編集委員)
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「デフレの主因は緊縮財政にあり、緊縮の最たるものが消費税増税である」。安倍政権は14年度には消費税率を5%から8%に引き上げ、さらに財政支出も大幅に削減した。「その結果、日本のインフレ率はゼロ%前後で推移し、いまだにデフレから抜け出せない」。
「消費税増税がもたらすデフレ圧力と、日銀の異次元金融緩和政策が組み合わされる結果、カネが回らないので、金融機関は国内ではもうけられない。海外融資に重点を置くしかない」「それは国内の中小企業設備投資を押さえつけ、賃上げの抑制、デフレという悪循環をもたらす」
こうしたところに、米中貿易戦争が勃発し、中国は窮地に立たされ、日本にすり寄ってきている。「トランプ米政権の対中制裁関税は中国の主力外貨源である対米貿易黒字を大幅に減らすことが確実」である。そこで「外貨難に苦しむ中国が「日中友好」の甘い言葉をささやき続け、通貨スワップ協定に日本を誘い込んだ」。さらに、わが国の経済界は、「経団連は技術とカネ両面の対中協力に前のめりで、野村証券などの金融機関大手も中国と共同での投資ファンド設立に走る」。
このような状況で、安倍政権は来年10月の消費増税実施を約束している。それを実施すれば、「デフレ圧力は強まり、国内資金需要低迷は確実、余ったカネは中国へと流れる」と田村氏は警告しています。
私は、正しい選択は、消費増税を中止し、財政出動を含む積極財政を行って、デフレ脱却に徹すること。米国の制裁で窮地に陥っている中国を中途半端に助けるようなことは、決してしないことだと思います。
以下は、田村氏の記事の全文。
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●産経新聞 平成30年10月28日
https://www.sankei.com/premium/news/181028/prm1810280008-n1.html
【田村秀男の日曜経済講座】消費税増税はだれのためなのか デフレで余るカネは中国に
2018.10.28 08:00
世界が同時株安に揺れる。国際金融市場安定の鍵を握るのは世界最大の貸し手である日本だが、もっぱら中国に吸い寄せられる。なぜなのか。
いきなりだがグラフを見よう。ことし6月末の邦銀の対外融資残高などをアベノミクスが始まる前の2012年6月末と比べた増減額である。その額は1兆1167億ドル(約125兆円)で、国際金融を総覧する国際決裁銀行(BIS)加盟国の銀行融資の合計増額1兆1161億ドルとほぼ一致する。米銀の対外融資額は2681億ドル増、英国の銀行は6182億ドル減。邦銀が国際金融市場を全面的に支えてきたのだ。
同期間の大半は、異次元金融緩和の日銀が373兆円の資金を国内金融機関に流し込んだが、実にその3分の1相当額がニューヨーク、ロンドンなどの主要国際金融市場に流れ込んだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)はドル資金を大量発行する量的緩和政策を14年秋に打ち止めたあと利上げに転じている。ドル金利上昇は新興国や発展途上国から米国への資金還流を促す。FRBの金融引き締めに伴う世界への衝撃を和らげるのが日銀緩和で、融資を担うのが邦銀だ。
融資は債務と表裏一体である。国際金融市場からの最大の借り手は中国であり、中国側統計によればその対外債務増加額は1兆848億ドルに上る。邦銀の対中直接融資増加額は300億ドルにとどまるが、カネに色はない。中国は国際市場経由で日本発の資金を存分に調達してきた。
それにしても、なぜ日本の金融機関はこうも外向きなのか。日銀統計によれば、同じ期間の国内銀行の国内向け貸出増加額は61兆円、BIS統計が示す対外融資増の半分にとどまる。メガバンクの融資担当は「国内の資金需要がない」と口をそろえるが、需要がないのは、国内経済がデフレ圧力にさらされているからだ。
デフレの主因は緊縮財政にあり、緊縮の最たるものが消費税増税である。アベノミクスは当初こそ、財政支出を増やして金融緩和と連動させて内需を喚起したが、政府は14年度には消費税率を5%から一挙に8%に引き上げた。3%分の増税は毎年の家計消費の8兆円に相当する。
安倍晋三政権はさらに財政支出も大幅に削減した。増税後もこの緊縮財政路線を堅持しているので、家計消費水準は停滞を続けている。その結果、日本のインフレ率はゼロ%前後で推移し、いまだにデフレから抜け出せない。
消費税増税がもたらすデフレ圧力と、日銀の異次元金融緩和政策が組み合わされる結果カネが回らないので、金融機関は国内ではもうけられない。海外融資に重点を置くしかないわけだが、それは国内の中小企業設備投資を押さえつけ、賃上げの抑制、デフレという悪循環をもたらす。せっかくの異次元緩和は国内のためになっているとは言い難いのだ。
そんな中、米中貿易戦争の余波で国際金融市場が荒れている。中でも、流入するドル資金をベースにした異形の金融システムによって成り立つ中国経済の不安は高まるばかりだ。トランプ米政権の対中制裁関税は中国の主力外貨源である対米貿易黒字を大幅に減らすことが確実なので、金融制度の根幹が危うくなる。
上海株式市場は一本調子で下落し、外国為替市場では大量の人民元売りが続く。トランプ大統領は対中貿易制裁をさらに強め、対中輸入品すべてに高関税をかける準備を指示しているから、中国の習近平国家主席はますます窮地に追い込まれる。
習氏が熱望してきたのが、日本の対中金融協力だ。安倍晋三首相は今回の訪中で、3兆円規模の通貨スワップ協定に応じた。通貨スワップは通貨危機時に2国間で自国通貨を融通し合うという建前で、中国は韓国とも結んでいる。しかし、韓国ウォン、人民元ともローカル通貨に過ぎず、国際金融市場ではドルとの交換が難しいので、中韓協定の実効性は限られる。その点、円はいつでもどこでもドルに換えられる正真正銘の国際通貨だ。外貨難に苦しむ中国が「日中友好」の甘い言葉をささやき続け、通貨スワップ協定に日本を誘い込んだ。
政官ばかりではない。経団連は技術とカネ両面の対中協力に前のめりで、野村証券などの金融機関大手も中国と共同での投資ファンド設立に走る。安倍政権のほうは来年10月からの消費税増税実施を約束している。デフレ圧力は強まり、国内資金需要低迷は確実、余ったカネは中国へと流れる。いったい、増税はだれのためなのか。(編集委員)
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平成30年9月23日付の産経新聞の記事において、田村氏は「平成9年度は消費税率が5%に、26年度は8%に上げられた。消費税増税の大義名分は財政再建のはずだが、惨憺(さんたん)たる結果である。純負債は143兆円から713兆円に膨らんだ。家計消費は増税のたび急激に落ち込んだあと、長期停滞局面に入る繰り返しだ」、「アベノミクスが本格始動した25年度に消費は勢いを取り戻したように見えたが、消費税増税がそれをぶち壊した」と指摘しています。
安倍首相は10%への税率引き上げを2度延期する決断を下しましたが、このたび来年10月の消費増税実施の方針を明らかにしました。増税による税収の一部を教育無償化の財源とするというのですが、これに対し、田村氏は「消費税増税によって中低所得層を最も痛めつけておいて、子弟の教育費負担を軽減するというなら、増税せずに景気を拡大させ、それによる税収増を無償化に充当するのが合理的というものだ」と批判しています。
田村氏は、また現在の米中貿易戦争と中国・米国の経済情勢において、増税を急ぐのは「自殺行為同然」と警告しています。
産経新聞平成30年10月20日付の記事で、田村氏は概略次のように述べています。
「経済情勢からみれば、増税を急ぐのは自殺行為同然だ。米中貿易戦争は激化し、中国の金融市場不安は高まり、中国経済が今後急速に減速するのは火を見るよりも明らかだ。
もっと問題なのは米国経済だ。これまではトランプ政権による大型減税、インフラ投資を柱とする積極財政が功を奏して力強く景気を拡大させてきたが、インフレ率の上昇とともに金利が上がる。右肩上がり一方だった米国株価は急落し、調整局面に入った」
「2014年度の消費税率8%への引き上げ後、家計消費が大きく落ち込んだまま低迷を続ける日本は、輸出頼みで何とか景気を維持してきたが、何よりも米国のトランプ景気のおかげである」
「そのトランプ政権は日本との通商交渉で、「為替条項」を盛り込ませる強い意向を、ムニューシン財務長官が言明した」「トランプ政権の牽制で、輸出主導の日本は金融緩和による円安効果に頼れなくなる。となると、内需をデフレ圧力にさらす消費税増税はいよいよまずい」と。
以下は、田村氏の記事の全文。
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●産経新聞 平成30年9月23日
https://www.sankei.com/premium/news/180923/prm1809230012-n1.html
【田村秀男の日曜経済講座】安倍首相に物申す、消費税増税中止を 日本再浮上の好機逃すな
2018.9.23 08:00
安倍晋三首相は自民党総裁3選を果たしたが、気になるのは来年10月に予定している消費税率10%への引き上げだ。増税で日本再浮上のチャンスを潰すべきではない。
拙論はメディアでは少数派ながら、一貫して増税反対論を述べてきた。この際改めて安倍首相に増税再考を求める理由はほかでもない。首相周辺の増税延期派の異常なまでの沈黙ぶりだ。
総裁選で、「予定通りの増税実行」を迫った石破茂元地方創生担当相を前にして、安倍首相は「自動車とか、住宅とかの耐久財の消費を喚起する、あるいは商店街等々の売り上げが悪い影響がないように、きめ細やかな対応をしていきたい」と述べた。当たるべからざる勢いの首相を見て、「増税はまずいと、安倍さんに諌言(かんげん)すれば嫌われ、遠ざけられやしないか」と恐れるスタッフもいる。
増税を既定路線と位置づけた首相を周辺が忖度(そんたく)するのはやむなしかもしれないが、政策に関与する者が優先すべきは首相個人ではなく国家・国民の利害であるはずだ。もちろん、消費税増税が日本再生を後押しするなら文句なしだが、現実は逆に動いている。
グラフは地方自治体や厚生年金など社会保障部門を含めた政府全体の負債から資産を差し引いた純負債、金融機関を除く企業が設備や雇用に回さずに手元に留め置く利益剰余金、さらに消費税負担分を差し引いた過去20年間の家計消費の推移である。平成9年度は消費税率が5%に、26年度は8%に上げられた。消費税増税の大義名分は財政再建のはずだが、惨憺(さんたん)たる結果である。純負債は143兆円から713兆円に膨らんだ。
家計消費は増税のたび急激に落ち込んだあと、長期停滞局面に入る繰り返しだ。ようやく回復しかけた19年度の後はリーマン・ショックの直撃を受けたが、9年度の増税・緊縮財政がもたらした慢性デフレのもと、家計の消費マインドは脆弱(ぜいじゃく)だった。
そ してアベノミクスが本格始動した25年度に消費は勢いを取り戻したように見えたが、消費税増税がそれをぶち壊した。安倍首相は10%への税率引き上げを2度延期する決断を下したが、重なる失敗から学ばない財務官僚、有名大学教授そして大手全国紙論説委員たちに安倍首相は包囲されている。
増税による税収の一部を教育無償化財源とするという首相の考えは方便同然ではないか。消費税増税によって中低所得層を最も痛めつけておいて、子弟の教育費負担を軽減するというなら、増税せずに景気を拡大させ、それによる税収増を無償化に充当するのが合理的というものだ。
増税が招き寄せるデフレ圧力は金融経済構造をいびつにする。利益剰余金は20年間で300兆円以上も増え、名目で15兆円余りしか拡大しなかった国内総生産(GDP)とは対照的だ。日銀は超低金利政策を通しており、アベノミクス開始後は異次元緩和政策、さらにマイナス金利にも踏み込んだが、デフレ圧力は去らず、2%のインフレ目標達成のメドはさっぱり立たない。銀行は国内融資より中国など海外向けに血道を上げ、リーマン後の10年間で150兆円も対外融資を増やした。外貨を見せ金にして勢力圏拡張を狙う「一帯一路」の中国は同じ150兆円を国際金融市場から借り入れできた。
1年余り後の消費税増税の結末は火を見るよりも明らかだ。デフレの継続、国民が消費を抑えてためたカネの多くが米英の金融市場を経由して、習近平中国国家主席の野望達成に貢献する。日本が成長を続けるための頼みは輸出であり、支えるのは異次元緩和に伴う円安と景気好調の米国市場だが、「米国第一主義」のトランプ政権が立ちはだかりかねない。トランプ氏はすでに安倍首相に対し、2国間交渉を通じて対米貿易黒字大幅削減を迫ると明言している。ホワイトハウスがその手段としてもくろむのは、為替条項付きの日米貿易協定締結だ。同条項は日銀の金融緩和政策を制約しかねない。
固より、米中貿易戦争は日本再生の絶好の好機になりうる。中国はトランプ政権の強硬策の直撃を受け、成長市場幻想がはげ落ちている。日本企業の多くは北京の反発を恐れてひそかに、対中投資の縮小、撤退を検討している。だが、国内市場はデフレ、需要減というなら、投資の転換先は米国、中国以外のアジアということになりかねない。企業の有り余る巨額資金は国内で行き場がないままになる恐れがある。
安倍首相がアベノミクスの総仕上げを目指すなら増税中止を宣言すべきなのだ。(編集委員)
https://www.sankei.com/premium/news/181020/prm1810200007-n1.html?fbclid=IwAR3XxKMRf7aN-vGYYCIk_DG4AW_lXM474LHSE2iX5BAuHJEadlkQ7qm8hTE
【田村秀男のお金は知っている】それでも「消費税増税中止」は避けられない
2018.10.20 10:00 田村秀男のお金は知っている
安倍首相の「最終決断」はまだ先だ
拙論は再三再四にわたって、来年10月からの消費税増税は凍結または中止すべきだと論じてきたが、安倍晋三首相は15日、「予定通り実施」を表明した。「田村も観念せよ」との周りの声が聞こえるが、とんでもない。安倍首相が反対論に耳を傾け、今回も先送りする可能性は十分ある。
首相発言や菅義偉官房長官の同日の発言を詳細にチェックしてみればよい。首相は「あらゆる政策を総動員し、経済に影響を及ばさないよう全力で対応する」と、増税による反動不況を警戒している。ということは、対応が不十分で経済への悪影響が不可避とみれば、躊躇(ちゅうちょ)なく増税予定を撤回する腹積もりとも読める。
さらに菅官房長官は「リーマン・ショック級のことがない限り」と改めて増税の条件を示し、「状況を見ながら最終判断する」と語った。何のことはない。15日の「表明」は消費税増税の最終判断ではないのだ。
経済情勢からみれば、増税を急ぐのは自殺行為同然だ。米中貿易戦争は激化し、中国の金融市場不安は高まり、中国経済が今後急速に減速するのは火を見るよりも明らかだ。
もっと問題なのは米国経済だ。これまではトランプ政権による大型減税、インフラ投資を柱とする積極財政が功を奏して力強く景気を拡大させてきたが、インフレ率の上昇とともに金利が上がる。右肩上がり一方だった米国株価は急落し、調整局面に入った。
保守系エコノミストを代表するマーティン・フェルドスタイン教授は金利高が株価の下落を招き、米国の景気後退局面に入ると、9月28日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿した。米株価の下落はその警告通り、起きた。
米株価の変調には世界の株価が共振し、増幅するが、日本については株価だけでは済まない。日本の実体景気を左右する最大の要因と言っていい。2014年度の消費税率8%への引き上げ後、家計消費が大きく落ち込んだまま低迷を続ける日本は、輸出頼みで何とか景気を維持してきたが、何よりも米国のトランプ景気のおかげである。
そのトランプ政権は日本との通商交渉で、「為替条項」を盛り込ませる強い意向を、ムニューシン財務長官が言明した。日本側は9月26日の日米共同声明でうたった日米物品貿易協定(TAG)では為替は含まれていないとしているが、英文の共同声明では「TAG」の表現は一切なく、「日米はモノばかりでなく、サービスなど早期に成果を生み出す重要分野についての貿易協定を交渉する」となっている。米側としては「早期に成果を生み出す重要分野」として為替を位置づけているのだ。
トランプ政権の牽制(けんせい)で、輸出主導の日本は金融緩和による円安効果に頼れなくなる。となると、内需をデフレ圧力にさらす消費税増税はいよいよまずい。通商問題で対米関係にヒビが入るようなら、まさに習近平氏の思うツボにはまる。首相に予定通りの増税を催促するメディア、官僚も財界も自国の利益を無視している。(産経新聞特別記者・田村秀男)
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先般公表されたIMFレポートは、氏と同様に、我が国の財政が決して悪くないことを明らかにしたもので、財政破綻を説く学者・官僚にとっては、衝撃的なものとなったでしょう。高橋氏は、IMFの衝撃のレポートを、10月15日の記事で紹介しています。
高橋氏によると、このレポートでは、主に一般政府(General Government)と公的部門(Public Sector)のバランスシートが分析されています。一般政府とは中央政府(国)と地方政府を併せた概念であり、公的部門とは中央銀行を含む公的機関を含めたものです。
高橋氏の解説によると、IMFレポートでは、日本の公的部門のネット資産対GDP比はほぼゼロということが示されています。高橋氏は、次のように言います。「ここから出てくる話は、「巨額な借金で利払いが大変になる」というが、それに見合う「巨額な資産」を持っていれば、その金利収入で借金の利払いは大変ではなくなる、という事実だ」と。
このことは、宍戸駿太郎氏、菊地英博氏、田村秀男氏、三橋貴明氏らが明らかにしてきたことです。
高橋氏は、IMFレポートが一般政府バランスシートでのネット資産対GDP比も分析していることを紹介し、「ここでも、日本は若干のマイナスであるが、ギリシャ、イタリアと比べるとそれほど悪くない」と述べています。また、一般政府でのネット資産対GDP比とその国の信用度を表すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)レートの関係の相関についても触れ、「CDSのデータからその国の破綻確率を計算し、日本は今後5年以内に破綻する確率は1%未満である」と述べています。
高橋氏をはじめ、財務省におもねらないまともな経済学者・エコノミストが主張してきたことの正しさを、IMFレポートは、あらためて裏付けています。財務官僚が省益を拡大するために虚偽のデータをもって政治家や国民を欺いてきた財政破綻という論理は、もはや使えないことは明らかです。しかし、増税派は、今度は財政破綻の回避のためではなく、「将来の年金など社会保障のために増税すべき」と言い方を変えてきています。この点について、高橋氏は次のように主張しています。
「何より、社会保障財源として消費税を使うというのは、税理論や社会保険論から間違っている。大蔵省時代には、「消費税を社会保障目的税にしている国はない」と言い切っていたではないか。そんなデタラメに、まだ財務省がしがみついているのかと思うと、心の底から残念で仕方ない。
社会保障財源なら、歳入庁を創設し、社会保険料徴収漏れをしっかりとカバーし、マイナンバーによる所得税補足の強化、マイナンバーによる金融所得の総合課税化(または高率分離課税)といった手段を採ることが、理論的にも実践的にも筋である。
それらを行わずに、社会保障の財源のために消費増税を、というのは邪道である。さらに、景気への悪影響も考えると、いまの時期に消費増税を行うというのは尋常ではない」と。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57978
安倍首相は、もう一度、財政のデータをしっかり読み直し、来年10月の消費増税を考え直すべきです。
関連掲示
・デフレ下では積極財政を取るべきと説くエコノミスト、宍戸駿太郎氏、菊地英博氏、田村秀男氏、三橋貴明氏らについては、下記のページの拙稿をご参照下さい。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13.htm
田村氏は、中国の習近平政権が進める広域経済構想「一帯一路」とアジア・インフラ銀行「AIIB」を、中国共産党主導の粗暴な対外膨張主義の一環として、その実態を鋭く暴いてきた。
ところが、わが国の政財界・メディアでは「一帯一路への参加熱」が再燃しているとして、田村氏は平成29年12月31日付の産経新聞の記事で、この動向に強い警告を発している。その記事の大意を記す。
一帯一路とAIIBに対して、わが国は米国ともに慎重な姿勢を取ってきた。しかし、最近わが国の産業界、与党、日本経済新聞や朝日新聞といったメディアの多くが積極参加を安倍晋三政権に求めている、安倍首相はAIIBには懐疑的だが、一帯一路については「大いに協力する」と表明するようになった。自民党の二階俊博幹事長は12月下旬に中国で開かれた自民、公明両党と中国共産党の定期対話「日中与党交流協議会」で、一帯一路での日中の具体的な協力策を話し合った。
だが、一帯一路の正体は「死のロード」だと田村氏は断じる。ここで田村氏は、いつものように、データをもとに独自の分析を示す。
田村氏によると、「中国企業による一帯一路沿線への進出を示す直接投資となると、水準、伸び率とも極めて低調だ。習氏の大号令もむなしく、実行部隊である国有企業は投資を大幅に減らしている」。また「一帯一路の金庫の役割を果たすはずのAIIBは外貨調達難のために半ば開店休業状態にある」。
だから、「四苦八苦する習政権はぜひとも世界最大の対外金貸し国日本の一帯一路、さらにはAIIBへの参加が欲しい」のだと田村氏は指摘する。ここで中国の甘い誘い声に騙されてはいけない。
田村氏は、ティラーソン米国務長官が昨年10月に語った言葉を引く。「中国の融資を受ける国々の多くは膨大な債務を背負わされる。融資の仕組みも、些細なことで債務不履行に陥るようにできている」と警告した、と。
「一帯一路やAIIBへの参加は泥舟に乗るようなもの」と田村氏は、強く警告している。
以下は、田村氏の記事の全文。
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●産経新聞 平成29年12月31日
http://www.sankei.com/economy/news/171231/ecn1712310004-n1.html
2017.12.31 08:00更新
【田村秀男の日曜経済講座】
大甘の「一帯一路」参加論 死のロードに巻き込まれるな
政財界・メディアでは中国の習近平国家主席が推進する広域経済圏構想「一帯一路」への参加熱が再燃している。北京も盛んに甘い声で誘ってくるが、ちょっと待てよ。その正体は「死のロード」ではないのか。
一帯一路は2014年11月に習氏が提唱した。ユーラシア大陸、東・南アジア、中東、東アフリカ、欧州の陸海のインフラ網を整備し、北京など中国の主要都市と結ぶ壮大な計画だ。中国主導で現地のプロジェクトを推進する。資金面でも中国が中心となって、基金や国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」を15年12月に北京に設立済みだ。
一帯一路とAIIBにはアジア、中東、ロシアを含む欧州などの多くの国が参加しているが、先進国のうち日本と米国は慎重姿勢で臨んできた。国内では「バスに乗り遅れるな」とばかり、産業界、や与党、日本経済新聞や朝日新聞といったメディアの多くが積極参加を安倍晋三政権に求めてきた。安倍首相もAIIBには懐疑的だが、一帯一路については最近一転して、「大いに協力する」と表明するようになった。
自民党の二階俊博幹事長は先週、中国で開かれた自民、公明両党と中国共産党の定期対話「日中与党交流協議会」で、一帯一路での日中の具体的な協力策を話し合った。一帯一路、AIIBへの参加問題は日中平和友好条約締結40周年を迎える来年の大きな対中外交テーマになりそうだ。一帯一路やAIIBが中国共産党主導の粗暴な対外膨張主義の一環と論じてきた拙論は、捨ててはおけない。
グラフは一帯一路沿線地域・国向けの中国政府主導のプロジェクトの実施、契約状況と国有企業などによる直接投資の推移(いずれも当該月までの12カ月合計値)である。新規契約は順調に拡大し、中国の対外経済協力プロジェクトの約5割を占めるようになり、習政権の意気込みを反映している。
半面、プロジェクトの実行を示す完成ベースの伸びは鈍い。中国企業による一帯一路沿線への進出を示す直接投資となると、水準、伸び率とも極めて低調だ。習氏の大号令もむなしく、実行部隊である国有企業は投資を大幅に減らしていることが読み取れる。
背景には、北京による資本流出規制がある。中国は3.1兆ドル超と世界最大だが、対外負債を大きく下回っている。中国の不動産バブル崩壊への不安や米金利上昇などで巨大な資本流出が起きかねず、資本規制を緩めると外貨準備が底を尽きかねない。北京は中国企業による対外投資を野放しにできなくなった。カネを伴うプロジェクト実行にもブレーキがかかる。
他方、一帯一路の「金庫」の役割を果たすはずのAIIBは外貨調達難のために半ば開店休業状態にある。AIIBは北京による米欧金融市場への工作が功を奏して、アジア開発銀行並みの最上位の信用度(格付け)を取り付けたが、AIIBが発行する債券を好んで買う海外の投資家は多くない。
四苦八苦する習政権はぜひとも世界最大の対外金貸し国日本の一帯一路、さらにはAIIBへの参加が欲しい。資金を確保して新規契約プロジェクトを実行しやすくするためだ。その見返りに一部のプロジェクトを日中共同で、というわけだが、だまされてはいけない。
中国主導投資の道は死屍(しし)累々である。習氏は12年に政権を握ると、産油国ベネズエラへの経済協力プロジェクトを急増させてきた。同国は反比例して経済が落ち込み、実質経済成長率は16年、マイナス16%に落ち込んだ。経済崩壊の主因は国内政治の混乱によるのだが、ずさんな中国の投資が政治腐敗と結びついた。
中国投資が集中したスーダンもアフリカのジンバブエも内乱や政情不安続きだ。中国と国境を接している東南アジアは今、中国化が急速に進んでいる。ラオスやミャンマーでは中国国境の地域ごと中国資本が長期占有してつくったカジノ・リゾートがゴーストタウン化するなど、荒廃ぶりが目立つ。中国が輸出攻勢をかけるカンボジアは債務の累積に苦しみ、中国からの無秩序な投資に頼らざるをえなくなっている。
ティラーソン米国務長官は10月、「中国の融資を受ける国々の多くは膨大な債務を背負わされる。融資の仕組みも、些細(ささい)なことで債務不履行に陥るようにできている」と警告した。麻生太郎財務相も11月、AIIBを「サラ金」に見立てた。一帯一路やAIIBへの参加は泥舟に乗るようなものなのだ。(編集委員)
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安倍政権は、アベノミクスを継続し、デフレからの完全脱却を実現してほしいものです。今後の経済政策について、反骨のエコノミスト、田村秀男氏は、選挙前の時点で大意次のように述べました。
「アベノミクスには光と影が交錯している。雇用面では求人倍率がめざましく上昇したのだが、賃金には反映しない。家計消費は平成26年4月の消費税増税ショックの後遺症から抜けきれない。2%のインフレ目標達成のメドはいまだに立たないどころか、代表的なインフレ指標である国内総生産(GDP)デフレーターは昨年後半からマイナス基調だ。『脱デフレ』はいまだ成らず、だ」。
「タンス預金」は、「第一生命経済研究所の推計では今年2月末時点で43兆円、前年に比べ3兆円、8%増という」「経済の観点からすればデフレ病の一症状である」「経済という体にカネという血液が、現預金の皮下脂肪とならずに消費という血管で円滑に流れれば元気になるのだが、デフレ病がそれを邪魔するのだ」
「日銀の黒田東彦総裁は異次元金融緩和があれば、消費税増税に伴うデフレ圧力を軽くできるとし、26年4月の消費税増税を安倍晋三首相に決断させた。『デフレは貨幣現象』という従来の学説はそうでも、机上の空論だ。増税など緊縮財政は、日本のような慢性デフレ経済には当てはまらないのだ」「衆院選後の国会では、金融緩和偏重の経済政策是正に向け、政府・日銀、与野党が真剣に議論を戦わせてほしいものだ」と。
以下は、田村氏の記事の全文。
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●産経新聞 平成29年10月22日
http://www.sankei.com/premium/news/171022/prm1710220010-n1.html
2017.10.22 08:00更新
【田村秀男の日曜経済講座】
衆院選後の国会、財政・金融政策論戦を 脱デフレに向けカネを動かせ
衆院選後の経済の懸案はデフレ圧力再燃だ。改めて問う、財政と金融政策はどうあるべきか。
アベノミクスには光と影が交錯している。雇用面では求人倍率がめざましく上昇したのだが、賃金には反映しない。家計消費は平成26年4月の消費税増税ショックの後遺症から抜けきれない。2%のインフレ目標達成のメドはいまだに立たないどころか、代表的なインフレ指標である国内総生産(GDP)デフレーターは昨年後半からマイナス基調だ。「脱デフレ」はいまだ成らず、だ。
新聞の社会面記事を読んでみよう。瞠目(どうもく)したのは、相次ぐ札束のゴミ捨てだ。4月には群馬県沼田市で4251万円、5月には奈良県御所市で2千万円の現金がそれぞれ廃棄物処分場で見つかった。前者は法定相続人に返還され、後者は従業員が1千万円をネコババしていたというオチがついたのだが、ため息をつかされたのはその巨額ぶりだ。
ゴミとなって見つかった現金の相場は2年前は1千万円以下だったが、昨年は1千万~3千万円だ。幸いにも見つかったケースは氷山の一角で、そのまま焼却処分された万札はどのくらいになるのか、と想像してみたくなる。
上記のようなカネの出所は「タンス預金」と呼ばれ、第一生命経済研究所の推計では今年2月末時点で43兆円、前年に比べ3兆円、8%増という。銀行に預けることで、マイナンバーを通じて税務当局に補足されるのを嫌う富裕層の相続税逃れも動機の一部にあるのだろうが、経済の観点からすればデフレ病の一症状である。その証拠に、家計の金融資産のうち現預金がデフレとともに急増している。
日銀によると、今年6月末の家計金融資産総額の51%、944兆円が現預金であり、前年比で23兆円増えた。日銀のマイナス金利政策を受けて定期預金金利はゼロ・コンマ%台だが、物価は上がらないのだから現預金のままでも目減りしない。それはもちろん「持ってる」家計の賢明な判断に違いない。
「持っていない」者のひがみで言うわけではないが、こうした家計の集合体である国民経済は、とばっちりを受ける。停滞するのだ。経済のパイは少しずつ大きくなっているのだが、消費は盛り上がらない。家計が現預金増加分の2割強(今年4~6月期の場合年率換算で5兆4千億円)を消費に回せば、GDPは1%増える。
要は、経済という体にカネという血液が、現預金の皮下脂肪とならずに消費という血管で円滑に流れれば元気になるのだが、デフレ病がそれを邪魔するのだ。
インフレ目標2%を掲げる日銀の「異次元金融緩和」の効き目はあるのか。王道たるべきシナリオは、日銀が年間で80兆円、GDPの15%相当のカネを発行して金融機関に流し込む。金融機関がその分融資すれば、カネが経済全体に循環するようになる。企業は設備投資、家計は消費を増やすようになり、需要が拡大するので物価や賃金が上がりやすくなるはずだ。実際にはどうか。
グラフを見ると、銀行に流し込まれた日銀資金は日銀への預け金となって大半が日銀当座預金にとどまっている。銀行の貸出増加額は昨年6月時点では預け金増加額の1割にも満たなかった。今年は貸出増加額が預け金増加額の5割を超え、ようやく上向いてきた。設備投資、住宅ローン、中小企業向けと銀行は融資に前のめりになっている。
無理もない。銀行は膨らむ預金と日銀預け金を動かさずにしておけば、たとえゼロに近くても預金金利は払わなければならないし、一部の日銀当座預金についてはマイナス金利のために目減りする。貸し出しを増やして利ざやを稼ぐしかないわけだ。それでもGDPデフレーターは下向いており、脱デフレにはほど遠い。
日銀の黒田東彦総裁は異次元金融緩和があれば、消費税増税に伴うデフレ圧力を軽くできるとし、26年4月の消費税増税を安倍晋三首相に決断させた。「デフレは貨幣現象」という従来の学説はそうでも、机上の空論だ。増税など緊縮財政は、日本のような慢性デフレ経済には当てはまらないのだ。
政府が増税によって家計から所得を吸い上げ、社会保障や教育などの財政支出を切り詰める。つまり、家計など民間にカネを還流させないと、内需が減退するのは小学生だってわかる。衆院選後の国会では、金融緩和偏重の経済政策是正に向け、政府・日銀、与野党が真剣に議論を戦わせてほしいものだ。(編集委員)
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関連掲示
・拙稿「消費増税延期決定は大英断」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/227fa3e17f3ca36fa12a2c8dcafc4a10
今回の選挙は、アベノミクスに関する評価を問うものでもあります。自民党・公明党は成果を強調し、希望の党、立憲民主党、共産党などは与党の経済政策を批判しています。外交・防衛・福祉など他の政策については、成果の数値的な把握に難しいものもありますが、経済については基本的に結果が数字にはっきり出ます。
自民党は、アベノミクス5年間の実績を次のように示しています。
●名目GDP 過去最高 50兆円増加
493兆円(2012年10-12月期)→543兆円(2017年4-6月期)
●就業者数 185万人増加
6,271万人(2012年)→6,456万人(2016年)
●正社員有効求人倍率 初の1倍超え
0.5倍(2012年2月)→1.01倍(2017年7月)
●若者の就職内定率 過去最高
大学生93.9%(2013年4月)→97.6%(2017年4月)
●企業収益 過去最高 26.5兆円増加
48.5兆円(2012年度)→75.0兆円(2016年度)
●家計の可処分所得 2年連続で増加
292兆円(2012年)→295兆円(2015年)
●外国人旅行者数 5年で約3倍
870万8千人(2012年度)→2,482万4千人(2016年度)
深刻なデフレに苦しんでいた5年前には考えられないくらいの好転です。しかし、野党の多くは、こうした数値を認めず、デフレの脱却ができていない部分や、労働者の賃金が十分上昇していないこと、特に地方では景気好転の実感が薄いことなどを以て、アベノミクスを否定し、あかたもそれ以上の経済政策があるかのように訴えています。過去に実績があった政党が言うなら、耳を貸す値があるかもしれませんが、何の実績もない政党がいうことは、選挙目当て、議席欲しさの言説であり、ほとんど詐欺的な弁論です。
アベノミクスについて、客観的に見て成功は明白です。例えば、イギリスの投資家で「日本は甦るか」、「日本の選択」等の著書のあるピーター・タスカ氏は、次のように語っています。
「安倍氏が首相に再登板した2012年12月以降、日本の経済は驚くべき変化を遂げている。過去20年間、日本の名目GDPはまったく成長がなかった」。だが、「日本の今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は年率4%だった。先進7カ国(G7)の中で最も高い値だろう。重要なのは、成長が6四半期連続であり、かつそれぞれの期間の数値が日本の潜在成長率(0・75%程度)を上回るものであったということだ」
「14年に安倍氏を説得して不必要な消費税増をけしかけたのは、破滅論者の官僚たちだった。その結果、リフレーションの勢いは少なくとも2年停滞した。それでも、労働市場から貸出残高の伸びまで、さまざまな指標は数十年来の高い水準にある」
「安倍氏再登板後の東証株価指数(TOPIX)の年率リターンは円建てで20%、ドルベースで12%を記録。新興市場のジャスダック指数は史上最高で、円建て26%、ドル建て18%に達した」
http://www.sankei.com/politics/news/170828/plt1708280011-n1.html
この記事は、8月28日のものです。その後、安倍首相は衆院解散総選挙を決めました。明日はその投開票日です。選挙期間中、日本の株価は上昇を続けています。株価が上がるということは、世界的に日本経済への期待が高まっているということです。
10月20日東京株式市場で日経平均株価は14営業日続伸しました。14営業日続伸は、高度経済成長期の昭和35年12月21日~36年1月11日以来約56年9カ月ぶりで、歴代最長タイの連騰記録とのことです。終値は前日比9円12銭高の2万1457円64銭。平成8年10月以来約21年ぶりの高値を連日でつけました。
政治が国民の支持を得られるかどうかは、最終的には経済政策によります。いかに高邁な理想を掲げても、いかに雄大な構想を追及しても、経済という国民の生活に直結するところで成果を上げられねば、その政権は国民の支持を得られません。自由主義国でも社会主義国でも、これは共通します。
5年前、デフレ脱却の処方箋を出した優れた経済学者が、私の知る限り数人います。しかし、理論は理論です。それを現実の社会で実行し、結果を出すことのできる政治家がいなければ、絵に描いたモチに終わってしまいます。第二次世界大戦後、先進国で唯一デフレに陥り、それが約15年も続いた日本にとって、悪質なデフレを抜け出すのは、ひどく困難な課題でした。安倍政権は、それを成し遂げつつあります。5年前の日本経済の指標と比べれば、現在の状態は、ほとんど奇跡に近い結果です。だが、アベノミクスは、まだ道半ばです。日本の潜在的成長力は、底知れないほど大きく、その力を発揮するのは、むしろこれからです。デフレを完全に脱却して日本を大きく繁栄させるという、その大事業を成し遂げられるのは、この5年間の実績のある安倍政権以外にありません。
もし総選挙で自民党が大敗し、安倍氏が退陣するという事態になったならば、この大事業はそこで終了します。まず驚異的に伸長してきた株価が一気に下がることは、明白です。さらにもし政権交代が起り、野党連立政権が実現したならば、名目GDPの減少、就業者数の減少、正社員有効求人倍率の低下、若者の就職内定率の低下、企業収益の減少、家計の可処分所得の減少等が続いて起こるでしょう。日本という国の富、国民の豊かさが失われ、この5年間を逆戻りする道となることは確実です。
有権者は、各政党の言っていることの真偽を見抜き、国民を欺く言説に惑わされないようにしましょう。そして、確かな目を以て、小選挙区の候補者と比例の政党を選びましょう。
関連掲示
・拙稿「アベノミクスの金融政策を指南~浜田宏一氏」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13t.htm
・拙稿「アベノミクスに情報戦略の強靭化を~宍戸駿太郎氏2」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13u.htm
・拙稿「デフレ脱却の経済学~岩田規久男氏」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13s.htm
北朝鮮の米領グアム攻撃計画をめぐるここ数日間の報道を、ざっとまとめてみました。
8月8日、米紙ワシントン・ポスト(電子版)は、北朝鮮がICBMに搭載できる小型核弾頭の製造に成功したと国防情報局(DIA)が分析していたことを報道。DIAは北朝鮮が保有する核兵器の数を従来の推定を大幅に上回る「最大60発」としていると伝えました。
北朝鮮は7月4日、28日に相次いでICBMの発射実験を行ってICBMを完成し、ほぼ米本土を射程圏内に収めたと見られますから、もしICBMに搭載できる小型核弾頭の製造にも成功しているとすれば、米国への脅威はすでに現実のものとなったことを意味します。
WP紙の報道と同じ8日、トランプ大統領は、「北朝鮮はこれ以上、米国にいかなる脅しもかけるべきでない。(さもなければ)世界が見たこともないような炎と怒りに見舞われることになる」と述べ、武力行使の構えを示唆して強く警告しました。
これに対し、翌9日、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍司令官は、中長距離弾道ミサイルと称する「火星12」で「グアム島周辺への包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」と警告。4発を同時にグアム沖30~40キロの海上に撃ち込む計画案で、「8月中旬までに最終完成させる」と表明。「火星12は、島根県、広島県、高知県の上空を通過することになり、射程3356・7キロを1065秒間飛行した後、グアム島周辺30~40キロの海上水域に着弾することになろう」と説明しました。
同日、マティス米国防長官は、金正恩体制に対し「体制の終焉や自国民の破滅につながるような行動を検討するのをやめるべきだ」と警告。「自らを孤立させる道を選ぶことをやめ、核兵器を追い求めるのを断念しなくてはならない」と指摘しました。
同日、米NBCテレビは、国防総省が北朝鮮に対する先制軍事攻撃の選択肢の一つとして、米空軍のB1戦略爆撃機による北朝鮮の弾道ミサイル発射基地などに対する精密爆撃を実行する準備を整えたと報道。グアムのアンダーセン空軍基地に配備されているB1爆撃機を使用。戦闘機による護衛と電子戦機や空中給油機の支援の下、北朝鮮国内にある約24カ所のミサイル基地や実験場、関連施設などを攻撃可能。トランプ大統領による命令があれば、いつでも実行できる状態にあるとのことです。
10日、朝鮮中央通信は、前日「敵基地攻撃能力」保有の検討に言及した小野寺五典防衛相や安倍晋三首相を名指しで非難し、「日本列島ごときは一瞬で焦土化できる能力を備えて久しい」と威嚇する記事を掲載しました。
米朝の緊張がかつてなく高まり、わが国も直接威嚇をうけるなか、小野寺防相が10日、衆院安全保障委員会での質疑で答弁。北朝鮮が米領グアムを狙って弾道ミサイルを撃った場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に認定し、自衛隊のイージス艦が迎撃することは法的に可能だとの認識を示し、「武力行使の新3要件に合致すれば対応できる」と述べました。また、自衛隊は守りに徹し、米軍が打撃力を行使する日米同盟の役割分担に言及し、「日本の安全保障にとって、米側の抑止力・打撃力が(攻撃を受けて)欠如することは、日本の存立の危機に当たる可能性がないとはいえない。いずれにせよ3要件で判断する」と回答しました。
翌11日、わが国政府は、北朝鮮がミサイルが上空を飛行すると名指した島根、広島、高知の3県と愛媛県の陸上自衛隊駐屯地に、空自の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を展開する方針を決定しました。12日までに展開を完了しました。
PAC3は、米領グアムを目指して高高度を飛ぶ北朝鮮の弾道ミサイルを撃ち落とす能力を持っていません。今回の中四国への展開は、主にイージス艦から発射される迎撃ミサイルSM3が弾道ミサイルの破壊に成功した場合、日本に落下してくる部品や破片を低高度で破壊して、地域住民の生命と財産への被害を防ぐもの。ただし、弾道ミサイルが不具合で、グアム方面まで飛ばず、失敗して日本に落下してくる可能性もあり、それを迎撃する備えにもなります。
今後の北朝鮮及び米国の動きが注目されます。