ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権382~移民の権利

2016-12-01 09:30:50 | 人権
●移民の権利

 政治的権利及び経済的権利に関する二次的な補説として、移民の権利及び発展途上国の国家と国民の権利について述べたい。
 移民の権利について、基礎となるのは移動の自由であり、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、避難する権利、国籍をもつ権利等がこれに関わる。
 西欧における移民として、歴史的に最大の存在はユダヤ人である。ユダヤ人の自由と権利の拡大については、第5章に書いたので、ここではユダヤ人以外の移民について書く。
 ユダヤ人に関してだけでなく非ユダヤ人に関しても、移民の権利で重要なのは、信教の問題である。第2次世界大戦後、中核部の西欧諸国には、周辺部の中東・アフリカ・アジアから多数の移民が流入した。その多くは、ムスリムだった。西欧では、キリスト教以外の宗教に対しても、一定の信教の自由を保障するようになっていた。イギリスにはパキスタン人やジャマイカ人、フランスにはマグレブ人、ドイツにはトルコ人等が増加した。これらの諸国は、国民と非国民を区別し、国民と同等の権利を移民に与えてはいない。国籍の付与には一定の条件を設けており、無差別な平等を実施していない。
 欧米の移民問題については、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」に書いたが、例えば、ドイツは、直系家族が主な社会で、人間は互いに本質的に異なるという差異主義の人間観を持ち、民族混交率が低い。国籍取得はもとは血統主義だったが、1998年の国籍法改正によって、出生地主義を採用した。ただし二重国籍は認めない。参政権については、ドイツは、「ヨーロッパ連合条約の批准」という要請があったため、1990年に憲法を改正し、EU加盟国民に限って、相互に地方参政権を認めている。EU域外の国の外国人には、地方参政権を与えていない。外国人への国政参政権は認めていない。非国民への国籍の付与と地方参政権の付与を区別している。
 フランスは、平等主義核家族が主な社会で、世界中の人間はみな本質的に同じという普遍主義の人間観を持ち、民族混交率が高い。国籍については出生地主義で二重国籍も許容する。フランスもドイツと同様、憲法を改正して、EU加盟国同士では、地方参政権を付与し合っている。対象は、6ヶ月以上の居住、または5年以上直接地方税を納入している者とする。普遍主義のフランスであっても、国政参政権は非国民には与えていない。国籍付与と地方参政権付与を区別している。
 その他の国々も移民に対して権利の制限をしている。だが、それにもかかわらず、ヨーロッパでは移民が増加し続け、それによって、さまざまな社会問題、政治問題が生じている。移民への規制は一部見られるものの、趨勢としては今後ますます移民が流入すると予想される。例えば、平成21年(2009)8月、英「デイリー・テレグラフ」紙は、EU内のイスラーム人口が2050年までに現在の4倍にまで拡大するという調査結果を伝えた。現在の移民増加と出産率低下が持続する場合、2050年ごろにはイスラーム人口がEU人口の20%まで増える。イギリス、スペイン、オランダの3ヵ国では「イスラーム化」が顕著で、近いうちにイスラーム人口が過半数を超えてしまうという。
 こうした予測のある中で、もし普遍的・生得的な権利としての人権という観念を移民に広げたら、移民の受け入れ国に対し、破壊的な作用をするだろう。同時に、それは一国内の出来事にとどまらず、ヨーロッパ全体に及ぶだろう。権利の制限という堤防は、一か所で決壊すれば、移民という大水が次々に弱い箇所を飲み崩し、ついには大陸全体を覆うだろう。

 次回に続く。