●EUにおけるナショナリズムの復興
ヨーロッパでトランプの勝利を歓迎し、トランプ旋風を追い風にしたいと考えているのは、欧米のマスメディアが「極右政党」と呼ぶ集団である。それらの政党の考え方は、実態としては伝統的なナショナリズムであり、グローバリズム的なリージョナリズムに対してネイション(国家・国民)を守ろうとする思想である。
ナショナリズムには、自由主義的なナショナリズムと全体主義的なナショナリズムがある。「極右」とは、後者に使うべき言葉である。その典型は、ネオナチやファシズム政党である。だが、現在、ヨーロッパで躍進しているのは、全体主義の政党ではない。自由主義的なナショナリズムの政党である。リベラル・ナショナリズム(自由国民主義)は、近代ヨーロッパの伝統的な思想・運動である。17世紀のイギリスに発生し、フランス革命とナポレオン戦争を通じて、各国に広がった。ネイションを形成し、発展させ、その繁栄を追求する思想・運動である。第1次世界大戦後から第2次世界大戦期にかけて、自由主義的なナショナリズムの勢力は、「極右」つまり全体主義的なナショナリズムの勢力と戦った。前者は民主主義的・議会主義的であって、暴力的・武闘的なナショナリストとは違う。リベラル・ナショナリズムは、第2次大戦後は、「極右」の復活を抑えつつ、国際社会の協調を目指す主流となってきた。ところが、世界的にはグローバリズム、地域的にはリージョナリズムが、ヨーロッパで進展し、ネイションの枠を超える広域共同体が形成され、広域市場、単一通貨、労働力の移動、異宗教・異文明の移民の流入等を進める勢力が主流となった。ナショナリズムは傍流に追いやられ、新たな主流を占めたグローバリズム及びリージョナリズムの側から「極右」というレッテルを貼られるようになった。だが、リベラル・ナショナリズムの復興は、伝統的な思想の復活なのである。これを右左という位置関係を表す用語で表すことは、正確でない。グローバリズム及びリージョナリズム=対ナショナリズムという構図で捕えるべきである。
欧米のマスメディアは、リベラル・ナショナリズムの新興政党の姿勢を、ポピュリズムと呼ぶ。ポピュリズムは、「人民主義」「大衆主義」「大衆迎合主義」「衆愚政治」などと訳される。大衆の利益や権利、情緒や感情を利用して、大衆の支持のもとに既存の体制の支配者・エリートや・知識人などと対決しようとする思想・運動である。「大衆迎合主義」と訳す場合は、否定的な立場から、政治指導者が大衆の一面的な欲望に迎合し、大衆を操作することによって権力を獲得・維持する方法を意味する。それが極端な状態に至れば、「衆愚政治」に堕する。
だが、リベラル・デモクラシー(自由民主主義)の国家には、議会があり、多くの場合、議員は普通選挙で選ばれる。政治家や政治運動家が自らの政策を実現しようとするには、有権者に政策を訴え、その支持を獲得し、選挙で得票しなければならない。それゆえ、大衆の利益や権利を重んじ、大衆の情緒や感情に訴えることは、多かれ少なかれ、どの政治勢力によっても行われている。
欧米のマスメディアがリベラル・ナショナリズムの新興政党を「極右」と呼び、その政治思想・政治姿勢を「ポピュリズム」とするのは、そこに政治的な価値判断が入っているからである。既存の体制の支配層、所有者集団や経営者集団の側にすれば、自分たちの考えに反対し、立場を脅かす勢力だから、負のイメージを大衆に受け付けるために、そのような用語を使っているのである。マスメディアの多くは、大富豪によって所有され、所有者集団に都合のいいような情報を流す支配層の広報機構となっている。
リべラル・ナショナリズムの新興政党は、EUの官僚や主流派の政治勢力などを「エリート」と批判し、既存の体制・路線の打破を目指している。そこには、エリート対非エリートまたはエリート対庶民という構図がある。だが、それらの政党が行っていることは、必ずしも大衆への迎合ではない。なぜならば、各国の国民の多数はEU・ユーロを支持し、移民受け入れを容認し、現状の維持を望んでおり、大衆に迎合するなら、それが最も支持を得やすいからである。だが、リベラル・ナショナリズムの新興政党は、既成の体制・路線に異を唱えている。グローバリズム的なリージョナリズムが主流派になった社会で、以前は少数意見だったが段々、賛同者が増えてきている。それを大衆迎合主義と蔑視するのは、既存の体制の支配者・エリートや知識人などの側からの見方である。リベラル・ナショナリズムの政党に、有権者が共感するのは、失業や低賃金で経済的苦境にあるだけでなく、グローバル化・リージョナル化により価値観の多様化や移民流入が進み、生活や価値観、安全・安寧が脅かされているという不安が強まっているためである。また、既成の政党の政治家は自分たち国民の権利を守ってくれないという不満が高じているためでもある。
リべラル・ナショナリズムの新興政党は、アメリカで二大政党の主流派やマスメディアに挑んだトランプに自らを重ね、その勝利に意を強くしている。そして、トランプ旋風が自らの勢力拡大への追い風になることを期待している。
次回に続く。
ヨーロッパでトランプの勝利を歓迎し、トランプ旋風を追い風にしたいと考えているのは、欧米のマスメディアが「極右政党」と呼ぶ集団である。それらの政党の考え方は、実態としては伝統的なナショナリズムであり、グローバリズム的なリージョナリズムに対してネイション(国家・国民)を守ろうとする思想である。
ナショナリズムには、自由主義的なナショナリズムと全体主義的なナショナリズムがある。「極右」とは、後者に使うべき言葉である。その典型は、ネオナチやファシズム政党である。だが、現在、ヨーロッパで躍進しているのは、全体主義の政党ではない。自由主義的なナショナリズムの政党である。リベラル・ナショナリズム(自由国民主義)は、近代ヨーロッパの伝統的な思想・運動である。17世紀のイギリスに発生し、フランス革命とナポレオン戦争を通じて、各国に広がった。ネイションを形成し、発展させ、その繁栄を追求する思想・運動である。第1次世界大戦後から第2次世界大戦期にかけて、自由主義的なナショナリズムの勢力は、「極右」つまり全体主義的なナショナリズムの勢力と戦った。前者は民主主義的・議会主義的であって、暴力的・武闘的なナショナリストとは違う。リベラル・ナショナリズムは、第2次大戦後は、「極右」の復活を抑えつつ、国際社会の協調を目指す主流となってきた。ところが、世界的にはグローバリズム、地域的にはリージョナリズムが、ヨーロッパで進展し、ネイションの枠を超える広域共同体が形成され、広域市場、単一通貨、労働力の移動、異宗教・異文明の移民の流入等を進める勢力が主流となった。ナショナリズムは傍流に追いやられ、新たな主流を占めたグローバリズム及びリージョナリズムの側から「極右」というレッテルを貼られるようになった。だが、リベラル・ナショナリズムの復興は、伝統的な思想の復活なのである。これを右左という位置関係を表す用語で表すことは、正確でない。グローバリズム及びリージョナリズム=対ナショナリズムという構図で捕えるべきである。
欧米のマスメディアは、リベラル・ナショナリズムの新興政党の姿勢を、ポピュリズムと呼ぶ。ポピュリズムは、「人民主義」「大衆主義」「大衆迎合主義」「衆愚政治」などと訳される。大衆の利益や権利、情緒や感情を利用して、大衆の支持のもとに既存の体制の支配者・エリートや・知識人などと対決しようとする思想・運動である。「大衆迎合主義」と訳す場合は、否定的な立場から、政治指導者が大衆の一面的な欲望に迎合し、大衆を操作することによって権力を獲得・維持する方法を意味する。それが極端な状態に至れば、「衆愚政治」に堕する。
だが、リベラル・デモクラシー(自由民主主義)の国家には、議会があり、多くの場合、議員は普通選挙で選ばれる。政治家や政治運動家が自らの政策を実現しようとするには、有権者に政策を訴え、その支持を獲得し、選挙で得票しなければならない。それゆえ、大衆の利益や権利を重んじ、大衆の情緒や感情に訴えることは、多かれ少なかれ、どの政治勢力によっても行われている。
欧米のマスメディアがリベラル・ナショナリズムの新興政党を「極右」と呼び、その政治思想・政治姿勢を「ポピュリズム」とするのは、そこに政治的な価値判断が入っているからである。既存の体制の支配層、所有者集団や経営者集団の側にすれば、自分たちの考えに反対し、立場を脅かす勢力だから、負のイメージを大衆に受け付けるために、そのような用語を使っているのである。マスメディアの多くは、大富豪によって所有され、所有者集団に都合のいいような情報を流す支配層の広報機構となっている。
リべラル・ナショナリズムの新興政党は、EUの官僚や主流派の政治勢力などを「エリート」と批判し、既存の体制・路線の打破を目指している。そこには、エリート対非エリートまたはエリート対庶民という構図がある。だが、それらの政党が行っていることは、必ずしも大衆への迎合ではない。なぜならば、各国の国民の多数はEU・ユーロを支持し、移民受け入れを容認し、現状の維持を望んでおり、大衆に迎合するなら、それが最も支持を得やすいからである。だが、リベラル・ナショナリズムの新興政党は、既成の体制・路線に異を唱えている。グローバリズム的なリージョナリズムが主流派になった社会で、以前は少数意見だったが段々、賛同者が増えてきている。それを大衆迎合主義と蔑視するのは、既存の体制の支配者・エリートや知識人などの側からの見方である。リベラル・ナショナリズムの政党に、有権者が共感するのは、失業や低賃金で経済的苦境にあるだけでなく、グローバル化・リージョナル化により価値観の多様化や移民流入が進み、生活や価値観、安全・安寧が脅かされているという不安が強まっているためである。また、既成の政党の政治家は自分たち国民の権利を守ってくれないという不満が高じているためでもある。
リべラル・ナショナリズムの新興政党は、アメリカで二大政党の主流派やマスメディアに挑んだトランプに自らを重ね、その勝利に意を強くしている。そして、トランプ旋風が自らの勢力拡大への追い風になることを期待している。
次回に続く。