ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

欧州債務危機とフランスの動向6

2012-05-31 08:47:50 | 経済(ユーロ)
●「フランスの価値、フランス人のアイデンティティ」

 サルコジは内相時代に「サルコジ法」と呼ばれる法を制定し、犯罪件数を激減させたことで評価され、大統領へと駆け上がった。自身はユダヤ系の移民2世だが、入国管理の強化、移民の制限を政策として打ち出した。欧州の統合を進める一方で、自国では移民の流入に一定の歯止めをかけようとした。
 今回の大統領選挙で、移民政策は一つの争点となった。サルコジは、移民問題は「フランスの価値、フランス人のアイデンティティを問い直すことだ」と国民に訴えた。欧州では平成5年(1993)発効のマーストリヒト条約によって、域内のヒトの移動が自由化された。その端緒は、昭和60年(1985)に、フランス、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルク、オランダの5カ国が締結したシェンゲン協定である。締約国間の国境検問所を廃止するものだった。今回のフランス大統領選挙では、このシェンゲン協定の見直し問題が議論された。
 わが国のメディアは、欧州の統合、単一通貨、多文化主義、移民拡大をよいものとし、それを前提とした報道が多い。だが、欧州にはこれらに慎重ないし反対の意見がある。フランスにおいても同様である。欧州統合主義・ユーロ・多文化主義・移民拡大政策は、フランスが脱フランス化する方向である。フランスというネイション(国家・国民・民族)が欧州の広域組織に解消しかねない道である。フランスには、これに疑問を持ち、ナショナルな価値を保守しようとする人々がいる。サルコジが大統領の再選をかけた選挙で発したように、「フランスの価値、フランス人のアイデンティティ」が問われているのである。
 わが国のメディアの多くは、移民の制限や国境の機能の再評価を説く意見を「排外主義」とか「時代に逆行」などと報道する。その報道は表面的で安易である。移民の制限は排斥ではなく管理の強化であり、国境の機能の再評価は国境の閉鎖ではなく入国の検査である。言語も文化も宗教も異なるイスラム教徒が続々と流入して、社会的・文化的な問題が増大している欧州において、各国の文化・伝統・歴史の価値や国民としてのアイデンティティを問い直すことは、重要な問題なのである。
 サルコジは今回の選挙で、5年前の大統領選挙の第1回投票時より、約170万票を減らした。主な原因は経済政策の効果が上がらず、国民の不満がサルコジにぶつけられたことである。それに加えて、サルコジが極右政党の「国民戦線(FN)」に接近しようとして失敗したことが挙げられている。
 国民戦線は、ジャン=マリー・ル・ペンの名とともに知られる。彼の死後、娘のマリーヌ・ル・ペンが党首となり、今回の大統領選挙で善戦した。第1回投票では、17.90%という過去最高の得票率を記録した。サルコジは、その支持者を自分の支持層に取り込もうとしたのだが、ル・ペンは選挙前から、サルコジもオランドも支持しないという考えを表明していた。決選投票では棄権を示唆した。もしル・ペンがサルコジ支持を打ち出していれば、結果が変わったかもしれない。それほどに存在感を強めているのである。
 サルコジ=UMPは右派と呼ばれ、ル・ペン=FNは極右と呼ばれる。右派の中の穏健派と急進派等と漠然と考えられがちだが、根本的な政策がはっきり異なる。前者はリージョナリズムであり、後者はナショナリズムである。右派におけるリージョナリズムとナショナリズムの違いは、大統領選挙での連携が成立しないほどの違いなのだろう。従来の路線による欧州統合、単一通貨、多文化主義、移民受け入れ政策を続けていて、「フランスの価値、フランス人のアイデンティティ」を守れるかという問いが、ここに立ち上がってくる。だが、リージョナリズムを推進してきたサルコジがその問いを発しても、ナショナリズムを堅持する人々には、矛盾または欺瞞と感じられるだろう。

 次回に続く。
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欧州債務危機とフランスの動向5

2012-05-30 08:42:04 | 経済(ユーロ)
●フランスの左傾化

 ギリシャ、イタリア、スペインを見てきたところで、再びフランスに話を戻したい。
 前大統領サルコジは、平成19年(2007)、大統領に就任した際、「もっと働き、もっと稼ごう」のスローガンの下、フランスをアメリカに似た自由主義的な競争社会に改革することを目指した。就任直後に減税法案を成立させ、企業の国際競争力強化等、成長路線を打ち出した。メルケルと連携を図り、独仏はユーロ圏の強力なエンジンとなった。しかし、サルコジは自国の政府債務の累積問題を解決できず、緊縮政策を強く打ち出さざるを得なくなった。私は、ユーロについて、各国が通貨発行権を放棄し、独自の金融政策をできなくなることなど無理があるという意見だが、近年ユーロが維持されてきたのは、サルコジの手腕によるところが少なくないと見ている。だが、リーマン・ショックはフランスにも打撃を与えた。失業率は目標の5%への低下どころか上昇し、平成11年(1999)以来、最悪水準の10%台に悪化した。国民の不満は高まり、サルコジは大統領再選ならずという結果になった。敗戦を機に、サルコジは政界からの引退を表明した。今後、フランスがどういう方向に進むか。その方向がユーロ圏とEUの針路を左右するだろう。
 フランスでは6月10日、17日に国民議会の選挙が行われる。フランスは二院制で、下院に当たるのが国民議会である。上院に当たるのは元老院だが、わが国の衆議院・参議院とは異なり、一つの議会を構成する議院ではなく、両者とも独立した議会である。国民議会に優先権があり、元老院は主に諮問機関として機能している。国民議会は議席数577。現在は、300議席以上を右派の国民運動連合(UMP)が占めている。UMPはサルコジの出身政党である。来る総選挙で、オランドの社会党が多数を獲得すれば、オランドは左派の首相と組んで、社会民主主義的な政策を強力に進めるだろう。もし左派が多数を勝ち得なければ、フランス特有の「コアビタシオン」となることが予想される。
 フランスは現在第5共和制だが、第5共和制では、大統領は首相の任命を含む強大な権限を持つ。だが、内閣は議院内閣制のため、議会が内閣を不信任できるようになっている。そこで、大統領の支持政党が議会内少数派であると、政権運営を安定させるため、多数党(反対派)の党首を首相に指名することが行われる場合がある。これを「コアビタシオン」と呼ぶ。同居とか同棲を意味する言葉だが、わが国では保革共存政権と訳す。コアビタシオンでは、大統領の実権は事実上制限される。大統領がミッテランの時代に2度、シラクの時代に1度あった。
 最近の世論調査では、社会党を含む左派の支持率が31%、UMPが30%と拮抗状態と伝えられる。左派が議会で多数を奪えなければ、オランド大統領は右派の首相を指名し、政権の安定を図るかもしれない。逆に大統領選に敗北したUMPにとっては、今度の総選挙は負けられない一戦である。多数を維持し、政権をコアビタシオンに持ち込み、左派の独走を制したいところだろう。だがUMPの現状は、かなり厳しいようである。サルコジへの批判は、UMPへの逆風になる。昨年9月の上院選では社会党を中心に左派が初の過半数を獲得した。地方でも現在、左派が優勢という。このうえ下院選で敗れれば、左派が国政から地方議会まで掌中にするというかつてない状況となる。
 仮に大統領―首相―国民議会―元老院―地方議会と主な政治機関を左派が押さえると、フランスは大きく左傾化する。ユーロ圏の双頭エンジンの片方で国内が社会民主主義で固まれば、経済・外交・安全保障等、様々な面でこれまでの政策とは異なる政策が打ち出されるだろう。それが独仏関係に影響し、ひいてはユーロ圏とEUの針路に影響するだろう。その点で、来る国民議会選挙は世界が注目する選挙となる。

 次回に続く。
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欧州債務危機とフランスの動向4

2012-05-29 08:45:50 | 経済(ユーロ)
●イタリアとスペインの苦しい事情

 ユーロ圏では、強いユーロのおかげで、加盟国は自国の財政規律とは関係なく、最強国のドイツ並みの低金利借金で財政支出してきた。平成14年(2002)にユーロ建て国債が普及すると、以後、各国債利回りは4%前後というほぼ同じ水準で安定していた。だが、平成20年(2008)9月のリーマン・ショックによって、各国の差が一気に開いた。財政状況の良くないギリシャ、ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペイン等の国債利回りは上昇し、逆に信用力のあるフランス、ドイツの国債利回りは低下した。国債利回りの上昇は、財政の先行きに投資家が不安を持ち、政府が高い利息を払わないと借金ができないという状況の表れである。今やギリシャは18%以上、ポルトガルは16%以上になっている。失業率も上昇し、今年2月の時点ではアイルランド14・5%、ポルトガル13・6%となった。
 イタリアは、独仏に次いでユーロ圏第3位の大国だが、昨23年後半には、国債利回りが債務危機の目安になる7%を突破した。失業率も8・9%と高い。経済状況が悪化するなか、昨年11月、経済学者で元EU欧州委員のモンティ首相が率いる暫定内閣が発足した。与野党から1人も政治家が内閣に参加しないという異例の布陣となった。財政再建と成長力回復が課題であり、容易ではない。本年2月に国債の大量償還があり、資金調達が懸念されたが、これは欧州中央銀行(ECB)が買い支えるなどして乗り越えた。今後も道のりは険しい。
 ユーロ圏第4位は、スペインである。スペインの財政状況も厳しく、国債をECBが買い支えてきた。4月19日に大量の国債入札が行われ、目標の上限額25億ユーロを上回る25億4千万ユーロを調達できた。これで2月のイタリア、3月のギリシャに続いて、スペインも国債大量償還が堅調に行った。危惧されていた混乱は、回避された。
 ただし、スペインの国債は10年物の落札利回りが平均5・7%となり、前回入札より0・3%上昇した。これが市場の評価である。昨年11月首相となったラホイは、270億ユーロの予算カットを打ち出し、「ギリシャのようにはならない」と決意を述べた。スペインは、公務員給与の削減や増税等の緊縮策に取り組んでいる。だが、その結果、景気は急速に冷え込んでいる。IMFは今年のスペインの経済成長率の予測をマイナス1・6%からマイナス1・8%へと下方修正した。失業率は急上昇し、本年2月には23・6%になった。先に書いたアイルランド、ポルトガルどころではない。ユーロ圏17カ国中で最悪の水準である。若者の半分が就職できない。これを不満とするデモや暴動が頻発し、社会不安が増大している。
 今後もスペインの資金繰りは綱渡りが続くだろう。スペイン国内の銀行の不良債権が増加しており、国債を購入する余力が低下し調達が困難になる恐れもある。いずれ国債の長期金利が自力での財政再建が困難になる7%を突破するという見方がある。財政健全化を目指す緊縮財政によって、失業者が増えて失業給付が増加、その一方、税収は減少。かえって財政が悪化するという悪循環となるおそれもある。
 スペインが本格的な危機に陥ったら、影響はギリシャの比ではない。他の財政悪化国への波及や欧州の銀行破綻への飛び火を防ぐため、EUやIMFの安全網の拡充が課題となる。EUは3月30日のユーロ圏財務相会合で、7月に発足する欧州安定メカニズム(ESM)等、融資能力を5千億ユーロから8千億ユーロに増加することを決めた。しかし、ギリシャへの支援等を除くと、残りは約5千億ユーロ。これでは、経済規模の大きいスペインへの支援には足りないと見られる。ESMの融資能力をさらにどこまで拡充できるか、それがひとつの大きなポイントとなるだろう。

 次回に続く。
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欧州債務危機とフランスの動向3

2012-05-28 10:52:50 | 経済(ユーロ)
●ギリシャが欧州・世界を揺るがす

 フランスの大統領選と同じ日、ギリシャで国政選挙の投開票が行われ、世界が注目した。ギリシャは一院制だが、EUやIMF等の支援と引き換えに財政再建を進めてきた連立与党は、過半数に届かなかった。増税や歳出削減に取り組むという政策は、有権者の支持を十分得られなかった。総選挙後の連立交渉は決裂し、6月に再選挙が実施されることになった。
 5月の第1回選挙では、緊縮財政反対を唱える急進左派が大幅に議席を増やし、第二党に躍進した。世論調査によると、急進左派連合は、次の選挙でさらに票を伸ばしそうだと伝えられるが、緊縮財政推進派と大接戦の模様である。従来の連立与党で今回第一党になった中道右派の新民主主義党は、緊縮政策の見直しをEU等と交渉する考えを表明している。
 メルケルとオランドは、ギリシャがユーロ圏に残ることを望むという意思を表明した。メルケルはギリシャにEU等が金融支援実施の条件とする財政緊縮策の実行を求め、両首脳は「ギリシャ国民が望むなら、成長のための追加的な可能性について検討する用意がある」とも述べた。
 だが、再選挙の結果、もし急進左派連合を中心とする「反緊縮政権」が成立し、緊縮財政路線が放棄されたら、EU・IMF等を通じた支援策の履行は困難になる。EU諸国はギリシャに厳しい態度を取り、欧州以外の国からも不満が噴き出すだろう。IMFに多額の資金を提供しているわが国も黙っているわけにはいかない。それゆえ、ギリシャの再選挙で問われるのは、単にギリシャ国内の経済政策ではない。「ユーロ圏に留まるか離れるか」という最後の選択である。
 ギリシャがユーロ圏を離脱した場合、ギリシャ国内は混乱するだろう。独自の通貨に戻すか新通貨を造るかしても、通貨価値は当然低いから、輸入品の物価が急騰し、インフレが昂進するだろう。銀行預金の大領引出しが起きる。海外への資金流出が加速する。ギリシャ国債は暴落し、ギリシャ国債を多く保有する国々は、打撃を受ける。特に財政状況の悪いイタリア・スペインや経営状況の悪い欧州の銀行には、深刻な打撃となる。これはユーロ圏全体の危機であり、それをきっかけに世界経済はリーマン・ショック以来の混乱に陥る可能性がある。
 EUは、5月23日臨時首脳会議を開き、ギリシャに対し、財政緊縮策実行の約束を守ったうえで、ユーロ圏に残留するよう求めることで合意した。EUが地域間格差是正のため設けた「構造基金」を活用し、ギリシャの経済成長と雇用を支援することでも一致した。ギリシャを繋ぎ止め、財政改革をさせないと、悪影響が大きいという判断だろう。
 だが、ギリシャの国民はどこまで自国の行く末や欧州・世界への影響を真剣に考えているか疑わしい。勤労意欲が低く、観光業の収入に依存し、過剰な社会保障に甘え、ユーロに支えられて、自立心を失い、都合の良い考えに陥っているのではないか。選挙結果は、緊縮財政に反対の国民が多いことを示す一方、世論調査ではギリシャ国民の約8割がユーロ圏残留を希望している。増税や歳出削減、年金受給年齢の引き上げ、公共サービスの縮小等は嫌だ、それでいてユーロ圏には居残りたいというのは、許されないだろう。この国民性を変える強力な指導者が出れば別だが、そうした人材は不在のようである。
 私は、ユーロ圏は長期的には独仏を中心として、経済力に大きな差のない国々の集まりという適正範囲に縮小せざるをえないだろうと考えている。ロバート・マンデルが説く「最適通貨圏」という理論があり、労働や資本といった生産要素が比較的低い費用で移動できる範囲が共通の通貨を使用すべき最適な範囲とされる。この理論によると、ユーロが共通通貨として安定的に機能するためには、経済条件が似ており、比較的少ない費用で労働・資本の移動が可能な範囲に加盟国を限定すべきものである。経済学者の岩田規久男氏は、その条件を満たすのは、現在のユーロ圏17カ国の中では、ドイツ・フランス・オランダ・ベルギー・ルクセンブルグの5カ国だろうという。
 私は、ユーロ圏がこれまでのような拡大路線を続けていくと、そのためにヨーロッパ全体が沈むことになると思う。一旦広げたものを縮小する過程は、相当の痛みを伴う。ギリシャ一国がユーロ圏を離脱するだけでも、大きな影響が出るに違いない。ましてポルトガル、スペイン、イタリアが続くことになれば、激動になる。だが、その激動を経て適当な体制に至るまで、欧州も世界もこれに耐えるしかないだろうと思う。わが国のメディアの多くは、基本的にユーロは維持されるべきもの、EUは統合を進めるべきものという前提で報道しているが、もともと単一通貨ユーロやEUの経済制度には無理がある。無理のあるものを維持しようと無理を重ねると、先に行ってから、もっと深刻な結果を招く。落日進むイギリスはユーロ圏に加わらず、独自通貨を堅持しているが、長期的にはその道のほうが賢明だったということになるのではないかと私は思う。

 次回に続く。
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欧州債務危機とフランスの動向2

2012-05-27 17:22:50 | 経済(ユーロ)
●独仏の連携は続くか

 オランド仏大統領は5月15日に就任すると、当日夜すぐベルリンを訪問し、ドイツのメルケル首相と初会談した。就任直後に意見交換し、独仏の連携を維持するとともに、自説を説いてメルケルの理解を得ようとしたものだろう。
 メルケルは財政緊縮政策を堅持しており、経済成長策を重視するオランドとは、方針が異なる。独仏の連携が崩れるならば、ギリシャの債務危機や欧州の銀行危機の対応に影響をもたらす。「メルコジ」から「メルコランド」へと協調関係を維持できるかどうか、世界が注目した。
 両首脳は会談後、共同で記者会見をした。報道によると、ギリシャについて、メルケルは「ユーロ圏に残ることを望む」と強調した。ギリシャでは国政選挙が行われたが、第1党が連立政権を組めず、再選挙が行われる。オランドも、再選挙で「ギリシャがユーロ圏への信頼を確認することを願う」と述べた。独仏は欧州統合の牽引役であり、統合への後退になるユーロ加盟国の離脱を避けたいという意識があるのだろう。ただし、メルケルは、「約束は守られねばならない」と明言し、ギリシャにEU等が金融支援実施の条件とする財政緊縮策の実行を求めた。また両首脳は「ギリシャ国民が望むなら、成長のための追加的な可能性について検討する用意がある」という考えも表明した。これは、緊縮策で経済が疲弊し、生活に苦しむ中で緊縮策への反発を強めるギリシャ国民に配慮を示したものと見られる。
 メルケルとオランドは、欧州債務危機対応で緊密に協力することで一致した。オランドが求める成長重視の危機対応策については、EU首脳会議等で両首脳がそれぞれ考えを述べ、検討することにした。ただし、オランドが掲げる新財政協定の見直しについて、メルケルは「交渉は終わっている」と述べたという。今後、オランドが新財政協定の再交渉を強く求めれば、独仏の連携がきしみだすかもしれない。
 だが、両首脳は何らかの妥協をして、連携を維持するのではないかという見方もある。オランドがメルケルに強気で持論を説いても、フランスの経済力はドイツに劣る。ドイツの工業生産力に依存するところが大きい。それゆえ、オランドは、どこかで譲歩せざるを得ない。経済成長や雇用確保を求める国内世論を受けて当選した手前、オランドはメルケルに主張することは主張する。こうして国内の支持層の期待に応えようとしつつ、現実主義的な決着を図るのではないか。具体的には、新財政協定は修正せず、成長戦略等を盛り込んだ補完的な協定を作る等の方策を取るのではないかと観測される。メルケルも新たに債務を増やさないような成長戦略は必要性を認めており、ドイツ国内での緊縮政策重視路線に対する不満を緩和できると見られる。両首脳ともEU統合の路線を共有し、加盟国の脱落を防ぐため大きな変化は望んでいない。またそれぞれ自分の政治家としての地位を維持するために、互いを利用しようとするだろう。
 ユーロは、東西統一後のドイツを欧州の国家共同体に止めておくために創設されたという一面がある。また単一通貨で最も恩恵を受けている国は、ドイツでもある。だが、ユーロ圏の多数の国が債務危機に陥ると、それらを支え続けるのは、ドイツへの負担が大きくなってくる。欧州債務危機を解決する方法の一つにユーロ共同債の発行がある。加盟国が共同で公共債を発行し、信用力の低い国も同じ条件で資金の調達ができるというメリットがある。オランドは、5月23日に行われたEUの臨時首脳会議でこれを提案したが、メルケルは反対した。抜群の経済力を持ち、低金利で国債を発行できるドイツにとって、共同債は不利になるからだ。ここに経済的統合と各国の国益の不一致という問題がある。ドイツが共同債発行案に応じ、直接的な国益を損なっても、ユーロ圏全体を維持しようと考えるのでなければ、ユーロ圏を比較的財政状況の優良な国だけに縮小した方が、長期的にはドイツにとってプラスが大きいだろうと私は思う。独仏の連携は、やがて根本的な方針をどうするかという課題への両国首脳の判断にかかっていくだろう。

 次回に続く。
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欧州債務危機とフランスの動向1

2012-05-26 12:26:06 | 経済(ユーロ)
●フランス大統領はオランドに

 私は今年の1~2月に、ユーロの危機について連載した。拙稿「ユーロとEUの危機」としてまとめマイサイトに掲載している。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12k.htm
 本稿は、その後現在までのユーロ圏と欧州連合(EU)の事情について、フランスの動向を中心に概術して検討を行うものである。6回ほどを予定している。
 さて、本年に入りギリシャの財務危機・政治情勢が深刻化するなか、2月イタリア、3月ギリシャ、4月スペインで国債の大量償還が行われた。国際的な協調によって資金の調達がされ、大きな混乱は回避された。このような状況で、4月から5月初めにかけてフランスで大統領選挙が行われた。
 サルコジの再選が危ぶまれていることは、先の拙稿に書いた。第1回選挙では決着がつかず、第2回選挙で社会党のオランドがサルコジを破って、大統領に就任した。現職大統領が1期で敗退したのはジスカールデスタン以来である。また社会党政権は、ミッテランの退陣後、17年ぶりとなった。
 ギリシャ危機の勃発以降、EUでは緊縮財政が強化されている。仏大統領選挙で緊縮財政の継続を唱えたサルコジに対し、成長や雇用にも配慮するよう主張したオランドが勝利したことは、これ不満を持つ国民が多いことを示している。
 オランドは5年以内の財政均衡回復を約束すると同時に、成長のための拡大政策を掲げ、政府債務の上限に関するEUの協定を緩める提言を公約に盛り込んだ。だが、フランスには成長政策を力強く打ち出せる財源がないから、成長政策の実現可能性は疑わしい。最も重要なのは、オランドが財政規律強化を義務づけるEUの新財政協定見直しを主張していることだが、これはEUの既定路線とは異なる。特にこれまで「メルコジ」といわれるほどサルコジとの緊密な連携を取ってきたドイツのメルケル首相の政策とは相容れない。それゆえ、サルコジからオランドへの政権交代は、独仏関係に不協和音を響かせる可能性がある。
 オランドは、国内政策では電力の原発依存度を現行の75%から2025年までに50%に引き下げる「減原発」政策を掲げている。またアフガン駐留の仏部隊を予定より1年前倒しして2012年末までに撤退させることを公約した。こうした政策が、ドイツだけでなく米英との関係でも摩擦を生じるかもしれない。
 ただ、私には、オランドにEUの既定路線を改めさせるほどの強力なリーダーシップがあるようには見えない。オランドは社会党内では穏健派に属するとされる。オランドが師と仰ぐミッテランは、現実主義者と呼ばれた。ミッテランは大統領在職中、ドイツのコール首相と強い信頼関係を築き、独仏が両輪になって単一通貨ユーロの導入等、欧州の統合を進めた。それゆえ、オランドも現実路線に転じるとの見方が根強くあると伝えられる。
 私の見るところ、欧州の社会民主主義と欧州統合思想は親和的である。社会民主主義的国際主義と欧州統合思想は、ともにネイション(国家・国民・民族)を超え、脱国家・脱国民・脱民族的な理想を追求しようとする。これに対抗する思想は、ネイションの維持・発展を目指す。前者をリージョナリズム(広域統合主義)、後者をナショナリズムと呼ぶこととする。欧州では自由主義・資本主義を保守する思想が、リージョナリズムと結びつき、各国の文化・伝統を保守するナショナリズムと対立している。「保守」と言っても、主に何を保守するかで立場が違う。欧州統合を進める体制を維持・推進する立場を統合推進的保守というならば、ナショナリズムはこの体制を変えようとする点では一種の革新であり、欧州統合以前のネイションを復興しようという点では国民復興的保守である。ナショナリズムには、自由主義的・社会主義的・共産主義的・ファシズム的と異なった政治思想がある。ナショナリズム、イコール右翼ではないことに注意する必要がある。社会民主主義の主流は、リージョナリズムに合流しているが、欧州でも左翼のナショナリストがいる。ここで注目されるのが、フランスを始め欧州各国で勢力を伸ばしている「極右」と呼ばれる一群の政党である。本稿では連載の終結部分で触れるつもりである。
 第2次世界大戦後の欧州では、ナショナリズムよりリージョナリズムが優勢であり、欧州統合が進められてきた。だが、その間に、各国が移民を拡大する政策を取ってきたため、ドイツのトルコ人、フランスのマグレブ人、イギリスのパキスタン人等、各国でイスラム教徒が急増し、社会的・文化的な問題が拡大している。こうした状況において、欧州の債務危機が深刻化し、ユーロの信用不安が増大しているので、今後各国で政治的な対立が先鋭化していくだろう。フランスもそういう欧州の一国であり、複雑な政治状況にある。大統領選挙では、きわどい展開で社会党のオランドが勝利したが、国内の主義・思想は多色化し、バランスは流動的と観察される。

 次回に続く。
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モザンビークのガス田、埋蔵量世界最大規模

2012-05-25 09:24:23 | 経済
 5月6日、北海道電力の泊原子力発電所3号機が定期検査に入り、わが国の原発はすべて運転を停止した。電力の3割を占めてきた原発の稼働がゼロという事態となった。福井県にある関西電力の大飯原子力発電所3、4号機は定期検査を終えているが、復帰の見通しは立っていない。政府が明確な安全基準を示し、地元・周辺の自治体や住民の理解を得られなければ、再稼働は実現し得ないだろう。
 福島原発事故以後、わが国は火力発電への依存度を強めている。特に液化天然ガス(LNG)の輸入を増やして、電力の供給量を維持してきた。その総費用は3兆円。電力会社はその分の費用を自社負担でやってきたが、電力料金を値上げしないと経営が厳しくなってきている。値上げされれば、一般企業も家計も苦しくなる。工場の海外移転による雇用の悪化も深刻化するだろう。
 こうしたなか、昨年11月28日、三井物産が権益を持つアフリカ南東部モザンビーク沖の大規模ガス田の天然ガスの確認埋蔵量が、最大で「サハリン2」の1.8倍にのぼることが分かった。単一鉱区では世界最大級とされる豪州のゴーゴンプロジェクトに匹敵する規模となる可能性があると報じられた。
 去る5月15日、このモザンビーク沖ガス田の埋蔵量が、さらに単一鉱区として世界最大規模になることが明らかになった。確認埋蔵量はゴーゴンプロジェクトを抜く見通しで、初めに想定していた量の3倍にあたる計30TCF(約8500億立方メートル)の埋蔵量があるという。実にうれしいニュースである。
 同ガス田では平成25年(2013)に開発を決定し、平成30年(2018)をめどに陸上にLNG基地を建設する。今回確認された埋蔵量から計算すると、昨年1年間の全輸入量の約6割に当たる年5千万トン規模が生産できる可能性があるという。なんとかモザンビークからLNGの大量安定供給が実現できるまで、わが国が電力危機をしのげることを願う。
 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年5月16日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/120516/biz12051607050021-n1.htm
三井物産探査、モザンビークのガス田 埋蔵量世界最大級 LNG安定調達に道
2012.5.16 07:04

 三井物産が米資源大手のアナダルコなどと共同で探査しているアフリカ南東部モザンビーク沖の大規模ガス田の埋蔵量が、単一鉱区として世界最大規模になることが15日、分かった。確認埋蔵量は50兆立方フィートにのぼり、これまで最大だった東京ガスなどが参画する豪ゴーゴンLNG(液化天然ガス)プロジェクト(40兆立方フィート)を抜く見通しだ。
 平成25年の開発決定後、30年をめどに陸上にLNG基地を建設。当初は年1千万トンを生産し、半分以上を日本に輸入する。今回確認された埋蔵量から計算すると、昨年1年間の全輸入量の約6割に当たる年5千万トン規模が生産できる可能性がある。
 三井物産は、20年にモザンビーク北部沖合「ロブマ1鉱区」の探鉱権益の20%を取得し、日本企業で初めてモザンビークのガス田開発の足がかりを築いた。
 原発の再稼働が見込めない中でLNG火力への依存度を強める日本にとって、今回の世界最大規模の埋蔵量確認は、LNGの安定調達につながる。日本は23年度に、マレーシアや豪州、インドネシア、カタールなどから、前年度比17・9%増の8320万トンのLNGを輸入したが、今後はさらに上積みされる見通し。
 モザンビークの未開拓ガス田は、需要が拡大するアジア市場向けのLNG基地として、世界の資源メジャーが争奪戦を展開。同鉱区の8・5%の探査権を保有する英コープ・エナジーの身売りをめぐっては、英ロイヤル・ダッチ・シェルが4月末、タイや中国、インドの国営石油に競り勝ち、買収を決めた経緯がある。
 日本政府も、調達量3位のインドネシアからの輸入が先細る中でロシアや豪州と並び、モザンビークを重要国に位置づけ、インフラ整備などの金融支援や産業振興協力を検討している。
 ◇
【用語解説】液化天然ガス(LNG)
 マイナス162度まで冷却することで液化した天然ガス。体積が気体の場合に比べて約600分の1になり、船による輸送が可能になる。日本はもともと世界最大のLNG輸入国だが、原発稼働率の低下で、火力発電用燃料向けの輸入が急増している。
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小沢控訴審、「違法性の認識」が焦点

2012-05-24 08:43:32 | 小沢
 小沢裁判で、1審の判決は指定弁護士側の主張の大部分を採用し、ほとんど黒に近い灰色という認識を表していながら、「小沢被告が虚偽記載にあたると認識していなかった可能性がある」として無罪とした。これに対し、指定弁護士側は「重大な事実誤認がある」として控訴し、高裁で審理されることになった。このことについて、法律の専門家の間でも意見が分かれている。
 控訴審では、指定弁護士側が「違法性の認識」を立証できるかどうかがポイントになる。1審は指定弁護士側がこの点を立証しきれていないと判断した。だが、小沢氏のようなベテラン政治家が、カネの問題で「違法性の認識」を持っていなかったとは、極めて考えにくい。強く認識していたから注意深く、自分が罪に問われないように巧妙に振る舞ってきたのではないのか、という疑念を私は持っている。
 法律家のうち、元最高検検事で筑波大学名誉教授・土本武司氏は、「(判決は収支報告書の)記載内容について、『元代表が違法と認識していなかった可能性がある』という理由で、共謀を認めなかった。しかし、指定弁護士の指摘のように、小沢元代表が土地購入に伴う銀行融資書類に署名していた事実などを踏まえれば、支払時期をずらせば違法になることを認識していなかったとは到底いえないはずである」と言う。そして「判決が『収支報告書は一度も見ていない』との元代表の法廷証言に関し、『およそ信じられるものではない』『秘書から報告を受けたことは一切ないとの供述は信用性が乏しい』とまで判断しながら、故意、共謀を否定するのは不可解というほかない」「今回の判決で認定された事実関係に基づけば、小沢元代表に「共謀」が存在したとの判断が示されてもよかったのではないか」と言う。
 それゆえ、土本氏は、「検察官役の指定弁護士が、『判決には看過し難い事実誤認があり、控訴審で修正可能だ』として、控訴に及んだのは宜(むべ)なるかなと思われる」と述べている。控訴に賛成する意見である。また土本氏は、「強制起訴の制度の狙いが、有罪を求めるだけではなく、公開の法廷で事実を明らかにする点にあるとすれば、本件の起訴とそれに続く控訴は、そのこと自体に意義があったといえよう」と検審による起訴を含めて、公開の法廷で事実を明らかにすることに意義を認めている。私もそう思う。果たして指定弁護士側が1審判決の指摘する「虚偽記載にあたると認識していなかった可能性」を論理的に否定し、また小沢氏には虚偽記載に関与する動機があったことを示して、共謀の事実を立証できるかどうか。1審判決に事実誤認があれば、公開の法廷で誤認を修正し、裁判所は厳正な審理を行ってもらいたい。
 下記は、土本氏の記事。

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●産経新聞 平成24年5月16日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120516/trl12051603520000-n1.htm
【正論】
元最高検検事、筑波大学名誉教授 土本武司
2012.5.16 03:24 [正論]

■小沢氏の「共謀」なぜ認めぬのか
 小沢一郎民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で強制起訴された小沢元代表に無罪を言い渡した1審の東京地裁判決に対して、検察官役の指定弁護士側が控訴した。

≪強制起訴めぐる争点は3つ≫
 一般市民による告発を端緒としたこの事件は、その後、検察官による2度の不起訴処分(嫌疑不十分)→検察審査会による2度の起訴相当議決→指定弁護士による起訴→無罪判決→控訴申し立てという、特異な経緯をたどった。
 起訴事実は、(1)平成16年に陸山会が小沢元代表から借り入れた4億円を、同年分の政治資金収支報告書に収入として記載しなかった(2)土地取得費3億余円を16年分ではなく17年分の支出として虚偽の記入をした-というものであり、衆院議員の石川知裕被告ら元秘書3人が実行行為者として、元代表が共謀者として起訴された。
 実行行為者3被告は有罪とされたものの、小沢元代表は訴訟の前提事実を含めて徹底的に争った。その争点は次の3つである。
 第1は起訴の有効性である。弁護側は、検察官が起訴議決に先立つ再捜査で違法・不当な取り調べによる虚偽の内容の供述調書と供述経過に関する虚偽の捜査報告書を作成するなどして、起訴議決に至ったものであるから、議決は無効であり、それに基づく起訴は棄却されるべきだと主張した。
 第2は、石川被告らによって虚偽記入ないしは不記載がなされたのかどうか、第3は、それが肯定される場合、小沢元代表がその犯意を持ち、石川被告らと共謀したといえるのか否か、である。

≪事実認定しながらの無罪≫
 第1点で、判決は「検察官が任意性に疑いのある供述調書や事実に反する内容の捜査報告書を作成し、検察審査会に送付したとしても、検察審査会における審査手続きに違法性があるとはいえない」として弁護側主張を退けた。
 この判断は正当である。証拠の内容に瑕疵(かし)があることと、手続きに瑕疵があることとは別個の問題であり、当該証拠の証拠能力や証明力に影響することはあっても、起訴の議決や起訴の効力を否定するのは筋違いだからである。
 第2の点についても、判決は、収支報告書への不記載・虚偽記入も、そうするに至った動機・目的も明確に認めた。
 だが、第3点については、理解しにくい理由で、小沢元代表の故意も、石川被告ら実行行為者との共謀も認定できないとした。
 判決は、実行行為者らが、小沢元代表から陸山会への現金4億円の貸し付けを隠すため、土地代金の支払時期をずらすなどの虚偽を収支報告書に記入したことと、元代表も4億円の不記載などの会計処理について報告を受け、了承していたことを認定している。にもかかわらず、その記載内容について、「元代表が違法と認識していなかった可能性がある」という理由で、共謀を認めなかった。
 しかし、指定弁護士の指摘のように、小沢元代表が土地購入に伴う銀行融資書類に署名していた事実などを踏まえれば、支払時期をずらせば違法になることを認識していなかったとは到底いえないはずである。判決が「収支報告書は一度も見ていない」との元代表の法廷証言に関し、「およそ信じられるものではない」「秘書から報告を受けたことは一切ないとの供述は信用性が乏しい」とまで判断しながら、故意、共謀を否定するのは不可解というほかない。

≪事実明らかにする控訴は当然≫
 そもそも、小沢元代表は共謀共同正犯理論における共謀者として罪責を問われた者である。この理論は、大審院時代に判例によって生まれ、自らは実行行為に出ない共犯者の中で主導的な者を、教唆犯、幇助(ほうじょ)犯にとどまらず正犯として処罰できる道を開いた。
 ここでいう「共謀」とは、2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議であり、共謀者の一部の実行行為があれば、実行行為をしない者についても、共同正犯が成立するという考え方である。
 今回の判決で認定された事実関係に基づけば、小沢元代表に「共謀」が存在したとの判断が示されてもよかったのではないか。
 その意味で、検察官役の指定弁護士が、「判決には看過し難い事実誤認があり、控訴審で修正可能だ」として、控訴に及んだのは宜(むべ)なるかなと思われる。
 ただし、共謀共同正犯も、正犯である以上、他人の犯行を認識ないし傍観するだけではなく、自己の犯罪を遂行するという実質が必要である。本件では、小沢元代表について、そうした主体性や積極性の立証が不十分だと判断された可能性もあり、2審の高裁の判断が注目されるところである。
 そして、強制起訴の制度の狙いが、有罪を求めるだけではなく、公開の法廷で事実を明らかにする点にあるとすれば、本件の起訴とそれに続く控訴は、そのこと自体に意義があったといえよう。(つちもと たけし)
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都立高教材にマッカーサー証言2

2012-05-23 09:03:34 | 教育
 先回掲載したマッカーサーの証言は、日本が戦争を始めたのは、主として安全保障のためだったという見解を明らかにしたものである。マッカーサーは連合国軍総司令部最高司令官として日本と戦った。また、彼の権限を持って東京裁判が開廷された。東京裁判では、日本が戦った戦争は世界征服を目的とした侵略戦争と断定され、日本の国家指導者は戦争犯罪人として断罪された。だが、そのマッカーサーは戦後、自分の見解を改め、日本が行った戦争は、大部分が自存自衛のための戦争であったという見方を、米国議会で公言したのである。連合国軍の最高指揮官だった者の証言として、その意味は極めて重い。
 米国議会での証言の前年、昭和25年(1950)10月、マッカーサーは北太平洋西部のウェーク島でトルーマン大統領と会見し、「東京裁判は誤りだった」と告白したとも伝えられる。
 マッカーサーの見解の変化は、彼が朝鮮戦争で指揮を執り、北朝鮮軍・中国軍と戦って苦戦し、朝鮮半島を守るためには、背後の満州をも押さえねばならないこと、そしてソ連を中心とする強大な共産主義勢力と戦わねばならないとことを、体験によって知ったことによるだろう。その体験によって、戦前の東アジアにおける日本の立場を理解できるようになったのだろう。こうした見方を明確に打ち出し、マッカーサー証言の重大性を世に知らしめたのは、上智大学名誉教授の渡部昇一氏である。
 日本人は、今なお東京裁判史観に呪縛されている。その呪縛を解くには、マッカーサー証言を理解し、その重大性を知ることが、近道である。渡部氏は、私が関係している団体が主催した講演会で講演した際、NHKがマッカーサー証言をテレビの1時間番組で全国放送すれば、日本人の歴史観を一気に変えることができると述べた。これはよい提案である。NHKの関係者は、ぜひその特集番組を実現してもらいたい。また教育の場では、高校の副教材ではなく、教科書そのものにマッカーサー証言を掲載し、青少年に大東亜戦争(太平洋戦争)について、複眼的な見方を教えることも必要である。まずは副教材への掲載を全国に広げ、次は教科書への掲載を進めたい。

 ところで、これはあまり指摘されないことだが、マッカーサーは、日本が戦争を始めたのは主に安全保障のためだと証言した日、すなわち昭和26年(1951)5 月3 日に、「赤色中国に関する海と空からの封鎖」を提案したマッカーサーの作戦について、米国が日本に勝利を収めた際の戦略と同じではないか、と質問されて、回答したものだった。
 当時、米国はアジアに出現した共産中国という新たな敵と戦っていた。マッカーサーは、人民解放軍と戦い、その手強さを感じた。彼が、「太平洋において米国が過去百年間に犯した最大の政治的過ち」は「共産主義者を中国において強大にさせたことだ」という考えを、上院軍事外交合同委で披歴したことは、重要である。特に「過去百年間」と言っていることに注意したい。アメリカのペリー提督が黒船で日本に来航したのは、1853年。ほぼそれ以降のことである。マッカーサーは、アメリカのアジア太平洋政策が誤っており、その結果、シナの共産化を許してしまったと見ていたわけである。
 フランクリン・ルーズベルトを始め、アメリカの歴代指導者には、シナに親近感を持ち、共産主義に同調する者が少なくなかった。この間、東アジアにおける共産主義の侵入・伸展を防ぐために、苦心していたのが日本だった。わが国は天皇を国の中心と頂く国家であり、皇室制度を破壊しようとする共産主義を絶対に駆逐しなければならなかった。わが国を敵視し、決戦へと引き込んだFDRは、こうした日本の立場と共産主義の脅威について、全く理解がなかった。FDRはその甘さ、軽率さをスターリンに利用された。そのため日米は矛を交えることとなった。アメリカが叩いた日本が敗退すると、その空隙を突いて、ソ連・中国が侵出した。共産主義がアジアで大きく勢力を広げ、アメリカ自身の脅威となったのは、アメリカのアジア太平洋政策の誤りによっている。マッカーサーの証言は、日本においてだけでなく、アメリカにおいても再評価し、次世代教育に生かされるべきものである。

 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年3月30日

http://sankei.jp.msn.com/life/news/120330/edc12033008120003-n1.htm
「日本は自衛戦争」マッカーサー証言 都立高教材に掲載 贖罪史観に一石
2012.3.30 08:11

 (略)昭和の戦争での日本を「侵略国家だった」と断罪した東京裁判に沿う歴史観は、「日本国民は…政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」で始まる憲法前文にも反映され、「軍隊を持たず」という国際社会でも異質な国家体制の前提となってきた。歴史教育は「贖罪(しょくざい)史観」一辺倒となり、子供たちの愛国心を育んでこなかった。その歴史観が絶対ではないことを示すマッカーサー証言の公教育での教材化は、戦後日本の在り方に一石を投じそうだ。
 証言は、朝鮮戦争で国連軍やGHQの司令官職を解任されたマッカーサーが1951年5月3日、米上院軍事外交合同委員会の公聴会に出席し、朝鮮戦争に介入した中国への対処に関する質疑の中で言及。連合国側の経済封鎖で追い詰められた日本が、「主に自衛(安全保障)上の理由から、戦争に走った」と述べた。
 都の教材は、この部分の証言を英文のまま掲載し、《この戦争を日本が安全上の必要に迫られて起こしたととらえる意見もある》としている。
 教材は、江戸時代以降の日本の歴史を、東京の歩みとともに紹介する『江戸から東京へ』。都教委が都立高校の全生徒に平成23年度から配布している。都民の意見をもとに改訂した24年度版は、全新入生約4万3千人に配布する予定。
 『江戸から東京へ』に掲載されたマッカーサー証言については、月刊「正論」5月号(3月31日発売)が詳しく紹介している。
 渡部昇一・上智大学名誉教授の話「連合国から東京裁判の全権を委任されたマッカーサー自身が米議会で『日本の自衛戦だった』という趣旨の証言をしたことは、村山談話に象徴されるように東京裁判を背負ったままの日本にとって“超重大”であり、すべての日本人が知るべきことだ」(略)
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都立高教材にマッカーサー証言1

2012-05-22 10:37:20 | 教育
 歴史教科書の改善とは別の話だが、マッカーサーが戦後、日本が戦争を始めた目的は「主に安全保障のためだった」と述べた米議会での証言が、都立高校独自の地理歴史教材の平成24年版に掲載された。公教育の教材にマッカーサー証言が取り上げるのは初めてである。極めて重要な歴史的証言ゆえ、これを切っ掛けに、全国的に教材に掲載されるよう希望する。
 マッカーサーは、連合国軍総司令部(GHQ)最高司令官として、大東亜戦争(太平洋戦争)で日本に勝利した。GHQが日本の占領統治を行っていた昭和25年(1950)年6月、朝鮮戦争が勃発した。マッカーサーは連合国軍(国連軍)総司令官として、北朝鮮軍・中国軍と戦った。戦況は初め北朝鮮軍が圧倒的に優勢で、韓国・連合国軍は釜山付近まで追い詰められた。しかし、9月連合国軍は9月仁川上陸に成功して反撃を開始。38度線を突破して、中国国境付近まで進攻した。ところが11月ソ連の支援を受けた中国が大軍を送って、北朝鮮軍を支援した。人海戦術で翌26年(1951)春には、38度線まで押し返された。マッカーサーは、中国本土への核攻撃を主張した。戦争の拡大を恐れたトルーマン大統領は、4月マッカーサーを解任した。
 アメリカに帰国したマッカーサーは、昭和26年(1951)5 月3 日、米国議会上院の軍事外交合同委員会の聴聞会で、質問に答え、次のように証言した。
 「日本には、蚕を除いては、国産の資源はほとんど何もありません。彼らには、綿がなく、羊毛がなく、石油製品がなく、錫がなく、ゴムがなく、その他にも多くの資源が欠乏しています。それらすべてのものは、アジア海域に存在していたのです。これらの供給が断たれた場合には、日本では、1,000人から1,200万人の失業者が生まれるという恐怖感がありました。したがって、彼らが戦争を始めた目的は、主として安全保障上の必要に迫られてのことだったのです」と。
 この証言は、大東亜戦争(太平洋戦争)の歴史的評価に係る極めて重要なものである。そこで、英語の原文と日本語訳を次に掲載する。

●米国議会上院軍事外交合同委員会で行われた聴聞会の記録より

<原文>
Strategy Against Japan In World War II

Senator Hickenlooper.:Question No. 5: Isn’t your proposal for sea and air blockade of Red China the same strategy by which Americans achieved victory over the Japanese in the Pacific?
General MacArthur.:Yes, sir. In the Pacific we bypassed them. We closed in. You must understand that Japan had an enormous population of nearly 80 million people, crowded into 4 islands. It was about half a farm population. The other half was engaged in industry. Potentially the labor pool in Japan, both in quantity and quality, is as good as anything that I have ever known. Some place down the line they have discovered what you might call the dignity of labor, that men are happier when they are working and constructing than when they are idling. This enormous capacity for work meant that they had to have something to work on. They built the factories, they had the labor, but they didn’t have the basic materials.
There is practically nothing indigenous to Japan except the silkworm. They lack cotton, they lack wool, they lack petroleum products, they lack tin, they lack rubber, they lack a great many other things, all of which was in the Asiatic basin. They feared that if those supplies were cut off, there would be 10 to 12 million people unoccupied in Japan. Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security.

<和訳>
第二次世界大戦における対日戦略

 ヒッケンルーパー上院議員「5番目の質問です。赤色中国に関する海と空からの封鎖という貴官の提案は、太平洋において米国が日本に勝利を収めた際の戦略と同じではありませんか。」
 マッカーサー将軍「そうです。太平洋では、米国は日本を迂回しました。そして閉じ込めたのです。日本が抱える8,000万人に近い膨大な人口は、四つの島に詰め込まれていたということをご理解いただく必要があります。そのおよそ半分は農業人口であり、残りの半分は工業に従事していました。潜在的に、日本における予備労働力は、量的にも質的にも、私が知る限りどこにも劣らぬ優れたものです。いつの頃からか、彼らは、労働の尊厳と称すべきものを発見しました。つまり、人間は、何もしないでいるときよりも、働いて何かを作っているときの方が幸せだということを発見したのです。このように膨大な労働能力が存在するということは、彼らには、何か働くための対象が必要なことを意味しました。彼らは、工場を建設し、労働力を抱えていましたが、基本資材を保有していませんでした。
 日本には蚕を除いては、国産の資源はほとんど何もありません。彼らには、綿がなく、羊毛がなく、石油製品がなく、錫がなく、ゴムがなく、その他にも多くの資源が欠乏しています。それらすべてのものは、アジア海域に存在していたのです。これらの供給が断たれた場合には、日本では、1,000万人から1,200万人の失業者が生まれるという恐怖感がありました。したがって、彼らが戦争を始めた目的は、主として安全保障上の必要に迫られてのことだったのです」

 次回に続く。
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