ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

戦略論1~戦略の定義

2022-05-21 08:05:49 | 戦略論
~~~~~~~~~ 細川一彦著作集(CD)のご案内 ~~~~~~~~~~

 拙著『人類を導く日本精神』の付属CDに、「ほそかわ・かずひこの<オピ
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■戦略論1~戦略の定義

 拙稿「国家を論じる~戦略論と地政学を加えて」は、第1部「国家論」を終えて、今回から第2部「戦略論の基礎的研究」に入る。第2部の連載の見出しは「戦略論」として通し番号を振る。

第2部 戦略論の基礎的研究

1.概説

●戦略の定義

 今日は、戦略という言葉が大流行である。「戦」という漢字は「たたかう」「いくさ」を意味し、「略」は、「はかる、はかりごと、仕事や軍事のすじ道を考える、またそのこと」(「漢字源」)を意味する。計略・策略・謀略等の語に使われ、「戦」の字と結びついて「戦略」の語が作られた。
 「戦略」という漢字単語は、江戸時代の歴史書である頼山陽の『日本外史』等に出てくる言葉である。明治時代の文豪で軍医だった森鴎外は、カール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』を翻訳した際、西洋単語の strategy の訳語に充てた。それが訳語として定着した。
 strategyとしての戦略は、本来軍事用語である。だが、政治・経済・外交・経営・スポーツ・ゲーム理論・生物学等でも、広く使われるようになっている。この言葉がこれほど多用される前には、一般にどういう言葉が使われていたか。
 おそらく最も多かったのは、計画だろう。計画という語を中心に、構想・方針・方策等の語を組み合わせて、今日、しばしば戦略という語で表現されるものが表現されて来たと思われる。
 計画の語の定義としては、「物事を行うに当たって、方法・手順などを考え、企てること。また、その企ての内容。もくろみ。はかりごと、企て、プラン」(「広辞苑」)、「何らかの物事を行うために、あらかじめその方法や手順を考え企てること。また、そうした考えや方法、手順。具体的には、将来実現しようとする目標と、そこに到達するための主要な手段や段階と組み合わせたものである」(「ブリタニカ国際百科事典」)などとされている。
 これに対し、戦略の語は、「戦術より広範な作戦計画。各種の戦闘を総合し、戦争を全局的に運用する方法。転じて、政治社会運動などで、主要な敵とそれに対応すべき味方の配置を定めることをいう」(「広辞苑」)、「戦争に勝つための総合的・長期的な計画」「組織などを運営していくについて、将来を見通しての方針」(「デジタル大辞泉」)、「いくさのはかりごと。特に、戦いに勝つための大局的な方法や策略」「ある目的を達成するために大局的に事を運ぶ方策。特に、政治闘争、企業競争などの長期的な策略」(「精選版 日本国語大辞典」)などと定義されている。
 米陸軍大学教授のアントゥリオ・エチェヴァリアは、著書『軍事戦略入門』で、「戦略が計画と異なる点は、環境の性質と、敵ないし相手の存在である。環境が競争的で敵が存在するとすれば、戦略が必要となる。そうでなければ、計画で十分である」と述べている。
 計画は、一定の構想のもとに、方針を立て、方策を実行するための考えをまとめたものである。単なる計画ではなく戦略が必要になるのは、環境が競争的であること、そして、敵が存在することである。もし環境が競争的でなく、敵が存在しなければ、戦略は必要ない。国家にしても、そのほかの集団にしても、また個人にしても、自ら計画を立てて、その計画に基づいて活動すればよい。戦略が必要になるのは、競争的・敵対的な相手があって、こちらの行動に対して、相手が反応し、その反応に対して、次の行動を決めていかなければならないという条件下にある時である。言い換えれば、こちらの行動が生み出す作用に対して反作用が返ってくることが予想される時に、戦略が必要となる。それゆえ、戦略は自立的な組織が一方向的に進める計画でなく、本質的に相互作用的であり、敵からどういう反作用が生じ、それにどう応じながら計画を実現するかを織り込んだものでなければならない。
 そこで私は、戦略を次のように定義する。
 「ある集団が他の集団と競争的な環境にあって、敵が存在しそれとの相互作用を通じて、集団の目的を達成するための総合的・長期的な計画。国家においては、軍事的手段だけでなく、非軍事的手段をも活用する構想、方針、方策を体系化したもの」
 ここで、相手との相互作用を通じて集団の目的を達成するとは、その集団の意思を相手に受け入れさせること、または強制することである。この意思の作用を力の概念でとらえれば、この行動は、権力の実現・拡大のための行動である。権力関係は、意思の強制―需要の関係であり、支配-被支配の関係である。
 意思の受容・強制を図ることは、軍事だけでなく、政治・経済・外交・経営等においても行動の目的とされるから、戦略の語が軍事以外の分野でも広く使われるようになったことには、論理性がある。
 だが、わが国では、戦略の定義があいまいなまま、計画や方策と同義語として使用されることが多くなり、また「戦略的」という形容詞が多用されている。そのため、定義を欠いた流行り言葉のようになっている。それは、大東亜戦争の敗戦後、我が国では、国民の国防の意識が極度に低下し、国民が軍事について学校教育や社会教育を通じて学ぶ機会がなく、軍事に関して無知になっていることに原因があるだろう。
 かく言う私自身、教育を通じて軍事学を学んだことはまったくない。わずかな入門書・専門書を読んで頼りにしているところである。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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日本の心115~「君死にたまふことなかれ」は反戦歌?

2022-05-20 07:57:36 | 日本精神
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■日本の心115~「君死にたまふことなかれ」は反戦歌?

 日露戦争といえば、学校では「日本によるアジア侵略」「帝国主義戦争」などと教えられます。しかし、当時の日本国民のほとんどは、ロシアとの戦いを避けられない運命と感じ、開戦となるや一丸となって、大国ロシアと戦いました。そして、奇跡的な勝利を得、日本は国家の主権と民族の独立を、かろうじて保つことができました。
 教科書では、内村鑑三や幸徳秋水の非戦論、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」が強調され、日本はロシアと戦わないほうが良かったかのように書かれています。しかし、そのような考えを持っていたのは、ごく一部の人間だけでした。私たちの先祖は、この一戦に命をかけて戦ったのです。それによって、子孫の私たちが、今日、居られるのです。
 与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」についても、単純に反戦の詩と見るのは無理があります。それは詩の全体を自分で読んでみるとわかります。
 晶子は堺の商家出身でした。当時の商家においては、戸主という家督相続者を守ることと、家を存続を絶対視していました。そうした思いが、「君死にたまふことなかれ」の熱唱にも結実しています。

 ……
 堺の街のあきびとの
 旧家をほこるあるじにて
 親の名を継ぐ君なれば、
 君死にたまふことなかれ、
 ……
 君は知るべきやあきびとの
 家のおきてに無かりけり
 ……
 (『明星』 1904年9月号)

 君とは、晶子の弟・鳳(おおとり)籌三郎(ちゅうざぶろう)のことです。弟は、晶子の実家である駿河屋の家督を相続し、三代目宗七という「旧家をほこるあるじ」となったのです。晶子は、反戦どうこうではなく、駿河屋の断絶をおそれ、弟に家の存続のために生きて帰れ、と身内としての真情を歌ったと理解すべきでしょう。
 事実、晶子は、大町桂月が晶子を「乱臣なり賊子なり」と罵ったのに対し、「あれは歌に候。この国に生れ候私は、私等は、この国を愛(め)で候こと誰にか劣り候べき」「無事で帰れ、気を付けよ、万歳」というほどの意味であったと反論しています。
 大東亜戦争において、晶子は、海軍大尉となって出征する四男・与謝野昱(いく)のために「水軍の大尉となりて我が四郎み軍(いくさ)にゆくたけく戦へ」と詠んで我が子を激励し、また一方では、「戦ある太平洋の西南を思ひてわれは寒き夜を泣く」と詠んで遠方洋上の子を思う母として泣いているのです。
 ここには、国を思い、家を思い、子を思う、一人の日本女性がいます。反戦主義者という晶子像は、戦後に作られた虚像にすぎないといえるでしょう。そうした虚像を教科書に掲載し、晶子の半面を伏せ、一面だけを誇張するのは、バランスのとれた教育とはいえないでしょう。採り上げるなら、戦地に送った息子のことを詠んだ歌なども載せ、一国民としてまた母親として、国を思いまた子を思った晶子の心を考えさせる内容にすべきだと思います。

参考資料
・平子恭子編著『与謝野晶子』(河出書房新社)
・『教科書が教えない歴史①』~『好戦でも反戦でもなかった 与謝野晶子』(扶桑社)

 次回に続く。

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国家論15~国家にとっての戦略論及び地政学

2022-05-19 08:25:56 | 国家論
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■国家論15~国家にとっての戦略論及び地政学
 
●国家にとっての戦略論及び地政学

 本項で第1部「国家論」を終える。第1部を通じて、私は、「国家とは何か」という問いを立てて国家について論じ、前項で「国家の構造」を提示した。その中で、国家が自らの目的を追求するには思想が必要であり、国家は自らを維持・発展させるために、国益を明確にした上で、達成すべき目標と目標達成のための方針を定め、それに基づく政策を策定することが必要だと書いた。そして、国家政策を立案する時に求められるものが戦略であると前項の最後に書いた。
 ここで第1部の締めくくりとして戦略の問題を述べ、続いて国家にとっての戦略論及び地政学について触れて、第2部以降へのつなぎとしたい。
 近年は、国家について、しばしば戦略という用語が使われる。戦略という概念は、もともと軍事に関するものだが、今日では、政治・経済・外交・経営・スポーツ等にも広く応用して使われている。そして、しばしばこうした戦略の概念をもとにして国家が論じられる。
 だが、国家論は、戦略ではなく国家に係る概念を中心として論じるものである。私は、まず国家について、その構造を示し、国家の構造の下に戦略を位置づけるという論の展開が必要だと考える。私は、近代国家には領域・人民・主権・思想という4つの要素があり、これらを統治の概念でとらえる。統治の方法として基本的な制度・機構を定めたうえで、国家の目標と方針を打ち立て、国家目標・国家方針のもとに国家の政策を立案する。そして、今日、国家政策を策定するために欠かせないのが、戦略であると考える。
 国家における重要な活動には、政治・経済・外交・軍事・文教・情報・科学技術等がある。今日、戦略の語は、これら個別的な分野について広く使われている。しかし、国家において重要なのは、個別分野の戦略ではなく、それらを総合した戦略である。私は、国家に関する総合的な戦略を、国家総合戦略と呼ぶ。
 国家総合戦略は、一般に戦略論において大戦略と呼ばれるものであり、統合戦略・全体戦略ともいう。国家総合戦略は、国家目標・国家方針のもとに国家政策を策定する際に必要な戦略である。国家総合戦略の下に国家の活動における個々の分野の戦略があるという関係になる。詳しくは、第2部で述べる。
 国家が目標・方針を打ち立て、そのもとに政策の策定を行なう際には、自らの政治力、経済力、外交力、軍事力、文化力、教育力、情報力、科学力、技術力を踏まえねばならない。さらに人口力、資源力等の要素もある。国家の持つこれらの総合的な能力を、国力という。国力とは、国民の能力であり、国民全体が発揮する能力の総和である。国力の評価は、自国の置かれた国際的な環境を踏まえて行う必要がある。自らの国力は他国との比較において評価されねばならない。比較・考察を欠いた評価は、過大評価や過小評価となり、しばしば個々の戦略に狂いを生み、目標・方針の樹立、政策の策定を誤らしめる。この時に見落としてはならないのが、地理的な条件である。
 近代国家の4つの要素の一つに、領域がある。国家の主権の及ぶ範囲は、幾何学の抽象的な空間に存在するのではなく、地球の表面における現実的な場所に存在する。それゆえ、領域には、自然的な条件として、地理的な特徴がある。また、国家の領域は、国際的な環境において存在する。国家に関する理論的な思考において、こうした地理的な条件を重視するものが、地理学的研究に基づく政治学、すなわち地政学(geopolitics)である。地理的な条件は、国家が目標・方針の樹立、政策の策定をする場合に見落としてはならない点である。
 地政学は、外交・軍事に関わる戦略の立案に貢献する学問として発達した。核兵器の時代に入り、核が抑止力と位置付けられ、核戦争を避けなら国力の戦いを行う中で、国際関係における経済の役割が重要性を増している。外交・軍事に関わる戦略の立案においても、経済との関係が重視され、地政学に対して地経学(geoeconomics)が発達している。
 また、国家の安全保障は、かつては外交・軍事で国の生存と繁栄を確保することだったが、今日では経済的手段によって安全保障の実現を目指す経済安全保障(economic security)が新たな政策目標になっている。2016年に始まった米中経済戦争において、米中は貿易や金融の分野で激しい戦いを行っている。2022年に勃発したウクライナ戦争では、ロシアがウクライナに侵攻し、軍事力で影響下に置こうとするのに対し、米国・欧州等の国々は経済制裁によって対抗している。いわば経済が武器に相当する手段となり、軍事力に対して経済力で応じる戦争という新たな戦略が実行されている。
 本稿では、こうした傾向を踏まえて、従来の地政学の範囲を広げて、地経学と経済安全保障を含めたものとして地政学を広くとらえることにする。
 続いて、第2部では戦略論の基礎的研究、第3部では地政学の基礎的研究を行う。その目的は、国家論に関係する範囲で、戦略論と地政学の基礎的な研究を進め、これからの国家論に反映させるためである。(註4)

 次回に続く。


(4)国家を論じることは、突き詰めれば政治と道徳を論じることに至る。それを通じて個人と集団の関係、そして人類全体の課題を論じることになる。その点については、拙稿「民主主義対専制主義~米中対決の時代に」の「6.もっと政治と道徳を語ろう」に書いたので、本稿では割愛する。続いてそちらをご参照下さい。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-20.htm

 次回に続く。

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日本の心114~昨日の敵は今日の友:乃木の仁愛

2022-05-18 08:09:04 | 日本精神
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■日本の心114~昨日の敵は今日の友:乃木の仁愛

 日露戦争最大の激戦は、旅順攻略戦でした。戦いは半年以上にわたり、日本側の戦死者は1万5千4百人余、負傷者は4万4千人余にのぼりました。苦戦の末、司令官・乃木希典大将は、参謀に児玉源太郎中将を得て活路を開き、ついに二〇三高地を陥落せしめました。ロシアは旅順艦隊も全滅して戦意を失い、関東軍司令官ステッセルは、降伏の軍使を派遣してきました。明治38年(1905)1月2日、両国代表が降伏文書に調印。この世界史に残る戦いは終結しました。
 1月5日、日露の司令官による会見が行われました。会見は、ステッセルの求めによるものでした。既に降伏文書の調印は済んでおり、敗者ステッセルが勝者乃木に会う義務はありませんでした。しかし、彼は騎士道に基づいて礼儀を表そうとしたのです。これが後に、小学校唱歌に歌われた「水師営の会見」です。佐佐木信綱作詞による歌詞が、会見の模様を一編の叙事詩のように、見事に描いています。

一、旅順(りょじゅん)開城(かいじょう) 約成(やくな)りて 敵の将軍ステッセル 乃木大将と会見の 所はいずこ水師営
ニ、庭に一本(ひともと) 棗(なつめ)の木 弾丸あとも いちじるし 
くずれ残れる 民屋(みんおく)に 今ぞ相(あい)見る 二将軍
三、乃木大将は おごそかに 御(み)めぐみ深き 大君(おおぎみ)の 大(おお)みことのり 伝(つと)うれば 彼(かれ)かしこみて 謝しまつる
四、昨日(きのう)の敵は 今日の友 語ることばも うちとけて 我はたたえつ かの防備 かれは称えつ わが武勇
五、かたち正して 言い出でぬ 『此の方面の戦闘に 二子(にし)を 失い給(たま)いつる 閣下の心如何にぞ』と
六、『二人の我が子それぞれに 死所を得たるを喜べり これぞ武門(ぶもん)の面目(めんぼく)』と 大将答(こたえ)力あり
七、両将昼食(ひるげ)共にして なおもつきせぬ物語 『我に愛する良馬(りょうば)あり 今日の記念に献ずべし』
八、『厚意謝するに余りあり 軍のおきてに従いて 他日我が手に受領せば ながくいたわり養わん』
九、『さらば』と握手ねんごろに 別れて行(ゆ)くや右左(みぎひだり) 砲音(つつおと)絶えし砲台(ほうだい)に ひらめき立てり 日の御旗(みはた)

 「昨日の敵は今日の友」という一節は、特に有名です。この会見の前、アメリカ人の映画技師が、会見の様子を活動写真に収めたいと要望しました。乃木は、副官を通じて丁寧に断りましたが、なお各国特派員が撮影の許可を求めました。そこで、「敵将にとって後々まで恥が残るような写真を撮らせることは、日本の武士道が許さない。しかし、会見後、我々が既に友人となって同列に並んだ所を、一枚だけ許そう」と答えました。乃木はステッセル以下に帯剣を許し、肩を並べて写真に収まりました。勝者が敗者の立場を思いやり、互いに栄誉を称えあったのです。外国人記者たちは、この配慮に感動し、彼らの発した電文と写真は、世界各国に配信されました。これによって、乃木は、日本武士道の精神を世界に知らしめたのです。
 ステッセルの帰国後、ニコライ2世は敗戦の責任を追及し、銃殺刑を言い渡しました。これを知った乃木は、助命嘆願の手紙を出しました。そのかいあって、ステッセルは罪を軽減され、死刑を免れて、シベリア流刑となりました。世界史上、敵将の助命を嘆願した将軍は、乃木以外にはいません。
 明治天皇の御製に、次の歌があります。

 国のため あだなす仇は くだくとも
  いつくしむべき 事なわすれそ

 大意は、国の仇である敵を打ち砕くとも、その人々に対して仁愛の心を以て接することを忘れてはならないぞ、ということと思われます。乃木は、こうした仁愛の心を誰よりもよく実践した日本人だったのでした。 
 乃木は、明治天皇が崩御するや、殉死をしました。主君に殉ずるという武士道の流儀を固守したがゆえです。その一方、乃木は、自決のときまで、ステッセルの家族に生活費を送り続けていました。そんな乃木の葬儀の後、ロシアから匿名で、「モスクワの一僧侶より」とだけ記された香が届きました。それは、ステッセルが贈ったものだといわれています。
 敵同士の間にも真の理解と友情が生まれる、それが日本の武士道であり、日本の心の精華をそこに見ることができるでしょう。

参考資料
・戸川幸夫著『人間乃木希典』(学陽書房)

 次回に続く。

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国家論14~国家の構造

2022-05-17 11:35:20 | 国家論
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■国家論14~国家の構造
 
●国家の構造

 ここで私の国家論の中核をなす「国家の構造」について述べる。
 構造とは、いくつかの要素を持つ組織であり、要素の内容が入れ替わっても変わらない枠組みである。国家には、他の組織にはない構造がある。それを国家の構造という。国家論は、国家の構造を把握して、その基本的な要素、付随的な要素を分析して、国家とは何かを明らかにするものである。
 先に書いたように近代国家には、4つの基本的な要素がある。領域、人民、主権、思想である。再びこの点について、私見を述べたい。
 これら4つの要素を統治の概念でとらえるならば、最初の3つは、統治の主体(人民)・対象(人民及び領域)・権利(主権)である。これらに対して、国家をどのように統治するか、つまり統治のあり方、統治の仕方を考えるもとになるものが、思想である。国家思想から統治の方法が導き出される。そこで、第4の要素である思想を、統治の方法に係るものととらえるならば、国家の4つの要素は、統治の主体(人民)・対象(人民及び領域)・権利(主権)、方法(思想)に当たる。
 私は、国家は統治の主体・対象・権利・方法の4つを基本的な要素として持つ構造体ととらえる。国家は、これらの4つの構造的な要素をもって統治を行う。統治を行うに当たって、統治の主体は、どういう国家を作るのかという国づくりを構想する。そして国家として何を行うかを立案する。そこで必要なのが、統治のための基本的な制度・機構、国家目標、国家方針、国家政策である。これらは、国家の構造における付随的な要素である。
 第一に必要な付随的な要素は、統治のための基本的な制度・機構である。
 基本的な制度・機構を定めるにあたり、統治の主体にして対象でもある人民について、国民とは何かを定義をし、その権利と義務を明らかにしなければならない。
 統治のための制度は、政治参加の権利の所有者と集団の意思決定の仕方で、専制主義と民主主義に分かれる。集団のうちの一人または少数者が政治参加の権利を占有し、一人または少数者が集団の意思を決定する制度・体制が、専制主義(autocracy、オートクラシー)である。これに対し、集団のうちの多数者が政治参加の権利を保有し、多数の合議によって集団の意思を決定する制度・体制が、民主主義(democracy、デモクラシー)である。今日の世界の諸国家は、民主主義か専制主義のどちらかを取っている。(註 3) そのほか、制度には、君主制か共和制か、自由主義か統制主義か、憲法・議会・選挙の有無、大統領制か内閣制か、行政・立法・司法の三権の分立か一体か等の違いがある。それらの違いを踏まえて、統治のための機構が設けられる。
 国家は、基本的な制度・機構を憲法・基本法・宣言等に規定する。規定は行政・立法・司法の全般に及ぶ。主要な機構は、政府・議会・裁判所である。また、政府の広報のために放送局・新聞社、国家経済と通貨の発行のために銀行等が必要である。
 ここで重要なのは、これらの基本的な制度・機構が正常に機能するためには、国家の秩序を維持する力が不可欠であることである。その力を体現するのが、軍隊と警察である。制度・機構は、法に定められる。法は、統治に関して決定された意思を言葉で表現したものであり、統治は法によって行われる。しかし、法の支配は、法によってのみ実現されるのではなく、法は軍事力・警察力等の物理的な力に裏付けられることで、はじめて強制力を持つ。この強制力は、集団で決定された意思を集団の成員に強制する力である。近代国家では、通常、物理的な強制力を政府が独占する。その力が、国家権力・政治権力の源になっている。法の支配は力の支配に裏付けられており、支配の実態は力による支配である。
 いかなる法秩序も、それを無視する力が働く時には、無効化される。力には力で対抗するしかない。そのことを忘れ、法の支配のみに頼る国家は、統治の権利を一部または全部失ったり、統治の方法を自らの意思に反して変えられてしまう。それが、国家の外部からの侵攻によるものであれば、戦争による征服・支配であり、国家の内部での動きによるものであれば、革命またはクーデターである。
 次に、国家が統治のための基本的な制度・機構を整えた後に必要なのは、国家が何を目指し、どういう方向に進み、何をどのように行うのかである。言い換えれば、国家の目標、方針を打ち立てることである。そして、国家目標、国家方針のもとに、国家の政策が立案される。国家政策は、国家の存続・発展を図るために、様々な施策を実行し国益を追求するものである。
 今日の国家は、競争的・敵対的な環境にある。それゆえ、国家政策は、単なる自立的な計画ではなく、他の国家や超国家的な組織や思想・運動との相互作用を前提とした計画を策定する必要がある。この時に求められるものが、戦略である。国家政策の立案においては、国家の活動の様々な分野の戦略だけでなく、それらを総合した戦略、すなわち国家総合戦略の策定が不可欠である。


(3)民主主義と専制主義については、次の拙稿をご参照下さい
拙稿「民主主義対専制主義~米中対決の時代に」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-20.htm

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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日本の心113~ロシアから日本を守った英雄:東郷平八郎

2022-05-16 14:09:06 | 日本精神
~~~~~~~~~ 細川一彦著作集(CD)のご案内 ~~~~~~~~~~

 拙著『人類を導く日本精神』の付属CDに、「ほそかわ・かずひこの<オピ
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 新たな掲示や一部修正を多く行いました。
 そこで、本年4月12日時点のデータを<確定版>としたCD-Rを作り
 ました。今後このサイトが閉鎖・消滅した後も、資料としてご利用いただけ
 ます。単行本にすると約30冊分になります。
 1枚400円です。枚数に限りがあります。申し込み期間は1か月限定
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 申し込みを希望する方には、詳細をお伝えします。下記にご連絡下さい。
 fhoso@m8.dion.ne.jp

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■日本の心113~ロシアから日本を守った英雄:東郷平八郎

 アジア・アフリカが、欧米の植民地として支配されていた19世紀、わが国は明治維新を成し遂げました。そして、国家の独立を守り、半世紀足らずのうちに近代国家を形成しました。その間、日露戦争という国の存亡をかけた戦いがありました。
 日露戦争における日本の勝利は、西洋白人種による植民地支配を打ち破るという世界史的意義を持つ出来事でした。その日露戦争の勝利を決定的にしたのが、日本海海戦です。この海戦で活躍したのが、海軍大将・東郷平八郎でした。東郷は、近代日本を代表する英雄として、各国で深く尊敬されています。しかし、わが国では、戦後、教科書から消されてきた人物です。
 明治38年(1905)、大国ロシアは、日本海軍に対抗するため、その海軍の全力をあげて、東洋に回航させました。その進路によっては、戦いは全く変わってきます。東郷は、ロシア艦隊は、対馬海峡に現われると確信していました。そして、5月27日、38隻からなるバルチック艦隊は、東郷の予感通り、対馬海峡に現われました。いよいよ戦いが始まろうとする時、東郷連合艦隊司令長官は、「皇国の興廃此の一戦にあり、各員一層奮励努力せよ」とZ旗信号を、旗艦三笠に掲げました。東郷は、ロシア艦隊を取り逃がしてはなりません。なぜならば、取り逃がした艦船によって東京等を砲撃されたならば、日本には防ぎようがなく、敗戦は必至だからです。完勝する以外に、日本の明日はないのです。
 東郷は、「丁字戦法」という捨て身の戦法を採り、ロシア艦隊を驚嘆・狼狽(ろうばい)させました。世にいう「トーゴー・ターン」です。折りから風は強く、波の高い日本海でした。この気象条件は日本に幸いしました。 日本は砲力で劣っていましたが、相手の船体に沈没させるほどの穴を開けなくとも、波による浸水で被害をもたらすことができたからです。
 砲弾が飛び交い、波しぶきが寄せる中、東郷は、艦橋に立って微動だにせず、指揮を執り続けました。そして、日本海軍は、ロシア艦隊19隻を打ち沈め、5隻を捕獲し、司令長官を捕虜としました。しかも、わが方は1隻も失うことがありませんでした。これほどパーフェクトな海戦は、世界の海戦史上、あとにもさきにもありません。実に奇跡的な大勝利でした。
 このニュースは瞬く間に世界に伝わりました。東郷は「世界の英雄」と賞賛されました。そして、被抑圧民族に、独立への勇気と希望を与えました。トルコやフィンランドなど、多くの国の教科書に彼の英雄振りが記載されているほどです。
 もしこの日本海海戦で日本が敗れていたら、どうだったでしょうか。制海権を握られた日本は、日露戦争に敗れ、ロシアの過大な要求を飲まされたことでしょう。明治維新を経てわずか30数年にして、日本は植民地と化していたかもしれません。男は強制労働、女は暴行を受け、逆らうものは死。ロシアが支配する国では、それが当然でした。日本の資源や労働成果は、とことんロシア人に吸い尽くされたことでしょう。
 日本海海戦は、運命の岐路でした。この岐路に立って、日本と日本人の運命を救った東郷平八郎のことを、日本人は忘れていて良いのでしょうか。
 戦後教育を受けてきた者にとって、軍人というと、それだけで恐ろしい、悪人であるかのように思う人が少なくないでしょう。だが、東郷という日本人は、誠実な、私利私欲のない人でした。戦争終了後、彼の息子を文部大臣にしようという声が出ました。彼の名声をもってすれば、どんなわがままも通ったことでしょう。しかし、東郷は、「人間には器がある、器で生きてこそ幸せだ」と言ってその申し出を固辞し、息子を湘南の図書館長にしたといいます。
 東郷は、また「天佑神助(てんゆうしんじょ)というものは必ずある」と心より信じた人でした。日本海海戦において、東郷は天の恵み、神の助けを信じました。だが、それは人間が真心の限りを尽くすことによってのみ得られるというのが、彼の不動の信念でした。そこに、世界史の奇跡といわれる勝利も得られたのでしょう。そして、彼だけでなく、当時の日本人は、国家国民の一大事に、一致団結して向かったからでしょう。
時は移り、わが国は第2次世界大戦では米国に敗れました。この時の太平洋艦隊司令長官が、チェスター・W・ニミッツです。ニミッツ提督は、日露戦争の英雄・東郷平八郎を師と仰いでいました。そして、大戦後、東郷元帥に敬意を表して、日米親善に尽くしました。
 日露戦争の直後、当時、士官候補生だったニミッツは、米国軍艦にて日本を訪れ、明治天皇の賜宴に出席し、東郷と言葉を交わしました。ニミッツは次のように言っています。
 「私は海軍士官候補生のとき、私の前を通った偉大な提督東郷の姿を見て全身が震えるほど興奮をおぼえました。そして、いつの日かあのような偉大な提督になりたいと思ったのです。
 東郷は私の師です。あのマリアナ海戦の時、私は対馬で待ちうけていた東郷のことを思いながら、小沢(治三郎中将)の艦隊を待ちうけていました。そして私は勝ったのです。東郷が編み出した戦法で、日本の艦隊を破ったのです」と。
 戦後、ニミッツは、日露戦争で東郷が乗艦した戦艦・三笠が、荒れ放題になっていることを聞き、深く心を痛めました。三笠は、日本の運命を救った船として永久に記念すべく、大正15年以来、横須賀に保存されていました。ところが第2次大戦後、東郷までが「軍国日本」の「悪しき象徴」とされてしまいました。そして、彼の乗艦三笠は見るも無惨な扱いを受けたのです。大砲、鑑橋、煙突、マスト等は取り除かれ、丸裸になってしまいました。艦内では米兵相手の営業が行われ、東郷のいた司令長官室は「キャバレー・トーゴー」に変わり果てるという有り様。敗れた日本人は魂を失い、勝った米国人はおごりに陥っていました。
 ニミッツは、嘆き悲しみました。彼は米国海軍に働きかけて資金をつくり、これを三笠の復元費として日本側に寄贈しました。また、日本国内にも反省が起こり、昭和35年、ようやく三笠は復元されました。その際、ニミッツは彼の写真とともに次の言葉を送ってきました。

 「貴国の最も偉大なる海軍軍人東郷元帥の旗艦、有名な三笠を復元するために協力された愛国的日本人のすべての方へ、最善の好意をもってこれを贈ります。
 東郷元帥の大崇拝者たる弟子 米国海軍元帥 C・W・ニミッツ」

 大戦の際、東郷元帥をまつる東郷神社は、戦災で焼失しました。ニミッツは、東郷神社が再建されることを聞くと、自著『太平洋海戦史』の日本語版の印税を、米国海軍の名において寄付したい、と申し出ました。昭和39年、再建が成った時、ニミッツは、自分の写真とともに、祝賀のメッセージを寄せて、喜びを表しました。

 「日本の皆様、私は最も偉大な海軍軍人である東郷平八郎元帥の霊に敬意を捧げます」

 ニミッツの死後、昭和51年、アメリカでは、英雄ニミッツの功績を記念して「ニミッツ・センター」(テキサス州立公園)の設立が計画されました。その時、センターのハーバード理事長は、「ニミッツ元帥は東郷元帥を生涯心の師として崇拝してきました。東郷なくしてニミッツを語ることはできないと信じますので、本センターは是非、東郷元帥の顕彰も併せ行いたいと思います。また東郷のような偉大な人物を育てた日本の文化資料も展示し、日本の姿も知らせたいと思います」と協力を要請してきました。日本側は喜んでこれに応じました。そして、資料のほか、「平和庭園」と名付けた日本庭園を贈りました。こうしてニミッツ・センターは、日米両国を代表する英雄を記念するとともに、日米親善を深める施設ともなったのです。
 敗戦とその後の占領政策によって魂を失い、経済成長に血道をあげたすえ、底無し不況と環境生命破壊に陥り、いまや物心両面で危地にある、私たち日本人。
 「座して滅亡を待つか、起ちて活路を開くか」ーー東郷元帥と、彼をめぐる「物語」は、私たちに明日への活力を与えてくれるものだと思います。

参考資料:
・岡田幹彦著『東郷平八郎~近代日本をおこした明治の気概』(展転社)
・名越ニ荒之助著『世界に生きる日本の心』(展転社)

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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国家論13~国民の権利としての国益の追求

2022-05-15 08:27:46 | 国家論
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 拙著『人類を導く日本精神』の付属CDに、「ほそかわ・かずひこの<オピ
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■国家論13~国民の権利としての国益の追求

●国民の権利としての国益の追求

 国家は、政治的・文化的・歴史的な共同体である。そして、国家を構成する国民は、現在の国民だけでない。過去・現在・未来の世代を含む。この観点に立つと、国益は、現在の世代だけではなく、祖先や子孫の世代をも含めた国民の利益となる。この点が重要である。上記の生命的・物質的・精神的価値は、祖先が願ったことであり、我々が自らのため、また子孫のために努力し、子孫もまた求め続けることであろうものである。国益にいう利益とは、こうした意味での国民の幸福を実現し、また増大するものである。
 最低限、生存と安全が保障され、生命的な繁栄また経済的な発展が得られ、さらに国家に所属することによる安心や誇り、個人の自由や名誉、固有の伝統・文化・価値の保守と継承、さらに個人が自己実現のできる環境にあることなどが、その利益の内容であり、目標ともなる。こうした生命的価値、物質的価値、精神的価値を実現すること。それが国益の追求である、と私は考える。そこに、政治・経済・外交・軍事・文教・情報・科学技術等の目標がある。
 国益の追求のためには、国家は自ら意思決定をすることができなくてはならない。他に依存せずに、自己の自由意思によって、自分の態度や運命を選択できるということである。これは他国に対しては主権を維持し、行使することとなる。それなくしては、国際社会において、国民の権利を守り、追及することができない。国益の実現のためには、主権が保持されねばならない。また、主権を行使する活動として、政治・経済・外交・軍事・文教・情報・科学技術等の活動が重要となる。
 とりわけ、対外的に生存と安全が脅かされる場合は、国内に利害の相違・対立があっても、外敵への対応が優先される。国民国家において、国民は他国の侵攻・支配に対して、国防の義務を担って祖国を防衛する。共同防衛の行動によって、国民は団結して主権・独立、領土・権益、生命・財産を守る。国民の権利を保護するのは、政府の官僚だけではなく、彼らを含む国民の全体であり、国民自身である。国民自ら国家の主権と独立を守るために、国防の義務を負い、命を懸けるのでなければならない。集団の権利を守り得てこそ、国民個々の権利を互いに共同で守り得るからである。
 近代西洋思想の論理では、この時、個人を単位に考えがちだが、保護の対象はその個人自身だけでなく、家族、妻や子供、親、恋人等を含む。集団間の場合は、互いの家族や部族を守り合うことを、指導者同士が誓約し相互防衛を行う。
 相互防衛的な集団は、抽象的な個人の集合体ではなく、具体的な家族を単位とした集合体でこそある。人間は個人個人では生命を継承し、発展させることができない。個人の生命で絶えてしまう。ただ家族を形成することによってのみ、生命を継承し、繁栄することができる。生命の維持・発展という観点に立つと、集団の相互防衛においては、単に諸個人を守るのではなく、諸家族を守るという考え方が重要である。
 国民は、諸家族の相互保護のために、国民の義務を果たしているから、政府から保障を受けられる。国防の義務、国家への忠誠の義務、納税の義務等がそれである。生命の維持・発展のための権利と義務の体系を持った共同体が、国家である。政府とは、こうした国民の相互防衛の統括機関である。
 他国に侵攻・支配されることによる国益の決定的な損失は、個人の利益、企業等の団体の利益にとっても決定的な損失となる。だから、究極的には、個人や集団の社益を守るためには、国益を守らねばならない。その最大の課題が、国防である。
 集団としての国家が確かな意思決定をするためには、国民一人一人が国益を考え、国民全体の幸福を考えて行動しなければならない。国益を実現できていない国家では、政府は国民の権利を十分保障できない。国民は自らの権利を国家・集団を通じて十分実現できない状態となる。集団の権利あっての個人の権利である。
 現代のリベラリズムでは、多くの論者が、自由の基本原理は、他者への寛容にこそあるという。その行きつく先は、個人の選好の尊重となる。個人の自由の優先は、伝統的な社会道徳や公共の利益と対立する。また、個人の欲望を制限なく解放するものとなりかねない。個人主義の極端化を招く恐れがある。自由を中心的な価値とし、それに傾いた議論は、集団の権利や国益を説明できない。国民による国民の権利の相互保障、特に国防の義務を基礎づけられない。基本的な人間観を掘り下げ、人間には人格があることを認め、自由は個人の人格の成長・向上のための条件であり、国民が自己実現を共同的相互的に促進する社会を目指すという目標が国家的に掲げられねばならない。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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日本の心112~日露戦争は負けた方がよかった?

2022-05-14 17:58:23 | 日本精神
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 拙著『人類を導く日本精神』の付属CDに、「ほそかわ・かずひこの<オピ
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 新たな掲示や一部修正を多く行いました。
 そこで、本年4月12日時点のデータを<確定版>としたCD-Rを作り
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■日本の心112~日露戦争は負けた方がよかった?

 中学や高校の歴史の教科書を読むと、「日露戦争は間違った戦争であり、戦わないほうが良かった」というような気がしてきます。そこでは、幸徳秋水や与謝野晶子の「非戦論」「反戦歌」が強調されているからです。
 確かに平和への願いは貴いものです。しかし、当時の国際情勢において、ロシアとの決戦は避けようのない課題でした。もし日本が日露戦争で敗れていたら、日本は、そして私たち日本人はどうなっていたか、と考えてみる必要があるでしょう。
 当時のロシアは大国でした。陸軍力は世界一であり、コサック騎兵を中心とする軍隊は、無敵と謳われたナポレオンをも敗退させたほどに強力でした。海軍力もまた、東洋を支配するバルチック艦隊を有していました。近代国家の仲間入りをしたばかりの日本など、敵ではないと見られていました。
 そもそも西洋諸国が、アジア・アフリカ・ラテンアメリカを侵略支配して以来、有色人種は白人の奴隷にされ、人権無視の扱いをされていました。白人に反抗して勝てるなどとは誰も思わない、そんな時代でした。なかでもロシアは、日本にとって、恐るべき存在でした。
 明治維新の志士たちは、イギリスがアヘン戦争で大国・清を破り、蹂躙(じゅうりん)していることを知って、このままでは日本も欧米の植民地にされる、と強い危機意識をもちました。なかでも北から迫ってくるロシアは、日本の独立を脅かす最大の脅威だったのです。
 維新の英雄・西郷隆盛は、征韓論に敗れて鹿児島に帰ったのち、かつて彼を訪ねた庄内藩家老・菅実秀に、こう語りました。「ロシアはいずれ満州、朝鮮半島を経て、日本に迫ってくる。これこそ第二の元寇であり、日本にとっては生死の問題となる」と。その「第二の元寇」こそが、日露戦争でした。
 日露戦争は、奇跡的な勝利でした。日本海海戦の勝利が、日本の運命を開きました。
逆にもし日本海海戦で、連合艦隊が敗れていたら、日本は海軍力を失い、丸裸同然となりました。ロシアの艦隊は、日本海・太平洋を自由に航海できることになります。東洋一の艦隊が東京湾沖に停泊し、帝都・東京に艦砲射撃を行うと恫喝する。わが国は、極めて不利な条件で停戦せざるを得なかったでしょう。
 その結果、どうなっていたか。名越ニ荒之助・元高千穂商科大学教授は、日露戦争敗戦の場合について、次のように推理しています。
 「日本はロシアとの間に屈辱的な講和を結ばされ、朝鮮はロシアの支配するところとなったことは必定である。日本が勝ったことにより、南樺太を割譲したのだから、負けていたら、北海道はロシアに割譲することを余儀なくされていたであろう。
 ロシアはその勢いをかって日本国内各地に租借地を作り、三国干渉の相手国であった仏、独も租借地を作り、阿片戦争に敗れた清国のような末路をたどっていたかも知れない。
 あるいはまた李王朝末期に朝鮮の国内が親日派、親露派、親清派に分裂して収拾がつかなくなったように、日本の国内政治も、親露派、親英米派、親独仏派に分かれて、独立国の機能も果たせなくなる状況さえ予想される。やがてはこれら西欧各国の利害をめぐって、日本を舞台に争奪戦が行なわれたかもしれないのである」
 ロシア帝国そして革命後のソ連に支配された国々の運命は、惨めでした。第2次大戦後、「解放」という名の下に共産化された国々、ポーランドやチェコスロバキアなどが、力で支配され、資源をほしいままに奪われました。日本がもし日露戦争に敗れていたら、これらの国のようになっていたかもしれません。 
 敗戦による過酷な運命を回避できたのは、明治の日本人は、日本精神で団結していたからです。天皇も将兵も国民も海外居留民も、心一つに国難に立ち向かいました。アメリカに終戦の仲介を求めた金子堅太郎、英米で資金調達に務めた高橋是清、ロシアとの交渉に骨折った小村寿太郎など、外交での働きも素晴らしいものです。当時の日本の指導層は武士道を根っこに持っており、戊辰戦争での実戦の経験のある世代もおり、政治と軍事を総合的に進めることにたけていたのだろうと思います。
 また、当時のわが国は世界的にも高い科学技術の水準に達していました。日本海海戦で使用された下瀬火薬は、大きな威力を発揮しました。砲弾が炸裂すると、命中した場所は3000度になり、直ぐにバルチック艦隊は戦闘不能となりました。
 また、陸戦では、わが国の馬は西洋種よりも劣るところを、騎兵に機関銃を持たせ、敵のコサック騎兵と遭遇したら、馬から下りて機関銃で掃射するという新しい戦法を取りました。また、無線電信。マルコーニの大西洋横断交信実験から5年しかたっていないのに、国産無線機を艦船に搭載していました。
 政治・外交・軍事・科学技術・教育等、まったくどこをとっても、当時の日本人はすばらしい働きをしました。それは、明治維新以来、近代国家の建設に国民が一心に努力し、未曾有の国難に際しては、日本精神で団結して立ち向かった結果だと思います。
 とりわけ明治天皇という歴史に輝く英明・仁慈の君主がこの時代に国の中心にあり、国民が天皇を中心に結束したからだと思います。これは明治維新において、天皇を中心とした国柄を改めて制度的に確立したことに多くを負っていると私は思っています。
 また、それを成文法として制定した明治憲法や、規範道徳として定着させた軍人勅諭・教育勅語等の総合力が、日露戦争において、最善の形で発揮されたのだと思います。
 日露戦争は辛うじて勝ったのですが、それは運などではなく、日本国民が一丸となって戦った結果です。我々はそのような先祖がいたことに誇りを持つべきです。日露戦争の再評価は、明治維新の再評価、わが国の国柄や文化の再評価につながるものであり、逆に日露戦争の忘却は、日本固有の国柄や文化の忘却につながると思います。
 私たちは、明治の先祖・先人に感謝するとともに、彼らが持っていた日本精神を取り戻し、誇りと勇気と希望を持って、今日の危機に立ち向かわねばならないと思うのです。
 日露戦争後のわが国のあゆみについては、いろいろ検討すべき点があります。成功体験のパターン化、過剰適応、官僚制度の硬直化、帝国憲法の欠陥、指導層の世代交代等々です。
 特に精神面について思うことは、東アジアの安定が得られた後に、次の国家目標を打ち立てることができなかったこと、経済成長の中で政財界に腐敗が起こり、また欧米の模倣に流れたことが、大きな反省点だと思います。
 ともあれ、日露戦争戦勝の世界史的な意義は、まことに大きいものであって、あくまでその誇りを胸に抱いての検討でなければならないのです。

参考資料
・名越ニ荒之助著『戦後教科書の避けてきたもの』(日本工業新聞社)
・司馬遼太郎著『坂の上の雲』(文春文庫)

 次回に続く。

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国家論12~国家・国民にとっての国益、国民の幸福の実現

2022-05-13 08:30:36 | 国家論
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■国家論12~国家・国民にとっての国益、国民の幸福の実現

●国家・国民にとっての国益

 国家は、それぞれ歴史的・社会的・文化的に個性的な特徴を保ちながら、他の国家と協調したり競争したりしつつ、同時に宗教・資本・グローバリズム等の超国家的な組織や思想・運動に対抗して、自らの目的を追求する。国家の目的とは、自らの維持と繁栄、国民の幸福の実現、理想の達成等である。国家はその目的の追求のために、達成すべき目標、目標達成のための方針を定め、それに基づく政策を立案・実行する。その際に重要なのが、国益の実現である。
 国益とは「国家の利益」であり、「国民の利益」である。共同体としての国家の利益であり、そこに所属する国民の共同の利益である。国民は個人の利益を追求するとともに、国民全体としての自分たちの利益を追求する。前者の利益は私的な利益であり、後者の利益は公的な利益である。公共の利益としての国益を追求することは、国民に固有の権利である。政府は国益を追求する権利を持ち、国民は国家の一員として国益の実現を、政府に要求する権利がある。国民はまた国益の実現に寄与する義務を負う。国民が相互に義務を果たしつつ、国民全体の利益を追求するところに、国益は実現する。
 私は、国家において重要な活動として、政治・経済・外交・軍事・文教・情報・科学技術等を挙げる。これに対応して、国益には、政治的利益・経済的利益・外交的利益・軍事的利益・文教的利益・情報的利益・科学技術的等の利益がある。わが国では、国益について政府を主体に考える傾向があるが、国益は national interests の訳語であり、国益は state またはgovernment の利益ではなく、nation の利益である。すなわち共同体としての国家の利益であり、国民共同体の利益である。この意味をより明確に表す言葉に、「国利民福」がある。国家の利益と人民の幸福を表す。national interests としての国益は、政治的・経済的・外交的・軍事的・文教的・情報的・科学技術的等の利益であり、かつ国民の幸福を実現し、増大するものである。

●国民の幸福の実現

 幸福の追求は、今日多くの国で国民の権利と認められているものである。わが国の憲法も、国民の基本的な権利として、生命及び自由の権利とともに幸福追求の権利を規定している。この幸福追求を、国民個人ではなく、国民全体で追求するところに、国民の幸福の追求がある。国民の幸福の実現は、国民の利益としての国益の実現と一体のものである。
 そこで私は、国益について、国民の幸福の追求という観点を入れる考え方を提唱している。この考え方において、私は、心理学者アブラハム・マズローの欲求段階説を個人から国民に応用し、さらにこれに価値論・人格論を組み合わせることを提唱している。
 マズローは、人間の欲求は、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、そして自己実現の欲求の5つに大別されるとし、それらの間に階層的な発展性があるとした。国民の幸福は、これらの欲求が満たされるときに実現される。そして、政府の役割は、これらの欲求が満たされるように、国家の統治を行うところにある。
 国民の幸福の実現の条件は、第一に、生理的欲求という最低限の欲求を満たすことである。とりわけ食欲が満たされ、国民が食っていけることが必要である。また性欲が満たされ、国民が家族を構成し、子孫が繁栄できることである。
 第二に、安全の欲求を満たすことである。国民の身の安全が確保されていることである。他国の侵攻に対する国防や、暴力や革命に対する治安維持が、これにあたる。また、生活が保障され、自分の財産が守られ、維持・増加できるよう、社会秩序が維持されていることである。
 一般に政府の役割は国民の生命と財産を守ることだといわれるのは、国民のこうした生存と安全の欲求を満たすことである。生存と安全は、幸福の実現の最低条件である。
 ここで価値の概念を適用すると、価値とは「よい」と思われる性質である。生理的欲求、安全の欲求は、価値の実現を求める欲求であり、生命的価値と文化的価値の実現を求めるものである。文化的価値は、物質的価値と精神的価値に分かれる。生命的価値と物質的価値が、ある程度、実現しているとき、次の幸福の実現の条件となるのが、精神的価値の追及である。所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求は、精神的価値の実現を求める欲求である。これらの欲求は、人格的な欲求である。
 精神的価値の追求は、マズローの欲求段階説においては、まず第三の所属と愛の欲求を満たすことである。人間は、生存と安全が確保された環境では、社会や集団に帰属し、愛で結ばれた他人との一体感を求める欲求が働く。国家に所属することによる安心、集団において何か役割を持っているというやりがいなどがこれに当たる。国民としてのアイデンティティ(ナショナル・アイデンティティ)を持つことは、各個人が自己のアイデンティティ(パーソナル・アイデンティティ)を保持するために、重要な要素である。国民的なアイデンティティの混乱や喪失は、個人に深刻な危機をもたらす。アイデンティティという用語を精神医学・心理学にもたらしたのは、エリック・エリクソンだが、彼自身、自己の民族的(エスニック)な出自に悩んだことが、アイデンティティ論のはじまりだった。
私は本稿では、国家論の観点からナショナル・アイデンティティを強調している。
 精神的価値の追求は、次に第四の承認の欲求を満たすことである。人間には他人から評価され、尊敬されたいという欲求がある。その欲求が満たされるためには、個人の自由や名誉等が得られることが必要である。国際社会において、国民としての誇りを持てることは、これに当たる。国家や民族の固有の伝統・文化・価値を保ち、子孫に教え、受け継ぐことによって、国民としての誇りを保つことができる。国民としての誇りを持てない場合、国民は欲求不満に陥る。欲求不満は、健全な形で解決されないと、自信喪失によって自虐・自滅への傾向に進んだり、自信回復を目指し、独善的・排外的な傾向に進んだりする。
 精神的価値の追求は、さらに高次の条件として、第五の自己実現の欲求が発揮できるようにすることである。それには、国民の個人個人が自己実現をめざすことのできるような環境を維持または創造することが必要である。自己実現の欲求は、まず個人の才能・能力・潜在性等を充分に開発、利用したいという欲求である。さらに、この欲求がより高次になると、自己の本質を知ることや、宇宙の真理を理解したいという欲求となり、人間がなれる可能性のある最高の存在になりたいという願望となって、悟り、宇宙との一体感等といったより高い目標に向かっていく。自己実現とは、自己の成ることのできる最高のものを目指そうとする精神的・心霊的な成長の欲求であり、人格的な欲求である。
 これらをまとめると、国益とは、生命的・物質的・精神的価値の実現によって、国民の幸福を実現し、増大することである。政府は、こうした重層的・複合的な価値を理解して、国益の実現に努めなければならない。(註2)


(2)マズローについては、下記の拙稿をご参照下さい。
 「人間には自己実現・自己超越の欲求がある~マズローとトランスパーソナル学
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion11.htm
 目次から06へ

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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日本の心111~日露戦争は帝国主義的侵略だった?

2022-05-12 08:11:06 | 日本精神
~~~~~~~~~ 細川一彦著作集(CD)のご案内 ~~~~~~~~~~

 拙著『人類を導く日本精神』の付属CDに、「ほそかわ・かずひこの<オピ
 ニオン・サイト」のデータを収納しました。その後、2年9か月ほどの間に、
 新たな掲示や一部修正を多く行いました。
 そこで、本年4月12日時点のデータを<確定版>としたCD-Rを作り
 ました。今後このサイトが閉鎖・消滅した後も、資料としてご利用いただけ
 ます。単行本にすると約30冊分になります。
 1枚400円です。枚数に限りがあります。申し込み期間は1か月限定
 (5月27日まで)です。
 申し込みを希望する方には、詳細をお伝えします。下記にご連絡下さい。
 fhoso@m8.dion.ne.jp

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■日本の心111~日露戦争は帝国主義的侵略だった?

 日露戦争は、日本による「帝国主義的侵略戦争」だった、というのが試験のための決まり文句のようですが、果たしてその見方は正しいのでしょうか。
 21世紀における現在から20世紀を振り返ってみると、20世紀とは、数世紀にわたる白人の支配から、有色人種が自由と独立を勝ち取った世紀でした。日露戦争での日本の勝利は、夜明けの到来を告げる鶏鳴でした。そこで有色人種が白人を初めて打ち負かしたことは、抑圧された人々に希望の火を灯したのです。
 新興国日本にとって日清・日露戦争は国運を賭けた戦いでした。わが国は、東アジアの安定のために、まず日清戦争で大国シナと矛を交えました。千年以上もの間、文明の源と仰いできたシナに勝つことができたのです。その結果、日本とシナの地位は逆転しました。かつては遣隋使・遣唐使を送っていた日本に、シナから日本に留学生が来るようにもなりました。日本文明のほうが、シナ文明に影響を与える関係になったのです。
 日清戦争の勝利は、強国ロシアとの戦いを余儀なくするものでした。幕末以来、北から迫ってくるロシアは、日本の独立を脅かす最大の脅威でした。
 日本がロシアに勝つと、世界は驚嘆しました。中国の国父・孫文は、有名な「大アジア主義」という講演で、次のように語りました。「どうしてもアジアは、ヨーロッパに抵抗できず、ヨーロッパの圧迫からぬけだすことができず、永久にヨーロッパの奴隷にならなければならないと考えたのです。(中略)ところが、日本人がロシア人に勝ったのです。ヨーロッパに対してアジア民族が勝利したのは最近数百年の間にこれがはじめてでした。この戦争の影響がすぐ全アジアにつたわりますとアジアの全民族は、大きな驚きと喜びを感じ、とても大きな希望を抱いたのであります」
 インドの初代首相ジャワ八ルラル・ネルーは、自伝に次のように記しています。「日本の戦捷(せんしょう)は私の熱狂を沸き立たせ、新しいニュースを見るため毎日、新聞を待ち焦がれた。(略)五月の末に近い頃、私たちはロンドンに着いた。途中、ドーヴァーからの汽車の中で対馬沖で日本の大勝利の記事を読み耽りながら、私はとても上機嫌であった」
 こうした感激と興奮は、アメリカの黒人たちにも広がりました。「日露戦争当時、黒人新聞各紙は、西洋帝国主義の重圧に苦しむ日本人を『アジアの黒人』と呼び、白人に挑む東郷艦隊を声援したり、一部の黒人社会では驚くことに、日本ブームが起きて、日本の茶器や着物も流行。さらには、黒人野球チームの中から、『ジャップ』を自称するチームも出ていたという」
 当時、「ジャップ」という言葉は、侮蔑語ではありませんでした。
 ロシアに侵略・支配されてきた国々でも同様です。フィンランドの大統領パーシキピは、次のように記しています。「私の学生時代、日本がロシアの艦隊を攻撃したという最初のニュースが到着した時、友人が私の部屋に飛ぴ込んできた。彼はすばらしいニュースを持ってきたのだ。彼は身ぶり手ぶりをもってロシア艦隊がどのように攻撃されたかを熱狂的に話して聞かせた。フィンランド国民は満足し、また胸をときめかして、戦のなりゆきを追い、そして多くのことを期待した」
 ポーランドでは、日露戦争で活躍した乃木希典や東郷平八郎は、英雄でした。初代国連大使・加瀬俊一氏は、ポーランドのある教会に立ち寄った時のことを伝えています。「傍らに、小さい男の子が来てね。それで私は、『君の名前はなんていうの』って聞くと、『ノギ』って言うの。『えっ。ノギ?』。すると神父さんが言うんです。『ノギ』というのは乃木大将のノギですよ。ノギとかトーゴーとかこの辺はたくさんいましてね。ノギ集まれ、トーゴー集まれっていったらこの教会からはみだしますよ」
 日露戦争における日本の勝利は、有色人種や被抑圧民族を奮い立たせ、独立への情熱を駆り立てました。15世紀以来の西洋白人種の優位を、初めて有色人種が打ち砕いたのです。西洋近代文明の世界支配体制は崩れ始めました。日露戦争は、世界史を西から東へと動かす、歴史的な出来事だったのです。

参考資料
・名越ニ荒之助著『世界に生きる日本の心』(展転社)
・レジナルド・カーニー著『20世紀の日本人 アメリカ黒人の日本人観 1900~1945』(五月書房)
・加瀬俊一著『大東亜会議とバンドン会議』(『祖国と青年』平成6年9月号 日本青年協議会)

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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