ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

イスラム過激組織のテロから日本を守れ9

2015-02-28 08:56:09 | 国際関係
●テロ対策のための課題(続)

 私は、今回のISIL日本人人質殺害事件及びテロ攻撃宣言を機に、わが国は、世界的なテロの横行の時代における安全保障体制の強化を図るべきだと思う。そのためのポイントは、先に引いた有識者の意見に述べられているが、私は情報の収集・分析の能力の整備、安全保障法制の整備、根本的な国家再建のための憲法改正、移民政策の見直しが重要だと思う。

 まずテロとの戦いにおいては、情報の収集・分析が極めて重要である。わが国の情報の収集・分析の能力の整備については、まず各国大使館に派遣する防衛駐在官を増やして配置する国を増やす動きがある。これは即実行すべきである。防衛駐在官は自衛官であり、各国の軍人とその立場で交際し、情報を収集することができる。ただし、専門の外交官ではない。幅広く情報を集めるには、語学、知識、技術等に限界がある。
 海外の情報の収集・分析には、専門の機関を作る必要がある。わが国は国家安全保障会議(NSC)を作り、その事務局はあるが、NSCが政策判断できるような情報を自前で得られるような体制になっていない。専門の対外情報機関がないためである。国家間にいて、情報は情報との交換で得るものと聞く。その情報を収集する専門家が必要であり、またその情報を分析する専門家が必要である。情報部門と分析部門は車の両輪となる。これらを合わせ持つ海外情報局または対外情報庁の創設が急務である。

 今後、ISILのテロリストが、中東等の海外にいる日本人を誘拐・拘束することが考えられる。だが、現在の安全保障法制では、海外にいる日本人を自衛隊が救出することができない。また国内でもテロが行われる可能性があるが、自衛隊は外国の武装集団に対抗する際、防衛出動以外では国際法や慣習に基づく軍隊としての実力行使を行えない。武器使用は、警察官職務執行法が準用され、正当防衛や緊急避難などに限られる。相手から攻撃を受けた後でなければ武器使用を許されないのでは、重武装のテロリストに立ち向かえない。武器使用基準を改善すべきである。また、防衛出動の発令は、「わが国に対する武力攻撃が発生した場合」かつ「他国による計画的、組織的な武力攻撃」という条件が付いている。国家ではない過激組織のテロには、防衛出動ができない。これも改める必要がある。また、普通の国では、軍隊が国民を守り、不法な主権侵害行為を排除する「平時の自衛権」を持っているが、日本はこの国際標準の権限を行使できない。「平時の自衛権」を行使できるように、自衛隊法に領域警備と排除規定を盛り込めばよい。テロから日本及び日本人を守るため、安全保障法制の整備が急務である。

 次に、根本的な国家再建のために、憲法を改正する必要がある。この点については、様々機会に書いてきたので、ここでは簡単に書くが、そもそも独立主権国家として存立するためには、自分の国は自分で守るという体制が不可欠である。現行憲法は、その国防に規制を書ける内容となっている。これを改正しなければ、国家の独立と主権、国民の生命と財産を守ることができない。憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあるが、わが国を取り巻く中国・北朝鮮・ロシア等の国々を「平和を愛する諸国民」ということはできない。
 そのうえ、現行憲法が制定された時には想定されていなかった国際的なテロリズムが横行しているのが、今日の世界である。ISILのテロリストは、「どこであろうとおまえの国民が発見されれば殺戮を続けるだろう」と日本国民にテロ宣言をしている。テロから日本及び日本人を守るためには、憲法の前文を書き直し、第9条に自衛権は自然権であり、その行使のための自衛隊を軍隊として位置付けることが必要である。またテロによる非常事態の発生、例えば原子力発電所の占拠、科学兵器の散布等も想定して、緊急事態条項の新設が必要である。

 次に、移民政策の見直しを行うべきである。私は、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」に、次のように書いた。
  「移民の隔離や排除でムスリムが原理主義化し、イスラム原理主義がヨーロッパ内部で活発化・増大化すれば、文明の『衝突』が各地で起こる。ハンチントンのいう地理的な文明の断層線(フォルトライン)ではなく、各地の都市の街頭や学校や住区で、「衝突」が起こる。集団と集団の接するところ、交わるところで起こる。こうして、ヨーロッパは混迷に陥るという将来像が浮かんでくる」「わが国には、少子高齢化、それによる人口減少への対応のために、移民を1000万人受け入れるべきだという主張がある。それをやったら悲惨な結果になることは、ドイツの例を見れば、明らかである。まして、地方参政権を与えれば、オランダの悲劇以上のことが起こるだろう。移民の多くが共産中国から流入し、移民の行動を中国共産党が指示するだろうからである。国家とは何か、国民とはどうあるべきものか、わが国はどういう外国人なら受け入れ、また国籍を与えるべきなのか。こうした問題を掘り下げて考えることなく、生産年齢人口、特に労働力人口の減少を、外国人労働者で埋め合わせようという発想は、安易かつ危険である」
 詳しくは、下記の拙稿をご参照願いたい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm

 以上、テロに対応するための課題として、情報の収集・分析の能力の整備、安全保障法制の整備、根本的な国家再建のための憲法改正、移民政策の見直しの4点を書いた。一刻も早くこれらの課題を実行することが、国民の生命と安全を守ることになると思う。国民が安心して日々生活でき、また海外でも日本人が活躍できるようにするには、日本人自身が問題意識を高め、協力してテロに対応することが必要である。(了)

関連掲示
・拙稿「イラクが過激派武装組織の進撃で内戦状態に」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12.htm
 目次から<中東>のE03へ
・拙稿「憲法第9条は改正すべし」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion08m.htm
・拙稿「集団的自衛権は行使すべし」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion08n.htm
・拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm

イスラム過激組織のテロから日本を守れ8

2015-02-26 08:48:33 | 現代世界史
●テロ対策のための課題

 日本国民は、深刻さを増しつつある中東情勢を踏まえつつ、1月20日のISILによるテロ攻撃宣言に対し、早急に具体的な対応課題への取り組みを進めなければならない。
 最初に有識者の意見を紹介し、その後、私見を書く。
 元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、日本国民に対し、ISILとの戦いに勝たなければならないと説いている。
 「かつてソ連共産党が結成したコミンテルンは世界中の共産党を支部と位置づけ、全世界で共産主義革命を起こそうとしていた。イスラム国も同じだ。日本にもドイツにも、フランスにもイスラム国の支持者がいる。それが緩やかなネットワークでつながり、それぞれの国内でテロを起こさせ、世界イスラム革命を起こすことが彼らの目的となっている。
 日本とイスラム国との戦争はすでに始まっており、敵は日本国内にもいる。昨年にはイスラム国の戦闘員に加わろうとシリア渡航を企てたとして、北海道大学の男子学生らが家宅捜索を受けた。こうした法規違反に関し、日本政府は厳正に対処していくべきだ。
 日本国民は勝つか、消し去られるかという戦争をしている。この戦争には勝たないといけない。今回の事件にひるむことなく、中東支援を続け、イスラム国の壊滅に向けた行動を続けていくべきだろう」と。
 佐藤氏は「戦争」という語で何を意味しているか不明である。現在、わが国はISILと武力行使による国家間の闘争という狭義の戦争を行っていない。また、現代世界におけるテロとの戦いを広義の戦争と呼ぶとしても、それを「勝つか、消し去られるかという戦争」ととらえるのは、過剰反応だろう。私は、過剰反応に陥ることなく、世界的なテロの横行の時代における安全保障体制の強化を図るべきだと思う。
 そうした方向での意見として、まず初代内閣安全保障室長・佐々淳行氏は、首相直属の内閣情報宣伝局(仮称)の創設が必要だと説いている。
 「安倍晋三首相のテロへの際立って毅然とした陣頭指揮は高く評価される。オバマ米大統領をはじめとする先進諸国首脳との電話会談など、危機管理宰相として頼もしい限りだ。『極めて卑劣な行為であり、強い憤りを覚える』と怒りを露わにし、テロに屈しない国家であることを強く主張してきた」。
 「『飛耳長目』とは、松下村塾の吉田松陰が大切にしていた言葉と聞く。山口は安倍首相の故郷である。遠く離れた地の情報を見聞きして収集するという意味の言葉で、内外の情報を収集する機関を表現するのにぴったりの言葉だ。
 しかし現実の日本には、首相直属の積極的情報機関がない。高度な情報能力を有する米CIAや英MI6、独BND、仏DGSE、イスラエル・モサドなどの情報機関に全面的にいつまでも頼っていてはいけない。今回の事件とアルジェリア事件で、首相直属の内閣情報宣伝局(仮称)の創設の必要性を思い知らされた」と。
 次に、元外交官で現在キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏は、セキュリティの強化、国際レベルの情報分析能力を備えた対外情報機関の創設、国家安全保障会議(NSC)と危機管理の分業体制の構築を提案する。
 「今、日本人が考えるべきことは、この事件を政争の具とするのではなく、事件から正しい教訓を汲み取り、さらなる人質事件発生を未然に防ぐためにも、長年の懸案であった“宿題”を処理することではないか」
 「第1は、先に述べたテロのグローバル化現象を踏まえ、日本内外の日本人・日本企業の安全確保について今一度再点検することだろう。今回の事件はシリア国内で起きたが、将来、これが東南アジアや日本国内で起きないとはもはや言えなくなったからだ。
 第2は、国際レベルの情報分析能力を備えた対外情報機関を、既存の官僚組織の枠の外に、早急に設置することだ。現在の外務・警察の官僚的発想だけでは、国際的に通用するインテリジェンス・サービスなど到底作れないと思う。
 第3は、国家安全保障会議(NSC)と危機管理の分業体制を改めて構築することではないか。今回のように邦人保護・危機管理と、国家安全保障が幾層にも交錯する事件こそ、オペレーションと政策立案実施を分けて立体的に実務を処理すべきだからだ」と。
 次に、帝京大学教授・志方俊之氏は、安全保障法制の整備を提案する。
 「国家としての危機管理事案は、個人の拉致・監禁だけではない。集団として拘束され、関係国が軍事的に協力して救出する事案も考えておかなければならない」「自衛隊法には「在外邦人等の輸送(84条3)」という任務がある。輸送の任務に限って自衛隊の艦艇、輸送機、ヘリコプター、車両を派遣することができる」「現地には日本人だけで構成されている企業体などほとんどない。緊急退去を要するのは多くの国籍を持つ人たちである。港湾地区へ通ずる経路が3本あったとして、自衛隊がその1本の経路を警護して輸送し、他の経路を2つの関係国の軍隊が警護するケースは十分に起こり得る。集団的自衛権の行使が限定的にすら許されていない現行の法解釈では、自衛隊員の武器使用の『行動基準(ROE)』は極めて限られている。現場の自衛隊員は入隊時に宣誓した日本国憲法第9条を反芻しながら銃の引き金を引くことになる。国連平和維持活動(PKO)における『駆け付け警護』も同質の問題が起きる。二言目には『文民統制』と言う日本の政治は、今回の事件を機に明確な安全保障法制の整備をすべきだ」と。
 以上の各氏の意見に私は賛成である。

 次回に続く。

イスラム過激組織のテロから日本を守れ7

2015-02-25 08:48:19 | 国際関係
●サウジアラビアの王位交代とイエメンのクーデタの関係

 日本人人質事件が起こった3日後の1月23日、親米的なサウジアラビアでアブドラ国王が死去し、サルマン新国王が就任した。池内恵氏によると、サウジでは初代国王の息子(第二世代)が王位を継いできたが、ムクリン新皇太子で第ニ世代は終わる。その後、初代国王の孫の世代にどう引き継ぐかが過去10年以上問題になり続けてきており、答えは出ていない。サルマン国王は就任早々、息子を国防相に任命、甥のナーイフ内相を次期皇太子に任命した。これに他の系統の王子が納得しているのかはかなり疑問とされる。「波乱の始まりとする見方は否定できない」と池内氏は言う。
 サウジアラビアは、隣国イエメンの民主化過程の後ろ盾になってきた。サウジにおける王位交代はイエメンに影響を与えている。イエメンでは、2011年1月「アラブの春」と呼ばれるチュニジアでのジャスミン革命、エジプトでの民衆革命等に影響を受けて、市民による反政府デモが発生した。この結果、サーレハ大統領が退陣し、ハディ副大統領が翌年2月の暫定大統領選挙で当選した。しかし、昨年9月シーア派の過激派フーシー派が首都サヌアを占領し、本年1月22日にはクーデタを起こし、ハディ暫定大統領とバハーハ首相を辞めさせ、政権が崩壊した。2月6日にはフーシ派が議会を強制的に解散し、暫定統治機構として大統領評議会を開設し、「憲法宣言」を発表した。これによって、2011年以来の移行期プロセスが崩壊し、国家そのものも崩壊の危機にある。イエメンのクーデタは、サウジにおける王位交代の隙を突いたものだろう。池内氏は「サウジの内憂と裏庭のイエメンの外患は連動している。そして、サウジが揺らげば、中東の混乱は極まる」と述べている。
 2月15日国連安保理は、全会一致で、政府施設を制圧しているフーシー派に即座・無条件で権限を大統領・首相に戻すように要求する決議をした。ただし、決議を主導した湾岸協力理事会(GCC)の求めていた国連憲章第7章の軍事的強制力は盛り込まれなかったため、実力行使でフーシー派を排除する手段がない。これでは、犬の遠吠えである。
 イエメンに続いてサウジが揺らぐと、エジプト、チュニジア等にも、波紋が広がるだろう。この変動の中で、各国にいるISILの傘下組織や同調するグループが過激な行動を広げていく恐れがある。中でも現在注目されるのが、リビアの動向である。

●リビアでのエジプト人殺害とエジプト介入の可能性

 北アフリカでエジプトに隣接するリビアでは、2011年(平成23年)の「アラブの春」で内戦となり、NATO等の軍事介入で、カダフィ政権が崩壊した。その後、制憲議会が民選され、新たな議会が創設されて、シンニー首相が政権に就いたが、これに反発するアルカーイダ系組織を含む「リビアの夜明け」連合が独自に首相を擁立し、事実上の内戦状態にある。昨2014年以降、イスラム勢力を中心とする軍閥とこれに対抗する勢力との戦闘が激化している。その中でISIL系の武装組織が勢力を拡大している。ISILは、イラクやシリアで国家権力の機能していない地域に狙いを定めて浸透してきており、リビアでも同様の動きを進めている。
 ISILは、世界中のジハード戦士たちにリビアに集まるように呼びかけている。リビアには石油資源があり、ここを拠点とすることを狙っている。ISILは、既にリビアの首都トリポリからスィルトを含む広範なエリアを「タラーブルス州」と勝手に宣言している。
 リビアには、経済状況の悪いエジプトからの出稼ぎ労働者が多い。2月15日ISILに忠誠を誓うリビアの武装組織が、昨年から人質にしていた出稼ぎエジプト人のコプト教徒21人を大量殺害する映像をネット上に公開した。人質は黒ずくめの戦闘員に首を切断された。コプト教はキリスト教の一派で、エジプトの人口の約1割を占める。エジプトのシーシー大統領は「適切な時期と方法で殺人者を罰する」と報復の意思を表明し、16日リビア東部のデルナ付近のISILの軍事拠点を空爆した。
 エジプト人人質殺害は、エジプトへの挑戦であり、また少数派のコプト教徒を殺害することで、エジプト社会を分裂させる狙いがあると見られる。エジプトでは、2011年の「アラブの春」で独裁者ムバラク大統領が辞任し、民主的な選挙でスンニ派のイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」を出身母体とするモルシーが大統領になった。だが、2013年(平成25年)に軍事クーデタが起こり、モルシーは辞任に追い込まれた。大統領になった元国防相シーシーは、「ムスリム同胞団」のメンバー188人を死刑に処した。民主的に選挙された前大統領を辞任させ、「ムスリム同胞団」を弾圧する現政権への反発は根強い。
 池内恵氏は、「最終的にリビアの安定を左右する力のある地域大国エジプトを標的にしていることの表れでしょう。『イスラーム国』は同時に、シナイ半島の『聖地エルサレムの護持者たち』を傘下に収めて、シナイ半島でのテロを活発化させています。両方からエジプトのスィースィー政権を揺さぶっているところが危険です」と述べている。
 池内氏は、また次のように述べている。「イエメンとリビアの無政府化が現在の中東情勢の焦点である。シリアとイラクは混乱しているが国際社会が取り組んでかろうじて封じ込めている。しかしここでリビアとイエメンが崩壊すると、対処する主体がほとんど無い。あるいは、サウジやエジプトなどが本格的に介入することを余儀無くされるかもしれない。その意味で中東全体のどうしようもなく不安定な積み木の最後の土台が引っこ抜かれるかもしれない、というところで注目を集めている」と。
 中東のイスラム諸国が大きく動揺し、無政府状態に近い国や果てしない内戦の続く国が増えると、それによってさらにISILが勢力を伸ばすだろう。各国にまだら的にISILが支配する地域が広がり、各国政府軍、反政府軍、過激組織等が入り乱れて戦闘する。そうした状況において、過激なイスラム教徒の一部がイスラエルへのテロ攻撃を活発化すると、ユダヤ教国対イスラム諸国という最大最凶の対立が再び現実になるかもしれない。

 以上、ヨルダン、クルド自治政府、トルコ、イエメン、サウジアラビア、リビア、エジプトを主に書いたが、日本にとって、もはや中東情勢は遥か遠くにある別世界の事柄ではない。日本国民は、中東の動向は日本の平和と安全に直結している事柄であることを認識しなければならない状況に立たされているのである。

 次回に続く。

イスラム過激組織のテロから日本を守れ6

2015-02-24 08:52:13 | 国際関係
●地上戦で活躍するクルド人の独立への動き

 イラクでの掃討作戦は、米軍などの有志連合軍が空爆や情報収集、イラク軍への作戦計画支援などを担い、地上戦をイラク政府軍とクルド自治政府(KRG)の民兵組織「ペシュメルガ」が遂行している。有志連合にとって、高い士気を保つKRGの地上部隊は必要不可欠な戦力となっている。
 ISILに対する戦いにおいて、オバマ大統領は空爆開始時点から地上戦闘部隊を派遣しない方針を繰り返し表明してきたが、いまだかつて空爆だけで、国際テロリスト組織を殲滅できたことはない。地上部隊投入は時間の問題と見られたが、本年2月11日オバマ大統領は、ISILの壊滅に向け、武力行使に関する大統領権限を容認する決議案を米議会に送った。米軍や有志連合の兵士の捜索・救難作戦、ISIL指導者に対する特殊作戦、空爆目標を選定して精度を上げるための情報収集などを目的に、限定的な地上部隊の派遣に道を開く内容である。ただし、長期にわたる大規模な地上戦力は投入しないことを明言している。
 今後も地上戦で重要な役割を果たすクルド人は、イラクの人口の約15%を占め、独自の宗教を持つ。クルド人は「国家を持たない世界最大の民族」といわれる。イラク、トルコ、イラン、シリアにまたがって居住し、民族全体では2000万人以上いるとされる。
 米国は長くイラクの一体性を主張してきたが、オバマ大統領はISILに対抗するクルド支援の必要性に寄せて、イラクと別にクルドの名を明示的に挙げるようになった。有志連合による空爆は、不活発なイラク政府のためよりも、クルド人地上部隊のためとなっている。
 KRGは、イラク軍とISILの戦いの合間を突いて、勢力圏を広げている。KRGは、ISILとの戦いへの貢献をもとに、今後独立を宣言する機会をうかがっていると見られる。現在のところは自治区からの石油輸出を開始するなど、財政的な自立を大きな目標としているものの、歳入の大部分はイラク中央政府からの予算配分に頼っており、経済的な基盤が弱い。
 だが、条件が整ってKRGがイラクからの独立を宣言すれば、各国のクルド人がこれに呼応するだろう。すでに2012年(平成25年)夏に、シリアのクルド人地域(ロジャヴァ)は事実上の自治を獲得している。ISILがKRGとロジャヴァを攻撃したことにより、対立していたシリアとイラクのクルド人は共通の敵と対決する必要性を感じるようになった。この機運は、イラン、トルコのクルド人に広がった。イランのクルド民主党の部隊は、KRG国防省の指揮下にあるアルビルの南西地域に派遣され、トルコのクルド労働者党とそのロジャヴァの直系組織たる人民保護軍は女性も含めてシリアとイラクでISILと戦っているという。
 こうした展開がされてきている中で、KRGがイラクで独立を宣言すれば、その動きは、シリア、イラン、トルコのクルド人地域に及び、中東情勢は一段と複雑化するだろう。

●ISIL支配地域と隣接し、国内にクルド人を抱えるトルコの立場

 トルコは、ISILの支配地域に隣接する国であり、イラク、シリア等と国境を接している。トルコは中東で最も親日的な国である。1890年(明治23年)9月16日和歌山県串本町沖で遭難した軍艦エルトゥールル号の乗組員を住民たちが救出した。トルコではこのことが語り継がれ、教科書に掲載されて教えられている。1985年(昭和60年)イラン・イラク戦争においてイラクのサダム・フセインが、イラン上空の航空機に対する期限を定めた無差別攻撃宣言を行った際、トルコは特別機を出して、テヘラン空港から日本人を救出してくれた。エルトゥールル号の遭難の際に受けた恩義への恩返しとしての行動だった。このようなつながりにより、わが国はトルコと厚い友情で結ばれている。
 さて、現在トルコのエルドアン政権は、ISILへの対応と対ISIL戦で存在感を増すクルド勢力への対応に苦慮している模様である。トルコ政府としては、ISILとの全面対決は避けたい。有志連合に加わっているが、軍事面では関与しないとし、ISILとの全面対決は避けている。900キロに及ぶトルコ南部の国境から過激派が侵入するのを阻止するのは困難であり、強硬措置を取ればテロによる報復を受け、治安が悪化する恐れがあるという事情がある。
 この一方、イラクやシリアでクルド人が勢力を伸長することは、国内に多くのクルド人がいるトルコにとっては、別の懸念材料である。シリアのクルド人が、イラク北部のクルド人のように独立国家に近い自治区を作れば、トルコ南部に多いクルド人の分離独立機運が高まる可能性がある。トルコでは、非合法組織のクルド労働者党が分離独立を求めてテロを展開してきた歴史がある。また、トルコではクルド人は「山岳トルコ人」と呼ばれ、アイデンティティーを否定する政策がとられてきたので、潜在的に深い対立感情がある。
 エルドアン大統領は、強権的な指導力を背景にクルド勢力との和解を進めているが、ISILに対する立場の違いから、いずれ衝突に至る危険性がある。イラクでのクルド自治政府による独立への動きが活発化すれば、トルコ国内のクルド人がこれに呼応し、それによって、トルコ政府とクルド人独立派の対立が、中東に新たな不安定要因を加えることが予想される。
 トルコは1923年のトルコ革命以後、政教分離がされ、世俗化と近代化が進められてきた国である。EUはトルコの加盟申請を検討しているが、トルコの南方にはイラクがあり、シリアがある。そこではISILが勢力を広げており、トルコからその周辺諸国にはクルド人が居住する。EUがもしトルコの加盟を許可すれば、中東のイスラム教内の対立・抗争、アラブ民族と他民族の対立・抗争を、ヨーロッパ大陸に呼び込むことになるだろう。

 次回に続く。

2・22は竹島の日

2015-02-22 09:25:12 | 時事
 2月22日は「竹島の日」である。「竹島の日」式典が、島根県、返還要求運動県民会議などの主催により、松江市で開かれる。本年で10回目となる。政府は3年連続で政務官という大臣・副大臣より下のクラスの職員を派遣する。
 2月22日というのは、明治38年(1905)に政府が竹島を島根県に編入(現在は隠岐の島町)し、この日に島根県知事が所属所管を明らかにする告示を行ったことに由来する。2月7日の「北方領土の日」は政府の制定であり、政府が北方領土返還要求全国大会を全面的に支援し、歴代首相や関係閣僚が出席してきた。これに比し、「竹島の日」は、政府ではなく島根県の制定である。安倍政権は平成25年2月に閣議決定した答弁書で「竹島の日」を政府制定にすることを検討するとしたが、結論が出ていない。また、自民党は政府主催の式典開催を、24年12月の衆院選の公約にしたが、まだ実現していない。政府は「竹島の日」を政府制定の日に格上げし、また式典を政府主催の式典にすべきである。
 わが国は、大東亜戦争末期から敗戦直後にかけて旧ソ連によって北方領土を不法占拠された。続いて、連合国に占領されていた期間に、韓国の李承晩大統領が李承晩ラインを引いて竹島を自国の領土・領海に含めようとした。これに対し、わが国は有効な抗議・行動をせず、不法占拠を許し、実効支配を受ける状態となった。
 竹島は、歴史的にも国際上もわが国固有の領土である。その点をより明確にする資料が昨年1月発見された。わが国政府は、それまで長久保赤水(せきすい)が作製した初期の日本地図「改正日本輿地路程(よちろてい)全図」(1779年初版)などに竹島が記されている事実をもとに、「遅くとも17世紀半ばには竹島の領有権を確立した」と主張してきたが、昨年1月、島根県の竹島問題研究会の調査で、江戸時代後期に作製された複数の地理学者らによる地図5点に、いずれも竹島が日本領として記載されていることが分かった。これによって長久保以外の学者も竹島を日本領としていたことが裏付けられ、江戸時代から広く竹島は日本領という認識が定着していたと言える。詳しくは、拙稿「竹島は江戸時代から日本領と広く認識」 に書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/8dbf859f8e6057a8ad39afd7021fb183
 また昨年5月、旧鉄道省(現・国土交通省)が昭和9(1934)年に発行した旅行ガイド本「日本案内記」に、竹島が紹介されていることが島根県の調査で分かった。
 「日本案内記」は国の機関の観光本で、昭和初期、東北編や中部編、近畿編などに分けて出版された。鉄道駅ごとに沿線の見どころを紹介し、年中行事や産業、モデルの旅行日程などを記載している。この本に、中国・四国編の鳥取-米子間の駅周辺の紹介に続いて、竹島が載っている。
 「日本案内記」は、昭和17、29両年に改訂版が出るなど広く活用されていた。島根県の竹島研究会は、「昭和初期に竹島が国内の景勝地の一つと国も認めていた証拠」「全国に広まった旅行ガイド本で竹島が取り上げられ、当時の多くの人が景勝地の一つとして認識していたことがうかがえる」と述べている。 この点は、拙稿「竹島は昭和初期の旅行ガイド本にも掲載」に書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/13c908b458c05b381ae9392d95786fe3
 本年2月6日、中国で1882年に作られた韓国の歴史や地理などをまとめた書物「東藩(とうはん)紀要」に竹島の記載がないことが、竹島問題研究会の調査で分かった。李氏朝鮮の内乱後、宗主国の清が支配を強化しようとして、清の役人が李氏朝鮮の地理、歴史、制度などの資料を集めて編纂したもので、台湾の出版社が1972年に出版した復刻版を、研究会関係者が昨秋、入手した。
 韓国は、昔の地図にある「于山(ウサン)」が現在の竹島と主張し、同書にある地図「朝鮮輿地(よち)図」と「江原道(カンウォンド)図」では、朝鮮半島の東側にある鬱陵島のすぐ東に「于山」が描かれ、同書の説明で「鬱陵島旁有于山」と鬱陵島の近くに于山があると主張する。しかし、実際の竹島は鬱陵島の南東約90キロと離れており、位置や方角も異なる。また、同書で示す朝鮮の範囲とする経度では、竹島は入らないと研究会関係者は指摘する。研究会は「当時の李氏朝鮮の宗主国だった清が、竹島を李氏朝鮮の領土と認識していなかったことが分かる」「大きな成果の一つだ」と述べている。
http://www.sankei.com/west/news/150206/wst1502060090-n1.html
 こうした資料をもとに、竹島はわが国固有の領土であることを国民に周知し、特に青少年に対してしっかり教育すべきである。
 従来竹島と尖閣諸島を説明する小学校教科書はほとんどなかったが、本年春から使われる小学の教科書は、社会科で竹島と尖閣諸島について全社が掲載する。また竹島と尖閣諸島について、はじめて「日本固有の領土」と明記された。竹島について韓国が不法占拠していることを書く教科書も増えている。
 一方、中学・高校の教科書は、竹島や尖閣諸島について、韓国や中国がそれぞれ領有権を主張していることを強調しながら、日本固有の領土であることをはっきり書かない教科書があった。これについては、昨年1月、中学校と高校の学習指導要領解説書が改定され、竹島と尖閣諸島は「固有の領土」と明記した。改定されのは、中学校の社会科、高校の地理歴史と公民の解説書で、中高の地理と公民で、竹島と尖閣を「固有の領土」と明記した。その上で、竹島は韓国に不法占拠され、尖閣には領土問題が存在しないとの政府見解に沿った内容を追加した。高校日本史などでも竹島と尖閣を領土に編入した経緯を取り上げることを求め、領土教育を強化する方針であり、検定に反映される。
 単に教科書に掲載するだけでなく、先に書いた江戸時代の地図や昭和時代の旅行ガイド本、清の文書などを資料として用い、効果的な教育を行ってもらいたいものである。
 戦後日本人の領土意識は、極端に低下している。これを回復しないと、日本の現状は改革しえない。領土問題は主権の問題、国防の問題であり、つきつめると憲法問題である。そこに根本を置かないと、事態は決して好転しない。この点は、別に掲示している下記の拙稿をご参照願いたい。

関連掲示
・拙稿「領土問題は、主権・国防・憲法の問題」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12.htm
 目次から<全般>のA04へ

人権136~国民の実質化

2015-02-21 13:13:37 | 人権
●国民の実質化

 絶対王政の主権国家が国民国家となり、領域内の人民を国民としても、それだけでは、国民は形式的な存在にすぎない。そこで、政府は、国民を実質的な存在に変えていく政策を行った。形式的な国民が、国民としての集団的な自己意識を持ち、集団に一体性が生まれていったことを、私は、国民の実質化と呼ぶ。その過程は、ネイションの形成の過程でもあった。
 国民の実質化は、国民の意識の統合であり、ナショナル・アイデンティティの確立である。多くの論者は、国民の文化的な同化、文化的な均一化が行われたことを強調する。確かに国民国家では、しばしば領域における複数のエスニック・グループのうち、最も有力なものを基盤とする小集団が権力を掌握して、ネイションの中核となった。この主要なエスニック・グループの統治者集団は、自らの言語または方言をネイションの標準語として、他のエスニック・グループに教育したり、公用語として使用させたりする。またその言語によって制定された憲法等の法制度を理解させ、承認・遵守させる。こうして領域内に居住する国民の実質化を図った。しかし、言語や文化、宗教の統一は、国民国家に不可欠の条件ではない。国民国家には、必ずしも政治的単位と民族的または文化的単位が一致していないものがあるからである。
 国民国家において最も重要なものは、自分たちは一個の国民だという集団的な自己意識の形成である。その集団意識を形成する核となるものとして、エスニックな土台による神話や歴史的記憶がある。神話との結びつき、歴史的体験の共有は、必ずしも実際にそうでなくてもよい。集団の構成員の大多数がそう強く思い、自分たちは一個の集団だという意識を共有することが、国民の実質化のポイントである。また、この集団意識を強固なものにするのが、国民個人におけるナショナル・アイデンティティの内面的な確立である。
 現実には、言語・文化・宗教・歴史・記憶等の共有による全面的な同化は不可能に近く、多くの国家では一定の要素を共通にすることで、国民の統合を行った。多言語・多文化・多宗教の集団であっても、集団意識が形成され、ナショナル・アイデンティティが確立していれば、国民として強固な集団となる。

●国民の政治権力への参加

 国民意識の統合は、権力によって進められる。それは、実力に裏付けられて初めて可能なことである。警察・軍隊等による物理的な強制力があって、初めて国民の実質化は進められる。この強制力は、自由への干渉、権利への制限となるとは限らない。国民の実質化を進める権力と、個人の自由と権利を保障する権力は、同じものだからである。その権力に誰が参加するかによって、権力が行使する内容は変わる。
 絶対王政国家から国民国家への変化の過程で、君主政治は君民共治政治または民主政治へ移行した。主権は、国王一人の権利から、国王と国民が共有する権利または国民が所有する権利へと変化した。統治権者の数は、中世の封建制国家では少数、近代初期の絶対王政では単数、それ以降の国民国家では多数と変化した。
 ただし、この時代に政治権力に参加する国民は、一部に限定されていた。参政権の付与は、権利に対する義務として、納税と兵役が課せられることが多い。フランスでは、1792年に世界初の成人男子普通選挙が憲法に規定されたが、一時制限選挙に戻り、定着したのは1848年以降だった。イギリスでは、1918年に成人男子普通選挙が実現した。アメリカ合衆国では、1870年に全人種の成人男子への選挙権付与が連邦憲法修正第15条により義務付けられたが、実現は20世紀に入ってからになる。世界初の成人女性の参政権は、1869年にアメリカ合衆国ワイオミング州で実現した。ただし、選挙権のみだった。被選挙権を含む参政権の実現は、1894年のオーストラリアの南オーストラリア州が初めである。欧米において女性参政権が広まったのは20世紀に入ってからとなる。

●国民国家の統治機構

 国民国家には、単一国家と連邦国家がある。単一国家は、一つまたは複数のエスニック・グループで構成される国民が中央集権的な政府によって統治されている国家である。これに対し、連邦国家は、複数の州または国家等と呼ばれる政治組織が、連邦政府によって統治されている国家である。連邦を構成する国家は、独立主権国家ではないが、一定の自治権をもつ。連邦国家の国民をネイションとすれば、その下位の政治的な集団はサブ・ネイションである。
 単一国家は連邦国家より中央集権的だが、中央集権といっても、ある程度は地方分権がされている。また地方分権的な国家であっても、ある程度の中央集権がされている。集権度、分権度の度合いと、中央および地方の各政府の権限の内容は、それぞれの国家によって異なる。
 国家の統治には、対内的・対外的の両面がある。対内的には行政・立法・司法、対外的には防衛・外交が重要である。国家は、どれほど分権度が高くとも、防衛・外交の権限を中央政府に集中できていないと、分裂・解体しやすい。当然、連邦国家においては、一層その傾向が強い。連邦国家において、連邦を構成する州・国家等の自治権の度合いは、連邦国家によって異なる。だが、どのような権限分配の仕方であっても、防衛・外交の権限は連邦政府に集中できていないと、連邦国家は容易に分裂・解体する。20世紀末で最大の歴史的な出来事だった米ソ冷戦の終焉後、国家の数は減るどころか、さらに増えているが、新たに誕生した独立主権国家は、連邦国家の崩壊によるものがほとんどである。

 次回に続く。

イスラム過激組織のテロから日本を守れ5

2015-02-20 08:57:05 | 国際関係
●日本人人質事件で日本に協力したヨルダンの事情

 ISILのテロリストは、2月1日「どこであろうとおまえの国民が発見されれば殺戮を続けるだろう。日本にとっての悪夢の始まりだ」と、日本国民を脅迫した。現在、海外で生活している長期滞在の邦人は約84万人、うち中東とアフリカ地域に滞在する邦人は約1万5千人いる。次のテロが、中東に限らず、海外の日本人のいるところで行われる可能性がある。また日本国内で行われる可能性もある。日本国民は、ISILからテロ攻撃宣言を受けた。日本人は自らがこうした状況にあることを認識し、団結してテロへの対応を行う必要がある。そこで、ISILを取り巻く中東諸国の事情について、知識を深める必要がある。ISILが勢力を広げる当事国のイラク、シリアについては、別の機会に書いたので、他の国と民族について書く。
 わが国は、ISILによる日本人人質殺害事件で、ヨルダンの協力を得た。ヨルダンについて、中東現代史が専門の臼杵陽(うすき・あきら)・日本女子大教授は、2月4日カサスベ中尉が焼殺された映像が公開された後、次のように述べている。
 「イスラム国が、中尉の拘束をもとに本格的な攻撃対象にした穏健親米国のヨルダンが崩れれば、次にイスラム国はイスラエルへの攻勢を強めるはずだ。イスラエルまで巻き込まれる事態に陥ると、中東地域の更なる混乱、長期にわたる不安定化につながる。ヨルダンは、イスラム国の攻勢を食い止める『最後の砦』であり、国際社会は支援を強化する必要がある」と。
 ISILにとって、彼らの戦いは米欧の西洋文明に対する戦いとして、アラブ諸国をはじめ世界各国のイスラム教徒の一部に共感を呼んできた点がある。だが、今やアラブ諸国の多くが米国をはじめとする有志連合に加わり、ISILは劣勢に陥っている。カサスベ中尉の焼殺は、多くのイスラム教徒の反感を買った。こうした状況でISILがもう一度イスラム教徒の共感を起こし得るとすれば、イスラエルへの反感を呼び起こすことだろう。そのために、今後、ISILがイスラエルへの攻撃を行い、イスラエルを挑発して、アラブ対イスラエルという対立構図を生み出そうとする可能性はあると思う。
 ここで注目されるのが、臼杵氏のいうところのヨルダンの重要性である。ヨルダンは、イスラエル、パレスチナ暫定自治区、サウジアラビア、イラク、シリアと隣接しており、中東の心臓部ともいえる地政学的位置にある。首都はアンマンである。中東の国ではあるが、石油は少量しか産出していない。経済は、リン鉱石やカリ鉱石の輸出、海外からの送金等に多くを負っており、米国・日本・EU等の財政支援なしには、国力を維持できない。最大の援助国である米国の意向を無視することはできない。
 山之内昌之氏によると、ヨルダン国家の住民は、4つの要素から成っている。第1は、ハーシム家の伝統的な藩屏たるヒジャーズ出身のアラブ人とチェルケス人などカフカース出身者。第2は、ヨルダン王国の建設以来、ハーシム家に忠実なヨルダン川東岸の部族に由来する住民。第3は、人口の7割に近いパレスチナ人。第4は、イラク人難民40万に加え70万のシリア人難民である。
 「特にパレスチナ人と難民の存在が、人口630万の国に相当数の難民が流入し、王国の設立に利益のなかったパレスチナ人が多数を占める国家統合の難しさは、アブドラ国王ならずとも想像を超えるものだ。死活なのは、国内で民主化要求を強めるパレスチナ人の圧力を宥めながら、『次はリヤド』と呼号していたISの戦略的目標を『次はアンマン』と言わせないために内政を安定させることだ」と山之内氏は言う。
 リヤドは、サウジアラビアの首都である。ISILは内政不安定な国を狙って戦略的にテロを行っている。ヨルダンの首都アンマンはISILの戦略的目標とされかねない。こうした事情にある国、ヨルダンがISILへの空爆に参加し、空爆への報復としてカサスベ中尉を焼殺され、これに対して復讐の空爆を行うという深刻な関係になっているのである。

 次回に続く。

イスラム過激組織のテロから日本を守れ4

2015-02-18 08:52:29 | 国際関係
●日本人人質事件におけるわが国政府の対応(続)

 安倍晋三首相の中東歴訪の際の演説は、人質事件を惹起したのではない。この点について、在京アラブ外交団代表のシアム在京パレスチナ常駐総代表は、安倍首相の支援表明について「まったく挑発したとは思わない」と擁護し、ISILのテロは安倍首相が原因ではないと述べている。
 ヨルダン政府は、日本人人質の解放のため、様々な努力をしてくれた。2月3日の産経新聞の記事は、アンマンで同紙の取材に応じたヨルダン下院のバッサム・マナシール外交委員長とハビス・シャビス議員の発言を伝えた。マナシール委員長は、ISILが後藤さんの解放条件を身代金要求からヨルダンで収監中のサジダ・リシャウィ死刑囚の釈放に切り替えた理由については、その数日前にISILがイラクで拘束されている幹部らの奪還作戦に失敗していたと指摘した上で、「求心力を取り戻そうと、関係のない日本人の人質と死刑囚の交換を思いついた。論理破綻しており、本気ではない。信用に値しなかった」とした。また、「周辺地域の中では民主的で安定しているヨルダンに混乱を起こし、つけいる機会を狙われた」と分析し、安倍晋三首相の訪問に際して「親密な両国の分断を狙ったゲームをしかけられた」と訴えた。
 また「ISIL側の窓口が一定せず、交渉がまとまらなかった」とし、「日本には本当に申し訳ない」と謝罪した。その上で、「ISILに金も何も渡さなかった日本の決断を尊敬する。渡しても奪われるだけで、交換はなかった。安倍首相は賢い」と述べ、「日本とヨルダンの友好関係はむしろ強まった。日本は今回の悲劇にめげず、一緒に立ち向かい続けてほしい」と述べた。
 シャビス議員は「私たちは下院議員として、エンスール首相出席の下、ISILとの間で行われた解放交渉についてヨルダン政府から説明を受けた」とし、「政府が可能なかぎり、すべてのルートを駆使してできることはすべて行ったと、私は確信している」と述べた。
 しかし、「交渉先のISILは国連に加盟した正式な国家ではない。従って、国際法など法規を順守するとは考えられない。もし、法規違反があっても、われわれは彼らを罰することができない」と説明した。また、「日本は常にヨルダンの親友だ。緊密な経済的、政治的結びつきがあり、日本はインフラ整備などあらゆる機会に、ヨルダンを支援してくれてきた」とし、「ISILは日本とヨルダンの信頼関係を破壊することで、両国民に圧力をかけ、世論を使ってそれぞれの政府にISILを攻撃する有志国やその支持国(という立場)から引き揚げさせようとしている。しかし、それはうまくはいかない。日本とヨルダンは常に親友だからだ」と強調した、と報じられた。
 わが国には、後藤健二氏がISILの支配地域に行き、拘束され人質になったことについて、政府が後藤氏のシリア渡航を留めなかったとして非難する意見もある。この点については、外務職員が後藤氏に対し、昨年3回にわたってシリアへの渡航を見合わせるよう直接要請したが、翻意させるには至らなかったことが分った。
 外務省は2011年(平成23年)4月にシリア全土に「退避勧告」を発出した。後藤氏の渡航計画を把握した同省は2014年(26年)9月26日に後藤氏に電話し渡航中止を要請した。10月3日にも後藤氏の入国を知って電話で即時退避を求めた。また帰国後の同月14日には職員が面会して再び渡航しないよう注意喚起した。だが、11月1日に後藤氏の家族から、連絡が取れなくなったと通報があったという。
 政府による退避勧告に強制力を持たせるべきだとの意見も一部にあるが、憲法22条が保障する「居住、移転の自由」との兼ね合いがあり、渡航を禁止することはできない。最終的に政府から退避勧告を受けながら、なお危険地域に行くのは、本人の自己責任である。そのような個人の行動によって、国家が振り回される脆弱な日本の体質を変える必要がある。
 振り返ると、わが国は、テロリストに譲歩し、誤った対応を繰り返した時期があった。欧米諸国が毅然とした対応をし、武力による人質奪還を実行するのに対し、わが国は極めて弱腰の態度を示し、それがさらなるテロを招くという失敗をした。
 初代内閣安全保障室長・佐々淳行氏は、過去のわが国の失敗について、次のように書いている。
 「日本赤軍による一連の事件(よど号、ドバイ、シンガポール、スキポール、クアラルンプール、ダッカなど)のうち、ダッカ(バングラデシュ)を除く事件を警察庁警備局外事課長として事件処理にあたった。よど号事件からスキポール事件までの間、身代金を支払ったことは一度たりともなかったし、獄中の赤軍派などのテロリストらをひとりも釈放していない。しかし、クアラルンプール事件とダッカ・ハイジャック事件では、三木武夫・福田赳夫2人の自民党の首相や自民党の閣僚によって、国家レベルの人質誘拐身代金事件において独立主権国家にあるまじきテロリストへの妥協と屈辱的な譲歩がなされた。一つは、獄中の赤軍同志である政治犯釈放(あさま山荘・三菱重工爆破事件)であり、もう一つは思想政治犯でない殺人犯の釈放であった。
 『人命は地球より重い』という誤れる政治理念で11人を超法規的措置で釈放し、凶悪なテロリストを解き放ち、国際社会の信頼を著しく失った。加えて、ダッカ事件では犯人の600万ドルという巨額な身代金要求に対して、当時、日本国内には米ドル紙幣が200万ドル分しかなかったのに、相手の要求通り600万ドルにするために不足分の400万ドルをアメリカから緊急空輸した。そして、バングラデシュ国民の目の前で、600万ドルのキャッシュを赤軍に渡してしまったのだ。
 その結果、バングラデシュ国民の激しい批判を浴びて、軍によるクーデターを起こされてしまった。空軍司令官は空港管制塔で反乱軍によって暗殺された。
 釈放時に日本はパスポートを発給し、勾留中の作業手当まで支払ったという。まさに盗人に追い銭であった」と。
 今回の人質殺害事件における安倍内閣の対応は、過去の政権の失敗を教訓とした毅然としたものだった。そのことが高く評価されるべきである。

●ISILに関するわが国の国会決議と国連安保理決議

 わが国の一部には、ISILに対するわが国政府の対応を批判し、人質2名が殺害されたことを安倍首相の責任だとまで非難する者がいるが、まったく間違った見方である。そうした政府批判は、逆にISILの蛮行を免責し、テロリズムを助長することになる。
 2月5日衆院本会議はISILの日本人人質殺害事件について「非道、卑劣極まりないテロ行為」で「断固として非難する」との内容の決議案を全会一致で採択した。決議は「テロはいかなる理由や目的によっても正当化されない」として「わが国と国民は決してテロを許さない姿勢を堅持する」と強調し、政府に対し、中東・アフリカ諸国への人道支援の拡充や、邦人の安全確保対策の充実を求めるとともに、国際社会との連携強化を要請。「ヨルダンをはじめとする関係各国がわが国に対して強い連帯を示し、解放に向けて協力してくれたことに深く感謝の意を表明する」とした。
 同決議案は、6日参院でも採択された。その際、「生活の党と山本太郎となかまたち」の山本太郎共同代表は、決議の採択を欠席した。山本氏はこれまでツイッターで人道支援の中止を求め、記者会見では事件の原因を「安倍晋三政権の外交政策の失敗」と述べていた。「生活の党と山本太郎となかまたち」は、小沢一郎氏と山本氏が合体して作った政党である。山本氏、小沢氏は日本の国会議員として極めて問題のある政治家である。別の拙稿に詳しく書いた。
 国際社会では、国連加盟国を中心として、ISILに対して厳しい対応をしている。国連安全保障理事会では、常任理事国の米国とロシアがそれぞれ働きかけて、ISILへの資金流入阻止に向け、人質の身代金支払いを拒絶するとともに、イスラム国支配地域の原油や古美術品を購入しないよう各国に求める国連安全保障理事会決議案を2月13日に全会一致で採択した。
 身代金支払いについては、昨年1月の安保理決議で禁じられているが、順守されていないのが実情だった。今回の決議は、改めて各国に支払い拒絶を徹底させる内容となっている。原油については、昨年7月の安保理議長声明で不法購入しないよう各国政府に促していた。今回の決議で購入禁止を正式に義務付けた。シリアのアサド政権やトルコの一部勢力等がこれまで、原油を不法に購入していたと伝えられる。
 こうした決議を国連加盟国が一致して実行することで、ISILを経済的に追い詰めていくことが期待される。

関連掲示
・拙稿「参議院議員・山本太郎氏の黒い背後関係」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13.htm
 目次から33へ
・拙稿「闇の財テク王・小沢一郎の不正・不敬・横暴」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13m.htm

イスラム過激組織のテロから日本を守れ3

2015-02-17 08:51:49 | 国際関係
●日本人人質事件におけるわが国政府の対応

 1月20日ISILのテロリストが日本人を人質にし、日本国政府に脅迫を行ったのは、日本人に恐怖を与えて国内を分裂させたりする狙いがあったものと考えられる。わが国の国民は、おそらく彼らが狙った以上に分裂の相を呈した。国民が一致団結してテロに立ち向かわねばならない状況において、一部の政治家は政府の対応を批判し、政争の具としようとした。テロリストを利するような情報を流した政治家もいる。一部のメディアは、ISILよりも自国政府を批判し、テロリストに同調するような報道をした。現行憲法は、GHQが日本人の団結力を弱め、国内が分裂するように目論んだものだが、その効果が今回ほどあからさまに現れたことは珍しい。
 安倍首相が1月17日エジプトでの演説で用いたISILと戦う周辺諸国への人道的な援助をめぐる表現がテロを誘発したという批判が起こった。だが、そもそも中東周辺で日本人がテロリストに誘拐されたり、人質にされたり、殺害されたりすることは、今回が初めてではない。11年ほど前から繰り返し起こっている。2004年(平成16年)4月、イラク戦争で治安が悪化していたイラクでフリーライター今井紀明氏ら3人バクダッドが誘拐され、武装勢力はサマワに駐留していた自衛隊の撤退を要求した。現地の宗教者らが武装勢力側に働きかけて、3人は8日後に解放された。同年10月、バグダッドで旅行中の香田証生氏が誘拐され、アルカーイダ系とみられる犯行グループが自衛隊の撤退を要求し、香田氏は殺害された。2010年(平成22年)4月、アフガニスタンで、ジャーナリストの常岡浩介氏は武装集団に誘拐され、約5カ月後に解放された。2013年(平成25年)1月、アルジェリアの天然ガス施設をアルカーイダ系とみられる武装組織が襲撃し、多数の外国人を人質にとり、仲間の釈放などを要求した。アルジェリア軍が制圧作戦を強行し、プラント大手「日揮」の日本人10人を含む人質40人が死亡した。安倍首相の演説の文言が、初めて日本人を人質にする事件を引き起こしたのではない。
 また今回の事件で日本人2名は、安倍首相が中東を歴訪している間に人質になったのではない。湯川氏は昨年8月に拘束されており、後藤氏はその救出としてISILの勢力圏に入った。そして後藤氏も昨年10月に拘束されたものと見られる。ISILは彼ら2名を利用するタイミングを図っていたのだろう。安倍首相が中東歴訪をして政策変更をしたからテロが行われたのではなく、首相が訪問して注目を集めているタイミングを狙って、人質を利用して宣伝工作を行ったのである。
 人質事件で国内の意見が分裂するなか、元外交官で中東情勢に詳しい宮家邦彦氏は、本年2月2日国民を啓発する、次のような発言をした。
 「今回の事件は、湯川遥菜さん、後藤健二さん2人だけに向けられたものでなく、日本人、日本国全体に対する挑戦だ。日本が好むと好まざるとにかかわらず、『イスラム国』は、日本を敵と思っている。善意や誠意が通じるような相手ではないことがよく分かったはずだ。
 今回の事件を安倍晋三首相の中東での演説と結びつけ、『演説がなければ、2人に危害が加えられるようなことにはならなかった』と主張している人がいるが、事件と演説は関係がない。人質はすでに昨年の時点でとられていたのであり、演説をきっかけに日本人がターゲットになったのではない。だから日本は内輪もめなどをしている段階ではない。
 今こそ一致団結して次のテロ行為を防ぐために根本から考え方を変えなければならない。
 現在、ISILは収入源の原油が売れなくなり、有志連合による空爆を受け、イラク正規軍から反撃をされ、追い詰められてもいる。だからこそ何でもやってくる恐れがある。
つまるところ、彼らの最大の目的は、戦闘を続けることだ。身代金や女性死刑囚らの釈放要求は、その手段にすぎない。
 戦闘にはメディアを使った戦争も含まれる。残忍な動画を使って、敵に最大限の衝撃と動揺を与え、対イスラム国の連携を間接的に分断させようとする。力のデモンストレーションでダメージを与え、米国に協力させないようにするのだ。しかし、ここで屈したら相手の思うつぼだ。
 最近、東南アジアの国を訪れる機会があったが、要所要所での車両チェックなど、日本より対テロのセキュリティーがしっかりしていた。日本もこれを機にグローバルスタンダードのセキュリティーを考えていく必要がある」と。
 宮家氏は安倍晋三首相の中東歴訪の際の演説は人質事件とは関係がないと断言している。この点は、中東問題の専門家、池内恵(さとし)・東京大学准教授が、厳密な検証を行った。池内氏は、安倍首相が演説で用いた表現が適切であったか否かにつき、ISILがどう受け止めたかという点に絞って検証している。
 池内氏は、ISILが安倍首相の発表した中東諸国支援、特にISIL周辺諸国への支援が非軍事的であることを認識していることは、1月20日の第1回の脅迫ビデオで明瞭にされているという。
池内氏は、そのビデオの冒頭の部分について、「きちんと脅迫ビデオを見れば、アラビア語と英語がある程度できれば、問題は簡単過ぎるほど簡単に解ける。最初の10数秒で答えは出てしまうのである」と言う。具体的には、次のように述べている。「右上の記事タイトルはアラビア語で『安倍が“イスラーム国”との戦いを非軍事的支援で支える』となっています」「重要なのは、『イスラーム国』が意識的に付けた英訳で『Non-Military(非軍事的な)』と明記されていることです。『イスラーム国』が情報収集に使うアラビア語や英語のメディアからの情報を正確に受け止め、安倍首相が発表した支援策が『非軍事的な』ものであることを認識していることが明瞭になっています。安倍首相が『イスラーム国』周辺諸国に2億ドルの軍事援助を行うと誤解されたからテロの対象になったのではなく、2億ドルが非軍事的援助であることを『イスラーム国』が明確に認識していながら、なおも日本・日本人をジハードによる武力討伐の対象としたと宣言した、ということがここから明らかです。そうであるがゆえに事態は深刻なのです」と池内氏は言う。
 すなわち、ISILは日本の2億ドル援助は「非軍事的」であると認めており、日本が軍事的になったからISILに狙われたとする批判は、根拠がない。非軍事な支援であっても日本をジハードの対象とする、というのが脅迫の趣旨なのである。

 次回に続く。

「建国の日」を知る日本人は2割未満

2015-02-16 11:38:57 | 日本精神
 2月10日に「建国記念の日」について日記に書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/8a504e99646a514449f9ae04f49ca2c3
 11日の祝日当日、日本青年会議所が「建国の日」に関して行った調査結果が報道された。建国された日を知っている日本人は2割未満しかいない。日本国内在住の外国人は、「自国の建国・独立の日」について中国人は100%、米国人やカナダ人は9割超が正しく答えた。
 戦前の日本人であれば100%知っていただろう。自国の建国の日を知らない日本人が8割以上いるというのは、明らかに戦後教育の結果である。来年の2月11日までに、どれだけ「建国の日」を知る日本人を増やせるかが、国民啓発運動の課題の一つとなるだろう。
 以下は報道のクリップ。

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●産経新聞 平成27年2月11日

http://www.sankei.com/life/news/150211/lif1502110026-n1.html
2015.2.11 17:31更新
建国の日「知っている」は2割未満、米国・中国は9割超 「自国誇り」の日本人は7割

 調査は1月、北海道から沖縄まで全国10都市の街頭で18歳以上の男女約1万人にヒアリングした。「日本が建国された日はいつか」との問いに「2月11日」と答えたのは19・3%で、年齢別の内訳は25~39歳が14・9%で最も低く、18~24歳が16・2%、40~59歳が19・4%。
 日本が建国された日を知っている日本人は2割未満-。若手経営者らでつくる日本青年会議所(日本JC)が11日の建国記念の日を前に、建国に関する意識調査を行ったところ、そんな結果が出た。国内在住の外国人は中国で100%、米国やカナダで9割超が「自国の建国・独立の日」を正しく答えており、日本人の建国に対する意識の低さが鮮明に浮かび上がった。最も高い60歳以上でも44・3%だった。
 同様に日本国内の街頭ヒアリングと、委託した調査会社があらかじめ登録されている日本国内在住の外国人の中から無作為抽出した各国の18歳以上の男女計300人にメールで尋ねたところ、「自国の建国・独立の日」を正しく答えた割合は中国が100%でトップ。カナダ97・7%、米国91・3%などと続いた。母数が異なるため単純な比較はできないが、日本は極めて低かった。
日本人対象のほかの調査項目では、約4割が「日本の建国に関する歴史を学んだことがない」と回答。約7割が「自国の成り立ちを学ぶ『国史教育』の充実」を必要と答えたほか、約6割が「日本でも建国を祝う行事を開催した方がいいと思う」と回答した。「日本という国を誇りに思うか」との問いには、73・0%が「思う」だった。
 日本JC国史会議議長の棟久裕文(むねひさ・ひろふみ)氏は「日本では自国を誇りに思いながら、建国は知らないという矛盾した状況になっている。グローバル社会に向け、義務教育段階から建国を含めた国史教育を充実させていく必要がある」と話している。
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