ほそかわ・かずひこの BLOG

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譲位を容認・否認が拮抗~有識者会議の意見聴取結果

2016-12-02 09:59:58 | 皇室
 安倍首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」は、専門家の意見聴取を行ってきたが、3回にわたる意見聴取が11月30日に終了した。計16人の聴取は、譲位を容認する見解が8人、否定的な見解が8人と賛否が同数で拮抗する結果となった。
 各種世論調査で国民の8~9割が譲位を容認する回答をしているのとは、大きな違いである。国民の大多数は庶民の感情と世間常識によって回答していると思われるが、本件は今上陛下のお気持ちを深く受け止めさせていただくとともに、日本の伝統・文化・国柄や憲法・法制度等を良く踏まえて慎重に検討すべき重大課題である。
 政府は一代限りの譲位を認める特例法での対応を方針としているが、特例法には16人中10人が反対した。官僚による法技術的な対応策に、多くの専門家が異議を唱えた格好である。
http://www.sankei.com/politi…/…/161201/plt1612010008-n1.html

 第3回目の意見陳述者のうち、麗澤大教授の八木秀次氏は、「高齢によりご公務ができない事態には、国事行為の臨時代行など現行法制で十分対応できる」「天皇陛下のご意向により制度をつくれば、憲法が禁止する天皇の政治的行為を容認することになる。自由意思による退位を認めると、同じく自由意思によって次代の即位拒否、短期間での退位を認めなければならなくなり、皇位の安定性を揺るがし、皇室制度の存立を脅かす。合理的説明ができず提案理由が明確ではない法律によって退位を実現すれば、憲法上の瑕疵が生じ、皇位の正当性に憲法上の疑義を生じさせる」と述べた。

 国士舘大大学院客員教授の百地章氏は、「超高齢化社会における天皇のあり方として、長期間、病の床に伏せられたりした場合は、天皇の尊厳そのものさえ侵されかねないことから、従来の終身制は維持しつつ、あくまで高齢化社会の到来に対応すべく、例外的に譲位を認めるべきである。皇室典範に例外的な譲位を認めるための根拠規定を置き、それに基づいて特別法を制定し、高齢により公務を自らすることができないときは、その意思に基づき、皇室会議の議を経て譲位を認めるべきだ」と語った。

 京大大学院教授の大石真氏は、「高齢を理由とする執務不能という事態は今後も十分に起こり得ることや、特例法による場合は皇位継承に関する規範の複合化を招き、憲法が『皇室典範』と規定している趣旨に合致しない恐れがあることから、恒久的なものに制度改正すべきである」と主張した。また、憲法2条のいう皇室典範には皇室典範の特例を定める特別法も含まれるとし、譲位を定める法形式として、皇室典範の中に別法で定める旨の根拠規定を設ければよいという政府の見解については、「憲法の趣旨に照らし、規範の複線化を招くような特例法はもともと予定されていない」「皇室典範の付則で規定する方法も考えられるが、制度としては望ましくなく、皇室典範にきちんと規定すべきである」と異論を述べた。
http://www.sankei.com/politi…/…/161130/plt1611300038-n1.html

 失礼ながら、有識者会議のメンバーには、私の見るところ、16人の専門家に勝る見識を持った人物は一人もいない。日本の国柄の根幹に関わる極めて重大な課題で、かつ専門家の間でこれほど見解が分かれる事柄を判断してまとめるほどの力量は、現在のメンバーにはないだろうと思われる。有識者会議が、政府が打ち出している方針に追従する答申書を出すのか、複数の見解を併記して慎重な対応を求める答申書を出すのか、今後の議論が注目される。
 いずれにしても有識者会議は首相の諮問に答えるだけである。答申を受ける安倍首相には、明治時代に皇室典範を定めた際の伊藤博文に匹敵する見識・器量が求められる。

関連掲示
・拙稿「天皇陛下のお気持ち表明にどのようにお応えするか」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/732796749bb6a9a5d8c82b0671b1ddb2