ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

中国AIIBの野望と自滅に加わるな2

2015-03-31 08:03:52 | 経済
●英独仏伊の参加でG7の結束に乱れが

 本年3月12日、英国がAIIBへの参加を表明した。これに続いて、独仏伊も参加を表明した。これら4カ国は先進7か国(G7)のメンバーである。それまでの参加国は中東、アジアの発展途上国が主だったが、ヨーロッパから先進諸国が参加することになり、形勢に重大な変化が起こった。
 英国の参加は、日米に衝撃を与えた。英国の動きは、AIIBが市場で資金調達する際の信用力を高め、経済覇権の動きを強める中国には追い風となった。米国は英国の参加を強く批判している。世界銀行やアジア開発銀行の対抗馬としてAIIBの影響力が強まることを警戒しているためで、米政府高官は、英国から「事実上、米国に相談はなかった」と明かして不快感を表明した。英紙フィナンシャル・タイムズは、「米英が珍しく仲違いした」と書いた。
 英国にとっては、巨大市場を抱える中国との関係強化には魅力がある。AIIB参加を決めた背景には、英国はG7でも群を抜いて対中経済関係を強めている事実がある。ヨーロッパでは、ウクライナ問題による対露制裁の長期化等で経済が悪化している。ロシアがウクライナのクリミア半島併合を断念しない中、対露制裁の長期化は避けられない。そうしたなか、キャメロン政権は、中国との関係強化を図り、投資を呼び込むことで経済の活性化を図っている。中国商務省の統計によると、2014年の対中投資実行額は、日本が前年比で約39%減、米国が約20%減、ドイツが約1%減だったが、英国は逆に約28%増やしている。
 英政府は「新たなアジアの経済パートナー」として中国との関係を深める一方で、中国の人権や香港等の問題では沈黙を守っている。人権や自由、デモクラシーより、実利を優先する姿勢である。
 英国に続いて、フランスやドイツ、イタリアも相次いで参加を表明した。これらのヨーロッパ諸国は、日米と比べて安全保障面で直接中国の脅威にさらされていない。地理的な条件が異なるからである。長期的な安全保障と当面の経済利益を天秤にかけて、AIIBという「バスに乗り遅れるな」と飛び乗った形だろう。だが、AIIBは中国が実質的なオーナーとして50%近くを出資する。ヨーロッパ諸国が預る利益は少なく、ずさんな融資で焦げ付いた際のリスク分散に使われかねないという見方もある。
 中国は、カネの力で、G7の結束に風穴を開けた。親米的なカナダも参加を検討している。G7に結束の乱れが生じたことは、今後の国際関係への影響が懸念される。自由主義諸国では、他にニュージーランド、オーストラリア、オランダ等が参加を表明した。東アジアでは、韓国、台湾が参加を決定した。BRICSは、ロシア、ブラジル、ロシア、インドが参加を表明し、南アフリカを除くメンバーが参加する。
 こうしたなか、わが国の政府は、AIIBに対して慎重な姿勢を取っている。政府は、中国政府に対し、(1)融資基準を明確に(2)参加国に発言権はあるか(3)ADBと協力はできるか-などを問いただしている。だが、中国から回答はない。AIIBには、次の項目に書くように多くの懸念がある。政府は6月までに参加するかどうかを決める方針だが、私は、AIIBには慎重な姿勢を保つべきだと思う。
 中国はADBを補完するためにAIIBをつくるというが、中国はADBから135億ドル(1兆6千億円)もの融資を受けている。これは、ADBの融資資金額の残高25.3%を占める巨額である。わが国は中国に、まず融資金を即刻返済してからにして下さい、と督促請求してはどうか。

●AIIBに募る懸念

 AIIBについては、中国が恣意的な組織運営を行い、覇権拡大の道具にするだろうという懸念がある。
 中国は法治国家ではない。人治的体質による共産党幹部、人民解放軍幹部の腐敗・汚職が大問題になっている。国名に「人民民主主義」を標榜するが、建国以来一度も選挙が行われていない。自由主義的なデモクラシーは存在しない。5割近くを出資すると見られる中国は、AIIBで巨大な影響力を振るうだろう。圧倒的な資金力を持つ中国の強権的な姿勢に対し、英独仏等の自由主義諸国がリベラル・デモクラシーに基づく組織運営がされるように対抗し得るのか、自由主義の力量が試されるだろう。
 現時点でAIIBは、世銀やADBと異なり、理事会を置くのかどうか不透明な状態である。中国は、大きな議決権を確保し、意思決定で有利に立つだろう。融資審査における基準も不透明である。また、AIIBが厳格な審査体制を構築し、担当者を雇用・育成できるかは不明である。融資の判断も中国が独自基準を採用する恐れが強い。低利・迅速さを前面に、十分な審査がなされない融資が増えれば、融資対象事業によって環境破壊につながる乱開発が行われる懸念もある。
 中国が経済・外交的な影響力を高めようと、投資銀を使って甘い審査で資金をばらまくならば、発展途上国の健全で持続的な発展は望めない。途上国の政権の腐敗・汚職を見逃し、お手盛りの融資や返済能力を度外視した過剰融資を行うことも予想される。こうした「中国基準」の国際金融機関が、中国の国際社会での存在感を高め、覇権拡大の推進力になるだろう。
 ADBは低金利融資だが、AIIBは高金利融資である。伝えられるところでは、AIIBから融資を受ける国は、人民元を1年借りて5%、10年物なら年20%の高い利子を払わねばならないようである。ADBの場合は、ドルで1年借りて0.256%、10年物の金利は0.665%である。大手銀行で借りられない者が、消費者金融に手を出すのに似ていないか。我が国の代表的なサラ金は現在、年利4.5%~18%くらいである。年20%の利子を払って人民元を借りてインフラ工事をして、確実に返せる国がどれだけあるだろうか。
 融資金は、中国企業の海外進出を後押しする補助金のように使われるだろう。中国企業というのは、自由主義国のような民間の私企業ではない。第一は「央企」と呼ばれる中央政府が直轄する国有企業である。第二は地方政府だが、これも傘下の国有企業、銀行、開発業者を束ねる利益共同体である。それゆえ、中国企業の進出は、共産党が支配する国家資本の進出であり、共産中国そのものの進出なのである。
 習近平指導部は、2013年秋、シルクロード経済ベルトと海洋シルクロードで構成する「一帯一路」構想を打ち出した。中国を起点に中央アジアや東南アジア、中東などを経由して欧州までつなぐ構想であり、鉄道や道路網、送電網、港湾などインフラ建設で欧州にとっても経済的メリットがある。この構想の実現にもAIIBからの資金が活用される見通しである。
 この動きをつかむには、経済だけを見ていたのでは駄目である。最も注意すべきことは、中国の経済覇権の拡大は、必ず軍事的な覇権の拡大につながることである。海洋シルクロードは、人民解放軍が先導し、これを「シルクロード基金」とAIIBが支えることになるだろう。海洋シルクロードは、マラッカ海峡からペルシャ湾に至る拠点をつなぐ中国の「真珠の首飾り」戦略と重なり合う。「真珠の首飾り」戦略とは、南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、ペルシャ湾までを影響会下に置こうとするものである。中国はパキスタンのグワダル港開発の合意や、スリランカの港への潜水艦の入港等を獲得してきた。AIIBの融資は、中国海軍の艦船受け入れの軍港建設にも投資されることになるだろう。
 中国軍国防大学の紀明貴少将は、先の構想によって米国の「アジア回帰」の出ばなをくじくと主張している。中国共産党及び人民解放軍には、西太平洋から米国の排除を目指し、太平洋の西半分以西を、シナの海とする野望があるものと見られる。
 だが、最近の中国経済は資本流出が激しく、成長鈍化が先行きの不安を引き起こしている。世界貿易機関(WTO)でさえ不公正取引の対中提訴が多い。新貿易交渉のドーハ・ラウンドを潰したのも中国だった。中国は、AIIBによって、共産党が支配する極めていびつな統制主義的資本主義を世界に広げようとしている。AIIBに参加する国々は、中国型の統制主義的資本主義の害毒が市場と社会に広がっていくのを見ることになるだろう。
 中国は、もはやかつてのように高度経済成長を続ける国家ではない。既に不動産バブルの破裂が進みつつあり、破裂はじわじわと広がりつつある。破裂の前から、毎日のように全国各地で激しい暴動が数百件も起こっている。経済成長率は「保八」という絶対目標の8%を死守できず、7%台と発表されているが、統計の信ぴょう性は低い。最も信頼性が高い指標と見られる鉄道貨物輸送量が急激に落ち込んでいるのは隠せず、前年比でマイナス基調に転じている。外貨準備3.8兆ドルを誇ってきたが、ここのところ海外からの借り入れが急増し、外貨準備が過去半年間で4%も減少した。国内にこうした経済危機を抱えているからこそ、中国共産党政府は、AIIBを用いて、過剰生産能力のはけ口を海外に求め、併せて中国企業の海外進出を促進しようとしているのである。

 次回に続く。

中国AIIBの野望と自滅に加わるな1

2015-03-30 08:55:19 | 経済
●中国が既成の国際金融秩序に挑戦

 中国が本年(2015年)内に「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」を創設する。3月末までに創設時の参加国を募っていたが、東南アジア、中央アジア、中東の国々に加えて、先進7か国(G7)の英仏独伊までもが参加を表明した。参加申請期限の31日を前に参加表明が相次ぎ、創設メンバーは40か国・地域を超える見通しである。
 世界にはすでに、国際通貨基金(IMF)、世界銀行(IBRD)、アジア開発銀行(ADB)など20あまりの国際金融機関がある。これに対し、中国は第2次世界大戦後、米欧や日本が構築してきた国際金融秩序に挑戦し、中国中心の新たな国際金融機関を立ち上げようとしている。高い経済成長率と猛烈な軍拡によって国力を増大してきた中国が、ついに国際金融制度にまで触手を伸ばしているのである。
 AIIBの目的は、発展途上国のインフラ整備に融資することである。世界最大の成長センターであるアジアに対しては、アジア開発銀行が存在する。だが、アジアでは年間7760億ドル(約94兆円)のインフラ資金が必要との試算もあり、世銀等だけでは資金需要は満たせない。融資決定のスピードの遅さに対する途上国からの不満もある。そこを突いた中国の影響力拡大に、日米は歯止めをかけられないのが現状である。
 今後、中国は最大出資国としてAIIGの本部を中国に置き、初代総裁を出すとともに、融資の裁量権を握って、国際的な影響力を格段と強めようとするものと見られる。

●中国は経済覇権を目指す

 昨年7月、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国がブラジルに集まり、共同出資による発展途上国向けの新開発銀行(NDB)を創設する協定に調印した。BRICS銀行とも呼ばれる。5カ国それぞれが100億ドルを出資して500億ドルの資本金をもつ。開発途上国のインフラ関連投資への金融支援が目的とされる。同時に、経済危機に陥った国への緊急融資に1千億ドルの外貨準備基金を創設、うち410億ドルを中国が担う。これは、国際通貨基金(IMF)・世界銀行による旧来の金融秩序への挑戦である。
 BRICSは、ワシントンに本部を置く世界銀行を「旧秩序」と位置付け、これに代わる新たな秩序を創造しようとしている。この動きをリードしているのは、中国である。中国は、新興国・途上国の外貨準備合計の約5割のシェアを持つ。それを見せ金にして、人民元建てによる投融資を一挙に拡大して、ドルに挑戦する構えである。だが、ブラジル、インド等は民主国家であり、中国の言いなりにはならない。中国は本部を上海に置くことはできたが、総裁ポストはインドに握られるなど、満足のいく構成にはならなかった。そうした中で、中国が新たな国際金融機関の本命として画策してきたのが、、AIIBの創設である。
 中国は、アジア太平洋地域での地域的な覇権を確立し、さらに世界的な覇権の獲得を目指している。第2次大戦後、アジア太平洋地域においても、また世界全体においても、米国が優位に立ってきた。旧ソ連の崩壊後は、一時的に米国一極支配の状態になった。だが、米国は衰退の兆しを示している。その一方、中国は経済成長を続けていると見られており、2030年までに中国が国内総生産(GDP)で米国をとらえるとの予測もある。
 アジア開発銀行は、日本が主導している。本部は、フィリピンのマニラに置かれ、歴代の総裁は日本から輩出している。中国にとって、日本は米国とともに排除すべき対象である。これに対し、東南アジアは小国の集まりであり、中国は最大出資国として主導権を握りやすい。
 NDBとAIIBに共通するのは、融資対象国に内政干渉を行わず、政治的な条件も人権尊重も要求しないという姿勢である。世銀やアジア開銀に大型融資を拒否された途上国が、融資を求めて中国の磁場に引き付けられていくことが予想される。中国は、恣意的な資金提供を行い、融資に名を借りた勢力拡大を図るだろう。軍事力で圧力をかけながら、各国を人民元の力で自らの勢力圏に呑み込んでいこうとするものである。
 中国は、軍事面だけでなく金融面においても米国に挑戦し、米国から覇権を奪おうとしている。BRICSや開発途上国において力量を発揮して、中国の影響圏に誘い込み、その加勢を得て「中華民族の偉大なる復興」への道を歩もうと画策している。金融面でその動きの中心となるのが、AIIBの創設である。

 次回に続く。

人権141~ゲルナーの理論への批判

2015-03-28 08:41:42 | 人権
●ゲルナーのナショナリズム論への批判

 ゲルナーの見方は、産業革命以後の段階のナショナリズムについては一定の説得力がある。だが、ナショナリズムは産業革命以前の西欧で既に発生・発達しており、それが産業革命を通じて、新たな発達を示したものである。ゲルナーは、その段階のナショナリズムを、ナショナリズムのすべてであると取り違えている。
 政治哲学者のケドゥーリーは、『ナショナリズム』(1992年版)で、ゲルナーを批判して、次のように書いた。「ナショナリズムを産業化のための必要条件あるいはそれへの反動とみるこの試みは、ナショナリズムの年表にも産業化の年表にも適合しない。教義としてのナショナリズムは、未だほとんど産業化が存在しなかったドイツ語地域において、自分たちが産業化に応答しているとも、そのための必要条件を提供しているとも意識していなかった著述家たちによって、構築された。さらにまた、ナショナリズムのイデオロギーは、産業化を全く知らなかった時期の、ギリシャやバルカン半島、オスマン帝国のその他の地域に広がった。逆に、極めて熱狂的な性格のナショナリズム運動は、移動性と識字率と文化的標準化が数十年にもわたり常態ともなってきた、既に高度に産業化された社会に出現した」と。
 最後の「極めて熱狂的な性格のナショナリズム運動」について、ケドゥーリーはナチス期のドイツ、ファシスト時代のイタリア、1920年代・30年代の日本を例に挙げる。そして、これらとの対比で、次のように言う。「しかしながら、産業主義が最初に表れ、最大の進歩を示した地域、すなわちイギリスとアメリカは、まさしく、ナショナリズムが知られていない地域である」と。結論として、「かくして、理論と証拠は不幸にして別々の方向に引き裂かれている」と断言している。
 ケドゥーリーは、ゲルナーの誤りを端的に指摘している。ナショナリズムはその発生の時期において、産業化の時期とは一致していない。ケドゥーリーの主張に加えて歴史的事実を補うと、ゲルナーが注目する産業化がイギリスで始まったのは、市民革命の後のことである。1640~80年代の市民革命から1770年代以降の産業革命までの間には、1世紀ほども開きがある。市民革命で政治参加した市民階級は、資本主義的な所有と経営を自由に行う権利を獲得し、富を増大した。また彼らが参加した政府は、産業化に対応した公教育を実施し、標準語を教育した。チャーティストが「われわれは普通教育制度を熱望する」と表明したのは、産業革命が勃発してから60年ほどたった1833年のことだった。初等教育の就学義務や公費による初等学校の設立が立法されたのは、さらに遅く1870年である。
 イギリスに続いて市民革命の起こったフランスは、先進国イギリスを模倣し、イギリスに追いつこうとした。イギリス、フランスでは、産業化が国民国家を生んだというより、市民階級が政治権力に参加した国民国家の政府が産業化を進めた。ウェストファリア体制で、すでに形式的には存在していたネイションの実質化が産業革命で加速された。産業化は、既に進んでいた国民の実質化を、識字率と計算能力の向上、共通語によるコミュニケーションの拡大、集団労働の組織化、社会的分業の促進等によって加速したのである。
 ケドゥーリーは、ドイツ語地域で「教義としてのナショナリズム」が構築されたというが、その地域は、封建制諸国家に分裂している状態で、18世紀末から1810年代にかけて、ナポレオンのフランスによって占領された。その異民族の支配下にある状態で、哲学者や思想家、文学者らがナショナリズムの思想を生み出した。ドイツの産業化の遥か以前のことである。18世紀末に新大陸で独立型のナショナリズムが高揚した北アメリカのイギリスの植民地、19世紀初頭に独立型のナショナリズムが高揚した中南米のスペイン、ポルトガルの植民地も、産業化以前の段階にあった。
 これらの国々及び地域におけるナショナリズムは、産業革命による経済的・社会的な近代化とは別の政治的な動機が主要因である。ゲルナーは異民族支配に対する抵抗・反発をナショナリズムの典型とする一方、ナショナリズムは産業革命以後の現象という。政治権力の話と経済の産業化の話を羅列しているだけで、これらが、まったくつながっていない。この理論的欠陥は、ゲルナーには権利論・権力論がなく、権力関係と生産関係の分析がないことによるものである。

 次回に続く。

慰安婦問題:米教科書会社に秦郁彦氏らが訂正要求

2015-03-27 08:51:49 | 慰安婦
 米大手教育出版社「マグロウヒル」(本社・ニューヨーク)が出版した高校用の世界史教科書「トラディションズ・アンド・エンカウンターズ(伝統と交流)」は、先の大戦を扱った章で「日本軍は14~20歳の約20万人の女性を慰安所で働かせるために強制的に募集、徴用した」「逃げようとして殺害された慰安婦もいた」などと、強制連行があったかのように記述している。「日本軍は慰安婦を天皇からの贈り物として軍隊にささげた」と明白な虚偽内容も含まれている。また、南京事件について「ザ・レイプ・オブ・南京」という項目を立てて、「日本軍は2カ月にわたって7千人の女性を強姦」「日本兵の銃剣で40万人の中国人が命を失った」などと記述している。
 このことについて、産経新聞が昨年11月3日付で最初に報じた。これを受け外務省は同月7日、在ニューヨーク総領事館を介し出版社に記述内容の是正を申し入れた。また12月中旬、在ニューヨーク総領事館員がマグロウヒル社の担当幹部と面会し「慰安婦と日本海呼称問題で重大な事実誤認や日本政府の立場と相いれない記述がある」として記述内容の是正を正式に要請した。だが、出版社側からは明確な回答が得られず、継続協議となった模様と伝えられる。
 問題の教科書は、カリフォルニア州やテネシー州をはじめ広い範囲の一部の公立高校で使われている。
 本年1月29日の衆院予算委員会でこの問題について自民党の稲田朋美政調会長が取り上げ、安倍晋三首相は、米国教科書の記載内容が事実と異なることに「愕然とした」と述べ、「主張すべきはしっかりと主張していくべきだ」と答弁した。
 こうしたなか、2月5日米国の歴史学者19人が、「日本の歴史家を支持する」と題した共同声明をメディアに送り、日本政府の訂正申し入れに対する「驚愕の思い」を表明、「国や特定の利益団体が政治目的のために、出版社や歴史学者に研究成果を書き換えさせようと圧迫することに反対する」と厳しく批判した。そして、「いかなる修正にも応じない」との意思を表明した。
声明は、米国で慰安婦像設置を主導する「カリフォルニア州韓国系米国人フォーラム」が公表した。「日本軍の性的搾取という野蛮なシステムによって苦痛を強いられた慰安婦に関し、日本と他国の歴史教科書の記述を抑圧しようとする最近の日本政府の試みに驚きを禁じえない」とし、安倍晋三首相を名指しで批判している。
 学者らは、慰安婦問題で日本政府の責任を追及する立場の吉見義明・中央大学教授の研究などを根拠に日本側を批判し、「日本政府の文献を通じた吉見義明教授の研究と(元慰安婦の)生存者証言は、性奴隷システムの本質的な特徴をみせており、議論の余地はない」ともしている。吉見氏の著書『従軍慰安婦』の英訳版(コロンビア大学出版部)には「日本軍の性奴隷制」という副題がある。
 問題の教科書の共著者はハーバート・ジーグラーとジェリー・ベントレーだが、声明はコネティカット大のアレクシス・ダデン教授らが取りまとめた。声明に名を連ねている歴史学者たちは、コネチカット、プリンストン、コーネル、コロンビア等の各大学の教授。この教科書で慰安婦に関する部分を執筆した学者も含まれている。声明は、アメリカ歴史協会の学術雑誌『Perspectives of History(歴史の展望)』の3月号に掲載される予定と伝えられる。
 私見を述べると、歴史学者が「いかなる修正にも応じない」と言うのは、学者としておかしい。歴史は新たな事実が発見されたり、研究が進んだりすると、書き直されていくものである。まして学問の自由が保障され、自由な研究がされている国であれば、これは当然のことである。次に、これから学術雑誌に掲載されるという声明が、米国で慰安婦像設置を主導する「カリフォルニア州韓国系米国人フォーラム」によって公表されたことも、おかしい。韓国系団体による歴史学者への働きかけ、学者の政治利用があるのではないか。
 さて、米国の歴史学者19人が日本政府の訂正要求を拒否する声明を出したのに対し、3月17日現代史家の秦郁彦氏ら19人の有識者が連名で反論を行い、明確な事実誤認部分8カ所について、教科書出版社に訂正を求める声明を公表した。19人に対して19人という対抗戦術が、見事である。慰安婦問題について、中国や韓国の学者との間では、まともな議論ができない。米国の学者と論争することを通じて、事実関係を客観的に明らかにすることによって、中国・韓国の学者に衝撃を与えることが可能だろう。正々堂々たる論戦を期待する。
 以下は関連する報道記事。

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●BLOGOS 平成27年3月17日

http://blogos.com/article/108036/
BLOGOS編集部2015年03月17日 16:30
「強制連行があったとするマグロウヒル社の記述は誤り」従軍慰安婦問題で、秦郁彦氏、大沼保昭氏が会見

 17日、秦郁彦・日本大学名誉教授と大沼保昭・明治大学特任教授(元アジア女性基金理事)が会見を行い、同日付けで公表した「McGraw-Hill社への訂正勧告」について説明した。
 この勧告は、秦郁彦氏のほか、藤岡信勝、長谷川三千子、芳賀徹、平川祐弘、百地章、中西輝政、西岡力、呉善花、高橋史朗氏ら19人の日本人歴史家有志によって提出されたもので、米国の公立高校で使われている世界史の教科書において、慰安婦の強制連行など。事実とは異なる記述があるとして訂正を求めている。 会見場には櫻井よしこ氏や長谷川三千子氏も姿を見せ、秦氏は改めて「日本の官憲による組織的な強制連行はなかった」とし、大沼氏は慰安婦問題の解決のためにメディアが果たすべき役割は大きいと指摘した。

●産経新聞 平成27年3月17日

http://www.sankei.com/world/news/150317/wor1503170055-n1.html
2015.3.17 21:01更新
【歴史戦】
米教科書「慰安婦」8カ所は事実無根 秦氏ら有識者19人が訂正要求

 (略)秦氏は同日、東京都千代田区の日本外国特派員協会で行われた討論会の場で、事実誤認部分を明らかにした。
 秦氏らの声明では、慰安婦強制連行の記述について、米国の歴史学者19人の声明が強制連行や性奴隷を断定する根拠に吉見義明・中央大教授の調査などを挙げていることから、「吉見氏は著書の中で、慰安婦のうちの『最多は(コリアン・ブローカーに)だまされて』慰安婦になったと記している」と指摘。さらに「吉見氏はテレビの討論番組でも『朝鮮半島における強制連行の証拠はない』と述べている」とした。
 慰安婦の人数を「約20万人」と記述している点についても、秦氏の推計では約2万人だとして「誇大すぎる」と強調。「慰安婦を天皇からの贈り物として軍隊にささげた」との記述には「教科書としては、国家元首に対するあまりに非礼な表現」と強く批判した。(略)

http://www.sankei.com/life/news/150317/lif1503170029-n1.html
2015.3.17 21:07更新
【歴史戦】
慰安所通い 誇張も指摘 証拠に基づく討論呼び掛け 米教科書「慰安婦」記述

 現代史家の秦郁彦氏ら日本の有識者19人が発表した声明は、事実無根の記述とともに荒唐無稽な誇張表現も指摘した。
 「慰安婦たちは、1日あたり、20人から30人の男性の相手をさせられた」
 マグロウヒルの教科書では、慰安婦の勤務実態について、こう表現している。
 その前段で慰安婦の人数を「約20万人」と記述していることから、秦氏らの声明は、単純計算で旧日本陸軍は慰安婦から毎日400万~600万回の性的な奉仕を受けていたことになると指摘。
 その上で、慰安所が設けられた地域の旧日本陸軍の兵力を考慮すると、全員が毎日、頻繁に慰安所に通ったことになると分析した。
 秦氏は「兵士たちは戦う暇がないほどで、それほど誇大な数字が教科書に記述されている」と話した。
 慰安婦の出身も、「大半は朝鮮および中国」と記述されているが、秦氏の推計によれば、約2万人の慰安婦のうち、最多は日本人で約8千人、朝鮮人は約4千人、中国人やその他が8千人で、誤りだとした。
「戦闘地域に配置され、兵隊らと同じリスクに直面し、多くが戦争犠牲者となった」と、慰安婦たちが厳しい環境下に置かれたとも記述されているが、「慰安婦と看護婦は戦闘地域ではない後方の安全な場所で勤務していた」と否定した。
 「多数の慰安婦が殺害された」との記述については「事実であれば、東京裁判や各地のB、C級軍事裁判で裁かれているはずだ」として事実無根を訴えた。
 秦氏とともに声明を出した藤岡信勝・拓殖大客員教授は「事実無根で誇張した記述を『史実に基づく』として訂正を拒否する出版社や米国の歴史家たちに対しては、今後、証拠に基づく学問的討論を呼び掛けたい」と話した。
 秦氏はこの日、日本外国特派員協会で、元慰安婦に一時金(償い金)を支給したアジア女性基金の理事だった大沼保昭・明治大特任教授との討論会に出席。それぞれが持論を主張する形となり、秦氏は国内外の記者50人以上を前に「日本の官憲による組織的な強制連行がなかったことと、慰安所における女性たちの生活条件は性奴隷と呼ぶほど過酷なものではなかったことを強調したい」と訴えた。
 大沼氏は、外国人記者から戦後70年が経過しても慰安婦問題が解決しない理由を問われ、「日本が繰り返し行ってきた謝罪が、韓国など国際メディアに正当に評価されてこなかったことがある」と指摘。「韓国の市民社会の成熟を期待していたが、残念ながら成熟を示さず、日本に謝罪疲れをもたらした」と話した。

◆米国教科書の慰安婦記述の明確な誤り
 1 「日本軍は強制的に募集、徴用した」→強制連行の証拠はない
 2 人数「約20万人」→秦郁彦氏の推計では約2万人
 3 年齢「14歳から20歳まで」→20歳以上が多数いた証拠がある
 4 「慰安婦は天皇からの贈り物」→根拠がなく、あまりに非礼
 5 出身「大半は朝鮮および中国」→秦氏の推計では最多は日本人
 6 勤務実態「毎日20~30人の男性の相手」→単純計算で不可能
 7 勤務環境「兵隊らと同じリスクに直面」→戦闘地域外の安全な場所で勤務
 8 「多数の慰安婦が殺害された」→事実であれば訴追されているはず

◆訂正要求の有識者19人
 秦郁彦、明石陽至、麻田貞雄、鄭大均、藤岡信勝、古田博司、長谷川三千子、芳賀徹、平川祐弘、百地章、中西輝政、西岡力、呉善花、大原康男、酒井信彦、島田洋一、高橋久志、高橋史朗、山下英次
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チュニジア博物館襲撃事件でテロ拡散の形勢2

2015-03-26 09:48:33 | 国際関係
●中東専門家の見方

 日本エネルギー経済研空所中東研究センター副センター長の保坂修司氏は、事件について次のように語っている。
 「チュニジア国内では過去1年余りをみてもテロ事件やテロリストの逮捕が頻繁にあった。日本人や欧米人が犠牲になっていなかったため注目されることが少なかったが、治安状況は安定からほど遠い。
 犯人がジハード(聖戦)を唱えるようなグループだとすると、何らかの形で混乱を起こそうと考えても不思議ではない。彼らは基本的に民主主義そのものを嫌悪し、選挙を経た民主的な体制がつくられることに反対しているからだ。
 外国人を標的にすることで西側メディアの注目を集め、自らの存在を内外に示したり、基幹産業である観光を標的にして政権や体制に打撃を与えたりする狙いがあったのかもしれない。
 一方、犯行にかかわった人物のなかにはリビアから入国した者がいるとの情報もあるが、そうであれば、より大きな中東全体の不安定化を背景に引き起こされたともいえる。
 チュニジアで最も強力なイスラム過激派組織とされるアンサール・シャリーアによる犯行であるならば、国内の反体制武装闘争から「イスラム国」やアルカーイダのように欧米を標的とする活動に大きく戦術転換した可能性がある。その場合、いわゆるグローバルジハードの枠組みの中で捉える必要がある。今後、リビアからの勢力流入でチュニジア全体が混乱したり、さらには欧州に波及したりする恐れもある。特に北アフリカ出身の移民が多いフランス語圏に影響が出るだろう」と。
http://www.sankei.com/world/news/150319/wor1503190068-n1.html
 東京大学准教授の池内恵氏は、フェイスブックに次のように書いている。
 チュニジアでは「イスラーム主義を含む大連立で組閣している」「イスラーム主義のナハダ党は大統領選挙でも議会選挙でも次点(といっても大統領選挙では世俗主義・共和主義のマルズーキー候補を推して活発な選挙活動を繰り広げた)だったが、与党ニダー・トゥーニスの大連立内閣に入っている。イスラーム主義が排除されているわけでもなんでもない」
 「つけ込まれる隙がないように考えて必死にやっているチュニジアになおも絡んできているのが『イスラーム国』その他の武装集団」「『イスラーム国』はイラクとシリアで地歩を失いかけてから北アフリカ系の指揮官をリビアに戻し、拠点にしてチュニジアやエジプトに浸透しようとしている。アンサール・シャリーアの一部はそれに乗っかろうとしている」
 「チュニジア人で同名のアンサール・シャリーアをリビアで指揮している連中は『イスラーム国』との連携を狙っているようで、チュニジアで何か事件を起こして存在感を示そうとした可能性はある」
 「『イスラーム国』がチュニジアのテロで犯行声明。チュニジアのアンサール・シャリーアの少なくとも一部は『イスラーム国』の傘下入りしたと言うことなのではないかと推測される。これが正しければ、まだら状に、呼応、自発的参加によるフランチャイズ的な「イスラーム国」が広がっていくという現象かと思います」と。
https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi?fref=ts

●今後の予測と対策

 チュニジアからは約3000人がシリアに渡り、そのうちの多数がISILに参加している。3000人のうち500人ほどがすでに帰国したとされる。地元メディアでは1年以上前から帰還者のテロを警戒する声が高まっていたという。東側に隣接するリビアが内戦状態にあることなどから、戦士や武器の流入を防ぐことは難しい。カイドセブシ政権は今後、強権的な手法も含めたテロ対策に乗り出すだろうが、それによって追い詰められれば、過激派がさらなるテロ闘争に出る恐れもあると見られる。
 今回の襲撃事件は、欧米諸国に衝撃を与えている。米国にとっては、「アラブの春」による民主化が唯一成功しているチュニジアが不安定化することは、中東・アフリカ政策に大きな痛手である。東欧での民主化は、ロシアのクリミア併合でウクライナが内戦状態になっていることで、巻き返しに合っているが、これと合わせて、世界戦略に狂いをもたらす。また、欧州は1月のフランス風刺紙襲撃事件後、同月にフランス、2月にデンマークで連続テロが起きており、域内の対策強化に努めてきた。今回の襲撃事件では、域外で多くの出身者が犠牲となった欧州連合(EU)は、中東などの戦闘に参加した欧州出身の若者が帰国後にテロを起こすことへの警戒を高め、これへの対処のため、中東や北アフリカ諸国との協力を強化する方針を決めている。だが、地中海の対岸にある北アフリカが不安定化すると、その波は地中海からアルプスを越えて、ヨーロッパを浸食する恐れがある。特に内戦状態のリビアでは、ISIL系武装組織が台頭しており、混乱が続けば、同国が欧米に対するテロの「拠点」となり、地中海を渡る避難民に過激派が紛れ込んで欧州に侵入する恐れもあると見られる。
 世界的には、2000年代以降、活発を増すグローバル化は、ヒト、モノ、カネ、情報の流れを加速させているが、その動きはテロ組織をも利している。 米国家情報長官室によると、世界で昨年(1~9月まで)に起こったテロの件数は1万3000件、それによる死者数は3万1000人と、過去45年間で最悪となっている。この傾向に歯止めがかからない状態であり、「ホームグロウン」(自国育ち)のテロリストを含め、イスラム過激思想と過激派ネットワークの拡散、テロのリスクを増大させている。
 わが国は、今回のチュニジア外国人観光客襲撃事件で、3人の死者と3人の負傷者という被害をこうむった。世界の現状を見れば、こうした事件が今後も続くこと、むしろ増加すること、その中で日本人の新たな犠牲者が出ることが避けられないだろうことは、火を見るより明らかである。
 テロ対策については、拙稿「いわゆる『イスラム国』の急発展と残虐テロへの対策」の「5.テロ対策のためのわが国の課題」に書いた。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12w.htm
 そこに書いた対策を、国家の総力を挙げて実行すべきである。対策が遅れれば遅れるほど、また対策が甘ければ甘いほど、日本人の犠牲者は増加するだろう。
 1月20日のISILによる日本人殺害事件に関して、国会では野党からテロリストの身代金要求に応じようとしたり、事件を政権批判の道具にしたり、テロリストを擁護するような発言があったりした。マスメディアの多くも、これを煽るかのような報道を行った。国民にはメディアの報道によって、右往左往する様子が見られた。青少年の一部には、テロリストの残虐な殺害方法を真似して、殺人を犯したり、いじめを行う者も出た。テロリストは、人々を恐怖によって動揺させ、彼らの意思に従わせようとする。国家指導者をはじめ国民みなが自らの精神をしっかり持つことが、最も重要な対策となる。そのためにも、日本人は、自己本来の日本精神を取り戻すことが必要である。私は、日本の現状においては、とりわけ日本文明が生んだ独自の文化である武士道に現れた精神を学ぶことが強く求められていると思う。
 その理由は、現在の日本人は、敗戦後占領下で強行された日本弱体化政策の効果及び70年に渡って平和が続いてきたことによって、国防の意識が極端に下がり、自ら身を守るという意識と技術を書いているからである。敗戦後、米国は日本が再び米国および世界の脅威にならないようにすることを占領目的とした。日本弱体化は、軍事的弱体化だけでなく、精神的弱体化を行うものでもあった。精神的弱体化とは、日本人から日本精神を骨抜きにすることである。GHQは軍事的な武装解除だけでなく、精神的な武装解除を行った。日本人は精神的に骨抜きにされたことにより、日本人自ら日本を守るという国防意識を失い、押し付けられた憲法の改正も行えず、今日中国による侵攻やイスラム過激派のテロ等の危機に直面している。それゆえ、まず弱体化された精神の立て直しが必要である。それには、単に日本の伝統・文化・国柄という「文」の文化の復興だけでなく、日本精神の中にある「武」の文化の復興が行われねばならない。その「武」の文化の精髄が、武士道である。武士道の究極は、その文字が表すように「矛を止める」ことにあり、戦わずして勝つことである。
 日本の伝統に基づいて文武の両道を整えることは、軍国主義の復活を意味するものでは全くない。自衛権は自然権であり、どこの国でも国民は自ら国を守るのが当然の義務である。他国の侵攻を目的とする武力を持つ必要はないが、他国に侵されないだけの防備を持つことは、独立主権国家としての存立に不可欠の要件だからである。(了)

関連掲示
・拙稿「いわゆる『イスラム国』の急発展と残虐テロへの対策」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12w.htm
・日本弱体化政策については、下記の拙稿をご参照下さい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion08b.htm
・武士道については、下記の拙稿をご参照下さい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/j-mind09.htm

チュニジア博物館襲撃事件でテロ拡散の形勢1

2015-03-24 08:38:44 | 国際関係
●チュニスの博物館で外国人観光客が襲撃される

 3月19日北アフリカの地中海岸にあるチュニジアの首都チュニスで、武装したイスラム過激派集団が国立バルドー博物館を訪れた外国人観光客を襲撃し、観光客21人が死亡した。うち日本人は3人が犠牲になり、他に3人が負傷した。
 この事件は、中東から北アフリカに広がるイスラム過激派の脅威を改めて突きつけた。わが国にとっても、1月20日のISILによる日本人2名殺害事件以後、いつどこでまた日本人がイスラム過激派テロリストによって襲われるかわからないという危険性が、早くも現実化した。ここまでの各種報道をまとめ、今後の予測と対策について書く。

 チュニジアはヨーロッパとアフリカの中継地点として栄えた歴史を持つ。温暖な気候でリゾート地としても人気を集めている。カルタゴ遺跡やエルジェムの円形闘技場などの世界遺産があるだけでなく、トズールなど南部の各地が映画「スター・ウォーズ」シリーズのロケ地となったこともあり、多くの観光客が訪れる。武装集団は、古代ローマ文明の遺物等で知られる同国随一の博物館を訪れた外国人観光客を襲撃した。
 実行犯は3人、うち2人は射殺され、1人は逃走中である。チュニジア政府は、「アンサール・シャリーア」による犯行という見方を発表した。アンサール・シャリーアは、厳格なイスラム法解釈による原理主義的な統治を目指す過激派組織で、アラビア語で「イスラム法の支援者」を意味する。チュニジアやリビア、イエメンなどに同名を名乗る組織があり、イスラム教スンニ派過激組織ISIL(自称「イスラム国」)やアルカーイダに忠誠を誓うグループもあるという。チュニジアでは2011年の「アラブの春」による独裁政権崩壊後に勢力を伸ばし、野党指導者暗殺などに関与したとされる。同国などからテロ組織として認定されている。
 ISILは、3月19日、インターネット上で音声による犯行声明を公表した。声明は、「十字軍と背教者どもを多数殺傷した」とテロの成果を誇示しつつ、「今日目の当たりにしたことは、最初の雨粒に過ぎない」として、新たなテロを予告した。アーネスト米大統領報道官は同日の記者会見で、犯行声明の真偽は「未確認」とした上で、事件が「罪のない市民に対する蛮行に及ぶISILの過去の手口と完全に一致している」と指摘し、警戒感を表明した。米CNNテレビは同日、チュニジアの過激派組織がISILに「忠誠」を誓うタイミングに合わせ、実行された可能性があるとの見方を伝えた。この一方、襲撃したグループは特定の組織のメンバーではなく、「ローンウルフ(一匹狼)」の寄せ集めではないかという見方もある。
 チュニジアの治安当局者の発表によると、実行犯2人が隣国リビアで軍事訓練を受けていた。リビアは内戦状態で政府が機能しておらず、多くの組織の武器調達ルートとなっている。ISIL系組織も存在する。

●チュニジアの政情と襲撃テロの狙い

 チュニジアでは、「アラブの春」の先鞭をつけて、2011年1月、民衆デモが高揚し、長年独裁政治を行っていたベンアリ政権が崩壊した。「ジャスミン革命」という。その後の議会選ではイスラム原理主義組織ムスリム同胞団系の政党アンナハダ(ナフダ党とも訳す)が躍進して、暫定政府の主導権を掌握した。だが、フランス統治時代の影響から世俗主義が根強いエリート層は、アンナハダと激しく対立し、2014年の大統領選で世俗派エリートの代表格であるカイドセブシが当選した。これによって、アンナハダの求心力は低下した。ただし、政権は大連立政権であり、イスラム主義のアンナハダも与党の一角を占めている。
 政権移行は、選挙という民主的な方法で行われたが、現在の国家体制を支える世俗派とイスラム勢力の権力闘争が行われており、それが過激派の動向にも影響を与えていると見られる。民主化によって、独裁政権時代には厳しく監視されていた過激なイスラム勢力も活動の自由を得た。彼らは、アンサール・シャリーアなどの組織を結成し、国内外の組織と連携を深めてきたと伝えられる。こうした中で、今回の外国人観光客襲撃事件は起こった。
 イスラム過激派は、西欧発の現代国家を非イスラム的なものであり、破壊対象とする。今回のテロは、チュニジアの民主化を進める世俗派主導の政権への敵対心の表れとみられる。
 外国人観光客が襲撃されたのは、政権に経済的打撃を与える狙いからと見られる。外国人殺害は、国内権力の不安定化を達成するための手段だろう。外国人観光客の足が遠のくことは、外貨収入の大幅な減少に直結する。それによって政権を揺さぶることができる。
 チュニジアには観光以外に目立った産業がない。観光はかつてGDPの約7%を占めた経済の柱である。観光関連分野は約40万人の雇用を生み、同国全体の10分の1に達する。だが「ジャスミン革命」以降、外国人観光客数は減ったままである。革命前、人口約1000万人に対し観光客約700万人という水準を回復できていない。今回の事件は、そこに大きな打撃を与えるものとなるだろう。
 イスラム過激派の論理では、非イスラム的な政府を支える外国人観光客を殺害することは、ジハード(聖戦)として正当化される。同様の戦術は、イスラム過激派のテロが頻発した1990年代のエジプトでもみられ、97年にはルクソールで日本人10人を含む外国人60人以上が死亡した。
 国立博物館を訪れた多数の国々からの外国人観光客を無差別に射殺すれば、世界各国に事件が報道され、過激組織が注目を浴びる。それによって、過激派内での評価や地位を高めたり、戦士や資金を多く集められるという効果をもたらす。
 こうした狙いをもって、襲撃事件は行われたと考えられる。

 次回に続く。

「日本精神を復興し、亡国憲法の改正を」をアップ

2015-03-23 08:45:23 | 憲法
 3月17~20日にブログとMIXIに連載した憲法改正に関する講演の大意を編集し、マイサイトに掲載しました。通して、お読みになりたい方は、下記へどうぞ。

■日本精神を復興し、平成29年春までに亡国憲法の改正を
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08.htm
 目次から06へ

人権140~ゲルナーのナショナリズム論

2015-03-22 08:54:13 | 人権
●ゲルナーは産業革命以後にナショナリズムが発生したとする

 次に、ナショナリズムの代表的な理論について検討したい。
 ナショナリズムについては、第1次世界大戦後にハンス・コーンが先駆的な研究を行い、1960年代にはエリ・ケドゥーリーがこれに続き、1980年以後、様々な論者が活発に議論を行うようになった。アーネスト・ゲルナー、ベネディクト・アンダーソン、アンソニー・スミス、エリック・ホブズボームらである。彼らにユダヤ人・ユダヤ系が多いのは、ディアスポラとしての出自、ナチスによる迫害の記憶と新たな迫害への警戒、シオニズムの正当化または内在的批判等が背景にあるのだろう。ここでは、ゲルナー、アンダーソン、スミスの3人の理論を中心に検討する。
 1980年代のナショナリズム研究の先鋒となったのは、ゲルナーである。ゲルナーは、著書『民族とナショナリズム』(1983年)で、社会人類学に基づき、農耕社会から産業社会への発展がナショナリズムを必要とし、政府が国民を創造したと説いた。
 先に書いたように、ゲルナーは、ナショナリズムを「第一義的には、政治的な単位と民族的な単位とが一致しなければいけないと主張する一つの政治的原理」と定義した。ゲルナーの定義によれば、ナショナリズムには二つの大きな作用があることになる。すなわち、文化が共有されると考えられる範囲まで政治的共同体の領域を拡張しようとする作用と、政治的共同体の統治する領域内に存在する諸文化を主要な文化に同化しようとする作用である。前者は、対外的な政治的拡張、後者は対内的な文化的同化である。
 ゲルナーは、ナショナリズムは18世紀から19世紀にかけて成立した新しい現象であるとし、この時代に、産業革命の影響を受けて資本主義経済が西洋の社会に浸透していったことが、ナショナリズムが成立する基盤となったという見方をしている。産業革命以後にナショナリズムが発生したとするゲルナーは、ナショナリズムは、人間集団が集権的に教育され、文化的に同質な単位に組織化されることで成立したとする。その文化的単位が政治的単位と一致すべきだというのがナショナリズムの原理にほかならないと説く。
 ゲルナーは、ナショナリズムは「近代世界でしか優勢にならない特定の社会条件の下でのみ普及し支配的となる愛国主義」だと考える。ゲルナーは、郷土愛や同朋意識を人間の心のなかの「一般的基層」と呼ぶ。そして文化的に同質な単位への組織化は、そうした「一般的基層」では決して説明がつかないとする。その理由は、「一般的な基層」はナショナリズムだけでなくさまざまな仕方で現れるからである。ナショナリズムの起源を探るためには、その基層に基づいて人間集団を文化的に同質的な単位へとまとめあげる、「もっと大きな社会編成の力」を考えなくてはならないのであり、それが「産業化」だ、とゲルナーは説く。
 ゲルナーはマルクス主義者ではないが、基本にあるのは、社会の土台は経済的な人間関係だという考え方である。産業革命は、資本主義的な経済的近代化が進み、マニュファクチュア(工場制手工業)で賃金労働者の分業が行われている段階で起こった変化である。新たな動力・エネルギーを利用する機械が工場に導入され、大規模な生産が行われるようになった。この生産技術の急激な発展によって、社会的経済的な大変革が起こった。ゲルナーは、この点に注目する。
 ナショナリズムの特徴は、ゲルナーによると、文化的な「同質性」、「読み書き能力」、住民の「匿名性」にある。ここでの文化は「読み書き能力に基礎を置く高文化であろうと努力する文化」である。また、匿名性とは、共同体が解体されて流動的となり、直接、文化的単位に所属するようになったアトム的な個人の特性をいう。
 ゲルナーは、産業社会では「普遍的な読み書き能力と高水準の計算・技術能力及び全般的訓練が、それが機能するための必須条件である」という。社会の成員は流動的であり、「次の新しい活動と職業の手引書や仕様書とについていけるような全般的訓練を積んでいなければならない」「数多くの他人と絶えずコミュニケーションを図らねばならない」「コミュニケーションは、共有され標準化された同一の言語的媒体と筆記文字とによって成り立たなければならない」とする。
 農耕社会では、人々の生活は特定の土地や人間関係に限られていた。だが、産業社会では、農村共同体の解体が進み、人々が土地に根差す共同体から離脱して流動化する。農耕社会では、土地の耕作のように生産手段に直接働きかける労働が中心だった。ところが、産業社会になると、言葉を使う意思交通が人々の労働を左右するようになる。機械操作を行うには操作の手順書が理解できねばならない。職場で働くには業務内容や職務規程が理解できねばならない。それゆえ、産業化した社会では、誰もが共通の言語を読み書き話す能力を持っていなければならない。多数の人々が共通語や標準化された知的・技術的能力を習得するには、大規模な教育制度が必要である。その教育制度を整備し得るのは、政府以外にない。政府は産業社会の要請に従って、教育制度を整え、共通の言語や基礎的な知的・技術的能力を人々に身に付けさせた。それによって、同一の言語を習得した人々、すなわち国民が創られた、とゲルナーは考えた。

 次回に続く。

■追記
 
 本項を含む拙稿「人権ーーその起源と目標」第4部は、下記に掲示しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i-4.htm
(紙製の拙著『人類を導く日本精神』の付録CDにデータを収録)

いわゆる「イスラム国」とオウム真理教に共通する破壊衝動・殺戮願望

2015-03-21 09:24:34 | 時事

 2月14日、私はブログとMIXIに次のように書いた。
 「2月1日ISILが日本国民に対して発したテロ攻撃宣言は、極めて独善的かつ激しく狂信的である。破壊衝動、殺戮願望に取り憑かれた異常な集団心理の表現と思われる。わが国は、仏教やヒンズー教の教えと全くかけ離れた思想でテロを正当化したオウム真理教の事件を経験している。宗教的な文言によって破壊・殺戮を説く指導者と、それに同調して集合し、サリンを撒くなどして無差別大量殺人を行う者たち。私はISILにオウム真理教と同じ異常心理を感じる。人間の心の中に潜む悪魔性が活動しているとも言える。オウム真理教は、核兵器の開発をも策謀していたようである。今後、ISILが核兵器、生物兵器、化学兵器を入手し、無差別大量殺人テロを行うことを警戒する必要がある」と。
 3月19日TBSテレビのニュース番組で、元アメリカ海軍長官で、テロ対策の専門家リチャード・ダンジグ氏が、「『イスラム国』の聖戦を掲げるテロリスト組織に目を向けると、麻原の考えとは違えど若者には同じような現象が起きているのでは」と語った。
 ダンジグ氏は、オウム真理教のサリン製造に深くかかわった土谷正実死刑囚と中川智正死刑囚に20回にわたって面会し、兵器開発に至る詳細な報告書を作成した。それによると、オウムは70トンものサリンの製造が可能な段階になっていたという。地下鉄サリン事件で使われたサリンは10Kgだった。70トンはその7000倍である。またオウム真理教は、純度90%のサリンを製造し得るレベルにあったという。
 もし、オウムのサリン大量生産計画がそのまま実行され、東京都心で高純度のサリンが何トンも噴霧されていたら、我が国は皇室、首相、政府職員、国会議員を含む多数の人命を失い、潰滅的な被害を受けていただろう。恐るべき破壊衝動、殺戮願望がオウム真理教という形を取って、活動していたのである。だが、麻原彰晃らの悪魔的な計画は、すんでのところで防がれた。それによって、日本と日本人は守られた。私は、そこに人間を超えた意志の働きを感じる。
 先に書いたように、今後、ISILが核兵器、生物兵器、化学兵器を入手し、無差別大量殺人テロを行うことを警戒する必要がある。破壊衝動、殺戮願望を以て世界各地から集結するテロリストのたくらみを打ち砕き、平和と安全を確保するために、最善の努力を行おう。
 以下は、関連するTBSニュースの記事。

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●TBSニュース 

オウム・サリン大量生産計画「70トン製造可能」、純度90%も

 甚大な被害を出したオウム真理教による生物・化学兵器を使った無差別テロ。その回数は実に20回にもおよびました。地下鉄サリン事件から20年が経とうとするなか、オウムによる「化学兵器・サリンの大量生産計画の詳細」が明らかになってきました。
 「数人の作業者がトラックをサリン気化用に改造しました」(中川智正死刑囚)
 元オウム真理教信者・中川智正死刑囚が描いたイラスト。20年以上前、教団が初めて改造したというサリンをまくトラックを描いたものです。オウムが起こしたテロで繰り返し使われた化学兵器・サリン。JNNが入手した写真には、ガスマスク姿の警察官が持つサリンの袋が写っています。
 地下鉄サリン事件の実行犯・林郁夫受刑者が、地下鉄の電車内に持ち込み捜査をかく乱する目的で、オウムとは無関係の新聞・赤旗で包んでいました。純度は35%、不純物が混じり、色は茶色です。しかし、毒性は強く、甚大な被害を出しました。
 「中川死刑囚は手紙を送ってくれた。正確な図面やその修正があった」(オウムのテロ兵器開発を調査 R・ダンジグ氏)
 元アメリカ海軍長官で、テロ対策の専門家リチャード・ダンジグ氏。サリン製造に深くかかわった土谷正実死刑囚と中川智正死刑囚に20回にわたって面会し、兵器開発に至る詳細な報告書を作成した人物です。
 「中川死刑囚は初めから私たちが何を知りたいか理解していました」(オウムのテロ兵器開発を調査 R・ダンジグ氏)
 報告書には、90年3月からの5年間でオウムが企てた20回にも及ぶテロの詳細が書かれています。サリンの開発を主導していたのは土谷死刑囚です。
 「土谷死刑囚は緻密で化学者としても成熟していた」(オウムのテロ兵器開発を調査 R・ダンジグ氏)
 93年7月、土谷死刑囚はサリンの生成に成功。最初の標的は、創価学会の池田大作名誉会長でしたが、2度にもわたるサリンの攻撃は失敗しました。
 そして、死者8人、負傷者600人以上の被害を出した松本サリン事件が起きます。中川死刑囚が描いた事件で使われたトラックのイラストには、ファンを含む気化装置が。最初のものより改造がさらに進んでいたことがわかります。使われたサリンの純度は70%。高い純度のサリンが作られていたといいます。
 「土谷死刑囚の実験棟では、純度90%のサリンを製造可能でした」(オウムのテロ兵器開発を調査 R・ダンジグ氏)
 そして、翌年の3月20日、死者13人、負傷者6286人を出した未曾有の無差別テロ・地下鉄サリン事件が発生。使われたサリンは10キロにも満たず、小さな実験施設で作られたものでした。しかし実は、オウムは別の巨大なサリン製造プラント建設にも着手していたといいます。
 「サリンを何トン単位で作って、都心にまくという計画があった。少なくとも地下鉄サリン以上の被害が出ていたのかもしれない」(元警視庁科学捜査研究所 服藤恵三さん)
 オウムの化学兵器を詳細に分析した元警視庁科学捜査研究所の服藤恵三さん。
 「反応タンクから配管、そういうものも全部手作りで作っている。素人のグループが作ったとは思えない程よくできていて非常に驚いた」(元警視庁科学捜査研究所 服藤恵三さん)
 巨大プラントのあった第7サティアンでは、サリンは5つの工程で製造されていたといいます。中は配管が複雑に入り組み、最終工程の反応釜で確認されたのがサリンの残留物でした。
 「これでサリンを一度は(プラントを)動かして、作ったことが分かった」(元警視庁科学捜査研究所 服藤恵三さん)
 しかし、付近の土からサリンの残留物が検出されたことが報道され、第7サティアンでの製造は中止されました。
 「彼ら(中川・土谷死刑囚)は70トンのサリンを製造可能だと話した」(オウムのテロ兵器開発を調査 R・ダンジグ氏)
 20年以上前、化学兵器の大量生産を計画していたオウム真理教。報告書をまとめたダンジグ氏は、化学兵器によるテロの脅威は、今、より高まっていると警鐘を鳴らします。
 「『イスラム国』の聖戦を掲げるテロリスト組織に目を向けると、麻原の考えとは違えど若者には同じような現象が起きているのでは」(オウムのテロ兵器開発を調査 R・ダンジグ氏)
(18日23:22)
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関連掲示
・拙稿「いわゆる『イスラム国』の急発展と残虐テロへの対策
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12w.htm
・拙稿「日本赤軍の重信房子・よど号犯とオウム真理教の危険なつながり」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion07.htm
 目次から16へ

講演「日本精神を復興し、亡国憲法の改正を」3

2015-03-20 08:54:06 | 憲法
(8)改正要件
 現行憲法は、改正要件が非常に厳しい。GHQは簡単に改正できないようにしたものと思われる。

第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 この改正要件は、世界的に見て極めて厳しいものである。米国は、上下両院の3分の2以上の賛成で発議し、アメリカ全州の4分の3以上の州議会の賛成で改正。国民投票はない。ドイツは連邦議会・連邦参議院両方で3分の2以上の賛成だけで改正できる。フランスは国民議会と元老院両院でそれぞれ過半数の賛成で発議し、国民投票において有効投票数の5分の3以上で改正となる。わが国は、国会両院の総議員の3分の2以上の賛成で発議することに加えて、国民投票を実施しなければならないので、条件が厳しい。そこで、まず96条を改正し、憲法改正をしやすくするようにするのがよいという意見もある。
 改正においては、発議要件を衆参各議院の「2分の1以上」などと緩和することが必要である。

●改正への取り組み

 わが国は、こうした欠陥の多い憲法を、後生大事に押し頂いて来た。その結果、深刻な危機に陥っている。
 世界の国々は、時代の要請に即した形で憲法を改正している。主要国を見ても、戦後の改正回数は、アメリカが6回、フランスが27回改正している。敗戦国でわが国と比較されることの多いドイツは憲法ではなく基本法というが、58回も改正を行なっている。
 安倍首相は、第1次安倍内閣で、平成19年(2007)に、憲法制定後60年も放置されてきた憲法改正国民投票法を成立させた。第2次安倍内閣では、昨年6月、国民投票法の改正を行った。それにより、ようやく国会が憲法改正を発議する環境が整った。国民の立場としては、戦後初めて、国会の発議を受けて、国民投票で憲法改正を決するという手続きが具体化したわけである。
安倍首相は、憲法改正は自分の「歴史的使命」とし、憲法改正に意欲を示している。自民党は今年秋の臨時国会で最初の改憲項目を絞り込み、来年の通常国会に憲法改正原案を提出、参院選後で改憲勢力が多数を占めれば、秋の臨時国会で憲法改正発議を目指す。発議から6か月以内に国民投票を実施する日程案である。このスケジュールで行くと、来年秋か再来年春までに国民投票が実施されることになる。
 現状では一気に憲法の全部を改正するのは難しく、改憲の必要性の高い重要項目に絞って、最初の改正を行うことになるだろう。本日話したポイントは、主な検討点となるだろう。
 国会の現状は、平成26年12月の衆議院総選挙で当選した議員のアンケートでは、84%が憲法改正に賛成している。最も改正すべき項目は、1位が96条、2位が9条、3位が緊急事態条項の新設、という答えだった。一方、参議院は発議に必要な議席に、自公で27議席不足、改憲賛成の野党議員を加えても7議席不足する。来夏の参院選で改憲賛成の圧勝するのでないと、両院総議員の3分の2以上で発議というハードルを越えられない。憲法改正に向けて、国民の意識を高め、また理解を深めていく必要がある。

●日本精神を復興して、亡国憲法を改正しよう

 憲法改正による日本再建には、日本精神の復興が必要である。押し付けられた憲法を改正して、日本の伝統・文化・国柄に基づく憲法を、日本人自身の手で創り出せるように、人々が日本精神を取り戻すことが求められている。
 現行憲法は、国民主権を謳い、憲法の改正は国民投票の過半数で決すると定めている。憲法について、最終的な判断をするのは、一人ひとりの国民である。日本の将来のため、子供や孫のために、私たちには正しい選択をする責任がある。国民一人ひとりが日本の現在と将来を考え、積極的に選挙や国民投票に参加するように働きかける必要がある。
 昨年6月に改正された国民投票法によって、国民投票権は当面20歳以上とし、4年後から18歳以上に引き下げられる。年齢を引き下げることで、青少年の教育が一層重要となる。日本人としての誇り、伝統・文化・国柄への理解、正しい歴史認識、国民としての道徳心等を育てる必要がある。
 憲法改正による日本の再建のために、日本精神を取り戻そう。

 講演では、わが生涯の師にして神とも仰ぐ大塚寛一先生の言葉を多く紹介したが、ここでは割愛した。大塚先生と真の日本精神を伝える運動については、下記のサイトをご参照ください。
http://www.nsfs.jp/sousai_sousai.htm

関連掲示
・拙稿「日本国憲法は亡国憲法――改正せねば国が滅ぶ」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion08c.htm
・拙稿「日本再建のための新憲法――ほそかわ私案」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion08h.htm