ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

旅客船沈没事故が韓国・朴政権を揺るがす

2014-04-30 09:30:14 | 国際関係
 4月16日韓国全羅南道の珍島沖合で、旅客船「セウォル号」が事故により沈没した。事故の犠牲者は死者・行方不明者合わせて300名以上となった。事故発生より2週間が経過するなか、懸命な捜索が続けられている。犠牲になった方々及び遺族の方々に、お悔やみを申し上げるとともに、行方不明者の一日も早い救出をお祈りする。
 この旅客船沈没事故で、韓国の警察・検察の合同捜査本部は、これまでにイ・ジュンソク船長や事故当時に操船していた3等女性航海士、船の航行に直接かかわる乗組員11人を逮捕した。彼らは、乗客を見捨てて、自分は沈みゆく船から逃げ出したというから、あきれるほかはない。乗客救助という職業的な義務の意識がないだけでなく、極めて利己的な行動をとったものであり、私はその背景に現在の韓国社会の病理の存在を感じる。
 なかでも、経歴の浅い3等航海士に操縦業務を任せ、いち早く沈没現場から逃げたイ船長の無責任さには、非難が集まっている。救助の際、船長は自ら船長であることを名乗っていなかったという。検察は、最高刑が無期懲役の特定犯罪加重処罰法(船舶事故逃走罪)を適用した。
 イ船長の10年前の発言が、波紋を広げている。それは、2004年元旦付の韓国・済州島の新聞のインタビュー記事である。その中でイ船長は「初めて乗った船が沖縄近海で転覆し、自衛隊がヘリコプターで救助してくれた。あの時、救助されなかったら、今の私はなかった」と語った。そのうえ、先のインタビューでは、台風など危険な時について、「人とはずる賢い。だが、危機を乗り越えればそんな思いは消える。それで私は今日まで船に乗っている」と語っていたという。遺族の怒りは収らないだろう。
 沈没原因については、第1に、高速航行中の急な針路変更にあることが挙げられる。セウォル号は沈没直前に、ほぼ全速の19ノット(時速約35キロ)で、右に90度急旋回しているという。 第2に、現場は韓国でも有数の潮流の速い海域だが、その難所を経験1年余りという3等航海士が操船していた。未熟な操船技術が急旋回に至ったと見られる。
 第3に、船会社は日本から中古の船を購入した後、収容人員を増やすために5階部分を追加する形で改造していた。貨物や旅客が高層階に収容されることで航行中の船体の重心が変わり、航行が不安定になっ模様である。
 これらに加えて、救助訓練をしていなかったこと、規定の3倍もの過積載だったこと、コンテナをチェーンでなくロ-プで縛っていたこと、操舵装置に異常があったこと等が報じられている。これらいくつもの複合的な要因によって、韓国史上最悪の沈没事故が引き起こされた可能性が高い。
 事故発生後、わが国は、すみやかに韓国政府に捜索支援を申し出た。海上自衛隊の掃海艇やダイバーなどを派遣する準備を進めていた。だが、韓国政府はこの申し出を拒否したと伝えられる。朴槿恵(パク・クネ)大統領が先頭に立って反日的な言動をエスカレートさせている今の韓国では、たとえ多数の国民の生命が危険にさらされている状況であっても、日本の手は借りたくないということだろうか。 
 今回の旅客船沈没事故は、社会の安全重視を掲げている朴政権に打撃を与えていると伝えられる。事故に関する韓国政府関係者の不適切な言動や事故状況の把握をめぐる不手際、発表内容の相次ぐ訂正等も、国民の不信を買っている。
 韓国各紙は「韓国は『三流国家』だった」「国民が不信の烙印(らくいん)を押した“じたばた政府”」などの見出しを掲げた記事を相次いで掲載し、政権の対応を批判している。朝鮮日報は、「国民は政府関係者の事故対応能力がいかに低レベルかを改めて知った」と書き、朴政権が日本の総務省に近い役割とされる「行政安全省」を国民の安全が最優先との方針から「安全行政省」に変更したにもかかわらず、「このざまだ」と批判したと伝えられる。
 最も驚くべきことは、事故が起こって船が沈没しつつあるときに、「全員が救助された」という報道が複数のテレビ局のニュースで流れたことである。そのため、救助の現場は混乱し、救助に重大な支障が出た。激しく傷ついたのは、遭難者の家族だった。全員救助と伝えられて歓喜し、安どしていたところに、実際は全く違っていたのだから、衝撃のほどは計り知れない。
 韓国史上最大の海難事故で、これまで反日政策で6割台を維持してきた朴政権の支持率が急落している。27日韓国ナンバー2の鄭●(=火へんに共)原首相が、緊急記者会見し、事故への政府の対応に問題があったとして、責任を取って辞職する意向を表明した。朴大統領は慰留している。大統領は事故後、約2週間たって初めて謝罪の意を表した。だが、国民の多くは納得していない。今後、朴政権が政権への信頼を回復できるのか、政権がさらに大きく揺らぐことになるのかは、国家最高責任者である朴大統領自身の対応によるだろう。
 韓国に必要なことは、他の国の過去の事柄をあげつらって責めたてることではなく、自国の実態を謙虚に見つめ、国民の道徳心を立て直し、基本的な順法精神を養うことだろう。
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オバマ大統領が韓国で慰安婦問題に発言

2014-04-29 12:26:54 | 慰安婦
 4月下旬アジア諸国を歴訪したオバマ大統領は、25日日本での予定を終えると韓国に入り、朴槿恵(パク・クネ)大統領とソウルで会談した。会談後の共同会見で、オバマは慰安婦問題について、えらく踏み込んだ発言をした。オバマは「恐るべき人権侵害の行為だ。戦争中の出来事とはいえ、ショックを受けている」と述べた。「何が起きたのか正確で明快な説明が必要だ」とし、元慰安婦の女性らが日本政府による法的責任の認定や賠償を求めていることについて、「元慰安婦らの主張は聞くに値し、尊重されるべきだ」と語った。またオバマは「過去を正直かつ公正に認識しなければならない」と強調し、「安倍首相や日本国民もそのことを分かっているはずだ」と述べた。これは安倍首相が河野談話の見直しを否定していることを念頭に置いた発言だろう。
 オバマは「未来を見ることが日本と韓国の人々の利益だ」と話し、日韓の双方に前向きな対応を促した。これに対し、朴大統領は、元慰安婦の女性らが高齢となっていることなどを指摘し、日本に対して「誠意のある実践が必要だ」と述べ、早急な対応を促した。
 米国大統領が公の場で慰安婦問題について、このように踏み込んだ発言をしたのは初めてである。しかも、発言は大統領が韓国を訪問し、韓国首脳と行った共同記者会見におけるものゆえ、オバマ発言は重い。韓国側は、オバマ発言を政治的・外交的に利用し、わが国に一段と攻勢をかけてくるだろう。韓国では26日付の各紙が、オバマ発言を高く評価する記事を書いた。中央日報は、「安倍政権の歴史認識に直撃弾となった」と書いた。朝鮮日報は、「現職の米大統領が国賓としての訪日を終え、その日のうちに訪韓して慰安婦問題を直接、口にしたことについて、外交関係者の間では『異例の批判』という意見が出ている」と伝えた。東亜日報も「米大統領が慰安婦問題に直接言及したこと自体が初めてで、今後の韓日関係に与える影響が注目される」としたと伝えられる。
 朴政権のもと、韓国は慰安婦問題を国際的な反日宣伝に徹底的に利用している。これに対し、わが国の政府は取り組みが浅く、特に肝心の河野談話の見直しについて消極的である。オバマ大統領に対しても、事実関係に基づく説明や資料提供ができていないのだろう。慰安婦に関するオバマ発言を招いたのは、痛恨の出来事である。
 以下は、関連する報道記事。

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●産経新聞 平成26年4月27日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140426/amr14042623030004-n1.htm
オバマ氏訪韓、「慰安婦」言及で朴大統領に配慮 日韓仲介役には疑問符
2014.4.26 23:03 [韓国]
 【ソウル=小雲規生、名村隆寛】オバマ米大統領は26日、日本に続く韓国訪問を終えた。日本では尖閣諸島(沖縄県石垣市)、韓国では慰安婦の問題に言及して双方が重視する問題に理解を示した形だ。しかし、韓国では「安倍政権の歴史認識に直撃弾」(26日付中央日報)などとオバマ氏を持ち上げる見方が続出。「仲介役」を果たすはずだった日韓関係改善には疑問符がついた。
 オバマ氏は韓国の朴槿恵(パククネ)大統領との共同記者会見で、歴史認識に関する韓国メディアの質問に答える形で、「甚だしい人権侵害だ」などと、自ら慰安婦問題に言及した。「強制性」には触れなかったほか、「何が起きたのか正確で明快な説明が必要だ」とも述べた。
 しかし、朝鮮日報(26日付)は、「現職の米大統領が国賓としての訪日を終え、その日のうちに訪韓して慰安婦問題を直接、口にしたことについて、外交関係者の間では『異例の批判』という意見が出ている」と伝えた。
 東亜日報(同)も「米大統領が慰安婦問題に直接言及したこと自体が初めてで、今後の韓日関係に与える影響が注目される」とした。
 オバマ氏は今回の訪問で日韓双方に配慮を示し、両国の関係発展を目指す狙いだったとみられるが、韓国ではオバマ氏の発言を踏まえ、朴氏の主張に「共感したとみることができる」(東亜日報)との解釈も出ている。
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関連掲示
・拙稿「河野談話見直しを求める署名が政府に届けられた」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/ad7f69074a004caeb8597acc99dd824b
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4・28政府主催の主権回復記念式典の継続を

2014-04-27 09:53:59 | 時事
 わが国は、敗戦後、約6年8か月という現代世界史上、異例に長い占領期間を経て、昭和27年4月28日、晴れて独立を回復した。この4月28日を「主権回復記念日」にしようという運動が、平成9年から続けられている。今年でまる17年になる。
 この運動の発起人は拓殖大学名誉教授の井尻千男(かずお)氏、東京大学名誉教授の小堀桂一郎氏、明治大学名誉教授の入江隆則氏の三氏である。私は、この運動を知った平成11年より微力ながら国民同胞の啓発に努めてきた賛同者の一人である。
 主権回復記念日運動は、年々賛同者が増えてきた。賛同の輪は、国会議員の間にも広がり、平成23年8月、自民党の「4月28日を主権回復記念日にする議員連盟」(野田毅会長)は、4月28日を祝日にする祝日法改正案を衆院に提出し、サンフランシスコ講和条約発効60周年にあたる24年からの施行を目指したが、これは実現しなかった。その後、まずは式典を定例化することから始めようという取り組みがされ、昨年4月28日に政府は「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」を開催した。式典は天皇・皇后両陛下がご出席され、ご退出の際には聖寿万歳の三唱がされた。
 昨年政府主催の「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」は、この年限りの開催の予定だと伝えられた。それでは60年目の年にできなかったことを、1年遅れで行ったというだけのこととなる。そもそも4月28日の重要性を啓発する運動の目的は、この日を「主権回復記念日」にし、また国民の祝日にして、毎年意義ある行事や活動をしようというところにある。その主旨を再度確認し、政府主催の式典開催を継続し、祝日化を推進すべきである。
 小堀氏らが「主幹回復記念日」を提唱した当時の呼びかけ文によると、昭和20年8月15日は終戦の日ではない。その日に終わったとされるのは、彼我の間の戦闘状態にすぎない。「法的現実としての真の終戦の日は、軍事占領から完全に解放された昭和27年4月28日である」。4月28日は、わが国とその敵国であった連合国との間に結ばれた平和条約が効力を発生した日付である。「従って国際法的に本来の意味での大東亜戦争終戦の日である」。また同時に、「それまで旧敵国支配下の被占領国であった我が国が晴れて独立自存の国家主権の回復を認められた日付」である。「その日、我が国は、連合国による被占領状態が解消し、国家主権を回復した」のである。
 ところが、日本国民は、わが国の終戦手続き中の最重要案件であった国家主権の回復を、それにふさわしく認識し自覚しなかった。そして、この重要な日を然るべく記念することをせずに、「歴史的記念の日の日付」を「忘却」している。そして、「毎年8月15日のめぐり来るたびに、東京裁判の判決趣旨そのままに、過ぐる戦争への反省と謝罪を口にし、5月3日ともなれば占領軍即席の占領基本法たる1946年憲法への恭順を誓う」。こういうことを繰り返している。そのため、政府も国民も、ますます主権国家としての認識を欠き、主権意識の自覚を欠いている。それは、講和条約の締結によって、被占領状態が終ると共に、戦後処理は基本的に終結したという認識を欠くためである。
 それゆえ、小堀氏らによると、国民が記念すべき日は8月15日ではなく、4月28日である。8月15日は、敗戦による戦闘状態の終結と軍事占領時代の開始の日である。これに対し、4月28日は、連合国との講和条約が発効し、被占領状態の終結と独立の国家主権の回復の日だからである。そして、氏等は、「主権意識の再生と高揚」を推し進め、4月28日を、アメリカにおける独立記念日に当たるような国家的な記念日に制定しようと唱えているのである。
 私は、主権回復記念日運動を進める方々が、主権とその回復の重要性を指摘していることには、異論がない。ただし、名称と意義付けは、今のままでは一部の人には混乱を与え、多くの人には中途半端な印象を与えると思う。昭和27年4月28日における「国家主権の回復」とは、部分的限定的回復に過ぎない。この日は、そこから全面的回復に向かうためのスタートとなった日であって、それ以上ではない。
 憲法を改正して自主憲法を制定すること、自力で自国の国防を行う国軍を持つこと、不法占拠されている領土を回復すること。これらを成し遂げてはじめて、「国家主権の確立」と言える。4月28日は主権の回復をし終えたことを記念する日ではなく、主権の部分的回復を祝うとともに、主権の全面的回復という課題を確認し、主権の確立を決意する日とすべきと思う。昨年の政府主催の式典を一回だけに終わらせず、4月28日の意義を国民に知らしめ、国民の祝日である国家的な記念日とする運動を推進すべきである。
 今月25日主権回復記念日運動の提唱者の一人、小堀桂一郎氏が産経新聞の「正論」に、主権回復記念日運動に関する寄稿をした。参考に転載する。

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●産経新聞 平成26年4月25日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140425/plc14042503260004-n1.htm
【正論】
独立主権国家の尊厳を守る方法 東京大学名誉教授・小堀桂一郎
2014.4.25 03:26

 昨平成25年の4月28日、政府は対連合国平和条約発効61年目の記念日といふ動機で、夙(つと)に自ら主唱してゐた「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」を、憲政記念館を会場として開催した。式には畏(かしこ)くも天皇・皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、御退出に当つては聖寿万歳の三唱を以て御送り申し上げるといふ思ひ入れの深さを見せた。

主権回復記念日を控えて
 さうであれば、同じ主旨の式典が本年も第2回として行はれるか或(ある)いはむしろ今後恆例として政府主催で続けることにする、との宣言でも出されるかと期待してゐたが、その音沙汰はなかつた。又平成23年8月に、自民党の若手議員達が中核となつて結成した「4月28日を主権回復記念日にする議員連盟」が、その初志貫徹の意氣を見せてくれる動きもあるのではないかと見守つてゐたが、それらしき聲も一向に聞えてくる様子がないのはどうしたことであらうか。
 政府・政界の熱意の後退とは裏腹に、民間有志による「主権回復記念日国民集会」は平成9年の第1回以来連年欠かさず、この記念日を国民の祝日とすべく祝日法の一部改正を求めるといふ要望を訴へ続けて本年で満17年、記念集会は第18回の開催となる。辛抱強く続けてゐるものだと自讃したい氣持もあるが、翻つて言へば、20年近く世に訴へ続けてゐても、なほその目的達成の目途もつかない無力な運動体でしかないのかとの嘆きも亦(また)しきりである。
 毎年の集会の盛況を見れば、この運動に対する国民の支持と賛意は紛れのない確かなものであり、立法の府の内部にもあれだけの賛同者がゐたはずであるのに、本年はこの運動に対する政・民の姿勢の間に何か乖離(かいり)の氣配が見える。
 国家主権の尊厳を認識し、現実に回復することの緊要度は、減ずるどころか高まる一方であり、むしろ今日現在ほど広く国民一般に主権意識の確立が強く求められる時期は近年に稀である。
 国民集会が参加者全員一致の要望として連年訴へ続けてゐる諸問題とは、即ち隣国による我が領土領海侵犯事例への厳正な対処、被拉致同胞全員の救出、総理及び内閣々僚の靖國神社参拝に向けての無礼極まる内政干渉を断乎拒否すべきこと、歴史認識に関はる教科書編纂には我が国が文字通りに主権不可侵の認識を貫いて臨むこと等々、此等(これら)の懸案はこの運動の開始以来、連年の訴へにも拘らず何一つ十分な解決を見てゐない。
 それどころか近年は韓国が戦時慰安婦の存在を種に、中国が今なほ性懲りもなく、昭和12年の南京陥落時の市民の受難といつた、共に事実無根の言ひがかりをつけ、我が国の過去に向けての誹謗中傷を蒸し返してゐる。

国家としての矜恃欠く
 悪質な政治宣伝以外のものではないこの様な挑発に対し、我が国の外交当路者の対応はあまりにも紳士的にすぎる。それは実は主権国家としての矜恃を欠いた、戦争責罪意識に囚(とら)はれ続けてゐる卑屈さとしか映らない。国民はその低姿勢ぶりに、もどかしいといふよりはむしろ居堪まらない屈辱の思ひに駆られてゐる。輓近(ばんきん)民間言論人の対韓・対中論策にともすれば過激な反撥の語調が見られる様になつたのは、この嫌悪感情の反映として無理からぬものである。
 「戦後体制からの脱却・日本を取り戻す」、昔ながらの強く美しい国としての日本を取り戻すといふ現政権の掲げる政治目標実現の意欲に緩怠が生じたとは思ひたくないのだが、何か氣がかりな昨今である。我々は今喫緊の国家的課題として自主憲法の制定といふ極めて具体的な案件を抱へてゐる。
 やがて我々が持つべき自主制定憲法の最重要原理は、一言にして言へば独立主権国家の尊厳を守るといふ一事に尽きる。米軍の占領政策基本綱領に過ぎない日本国憲法を読んでみれば、前文に於いて主権の維持を謳ひながら9条2項で国の交戦権を認めないといふ矛盾を冒し、前文の内部だけ見ても、そこに用ゐてゐる主権概念は日本国民の歴史に基礎を持たぬ、アメリカ合衆国の特殊な時期の政治宣伝文書を下敷として定義されてゐるといふ醜悪な矛盾がある。

自主憲法のもと難問解決を
 かうした諸矛盾をその都度毎の政治的必要から出た詭弁(きべん)で糊塗(こと)しながら70年の戦後史の歳月が過ぎてゐる。この間に我が国が辛うじて法的に独立を保つてきたのは冷戦といふ国際政治の暗闘が展開する修羅場の余白の如き位置に居たことによる。自らの力によつての主権維持であつたと自負することはできない。そしてその余白は今や中華帝国の復活を企む覇権主義的膨張政策の刷毛(はけ)で塗り潰され、我が国の安全保障をそこに托せる様な空間ではなくなつてゐる。
 焦眉の課題となつてゐる自主憲法の制定、その新憲法に足を踏まへた形での安全保障体制の充実と民生の安寧、そしてそれら全ての上に立つ皇室の永世の御安泰のための法整備。かうした多数の難問解決の大前提として、国家主権意識の確立は必須の条件である。4月28日といふ主権回復記念日を控へての痛切な感慨を一言記す。(こぼり けいいちろう)
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人権93~ボダンの主権論

2014-04-26 08:45:39 | 人権
●ボダンの主権論
 
 ここで絶対王政に関する主権の理論について述べたい。16世紀前半、宗教改革の旗手ルターは、カトリック教会を厳しく批判する傍ら、王権については、神授なるがゆえに人民の抵抗を許さない絶対のものと説いた。ルターの同時代のイタリアの政治思想家マキャベリは、『君主論』で、国家の君主は、平和を招来し維持するため、狐の策略と獅子の勇気を以て権力を行使すべきである、と説いた。そして、その世紀の後半、国家には最高の権力が存在しなければならないとして、国家と主権を制度論として論じる思想家が、フランスに現れた。それがジャン・ボダンである。
 当時フランスでは、国王への中央集権化が顕著に進んでいた。だが、宗教改革によってユグノー戦争が起こり、カルヴァン派プロテスタントとカトリック派が争っていた。この戦争を収拾するため、ボダンは、国王を中心として、分裂した国家の統一を図ろうとした。そして、国家の権力を確立することを目指して執筆したのが、『国家論』(1576年)である。
 ボダンは『国家論』において、神意実現のために国家の最高絶対権を説いた。目的は人民の自由と財産を守ることである。国家権力の主体は、国王という個人ではなく、主権という制度概念だった。ボダンは、対外的な意味における主権を「国家の絶対的で永続的な権力」であると定義した。国家は自らの国法を定め、他の権力に従うことなく、独立して国政を行うことができるということである。国内的な意味における主権は、ラテン語版の『国家論』で「市民や臣下に対して最高で、法律の拘束を受けない権力」と定義した。
 ボダンは、「主権的支配者」の上に立つ「世界中のすべての支配者に対する絶対的支配者」である神の存在を強調した。国家における「最高の力」の持ち主も、神の命令である神法・自然法には従わねばならず、それに違反すると、神罰が下る。君主が自らの自由意志に基づいて法律を作っても、神法・自然法に合致しないものは、法律としての有効性を持たないとした。そして、「人民が君主の法律に服し、君主が自然法に服して、人民の自然的自由と財産の所有権を保障する」という政治が「正しい統治」であると説いた。
 ボダンの理論は、国家主権を理論的に強化すると同時に、制約もするという二面性を持っていた。ボダンは、無制約の主権を説いたのではなく、主権者を制約するものとして神法・自然法、契約、慣習法を挙げた。制約条件があるということは、ボダンの説く主権は、絶対的なものではなく、相対的なものだったことを示している。相対性の中での最高性を強調することが、ボダンの主張だったといえよう。
 彼の時代は、アンリ3世の治世だった。国王は、彼の思想に従って政治を行ったわけではない。公式にはカトリックだったアンリ3世は、プロテスタントに改宗を強要したり、逆に過激なカトリックから反発されたりした。宗教内戦の解決を図りながら、最後はカトリックの修道士によって暗殺された。主権の担い手である国王が絶対的支配者でないことは、その事件にも現れている。
 ボダンの死後、ウェストファリア条約で、諸侯の主権が確立された時、フランスでも国王の主権が制度的に確立された。ブルボン家は、神聖ローマ帝国が死に体となった西欧で、覇権を目指した。そして、フランスの絶対王政は、18世紀後半に絶頂に達した。国王はボダンが考えた制約を無視して、権力をほしいままにした。その頂点に立つのが、「朕は国家なり」の句で名高いルイ14世である。
 絶対王政は、これに反発する市民の蜂起によって倒された。主権は国王から国民の手に移った。国王を倒し、新たな主権者となった国民は、ボダンが君主に対して示したような制約を、顧みることはなかった。市民革命後の国家にあっては、キリスト教の神もキリスト教的な神法・自然法も、もはや主権と結び付けられることはなかった。

 次回に続く。

■追記

本項を含む拙稿「人権ーーその起源と目標」は、第1部を下記に掲示しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i.htm
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安倍=オバマの日米首脳会談で一定の成果

2014-04-25 11:33:49 | 国際関係
 4月24日、東京で安倍首相とオバマ大統領が日米首脳会談を行った。会談後、両首脳は共同記者会見を行った。尖閣諸島防衛、集団的自衛権行使を含む安全保障の案件では、わが国は大きな成果を上げた。TPP交渉では、安易な妥協をせず、タフな交渉を続けている。本日25日には一定の結論に達し、日米共同声明が発表される見通しである。
 資料として、24日の首脳会談までの段階における全国紙各紙の社説を以下にクリップしておく。安倍政権支持だがやや米国寄りの読売、安倍政権支持で自主傾向の産経、安倍政権に批判的でやや中国寄りの毎日、安倍政権にもっと批判的で中国寄りの朝日という色合いが論調に出ている。

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●読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140424-OYT1T50226.html
◆TPP合意へ一層歩み寄る時だ
 安倍政権の「積極的平和主義」と、米オバマ政権のアジア重視のリバランス(再均衡)政策が、相乗効果を上げることが肝要である。日米両政府は緊密に政策調整すべきだ。
 安倍首相とオバマ大統領が東京で会談し、日米同盟について、アジア太平洋地域の平和と繁栄に主導的役割を果たしているとして、一層強化する方針で一致した。
 米大統領の国賓としての来日は18年ぶりだ。安倍首相の靖国神社参拝に米国が「失望」を表明し、一時はすきま風が指摘された日米関係を立て直し、連携を国際的にアピールできた意義は大きい。

◆尖閣「安保適用」は成果
 首相は共同記者会見で「日米同盟はかつてないほど盤石だ」と強調した。大統領は「日本がさらに多くの世界の平和に貢献してくれることを期待する」と語った。
 注目すべきは、オバマ大統領が尖閣諸島について「日米安保条約第5条の適用対象となる」と初めて明言し、対日防衛義務の対象と認めたことである。日本外交の大きな成果と言えよう。
 両首脳は、自由で開かれたアジア太平洋地域に中国を関与させるために日米が連携する一方、「力による現状変更」には明確に反対する方針を確認した。
 中国は、東シナ海で防空識別圏を一方的に設定し、尖閣諸島周辺で日本の領海侵入を繰り返している。南シナ海でも、軍事力を背景に領土・海洋権益の拡張を図る動きを公然と見せている。
 中国にこうした行動の自制を求めるには、日米同盟の抑止力と実効性を高める努力が欠かせない。自衛隊と米軍の協力を強化し、今回の首脳会談の政治的メッセージを具体化すべきだ。
 年末に予定される日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの作業を加速し、日米共同対処のあり方を明確化する必要がある。

◆集団的自衛権の容認を
 在日米軍の駐留をより安定的で持続可能なものにするため、米軍普天間飛行場の辺野古移設や在沖縄海兵隊のグアム移転を進め、沖縄の基地負担を着実に軽減することも大切である。
 オバマ大統領は会談で、安倍政権による集団的自衛権の憲法解釈の見直しを歓迎し、支持した。
 憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能にすることは、日米同盟を強化するうえで、極めて有効な手段となろう。
 政府・与党は、来月の有識者懇談会の報告書を踏まえ、必要最小限の集団的自衛権に限って行使を容認する「限定容認論」の合意形成を急がねばならない。
 北朝鮮の核・ミサイル問題について、両首脳は、日米韓3か国の連携の重要性で一致した。大統領は、日本人拉致被害者の家族の代表と初めて面会し、拉致問題の解決に協力する考えを表明した。
 米国の支持をテコに、日朝協議で拉致問題の再調査を実現し、具体的な進展につなげたい。
 ウクライナ情勢について会談では、ロシアのクリミア半島編入を念頭に「力による現状変更は許されない」ことを確認した。領土問題で中国に誤ったシグナルを送らないよう、日米は欧州と協力し、平和的解決を模索すべきだ。
 オバマ大統領は日本訪問後、韓国、マレーシア、フィリピンを歴訪する。
 日米両国が、韓国や東南アジア各国と重層的な協力関係を構築し、各国の海洋監視能力を高めて、海上交通路の安全を確保することが重要だ。
 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に関しては、首脳会談で決着せず、甘利TPP相とフロマン米通商代表による閣僚協議を継続する異例の展開となった。
 日本が関税撤廃の例外扱いを求める農産品の重要5項目を巡り、大筋合意できなかったためだ。

◆自由貿易で共栄を図れ
 5項目のうち、コメ、麦、甘味作物は一定の前進があったが、牛・豚肉などは対立が続いている。大統領は「日本市場のアクセス(開放)が必要だ」と強調し、日本に一層の譲歩を求めた。
 日米双方とも、農業団体の圧力など厳しい国内事情を抱えている。だが、アジア全体の経済成長を促進して、共存共栄を図るという大局的見地から、両国が政治決断し、歩み寄る時である。
 アジア太平洋地域で高いレベルの自由貿易体制を導入するTPPの12か国による交渉の妥結には、日米両国の合意が不可欠だ。
 日米が新たな貿易・投資のルール作りを主導することは、国際的発言力を強める中国に対するけん制効果を持つという戦略的な視点も忘れてはならない。
2014年04月25日 01時59分 Copyright The Yomiuri Shimbun

●産経新聞

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140425/plc14042503340005-n1.htm
【主張】
日米首脳会談 同盟深化で抑止力強めよ TPP合意先送りは許されぬ
2014.4.25 03:34

 「尖閣」という日本が直面する具体的な危機を前に、日米両国の強い絆が改めて確認された。今回の日米首脳会談を同盟再強化の契機として評価したい。
 それを最も強く印象付けたのは、「尖閣諸島も含め、日本の施政下にある領土はすべて、日米安保条約第5条の適用対象となる」というオバマ大統領の共同記者会見での発言である。
 米大統領が公の場で尖閣への安保適用を明言したのは初めてで、その発言の意味は重い。
 一方、大筋合意を目指していた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉が、首脳会談で決着せず、共同声明の発表も25日以降にずれこんだことは残念だ。

≪「安保適用」の意味重い≫
 安保、経済を通じた日米協力を実現する努力をさらに重ねなければならない。
 安保条約第5条は、日本の施政下にあるすべての領土について、米国の防衛義務を明記している。尖閣諸島をめぐり中国が日本に武力行使した場合、米軍は自衛隊とともに戦うという規定である。
 尖閣諸島の領有権を主張し、公船で挑発行為を繰り返し、一方的に防空識別圏を設定している中国に対し、大きな抑止力となる。大統領発言に対し、中国外務省は「(尖閣を)安保条約の範囲に入れることに反対する」と直ちに反発した。
 米側の明確な意思表明を受け、安倍晋三首相は「日米同盟は力強く復活した。同盟はかつてないほど盤石だ」と語った。揺るぎない同盟を内外にアピールできた成果は大きい。それは、日本が自ら取り組むべき課題の重要性を、より明確にしたともいえよう。
 首相は集団的自衛権について、政府の有識者懇談会での議論の状況を説明し、「日米同盟を有効に機能させるために(解釈改憲による行使容認を)検討している」と述べた。大統領は安倍政権の取り組みを「歓迎し、支持」した。
 大統領自らの発言を受けて、安倍首相は行使容認に向けた政府与党内の議論をさらに加速する必要がある。
 安保条約の尖閣への適用や集団的自衛権行使に関する大統領の発言は、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への強い牽制(けんせい)にもなる。
 日米の共同対処能力を高める上でも極めて大切だ。
 自衛隊と米軍の役割や協力のあり方を定める日米防衛協力の指針(ガイドライン)を年末までに見直すが、その中身にも大きく影響する。行使容認は同盟再強化への日本の覚悟を示すものとなる。
 漁民を装った海上民兵による尖閣への不法上陸などに備えられるよう、防衛出動に至らないグレーゾーンと呼ばれる事態に対処する領域警備法の整備も急務だ。

≪まず集団自衛権容認を≫
 日米の対立で停滞していたTPP交渉にとって、首脳会談はこれを前進させる絶好の機会だった。このまま両国が合意できず、交渉全体の先行きが見通せなくなることは避けなければならない。
 両首脳は、日米の溝を埋めてTPP交渉を早期に妥結させるよう甘利明TPP担当相と米通商代表部(USTR)のフロマン代表に指示した。当然である。それぞれの国内事情を乗り越えて事態の打開を図ることは、交渉を主導する両国の責務である。
 日米協議では一定の歩み寄りもみられた。米国は、あらゆる品目の関税撤廃を強硬に求めた従来の姿勢を改め、日本が関税維持を目指す農産品でも協議が進んだ。ただ、豚肉など一部品目で折り合いがつかなかったようだ。
 今秋に中間選挙を控えるオバマ政権は、日本市場への輸出拡大を目指す食肉業界や、日本車の輸入増に気をもむ自動車業界などからの圧力にさらされている。安倍政権も、重要品目の関税撤廃からの除外を求める国会決議があるため、安易な妥協はできない事情がある。
 とはいえ、いつまでもにらみ合いを続けるわけにはいくまい。大統領は会見で「大胆な措置をとって包括的な合意に達することができると信じている」と語った。双方の政治決断は不可欠である。
 日本にとりTPPは成長戦略の柱で、米国にとっても輸出増と雇用拡大が期待できる重要政策だ。日米主導のルール作りは存在感を高める中国への対抗手段となる。TPPも同盟深化の試金石であることを忘れてはならない。

●毎日新聞

http://mainichi.jp/opinion/news/20140425k0000m070152000c.html
社説:日米首脳会談 地域安定への重い責任
毎日新聞 2014年04月25日 02時30分

 米国が安全保障や経済の重点をアジア太平洋に移す「リバランス(再均衡)」政策に対し、実行が伴わないなどとアジア諸国の懸念が広がる中、不安払拭(ふっしょく)を狙ったオバマ大統領の日本、韓国、マレーシア、フィリピン4カ国歴訪が始まった。
 安倍晋三首相との首脳会談でオバマ大統領は、沖縄県・尖閣諸島が対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条の適用対象となることを、米国の大統領として初めて明言した。両首脳は中国の海洋進出を念頭に「力による現状変更」に反対し、アジア地域の安定に日米同盟が「主導的役割」を果たすことも確認した。

◇尖閣に安保適用を歓迎
 中国が軍備を拡張し、尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海で海洋進出を拡大させていることに対し、日米同盟の抑止力が強化されることを評価し、歓迎したい。
 会談の成果を言葉だけに終わらせないよう、日米両国はアジア地域安定にさらに力を尽くす責任がある。
 重要なタイミングでの大統領の訪問となった。
 オバマ政権は対シリア政策で迷走し、ウクライナでもロシアによるクリミア編入を阻止できず、その威信は大きく傷ついた。
 中国の海洋進出や北朝鮮の核・弾道ミサイル開発に対しても、オバマ政権は十分に対応できないのではないか。中国がロシアのように力を背景に一方的な現状変更に出た場合、オバマ政権は頼りにならないのではないか。そんな不安が日本や東南アジア諸国に急速に広がっていた。
 米国は日米、米韓の両同盟を基礎に日米韓3カ国が連携してアジアの安定を図る戦略をとってきた。ところが土台となる日米関係は安倍政権の歴史認識をめぐってきしみ、日韓関係も改善の見通しが立たない。
 一方、米国は米中が主導して世界秩序を仕切ることを連想させる「新型大国関係」構築を中国から持ちかけられ、バイデン副大統領らが一時、中国側表現をそのまま受け入れる発言をして日本側をいら立たせた。
 日本にすれば、尖閣周辺での領海侵入など中国側の挑発的行動にさらされている同盟国に対し、米国の理解は不十分に見えた。日米同盟が漂流しかねない危機感がささやかれる状況で、対中政策でも日米の緊密な連携が確認されたことは有意義だ。
 首脳会談では、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉をめぐる日米協議は決着せず、日米共同声明の発表を遅らせて、早期妥結に向けて会談後も閣僚級協議が続いた。
 対照的に安全保障分野では、安倍政権が強く求めてきた尖閣への安保条約適用を大統領が明言するなど、日本側にとって満額回答とも言える内容になった。シリア、ウクライナに続いて、中国問題で対応を誤るわけにいかないという危機感がオバマ政権に生まれたからとも言われる。
 だが、だからと言って尖閣周辺で不測の事態が起きた場合、米国が日本を守るために必ず行動すると保証されたわけではない。
 大統領は、中国が尖閣に軍事侵攻した場合の米国の武力行使の可能性を記者会見で問われて、「レッドライン(越えてはいけない一線)は引かれていない」と慎重に応じた。
 むしろ大統領は、米中の緊密な関係を強調し、日中の尖閣をめぐる対立がエスカレートするのを避け、問題を平和的に解決するよう日中双方に求めた。そして米国も外交的にできる限りの協力をすると約束した。

◇抑止と関与の両輪で
 オバマ政権は、日米が軍事的「抑止」と外交的「関与」を両輪に対中政策を進め、地域に安定をもたらしたいと考えているのだろう。
 日米同盟を強化し、中国の挑発的行動を抑止することは必要だ。だが、それだけでは十分とはいえない。中国との間で不測の事態を招かないような外交努力が肝心だ。
 その点で安倍政権の外交・安全保障政策は軍事に重きが置かれ、外交は手薄と言わざるを得ない。中国、韓国との信頼醸成がかなわない中、集団的自衛権の行使容認に突き進もうとしているのが象徴的だ。
 集団的自衛権の行使について、オバマ大統領は安倍政権の検討を歓迎し、支持する考えを示した。財政悪化による国防予算の削減もあって米国の力は低下し、日本の軍事的な役割拡大を歓迎している面はある。しかし、これで安倍政権が集団的自衛権の行使に米国の無条件支持を得たと考えるのは早い。
 米側にも日本国民の理解、近隣諸国への影響、政策の優先順位やタイミングの重要性を考慮し、慎重に進めるべきだとの意見は根強い。
 オバマ政権は、安倍首相の歴史認識に対する警戒感を解いていない。
 首相は、靖国神社参拝について記者会見で米側記者に問われ「不戦の誓い。これからも説明し理解を得る努力を重ねたい」と昨年の参拝時と同様の説明を繰り返した。これで米側の信任が得られるとは思えない。
 日本は日米同盟強化で中国に対抗するだけでなく、大局的視点に立って、アジア安定に努力する必要がある。米国はアジアへの理解を深め、メッセージや行動を間違わないよう、同盟国と緊密に連携していくことを忘れてはならない。

●朝日新聞

http://www.asahi.com/paper/editorial.html
日米首脳会談―アジアの礎へ一歩を
2014年4月25日(金)付

 極めて異例の会談だった。
 きのうの安倍首相とオバマ大統領の日米首脳会談は、環太平洋経済連携協定(TPP)の協議がととのわず、共同記者会見に合わせて共同声明を発表するにはいたらなかった。
 事前の閣僚らの折衝で大筋が詰められ、首脳はその成果を確認し合う。首脳会談のこうした通例とはかけ離れた今回のありようからは、焦点の農産品や自動車の貿易をめぐって、国益むき出しのやりとりがあったことがうかがえる。
 一方、安全保障分野に限れば、首相は大統領から、ほぼ望み通りの「お墨付き」をもらったということなのだろう。
 共同会見で大統領は、沖縄県の尖閣諸島が、日米安保条約5条に基づく米国の防衛義務の適用対象だと明言した。
 首相はまた、集団的自衛権の行使容認に向けての政権内の検討について、「大統領から歓迎し、支持するとの立場が示された」と明らかにした。
 閣僚レベルで何度も確認していることでも、大統領の口からはっきり宣言してもらう。これが尖閣周辺海域で緊張を高めている中国への牽制(けんせい)になるというのが日本政府の狙いだ。首脳会談に先立つ調整でも、そこに力点が置かれた。
 だが、オバマ大統領の発言の主眼は、日本側の期待とは少しずれていた。
 大統領はこう語った。「私が強調したのは、この問題を平和的に解決することの重要性だ。言葉による挑発を避け、どのように日本と中国がお互いに協力していくことができるかを決めるべきだ」。さらに「日本と中国は、信頼醸成措置をとるべきだ」とも。
 尖閣諸島の「力による現状変更」は決して認めないにしても、関係改善に向けてもっと努力すべきだという、日中双方に対するメッセージだろう。大統領は「我々は中国とも非常に緊密な連携を保っている」と付け加えるのを忘れなかった。
 首相がいくら米国との同盟の絆をうたいあげようと、中国との間に太い一線を引いたままではアジア太平洋地域の安定はあり得ない。日米中の三つの大国がそれぞれ安定した関係を保つことが、周辺諸国が求めるところでもあろう。
 首相の昨年末の靖国神社参拝が、日本と中国や韓国との関係を決定的に悪化させ、米国からの不信も招いた。
 米国との関係にひとつの区切りをつけたいま、近隣諸国との関係改善への一歩は、安倍氏から踏み出さねばならない。
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■追記
20140426

 25日、遅れていた日米共同声明が、オバマ大統領が離日する寸前に発表された。その主要な内容を、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の記事から転載する。

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http://realtime.wsj.com/japan/2014/04/25/%e6%97%a5%e7%b1%b3%e5%85%b1%e5%90%8c%e5%a3%b0%e6%98%8e-5%e3%81%a4%e3%81%ae%e3%83%9d%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%88/
 共同声明は6ページにわたり、世界的な安全保障協力から自由貿易、学生交流など幅広いテーマに言及している。ここでは5つのポイントを紹介する。

尖閣防衛
 今回の訪問でオバマ大統領が安倍晋三首相に贈った最大のプレゼントは、日中双方が領有権を主張する東シナ海の尖閣諸島(中国名・魚釣島)で武力衝突が発生した場合、米国が日本を防衛する義務を確約したことだろう。共同声明では、米国が日米安保条約の下での「コミットメントを果たすために必要な全ての能力を提供している」と宣言。また、「これらのコミットメントは,尖閣諸島を含め,日本の施政の下にある全ての領域に及ぶ」と明記した。

TPP交渉継続で合意
 日米両政府にとって最も残念だったのが、包括的なTPP締結に向けた2国間交渉が合意に至らなかったこと。両政府は明確な前進がなかったことを認める代わりに「TPPに関する二国間の重要な課題について前進する道筋を特定した」と表現。これが「より幅広い交渉への新たなモメンタムをもたらすことになる」と記した。

韓国との関係改善
 米国政府にとって、長引く日韓関係の悪化は頭痛の種。両国ともアジアの重要な同盟国であり、北朝鮮の核開発プログラムなど共同で対処すべき問題を抱えている。共同声明の第2段落では、3月25日にオランダ・ハーグで行われた日米韓首脳会談に触れ、「調整された行動の重要性」が強調されている。

強い言葉でロシアを非難
 安倍首相にとって、ロシアとの関係強化と北方領土問題の解決は外交上の最優先課題に含まれている。ただ、共同声明ではウクライナ問題をめぐってロシアを激しく非難しており、当面は安倍首相がロシアのプーチン大統領と友好的に話すことはないだろう。声明では、ロシアのクリミア併合について「その遺憾な行為について同国(ロシア)に対するさらなる措置を(日米が)緊密に協議しているとともに,同国に対し,ウクライナにおける緊張を緩和するよう強く求めている」と明記した。

学生交流
 日米両政府は、ここ数年、互いの国で学んだり働いたりする若者が減っていることを懸念している。両首脳はこうした状況を打開するための手だてを講じることで合意した。日本は2014年度に6000人の学生を米国に送り込む。また、若者の交流を通じて両国の友情を深めるために新たな2国間交流プログラムがつくられる。
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コメント (2)

追加消費増税で「持続成長」を壊すな~田村秀男氏

2014-04-24 08:53:00 | 経済
 4月1日から消費税率が5%から8%に上がった。政府には、かつて消費税を3%から5%に引き上げた時の大失敗を繰り返さないように、最大限の努力を求めたい。
 バブルの崩壊によって、わが国の経済は、大打撃を受けた。1990年代はそこからの回復の過程だった。ようやく回復の兆しを示していた平成8年(1996)、自民党の橋本龍太郎氏が総理大臣になった。橋本内閣は、粗債務だけを示す旧大蔵省の資料を鵜呑みにし、わが国は財政危機にあると判断した。そして、財政改革と称して「基礎的財政収支均衡策」を取り、増税を実行した。その結果、不況を招き、デフレに陥った。それが、わが国が陥った長期的なデフレの原点は平成9年(1997)の緊縮財政にある。
 橋本内閣は、GDPデフレーター(物価の総合指数)がマイナスでデフレ傾向にあるときに、大増税をした。当時、消費増税に反対したエコノミストの菊池英博氏は、振り返って次のように言う。「97年度には消費税を3%から5%に引き上げ、所得減税の廃止と社会保障の負担増で、実に9兆円の国民負担が増えた。この結果、株価が大暴落して大不況となり、不良債権が増加し、外資による銀行株の叩き売り、大手証券と大手銀行の破綻など、未曾有の大混乱が生じ、まさに平成金融恐慌に発展したのである」と。
 平成10年(1998)7月の参議院選挙で自民党は惨敗した。橋本氏は、敗北の理由が経済政策の誤りだったことを認めた。
 菊池氏は、当時財政を粗債務ではなく、純債務で見ると、財政の実態はまったく違っていたと指摘する。菊池氏は言う。「96年の日本の財政事情を純債務で見ると、純債務のGDP比率は21.6%程度であり、超健全財政であった」と。わが国は、政治家・官僚が財政のとらえ方を誤ったために、政策を誤り、わが国の経済を損壊したのである。
 その後、わが国は、このたびの第2次安倍晋三内閣で、ようやくデフレ脱却の兆しが見えるようになるまで、膨大な富を失ってきた。今回の消費増税は、デフレ脱却の政策を実施してその結果を見てから決めたのではなく、デフレの真っ最中に政党間の合意で増税を決めており、それに束縛されて行う増税である。だが、安倍首相が本年4月の増税を決めた後は、反対意見や修正意見は、退潮になっている。
 そうしたなか、反骨のエコノミスト、田村秀男氏は、多角的で緻密なデータ分析をもとに、一貫して消費増税を批判している。
 産経新聞3月30日の記事では、田村氏は、最近の消費者態度指数推移を平成9年4月の消費増税時と比較したグラフを提示している。田村氏はグラフをもとに次のように言う。「増税決定後から増税実施前まで、指数は急速に落ち込んだ点では今増税局面と重なる。当時、増税実施後は若干の改善がみられたものの、9月以降は再び悪化し、翌年からはデフレ不況に突入した。消費者心理が弱くなった局面で、アジア通貨危機や山一証券の経営破綻が重なったことも響いたのだろうが、今回は上記の国内要因に加えて中国のバブル崩壊懸念など海外にも不安材料は多い」と。
 また次のように指摘する。「前回の消費税増税時、政府は公共事業費を8年度に前年度比3兆円、9年度で同7000億円減らし、増税と合わせた緊縮財政で回復しかけていた景気を圧殺した。今回、大型補正を合わせた15カ月予算ベースでみると、来年度の公共事業予算は今年度を3兆円程度も下回る緊縮だ」。
 そして、次のように、政府の姿勢に疑問を呈する。「せっかく脱デフレに向け自律的な回復軌道が見え始めたというのに、政府が自らの政策でそれを壊すのは悲劇と言うよりも奇々怪々、不可思議である」。これはかなり抑制した表現だろう。「安倍首相は少なくとも、消費税追加増税の判断基準は7~9月の瞬間風速の数値ではなく、より長い期間を見渡した経済成長の持続力に置くべきではないか」と田村氏は提案している。
 田村氏の最近の積極的な政策提言については、3月21日の日記「アベノミクスが再び力強さを発揮するには~田村秀男氏」で紹介した。併せて参考に供したい。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/406ef1ccec34b9815767e04b19409c8c
 以下は記事の全文。

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●産経新聞 平成26年3月30日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140330/biz14033009280002-n1.htm
【日曜経済講座】
追加増税で「持続成長」壊すな 「消費税率8%」で歪む景気 編集委員・田村秀男
2014.3.30 09:30


 消費税率はいよいよ8%。気掛かりなのはデフレ下での増税に伴う景気の歪(ゆが)みだ。所得・消費・投資・雇用という経済好循環の芽は育つのか。
 今春闘で大手各社が賃上げに応じた。「景気の好循環が明らかに生まれ始めた」(安倍晋三首相)のだが、民間の推定の多くは、中小企業を含めた産業界全体の賃上げ率は0・5~0・8%にとどまる。消費税増税効果を含めた平成26年度の消費者物価上昇率見通し3%にはるかに及ばない。この点について、浜田宏一内閣参与(エール大学名誉教授)は若者向けの「産経志塾」講座で、「賃上げの幅よりも、来年以降も続くことがより重要です」と、持続性を強調したのが印象的だ。
 物価下落を数倍も上回る速度で賃金が下落する日本型慢性デフレは消費者の購買意欲を萎縮させてきた。企業は内需に見切りを付けて、設備投資は海外に重点を置いてきた。悪循環から抜け出すためには、持続的な賃上げ期待で消費者が「明日はもっとよくなる」と思うようになることが必要に違いない。
 問題は消費税増税による消費者心理へのインパクトだ。内閣府発表の消費者態度指数は消費者心理の代表的データである。外資系証券大手のゴールドマン・サックスの馬場直彦・日本経済アナリストによる3月7日付リポートによれば、同指数は雇用、賃金、株価と消費者物価動向の4大要因に左右されるが、最近では物価上昇による悪化が最大のマイナス要因だという。4月からは消費税増税に伴う値上げが加わる。需給によって自律的に決まるべき価格が政府によって強制的に引き上げられ、消費者は財布のひもを締める。
 今年4~6月期の景気は住宅や自動車など高額の耐久消費財の増税前駆け込み需要の反動減のために大きく落ち込む。消費者心理の冷え込みが一時的現象にとどまればよいが、7月以降回復する保証はない。賃上げ率はインフレ率を大きく下回るし、「株価の鈍化ないし、消費増税後の経済下振れで雇用環境が悪化すると、消費者マインドはさらに悪化する可能性がある」(上記リポートから)。



 グラフは最近の消費者態度指数推移を平成9年4月の消費増税時と比較している。増税決定後から増税実施前まで、指数は急速に落ち込んだ点では今増税局面と重なる。当時、増税実施後は若干の改善がみられたものの、9月以降は再び悪化し、翌年からはデフレ不況に突入した。消費者心理が弱くなった局面で、アジア通貨危機や山一証券の経営破綻が重なったことも響いたのだろうが、今回は上記の国内要因に加えて中国のバブル崩壊懸念など海外にも不安材料は多い。
 消費税増税を強行するための、「不純動機」ありありの財政出動も経済を歪ませる。財務省は公共工事などを6月末までに4割以上、9月末までに6割以上執行するよう、各省庁に指示している。消費税率引き上げ後に予想される景気の落ち込みを防ぐのが表向きの理由だが、麻生太郎財務相は「7~9月期に(景気の上向きを示す)数字が出るような結果にしたい」と正直だ。7~9月期の「数字」は、安倍首相が来年10月からの消費税率追加引き上げを判断する際の目安となる。
 財務省は25年度、公共事業予算を前半に集中して執行し、消費税増税の判断基準になる4~6月期の成長率のかさ上げに成功し、増税を渋る安倍首相を押し切った。味をしめてもう一度、というわけだが、予算の先食いの反動が必ず来る。昨年10~12月期以降は公共投資が細って、成長率を大幅に押し下げてしまい、投資家や企業者に冷や水をかけた。
 前回の消費税増税時、政府は公共事業費を8年度に前年度比3兆円、9年度で同7000億円減らし、増税と合わせた緊縮財政で回復しかけていた景気を圧殺した。今回、大型補正を合わせた15カ月予算ベースでみると、来年度の公共事業予算は今年度を3兆円程度も下回る緊縮だ。前倒し、集中発注というカンフル注射での景況はしょせん、つかの間でしかない。薬切れで景気の体力が萎える。それが消費者心理をさらに悪化させると、国内外の世論はアベノミクスに失望するだろう。
 せっかく脱デフレに向け自律的な回復軌道が見え始めたというのに、政府が自らの政策でそれを壊すのは悲劇と言うよりも奇々怪々、不可思議である。安倍首相は少なくとも、消費税追加増税の判断基準は7~9月の瞬間風速の数値ではなく、より長い期間を見渡した経済成長の持続力に置くべきではないか。
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関連掲示
・拙稿「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13i-2.htm
コメント

「慰安婦=性奴隷」に対する政府の反論文書

2014-04-23 08:48:46 | 慰安婦
 4月1日産経新聞は、1996年2月河野談話を引用し、慰安婦を強制連行された「性奴隷」と認定した「クマラスワミ報告書」に対して日本政府が旧国連人権委員会に提出した「幻の反論文書」を入手したと伝えた。
 今日、国連の人権委員会やアメリカのマスメディア等の認識の核心にあるのは、慰安婦は「性奴隷」だったという誤解である。
 「性奴隷(sex slave)」という言葉は、多くの偏見を生んでいる。かつて日本において「強制連行」という言葉が果たしたのと似た役割を、「性奴隷」という言葉が現在、国際社会で果たしている。この言葉を流行らせる上で決定的な役割をしたのが、「クマラスワミ報告」である。
 国連人権委員会で慰安婦問題の特別報告者に指名されたのが、スリランカの女性活動家、ラディカ・クマラスワミ女史だった。彼女は、平成7年(1995)、ソウルに5日間、東京に6日間滞在して、英文37ページの報告を書いた。その内容は、わずか2冊の本をもとにまとめたものだった。
 その2冊とは、オーストラリアのジャーナリスト、ジョージ・ヒックスの『The Comfort Women(慰安婦)』と、吉田清治の『私の戦争犯罪ーー朝鮮人強制連行』である。
 クマラスワミが事実関係の部分をほとんどすべてを依存しているのが、ヒックスの著書であるという。ヒックスは、日本語ができない。そのため、在日3世の女性が集めた材料に8割方依存した。ヒックスが最も頻繁に引用しているのが、金一勉著『天皇の軍隊と朝鮮人慰安婦』であるという。
 本書は、日本が「朝鮮民族抹殺政策」を取り、「朝鮮民族の早期滅亡を企図」して、「梅毒政策・阿片吸引助長政策・遊郭発展政策」を取ったという主張をしている本で、あやしげな雑誌や週刊誌に材料を求めたものである。そのような本から頻繁に引用して書いたヒックスの本に、クマラスワミは、依拠しているわけである。
 もう1冊の吉田氏の著書については、済州島における現地調査によって、虚説であることが、平成4年までに明らかになっている。それにもかかわらず、クマラスワミは、吉田氏の虚偽の証言を無批判に資料としているわけである。
 クマラスワミ報告は、強制はあったとする立場の吉見義明中央大学教授すら、クマラスワミに書簡を送って、ヒックスの本は「誤りの大変多い著書」で、引用部分を削除したほうがいい、吉田に関連する部分も削除するように勧めたほどだった。だが、吉見氏の忠告に従うと、クマラスワミ報告はほとんど内容がなくなってしまう。そのような低レベルの報告書が、国連人権委員会の判断に強い影響を与えたのである。国連人権委員会の委員は、よほど調査能力がない者が多いのか、左翼人権思想に凝り固まった活動家が集合しているのかもしれない。
 クマラスワミ報告への影響関係を、時系列的に並べると、次のようになる。

 金一勉著『天皇の軍隊と朝鮮人慰安婦』(昭和51年、1976) → 吉田清治著『私の戦争犯罪――朝鮮人強制連行』(昭和58年、1983) → ヒックス著『The Comfort Women』(平成7年、1995)

 これらがクマラスワミ報告(平成8年、1996)に流れ込んでいるわけである。これらの虚説の流れの出発点には、朴慶植著『朝鮮人強制連行』(昭和40年、1965)がある。在日朝鮮人の強制連行はなく、慰安婦の強制連行もなく、朝鮮民族抹殺政策も存在しない。それにもかかわらず、うそにうそを重ねたデマが、国連の人権委員会で、あたかも真実であるかのように化けてしまった。
 わが国において「強制連行」という言葉が強烈なイメージを喚起したのと同じような効果を、海外では「性奴隷(sex slave)」という言葉が生み出している。「性奴隷制(sexual slavery)」ともいう。「性奴隷」という言葉は、「広義の強制性」が漠然と「本人の意思に反して」させられた強制的な状況を意味するのに対し、はるかに強烈な、女性の人権無視や猟奇的な性犯罪を連想させる。それだけに、イメージの払拭は容易ではない。
 日本人には、「広義の強制性」は気の毒だという情緒的な反応を呼び、その感情を否定しがたいのに対し、欧米には「性奴隷」は奴隷制度があっただけに、欧米人の倫理的な反感を招き、その反感は取り除きにくいだろう。このイメージを払拭するためには、慰安婦は「性奴隷」ではなく、高給取りの売春婦だったことを強調すべきである。
 以下は、「幻の反論文書」に関する記事のクリップ。

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●産経新聞 平成26年4月1日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140401/plc14040108110019-n1.htm
【歴史戦】
「慰安婦=性奴隷」に対する日本の反論文書を入手 国連報告は「不当」「歪曲」と批判も撤回
2014.4.1 08:08

 慰安婦募集の強制性を認めた平成5(1993)年の河野洋平官房長官談話を引用し、慰安婦を強制連行された「性奴隷」と認定した96年2月の「クマラスワミ報告書」について産経新聞は31日、日本政府がいったん国連人権委員会(現人権理事会)に提出しながらすぐに撤回した反論文書を入手した。文書は報告書を「極めて不当」「無責任で予断に満ち」「歴史の歪(わい)曲(きょく)に等しい」と厳しく批判したが、非公開のため「幻の反論文書」となっている。
 文書はクマラスワミ報告書が国連人権委に提出された直後の96年3月にまとめられたもので全42ページ。撤回した理由について、複数の外交筋は「反論することで、かえって慰安婦問題の議論を起こしかねないと懸念したためだ」と述べる。
 報告書は、強制連行の証拠はみつかっておらず「もっぱら被害者自身の口頭証言に基づく」と指摘しながらも、河野談話を根拠として、強制連行を認定した。
 これに対し反論文書は、クマラスワミ報告書を「偏見に基づく」「随所に主観的な誇張」などと強調。報告書が明確な誤りの多いオーストラリア人ジャーナリストのジョージ・ヒックス氏や、戦時中に下関で労務調達に従事し「奴隷狩り」で慰安婦を集めたと虚偽証言した吉田清治氏らの著作を引用していることから、「本来依拠すべきでない資料を無批判に採用」と批判した。
 法的議論についても、報告書が日本の法的責任を求めたことを「誤った国際法の解釈」とし、「およそ法的には成り立たない恣意(しい)的な解釈に基づく政治主張」と突っぱねていた。
 日本政府は反論文書を撤回後、元慰安婦への支援を行うアジア女性基金の取り組みなどを説明し、報告書の否定を求める記述を削除した「日本の施策」とする文書に差し替えた。
 報告書の慰安婦問題に関する部分への国連人権委の評価は「留意(テークノート)」にとどまった。当時の日本政府関係者は事実上、不採択の扱いになったとの見解を示し「国際的にはぎりぎり話を収めた」と語るが、報告書の事実誤認は正されなかった。

◇クマラスワミ報告書
 国連人権委員会の「女性に対する暴力」特別報告官に任命されたスリランカ出身の女性法律家、ラディカ・クマラスワミ氏が日本や韓国を訪問し、戦争被害者らから聞き取りし、まとめた報告書。北朝鮮には代理人が訪れ調査した。慰安婦に関する記述は「付属文書1」として添付された。日本政府に対し法的責任の受け入れと被害者への補償など6項目を勧告している。
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河野談話見直しを求める署名が政府に届けられた

2014-04-21 10:25:31 | 慰安婦
 4月1日政府は、河野談話について、河野談話の作成過程の調査については「実態を把握し、それをしかるべき形で明らかにする作業は必要だ」としながら、「談話を見直すことや新たな談話を発表することは考えていない」とする答弁書を閣議決定した。
 河野談話の作成過程の検証については、6月22日までの通常国会会期中にも、韓国側とすり合わせを行った経緯などについて結論を出す意向を示している。現在、検証チームのメンバーの人選を進めており、5月の連休明けにも作業に取りかかる模様である。
 こうしたなか、日本維新の会の「歴史問題検証プロジェクト・チーム」は18日、座長の中山成彬元文部科学相らが首相官邸を訪ね、菅義偉官房長官に河野談話の見直しを求める約16万筆の署名を手渡した。同チームは、談話の見直しを求め、2月20日から署名活動を行った。わずか2カ月足らずで、これだけの数の署名が集まったということは、河野談話の悪影響の大きさを強く感じる国民が増えていることを表すものだろう。だが、菅氏は記者会見で、談話の「見直しはしない」と強調した。見直しはしないという前提で、作成過程を検証するというのは、まったくおかしな姿勢である。検証チームのメンバーにどういう人物が選定されつつあるかは公開されていないが、検証は政府の意向に関わらず、厳正かつ客観的に行われなければならない。そういう検証でなければ意味がない。結論ありきの形だけの作業で「問題ありませんでした」というようなまとめをするなら、かえって河野談話をダメ押しで正当化するものとなる。
 私は自民党に対し、「立党の精神に帰れ」と訴えている。詳しくは、下記の拙稿に書いている。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13e.htm
 自民党は、河野談話をきっちり検証し、その結果を踏まえて、談話の見直しができるかどうかーーそこに自民党が真に再生できるかどうかが、かかっている。自民党は、河野談話を擁護することによって、日本を「性奴隷国家」に貶めてきた政党である。そのことを猛省し、根本的に態度を改めなければ、自民党は日本をいわれなき汚名を着せられたまま滅びへと導く亡国政党となるだろう。安倍首相を始め、真に日本を愛する自民党の政治家は、いま正気に返らねばならない。
 米国では、この2月20日グレンデール市の日系住民らが、市に対して慰安婦像の撤去を求め、カリフォルニア州の連邦地裁に提訴した。原告側は訴状で、慰安婦像の碑文について「市議会は碑文の文言を承認する投票をしていない」などと主張し、慰安婦像は連邦政府だけが持つ外交権限を侵害するもので、合衆国憲法に違反するなどと訴えた。これに対し、市は4月11日、カリフォルニア州の連邦地裁に提出した書面で争う姿勢を明らかにした。市は書面で、必要な法的手順を経た上で像の設置を承認したものだとし、訴訟は「表現の自由への挑戦」だと述べ、像は「市民の表現行為」であり、外交権限とは無関係だと主張している。
 グレンデール市の慰安婦像をめぐる問題については、拙稿「韓国の反日的な慰安婦戦略は破綻する」に経緯を書いた。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12q.htm
 日系住民らの提訴を受けて、2月25日にグレンデール市議会が行った公聴会には、韓国系・中国系等の市民が詰めかけ、約80席の傍聴席をほぼ埋め尽くした。韓国系団体は当初から公聴会で「在米の韓・中・日系の連合団体が歴史を知らせる共同対応に乗り出す」と計画していた。公聴会では、韓国系米国人らでつくる団体「カリフォルニア韓米フォーラム」の関係者ら16人が述べた。韓国系住民は、「(少女像は)未来の世代に、戦争の悲劇の中で何が起こり得るかを教えるためのものだ」と述べ、「日本軍に強制的に慰安婦にされ」「セックス・スレイブ(性奴隷)として」などと根拠のない主張を繰り返し、日本政府に謝罪を求めた。また、中国系団体関係者は「原告側は、像があることによって、日本人が『いづらい』というが、そんな人間に慰安婦の気持ちが分かるわけがない」と批判した。
 デイブ・ウィーバー市長は、昨年7月の像設置の際、定数5人の市議会で唯一反対したが、公聴会では他の市議が少女像への支持や提訴への批判を表明したことに対し、「(これらの意見を)是認する」と述べ、「この件は市議会で一度採択されたものなので、(慰安婦像)がなくなることはない」という見解を表明した。
 このような経緯があっての連邦地裁に対する市の書面である。裁判は、非常に厳しい戦いとなるだろう。裁判である以上は、勝たねばならない。負ければ、その判例によって、以後、司法の方法を通じて汚名をそそぐことはできなくなるだろう。ただ一つ、この裁判が日本の名誉の回復へのきっかけとなり得るのは、日本国政府が河野談話を厳正かつ客観的な検証のもとに見直し、その結果を天下に発表し、堂々と新たな談話を発する時だけである。

関連掲示
・拙稿「韓国の反日的な慰安婦戦略は破綻する」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12q.htm
・拙稿「自民党は立党の精神に帰れ」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13e.htm
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人権92~フランスの王権強大化と宗教戦争

2014-04-20 08:33:41 | 人権
●フランスの王権強大化と宗教戦争

 次に、フランスに話を転じる。神聖ローマ帝国では、中世を通じて教皇権と皇帝権の勢力争いがあったのに対し、フランスでは教皇権と国王権の争いが繰り広げられた。そして、国王権が徐々に強化され、教皇権は衰退していった。
 フランスで特筆すべきは、アヴィニョンの捕囚と教会の大分裂である。1309~77年、教皇7代が南仏のアヴィニョンに移され、フランス国王の支配下に置かれた。これを教皇のバビロン捕囚ともいう。続いて、1378年から1417年までは、ローマとアヴィニョンに教皇が並立し、カトリックが両派に分裂する状態だった。バビロン捕囚の時期の途中に、英仏百年戦争が起こり、その戦争の最中には、カトリックが分裂していた。こうした出来事は、神聖ローマ帝国では起こり得なかった事象であり、フランスにおける王権の強大さを示すものである。
 先に書いたように中世の西欧各地では、身分制議会が行われており、主たる議題は、皇帝や王侯、諸侯の提案する課税が是か非かであった。多くの場合、課税は一方的でなく、議会の承認を要した。ところが、フランスでは、15世紀に、身分制議会(三部会)が課税承認権を失った。これは王権の強化が進んでいたことを示すものである。16世紀初めになると、フランスでは、王権が著しく伸長していた。王の意思は領地に行きわたり、ひとたび王が命令を発すれば、たちまち国家全体が動き出すといっても過言ではないほどだった。こうした国王権が増勢し、教皇権が後退していたフランスにも、宗教改革の波が押し寄せた。
 フランスでは、救霊予定説を説くカルヴァンの思想が広がった。カルヴァン派プロテスタントは、ユグノーと呼ばれた。1562年、カトリック派の首領ギー公によるユグノー虐殺事件をきっかけに、ユグノーとカトリック派によるユグノー戦争が始まった。教義争いは政治的な争いに発展した。ギー公と対立するブルボン家は、ユグノーを支持した。8次に及ぶ戦争は、1598年ナントの王令によって、カルヴァン派の信仰が公認され、終結した。この間、ユグノーを支持した国王アンリ3世がカトリックの修道士に暗殺され、ヴァロア朝が断絶し、ブルボン朝に移った。
 ナントの王令は、約40年ほど前の神聖ローマ帝国におけるアウグスブルグ宗教和議の内容に通じるものだった。またユグノー戦争は、ドイツ30年戦争に先立つキリスト教徒同士の宗教戦争だった。注目すべきは、ユグノーが暴君放伐論を唱えたことである。神の法に従わない君主に従う義務はなく、暴君は追放すべきだという主張である。この主張は、古代シナの孟子の思想と類似点がある。ロックの抵抗権・革命権の思想の先駆であり、ロックに影響を与えた。
 ブルボン家は、王位を得ると、カトリック信仰に戻った。ハプスブルグ家に対抗し、ドイツ30年戦争に参戦して、ウェストファリア条約を主導した。主権国家体制が生まれた西欧において、大陸ではフランスが優位を占めた。そして絶対王政の主権国家として勢力を伸長していった。
 イギリスの場合は、国王が英国国教会を作って、カトリック教会を離脱したことが、絶対王政を確立する上で、大きな意味を持った。宗教的自立が主権国家の形成につながったわけである。これに比し、イギリスと同様に絶対王政を発展させたフランスでは、王家が一時ユグノーを支持してカトリック派と戦ったが、その後、カトリックに復帰した。ブルボン朝は、カトリック教会を支持した。そえゆえ、絶対王政期の主権国家において、宗派が新教か旧教ということは、本質的な意味を持たない。宗教的教義の正当性よりも、政治的な権利と権力の確立・強化が重要だったのである。

 次回に続く。
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中国習政権は内政外交とも強硬一辺倒路線~石平氏

2014-04-18 08:55:42 | 国際関係
 シナ系日本人評論家の石平氏は、産経新聞の2月6日及び20日の記事で、中国の習近平政権は、内政外交とも「強硬一辺倒路線」を取っていると指摘する。
 内政では、今年1月、新疆ウイグル自治区トクス県で起こったウイグル人への「射殺事件」をはじめ、国内のあらゆる反対勢力に対し、容赦のない厳しい弾圧を加えている。石氏は「胡錦濤政権時代には、「協調社会の建設」のスローガンの下で、反対勢力を取り締まる際には、対立の拡大を避けて弾圧を必要最小限にとどめるバランス感覚が一応あったと思う。だが、今の習政権となると、「協調」よりも「対決」が基本的姿勢となって、無鉄砲な強硬一辺倒路線がまかり通っている」と言う。そして、「習主席の強硬一辺倒路線はむしろ、反対勢力のよりいっそうの拡大と、政権と民衆との対立の先鋭化をもたらす結果となるが、その行き着くところはすなわち「革命」の発生である」とし、強硬路線で猪突猛進中の習主席は「出口のない袋小路に突入しているように見える」と述べている。
 外交でも「習主席の進める政策は猪突猛進型の「強硬さ」を最大の特徴としている」と石氏は言う。その例として、尖閣問題で領海侵犯がほぼ日常化していることや防空識別圏の設定、安倍首相の靖国参拝に対する全面対決の姿勢等を挙げ、この「戦い外交」の矛先が南シナ海周辺の東南アジア諸国、さらには米国にも向いていると述べる。そして、石氏は「かつて胡錦濤政権時代、中国はトウ小平遺訓の「韜光養晦」戦略の下で「平和的台頭」を唱えて、柔軟かつ老獪に実利中心の外交を進めていた。だが今の習近平政権になると、「平和的台頭」は過去の死語となってしまい、中国外交の持ち味の老獪さと柔軟さも影を潜めた。その代わりに、なりふり構わず、後先考えずの紅衛兵式強硬一辺倒の「戦闘外交」が目立つようになった」と言う。
 2月6日の記事で石氏は、次のように警告と主張をしている。「心配なのは、対日外交においても同じ強硬一辺倒路線を突き進める習政権が、国内の混乱と反乱を力ずくで抑えきれなくなったときに、国民の目を外に向かわせるため、矛先を日本に向けてくることだ。安倍政権に対する中国の全面対決の姿勢はその前兆であるかもしれない。習政権の暴発を防ぐためには、日本はこれからあらゆる備えを固めていくべきだ」と。
 問題は、中国経済はバブルの崩壊が始まっており、習政権の強硬一辺倒路線が経済的な危機の深刻化とともに、一層強引な行動を起こす可能性が高まっていることである。石氏は、中国経済の動向についても精力的に書いており、最近の論稿については、拙稿「今度こそ中国バブルの崩壊が始まった~石平氏」にて紹介した。併せてご参照願いたい。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/df23966d7c58055c15c278029659bd3a
 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成26年2月6日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140206/chn14020615010002-n1.htm
【石平のChina Watch】
習主席の強硬一辺倒路線 反乱と革命機運で政権崩壊早める
2014.2.6 15:00

 1月24日、中国の新疆ウイグル自治区トクス県でむごい「射殺事件」が起きた。政府当局の発表では、爆発事件の捜査をしていた公安警察が爆発物を投げつけられ、警官1人が軽傷を負った。それに対し、警官隊は6人の「暴徒」を射殺し、さらに6人のウイグル人を拘束した。そして警官らに追いつめられて、別の6人のウイグル人が自爆して死亡したという。
 要は、警官1人が軽傷を負った程度の爆発事件で12人のウイグル人が命を失うこととなった。これはどう考えても、圧倒的な武力を持つ当局による、度が過ぎた虐殺ではなかったのか。
 このような虐殺が起こった背景には、同月初旬に習近平国家主席が行った「内部講話」があった。1月23日付の香港紙明報によると、習主席は講話の中で、今の自治区トップが推進してきた「柔性治疆」(柔軟に新疆を統治する)の政治路線から「鉄腕治疆」(強硬路線)への転換を指示したという。それが事実なら、前述の虐殺事件は、まさに習主席の指示が貫徹される中で起こるべくして起きたものだ。
 実は少数民族問題への対応だけでなく、国内のあらゆる反対勢力に対し、習政権は容赦のない厳しい弾圧を加えている。たとえば先月26日に懲役4年の実刑判決を受けた新公民運動活動家の許志永氏の場合、政権転覆の意思などはまったくなく、単に「公民としての権利」を求めただけである。穏健派といわれる彼までが弾圧の対象となったことは、習政権が行う弾圧の峻烈(しゅんれつ)さを物語っている。まさに毛沢東の「文革」をほうふつさせる「粛清運動」がいま展開されているのだ。
 胡錦濤政権時代には、「協調社会の建設」のスローガンの下で、反対勢力を取り締まる際には、対立の拡大を避けて弾圧を必要最小限にとどめるバランス感覚が一応あったと思う。だが、今の習政権となると、「協調」よりも「対決」が基本的姿勢となって、無鉄砲な強硬一辺倒路線がまかり通っている。
 それは逆に、共産党政権自身の首を絞めることとなろう。ウイグル人に対する乱暴な虐殺は彼らの政府当局に対する憎しみを増幅させ、抵抗運動のいっそうの激化に火を付けてしまう。
 民間の人権運動などへのむやみな弾圧は結局、心のある知識人全員を敵に回してしまい、穏健な改革を望む人々までを激しい反体制派へ変えていくこととなろう。
 習主席のやっていることは結果的に、政権にとっての敵を増やしていくばかりだ。前述の許氏の場合も、今は穏健派である彼が4年後に出獄したとき、「過激な革命派」となっている可能性は大であろう。
 つまり習主席の強硬一辺倒路線はむしろ、反対勢力のよりいっそうの拡大と、政権と民衆との対立の先鋭化をもたらす結果となるが、その行き着くところはすなわち「革命」の発生である。
 歴史的に見ても、政権末期になると、権力者が余裕を失ってむやみな強硬路線に傾倒していくことがよくある。一方では、権力者の強硬一辺倒路線が逆に反乱と革命の機運を作り出し、政権の崩壊を早めるのも歴史の常である。
 強硬路線で猪突(ちょとつ)猛進中の習主席はすでにこのような出口のない袋小路に突入しているように見える。
 心配なのは、対日外交においても同じ強硬一辺倒路線を突き進める習政権が、国内の混乱と反乱を力ずくで抑えきれなくなったときに、国民の目を外に向かわせるため、矛先を日本に向けてくることだ。安倍政権に対する中国の全面対決の姿勢はその前兆であるかもしれない。習政権の暴発を防ぐためには、日本はこれからあらゆる備えを固めていくべきだ。

●産経新聞 平成26年2月20日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140220/chn14022016000001-n1.htm
【石平のChina Watch】
「戦闘的紅衛兵外交」の行方
2014.2.20 16:00

 前回の本欄で習近平政権の「強硬一辺倒」の国内政策を論じてみたが、実は外交の面においても習主席の進める政策は猪突(ちょとつ)猛進型の「強硬さ」を最大の特徴としている。その典型は「尖閣問題」をめぐっての対日姿勢である。日本政府が尖閣諸島の国有化に踏み切ったのは2012年9月のことであったが、この年11月の習政権発足以来、中国側の一方的な挑発がエスカレートしてきていることは周知の通りだ。
 中国公船による日本の領海侵犯はほぼ日常化してしまい、有人・無人機の領空侵犯も幾度かあった。昨年1月には中国海軍が日本の海自艦船に対し、レーダー照射の実施という危険極まりのない挑発行為に及び、同年11月、中国政府は東シナ海上空の航空の自由を勝手に制限する防空識別圏の設定を発表した。
 そしてこの年の年末に安倍晋三首相が靖国神社に参拝すると、中国は安倍首相のことを「安倍」と呼び捨てにして全面対決の姿勢を鮮明にした。この「戦い外交」の矛先は南シナ海周辺の東南アジア諸国にも向いている。特に今年に入ってから、中国が南シナ海の各国の漁業活動への恣意(しい)的な「規制」を一方的に発表したり、ベトナムの漁船を破壊したりして傍若無人さを増している。それに対し、フィリピンやベトナムなどの関係国が猛反発して中国との対立姿勢を強めているが、フィリピンのアキノ大統領に至っては、今の中国を第二次世界大戦前のヒトラーになぞらえて批判した。
 こうした中で、米中関係も溝が深まる一方だ。昨年6月、習主席が訪米してオバマ大統領との長時間会談に臨んだとき、米中は歩み寄って「大国関係」の構築を模索した痕跡もあったが、この年の11月に中国が前述の防空識別圏の設定を発表すると、米国の習政権に対する不信感が一気に高まった。中国がさらに南シナ海上空への防空識別圏拡大をたくらもうとすると、米国の不信感はよりいっそう募ってきた。
 しかし、習政権はそれでも挑発をやめようとはしない。昨年12月には中国海軍が米国海軍のイージス艦の航海を妨害するような際どい行動に出たかと思えば、今年1月、中国政府はまた、米ニューヨーク・タイムズの記者に対する事実上の国外追放に踏み切った。とにかく何でもかんでも米国とけんかしておこうという、昔の紅衛兵の振る舞いをほうふつさせるような乱暴にして無謀な外交姿勢である。
 ここまでくると、さすがのオバマ政権も堪忍袋の緒が切れた。今月に入ってから、米国務省は中国の防空識別圏拡大に関し「緊張を高める挑発的で一方的な行為とみなす」と改めて警告した。ケリー国務長官も訪米した岸田文雄外相との会談において、中国の防空識別圏設定に対し「受け入れられない」との方針を確認した一方、「地域の平和と安定のために日米韓連携は重要だ」とも強調した。
 「地域の平和と安定のための日米韓連携」とは、北朝鮮と中国の両方を意識した発言であることは明らかだ。どうやらオバマ政権はすでに、中国の存在を「地域の平和と安定」を脅かす要素だと認定しているようである。
 かつて胡錦濤政権時代、中国はトウ小平遺訓の「韜光養晦(とうこうようかい)」戦略の下で「平和的台頭」を唱えて、柔軟かつ老獪(ろうかい)に実利中心の外交を進めていた。だが今の習近平政権になると、「平和的台頭」は過去の死語となってしまい、中国外交の持ち味の老獪さと柔軟さも影を潜めた。その代わりに、なりふり構わず、後先考えずの紅衛兵式強硬一辺倒の「戦闘外交」が目立つようになった。それは中国自身にとって幸か不幸かはさることながら、日本としては、このような外交路線の暴走に巻き込まれるようなことは勘弁してほしいものだ。
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