●人類史上最も危険な思想が「100年マラソン」戦略の根底に
中国では、1999年に「超限戦」の戦略思想が現れた。超限戦とは、あらゆる制約や境界を超越し、あらゆる手段を駆使する制約のない戦略である。私は、中国が超限戦を展開し得るのは、強力な核戦力を持っているからこそと考える。いかに非軍事組織を使った非正規戦、外交戦、国家テロ戦、金融戦、サイバー戦、三戦(広報戦、心理戦、法律戦)などを駆使して目的を達成しようとしても、強力な核戦力を欠いていれば、核保有大国から核の恫喝を受ければ、戦争に勝利することは出来ない。この超限戦の戦略思想を核兵器の使用に拡張したものが、朱成虎の積極的核戦争論だろうと私は考える。
朱は、2005年(平成17年)、中国国防大学の内部会議で講話を行ない、次のように述べた。
「国連の統計によれば、今世紀の中葉ごろには人口は150億人に達し、今世紀中には人口過剰の問題が爆発する。(略)ことにインドは人口、経済、パキスタンとの領土紛争をめぐり、核戦争を行なう可能性はきわめて高い。そのドミノ現象で世界核戦争が起こる。(略)だからこの未来の核戦争に対し、我々は受動的でなく、主導的に出撃するべきだ。(略)人口問題を解決するには、核戦争が最も有効にして手っ取り早い方法だ」
朱はこういう認識の下に、中国人の生き残りと将来の優位を説く。核先制攻撃の戦略思想は、シナの伝統的な人命軽視の思想と結びついている。
「我々中国人はこの競争(原註 人口増加による資源の争奪)のなかで機先を制さなければならない。(略)なるべく他国の人口を減らし、自国の人口を多く生き残らせるべきだ。そうなれば生き残った人口が未来の人類の新しい進化の過程のなかで、有利な条件を得ることができる。(略)私が核戦争を鼓吹するのは、国家民族の生存発展に有利だからである」
朱は、「国家民族の生存発展」「未来の人類の新しい進化」というナチス顔負けの思想をもって、核戦争を唱導する。
「もし我々が被導的でなく主導的に出撃すれば、計画的に全面核戦争に出れば、情勢はきわめて有利である。(略)政府はすべての幻想を捨て、あらゆる力を集中して核兵器を増やし、10年以内に地球人口の半分以上を消滅できるようにしなければならない。(略)人口をもっと増やし、そして計画的に周辺諸国に浸透させるべきだ。(略)全面核戦争が起こったら、周辺諸国に疎開した人口の半分と、農村に疎開した人口の半分があるから、他国に比べて多くが生き残ることができる」
核戦争によって人類の人口を半減させる。その中で中国人が生き残って、核戦争後の地球を支配するための人口政策を説いている。
「我々にとって最も敵対する隣国は、人口大国のインドと日本である。もし我々が彼らの人口を大量に消滅できない場合は、核大戦後は中国の人口が大量に減少し、日本とインドがわが国に大量移民をすることができるようになる。(略)アメリカは強大な国力を保っているので、徹底的に消滅させないと、将来大患になる。(略)台湾、日本、インド、東南アジアは人口密集の地域であり、人口消滅のための核攻撃の主要目標となる」
自国民以外を減らすために、核戦争を起こすべきだというのである。人口減少の対象に、日本もアメリカも入っている。
「以上のことは数年後、必ず起こる。なぜならば人口問題は、いかなる人間にも根本的な解決は不可能だからだ。歴史は必ず私の所説の正しさを証明してくれる。(略)核大戦のなかで、我々は百余年来の重荷を下ろし、世界のすべてが得られる。中華民族は必ず核大戦のなかで、本当の復興を得られる」
これは、ヒトラーと毛沢東の思想を超えた極めて危険な思想である。私は、人類史上最も危険な思想と呼んでいる。
朱少将の核先制攻撃と中国人核戦争生き残り戦略は、一軍人の個人的な思想ではない。中国共産党と人民解放軍の指導層の相当部分に共有されている思想と想定すべきだろう。
先に引いた朱の言葉の最後に注目したい。
「核大戦のなかで、我々は百余年来の重荷を下ろし、世界のすべてが得られる。中華民族は必ず核大戦のなかで、本当の復興を得られる」
これこそ「100年マラソン」の目標であり、習近平が掲げる「中華民族の偉大な復興」という目標ではないか。朱はその目標を実現する方法として、積極的核戦争論を説いているのである。私は、朱成虎はピルズベリーのいう「中国タカ派」の最重要人物の一人だと推定する。
中国は、李の戦略を実現するには、米国と対等以上の核戦力を持つ必要がある。対等以上というのは、必ずしも物量だけでは決まらない。実際の効果において優るという意味である。米国は民主主義の国ゆえ、国民の多数が核戦争で莫大な死者を出すよりは講和を望むという世論が形成されると、政府は民意に従わざるを得なくなるだろう。戦争は、しばしば物量的には劣りながらもどんな危険をおかし、いかなる犠牲を出しても絶対勝つという信念を持つ側が勝利する。またもし相手に対し圧倒的な核戦力を持つならば、相手を意気阻喪させ、「戦わずして勝つ」ことも可能になる。
私は、中国は「100マラソン」戦略を以って、2049年までに米国と対等以上の核戦力を持つ計画を立てて、猛烈な核軍拡を図ると推測する。その前にこの危険極まりない戦略を放棄させねばならない。
私は先に、「100年マラソン」戦略における「中国海軍の父」劉華清将軍の海軍増強計画の重要性を書いた。彼の海軍増強計画は2049年を目標するものである。中国共産党は、劉の計画によって海軍力の増強を進めつつ、朱成虎の積極的核戦争論を中核として「100年マラソン」戦略を進めていると見るべきだろう。ピリズベリーの著書は、この肝心要のことを欠いている。彼は「中国タカ派」の重要人物の名を挙げておらず、劉華清と朱成虎の名に触れていない。だが、この二人こそ「中国タカ派」の最重要人物に含まれるに違いない。
結びに~日本はどう対応すべきか
いま中国の軍事的な動きを封じつつ、経済的に追い込んで、共産党政権を崩壊させて、中国を民主化することができないと、中国は武力を行使し、力づくで覇権を拡大しようとして、戦争を起こす可能性がある。特に台湾と尖閣諸島が要注意である。最悪の場合は世界核戦争になる恐れがある。
最悪の結果を避けるためには、日本は自由民主主義の国々と協力し団結しなければならない。直近の課題としては、特に日米豪印4カ国の戦略対話「クワッド」を発展させ、これに英仏等を加えて、「自由で開かれたインド太平洋」を実現することが重要である。
この大きな山を乗り越えた後に、はじめて“昼の時代”が開かれるだろう。共存共栄・物心調和の新文明に飛躍できるか、それとも共産主義が支配する暗黒社会になるか。天国か地獄かの違いがある。この山を乗り越えられないと、人類は自滅の道を進むことになる。
世界は、米中対決という歴史的な段階に入っている。米中の対決は、今後、深刻さを増していくだろう。日本及び日本人が、米国に依存していればなんとかなるというような時代は、既に終わっている。
私たちには今、自分の足で立ち、自分の頭で考え、自分で自分を家族を国を守るという覚悟と行動が必要である。そのために最も必要なものーーそれは日本精神の復興である。日本人は日本精神を取り戻し、団結・協力して、この存亡の危機を生き延びねばならない。具体的には、憲法の改正と国防の強化が不可欠の課題である。憲法の改正と国防の強化なくして、日本は強大化する中国かから、主権と独立、生命と財産、自由と人権、伝統と文化を守ることは出来ない。そして、日本が中国に呑み込まれてしまったら、世界に共存共栄・物心調和の新文明を実現する道は見失われてしまうだろう。(了)
関連掲示
・拙稿「現代世界の支配構造とアメリカの衰退」――補説「人類自滅の構造を断ち、共存調和の道を進め」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09k.htm
・拙稿「凄まじい軍拡を続ける中国から日本を守れ」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-15.htm
・拙稿「ハンチントンの『文明の衝突』と日本文明の役割」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09j.htm
・拙稿「人類史上最も危険な思想~中国の積極的核戦争論」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08.htm
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************ 著書のご案内 ****************
『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
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中国では、1999年に「超限戦」の戦略思想が現れた。超限戦とは、あらゆる制約や境界を超越し、あらゆる手段を駆使する制約のない戦略である。私は、中国が超限戦を展開し得るのは、強力な核戦力を持っているからこそと考える。いかに非軍事組織を使った非正規戦、外交戦、国家テロ戦、金融戦、サイバー戦、三戦(広報戦、心理戦、法律戦)などを駆使して目的を達成しようとしても、強力な核戦力を欠いていれば、核保有大国から核の恫喝を受ければ、戦争に勝利することは出来ない。この超限戦の戦略思想を核兵器の使用に拡張したものが、朱成虎の積極的核戦争論だろうと私は考える。
朱は、2005年(平成17年)、中国国防大学の内部会議で講話を行ない、次のように述べた。
「国連の統計によれば、今世紀の中葉ごろには人口は150億人に達し、今世紀中には人口過剰の問題が爆発する。(略)ことにインドは人口、経済、パキスタンとの領土紛争をめぐり、核戦争を行なう可能性はきわめて高い。そのドミノ現象で世界核戦争が起こる。(略)だからこの未来の核戦争に対し、我々は受動的でなく、主導的に出撃するべきだ。(略)人口問題を解決するには、核戦争が最も有効にして手っ取り早い方法だ」
朱はこういう認識の下に、中国人の生き残りと将来の優位を説く。核先制攻撃の戦略思想は、シナの伝統的な人命軽視の思想と結びついている。
「我々中国人はこの競争(原註 人口増加による資源の争奪)のなかで機先を制さなければならない。(略)なるべく他国の人口を減らし、自国の人口を多く生き残らせるべきだ。そうなれば生き残った人口が未来の人類の新しい進化の過程のなかで、有利な条件を得ることができる。(略)私が核戦争を鼓吹するのは、国家民族の生存発展に有利だからである」
朱は、「国家民族の生存発展」「未来の人類の新しい進化」というナチス顔負けの思想をもって、核戦争を唱導する。
「もし我々が被導的でなく主導的に出撃すれば、計画的に全面核戦争に出れば、情勢はきわめて有利である。(略)政府はすべての幻想を捨て、あらゆる力を集中して核兵器を増やし、10年以内に地球人口の半分以上を消滅できるようにしなければならない。(略)人口をもっと増やし、そして計画的に周辺諸国に浸透させるべきだ。(略)全面核戦争が起こったら、周辺諸国に疎開した人口の半分と、農村に疎開した人口の半分があるから、他国に比べて多くが生き残ることができる」
核戦争によって人類の人口を半減させる。その中で中国人が生き残って、核戦争後の地球を支配するための人口政策を説いている。
「我々にとって最も敵対する隣国は、人口大国のインドと日本である。もし我々が彼らの人口を大量に消滅できない場合は、核大戦後は中国の人口が大量に減少し、日本とインドがわが国に大量移民をすることができるようになる。(略)アメリカは強大な国力を保っているので、徹底的に消滅させないと、将来大患になる。(略)台湾、日本、インド、東南アジアは人口密集の地域であり、人口消滅のための核攻撃の主要目標となる」
自国民以外を減らすために、核戦争を起こすべきだというのである。人口減少の対象に、日本もアメリカも入っている。
「以上のことは数年後、必ず起こる。なぜならば人口問題は、いかなる人間にも根本的な解決は不可能だからだ。歴史は必ず私の所説の正しさを証明してくれる。(略)核大戦のなかで、我々は百余年来の重荷を下ろし、世界のすべてが得られる。中華民族は必ず核大戦のなかで、本当の復興を得られる」
これは、ヒトラーと毛沢東の思想を超えた極めて危険な思想である。私は、人類史上最も危険な思想と呼んでいる。
朱少将の核先制攻撃と中国人核戦争生き残り戦略は、一軍人の個人的な思想ではない。中国共産党と人民解放軍の指導層の相当部分に共有されている思想と想定すべきだろう。
先に引いた朱の言葉の最後に注目したい。
「核大戦のなかで、我々は百余年来の重荷を下ろし、世界のすべてが得られる。中華民族は必ず核大戦のなかで、本当の復興を得られる」
これこそ「100年マラソン」の目標であり、習近平が掲げる「中華民族の偉大な復興」という目標ではないか。朱はその目標を実現する方法として、積極的核戦争論を説いているのである。私は、朱成虎はピルズベリーのいう「中国タカ派」の最重要人物の一人だと推定する。
中国は、李の戦略を実現するには、米国と対等以上の核戦力を持つ必要がある。対等以上というのは、必ずしも物量だけでは決まらない。実際の効果において優るという意味である。米国は民主主義の国ゆえ、国民の多数が核戦争で莫大な死者を出すよりは講和を望むという世論が形成されると、政府は民意に従わざるを得なくなるだろう。戦争は、しばしば物量的には劣りながらもどんな危険をおかし、いかなる犠牲を出しても絶対勝つという信念を持つ側が勝利する。またもし相手に対し圧倒的な核戦力を持つならば、相手を意気阻喪させ、「戦わずして勝つ」ことも可能になる。
私は、中国は「100マラソン」戦略を以って、2049年までに米国と対等以上の核戦力を持つ計画を立てて、猛烈な核軍拡を図ると推測する。その前にこの危険極まりない戦略を放棄させねばならない。
私は先に、「100年マラソン」戦略における「中国海軍の父」劉華清将軍の海軍増強計画の重要性を書いた。彼の海軍増強計画は2049年を目標するものである。中国共産党は、劉の計画によって海軍力の増強を進めつつ、朱成虎の積極的核戦争論を中核として「100年マラソン」戦略を進めていると見るべきだろう。ピリズベリーの著書は、この肝心要のことを欠いている。彼は「中国タカ派」の重要人物の名を挙げておらず、劉華清と朱成虎の名に触れていない。だが、この二人こそ「中国タカ派」の最重要人物に含まれるに違いない。
結びに~日本はどう対応すべきか
いま中国の軍事的な動きを封じつつ、経済的に追い込んで、共産党政権を崩壊させて、中国を民主化することができないと、中国は武力を行使し、力づくで覇権を拡大しようとして、戦争を起こす可能性がある。特に台湾と尖閣諸島が要注意である。最悪の場合は世界核戦争になる恐れがある。
最悪の結果を避けるためには、日本は自由民主主義の国々と協力し団結しなければならない。直近の課題としては、特に日米豪印4カ国の戦略対話「クワッド」を発展させ、これに英仏等を加えて、「自由で開かれたインド太平洋」を実現することが重要である。
この大きな山を乗り越えた後に、はじめて“昼の時代”が開かれるだろう。共存共栄・物心調和の新文明に飛躍できるか、それとも共産主義が支配する暗黒社会になるか。天国か地獄かの違いがある。この山を乗り越えられないと、人類は自滅の道を進むことになる。
世界は、米中対決という歴史的な段階に入っている。米中の対決は、今後、深刻さを増していくだろう。日本及び日本人が、米国に依存していればなんとかなるというような時代は、既に終わっている。
私たちには今、自分の足で立ち、自分の頭で考え、自分で自分を家族を国を守るという覚悟と行動が必要である。そのために最も必要なものーーそれは日本精神の復興である。日本人は日本精神を取り戻し、団結・協力して、この存亡の危機を生き延びねばならない。具体的には、憲法の改正と国防の強化が不可欠の課題である。憲法の改正と国防の強化なくして、日本は強大化する中国かから、主権と独立、生命と財産、自由と人権、伝統と文化を守ることは出来ない。そして、日本が中国に呑み込まれてしまったら、世界に共存共栄・物心調和の新文明を実現する道は見失われてしまうだろう。(了)
関連掲示
・拙稿「現代世界の支配構造とアメリカの衰退」――補説「人類自滅の構造を断ち、共存調和の道を進め」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09k.htm
・拙稿「凄まじい軍拡を続ける中国から日本を守れ」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-15.htm
・拙稿「ハンチントンの『文明の衝突』と日本文明の役割」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09j.htm
・拙稿「人類史上最も危険な思想~中国の積極的核戦争論」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08.htm
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『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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