風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「小さなトロールと大きな洪水」

2023-11-29 | 読書

フィンランドの作家&画家のトーベ・ヤンソンによる
ムーミンシリーズの、実は最初の物語がこれ。
1945年にたった48ページの小冊子として出版されたものの
本屋さんに置いてもらえず、新聞スタンドなどで売られたとのこと。
そういう経緯もあって2作目の「ムーミン谷の彗星」が
シリーズ1作目と思われてきたのだそうだ。
そして3作目が「たのしいムーミン一家」となる。

子どもの頃からムーミンが好きだった。
でも好きだったのはアニメの可愛らしいムーミンではない。
どこか不思議で神秘的でおどろおどろしい、
暗い森とムーミン谷の物語に魅了されたのだ。
アニメに通じる可愛い物語は
「たのしいムーミン一家」あたりからになるだろうか。
その変遷について、今回の読書と解説などを読んで
「そうだったのか」と得心した。

「小さなトロールと大きな洪水」の出版は1945年だから
書かれたのは恐らく第二次世界大戦中。
「ムーミン谷の彗星」が発表されたのは1946年だから
これもまた戦時中か、戦後だとしても直後に書かれたものだろう。
ムーミントロールとママが、行方不明のパパを探す旅の中で
たくさんの生き物が家をなくしたり、命からがら逃げたり
ムーミンたち自身も命の危険からやっとの思いで脱したりした末
ようやくパパを見つける「大きな洪水」は
まさしく一般の市民の戦時下での姿だ。
命の危機を伴う災害の物語である「彗星」もまた
突如として空からやってくる脅威の物語。
彗星はもしかしたら核兵器のメタファーなのかもしれない。
戦後処理の中で、当時の世界は東西冷戦前夜だった。

そして「たのしいムーミン一家」は1948年の発表。
もうムーミンたちを命の危機は襲わない。
明日が今日より明るいものとして描かれたりしている。
とはいえ、棲む森や谷は相変わらずおどろおどろしい雰囲気。
現代社会からは無くなってしまった「闇」がそこにある。
「闇」は見えないからこそ想像力につながる。
ムーミントロールの物語の魅力はそこにあるんだろうなぁ。

ところで、本書を改めて読んで気づいたけど
トロールたちってイメージよりはるかに小さかったんだね😅
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