風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「正欲」

2024-04-28 | 読書

人間はいろいろだ。
誰ひとり全く同じ人間はいない。
「そんなこと知ってるよ」と皆さん言うのだろうが
それはせいぜい理解の範疇だけだろう。
でも実はたくさんの人たちが他人には言えない
自分の特性やコンプレックスを隠して生きている。
性に関することはその最たるもの。
恥ずかしくて言えない向きもあろうが
絶対に理解してもらえないという諦めのためもあるだろう。
本書はそういう人たちの苦悩や
社会の無理解から来る誤解や差別の悲劇を描いている。
それは犯罪に繋がることなのか?
法律はどういう基準で定められている?

「頭の中に思い浮かぶ、あの人たち。
 田吉から見た対岸を生きる人々。
 ”多様性の時代”にさえ
 通り過ぎる街のすべてに背を向けられてしまう全員」

「万引きが快感につながる人がいるんだったら
 (中略)
 (そういう)人が建造物侵入容疑で逮捕って、
 更生という観点でみたらどうなんだろうって」

「電車は線路の形に合わせて、減速と加速を繰り返す。
 曲がったり、直進したり、
 レールの上から転落してしまわないよう、
 様々に動きを変えている」

「まともって、不安なんだ。佳道は思う。
 正解の中にいるって、怖いんだ」

「多様性って言いながら
 一つの方向に俺らを導こうとするなよ。
 自分は偏った考え方の人とは違って
 いろんな立場の人をバランスよく理解してます
 みたいな顔してるけど、
 お前はあくまで”色々理解してます”に偏った
 たった一人の人間なんだよ」

最後のセリフには背筋が凍った。
自分はどうなんだ?
週刊金曜日で多様性を促す記事を連載したけど
それは「”色々理解してます”に偏っ」てはいなかったか?
自分はどちらの岸にいるのだ?

「正欲」朝井リョウ:著 新潮文庫

 
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