風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

イップス

2020-07-01 | スポーツ

実はイップスだった。
高校で野球を継続しなかった理由のひとつになるほど。
中学校野球部時代は監督とコーチがいたけれど
「ちゃんと打て」や「ちゃんと投げろ」ばかりで指導らしいことは皆無。
なにしろ「水飲むな」「水泳は肩冷やすからダメ」など
現代から見るとおよそ非科学的なことばかりだった時代だ。
金属バットも無い頃で、軟式ボールは木のバットでなかなか飛ばない。
徹底的に短く持って当てて転がせと言われ、
マン振りするとたいそう叱られ、試合から外されたりもした。

そんな中、技術は自分で研究するしかない。
ネットはもちろん、技術的な本もほとんど見当たらず
自分なりの感覚で工夫するしかなかった。
内野手だったが、なんとなく投げ方が他の選手と違う気がした。
少しサイド気味から投げると強い球を投げられたが遠投は利かない。
腕を上げて投げるともっと遠投距離を延ばせる気がして
バッティング練習の順番待ちの時など
後輩相手にひたすらキャッチボールして試していた。
腕の角度をいろいろ試していたが、慣れない投げ方で方向が定まらない。
そのうち以前の投げ方までわからなくなっていった。
まともに相手が捕れるボールは数球に1球程度。
あとは抜けたり叩きつけたりということが続くようになった。

中学校野球部引退までは何とかごまかすことができたけれど
「ボールを投げる」ということにすっかり自信を失ってしまっていた。
高校、大学時代はほとんどプレーする機会はなかったが
就職してから会社の草野球チームに入ることになる。
バッティングは自信あったので3番や4番を打つものの
サードやショートでは送球がままならない。
初めは外野、だんだんファーストやキャッチャーをやるようになった。

面白いことに、外野からのバックホームはわりとコントロールがつく。
ファーストはもともとあまり強い球を投げる機会が少ないからいいが、
キャッチャーからのピッチャーへの返球は、立って投げると球が暴れる。
座ったまま横から投げると苦もなくちゃんと返球できる。
セカンド送球はおっかなびっくり投げるからたまにしか届かない。
サードの時も、不思議に三遊間からのランニングスローなど
体勢が崩れている時はいい送球をすることができた。
しかしイージーなサードゴロを処理したときなどはファーストに暴投。
こうなってくると、何が悪いのかわからなくなる。

もう野球を引退してしまった今も
時々腕を振ってみては「こうかな?」とか「これならどうだ?」とか考え、
川での石投げや、冬の雪かき時に雪玉投げてみるけれど
かつてよりさらにひどくなっている気がした。

生での野球観戦時、大学選手やプロ選手のキャッチボールを凝視する。
どうやって投げているのか、どんな腕の振り方をしているのか。
右肩の上を綺麗に腕が抜けていくのをみて羨ましく思ったりしていた。
数日前、ふと投げる右腕ではなく、左腕の使い方を真似てみた。
川に向かって投げた石がきれいに飛んでいく。
これだ!
右腕の振りだけ気にし、おっかなびっくり左肩を開いて
手投げになってしまっていたらしいのだ。
左の肘を相手に向けて胸を張り、右肘を後ろにひくことで
体の開きを抑えることができることに気づいた。
何度も投げてみる。
ある程度ちゃんと目標物近くに投げることができる。

腰も痛いし、足腰が弱って、もうまともにプレーはできない。
走れないし、バットすら触れないのではないか?
それでも今度はボールを投げてみたくて仕方がない。
事務所に飾ってあるボールを握ってみるけれど、投げる相手もいない。
塀に向かって投げるもの、まだすっぽ抜けそうで怖い。
それでもイップスを脱する光明が見えてきた。
野球しなくていい。
ただ投げてみるだけでいい。
イップスを克服できたことを自分で納得できれば
その時、無類の野球好きの私が
本当に自分でプレーする野球を卒業できる気がしている。
コメント
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