風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

ゆるい時代、窮屈な時代

2018-11-23 | 世界・平和
私が中学生、高校生だった1970年代ごろ。
高校生はもとより、
普通の中学生もたまには大人の目を盗んで酒を飲んだり
タバコを加えたりしてみていた。
高校生ぐらいになると、さすがにタバコには厳しかったが
先生の家に遊びに行くと「ここだけだぞ」とビールを出された。
学校の帰り道、途中のりんご畑で、
りんごを1個無断で頂戴したところを畑の主に見つかった時には
「しょうがねぇ学生だな」ともう1個くれたりした。
街で多少羽目外し騒いだ時も「他人の迷惑にはなるなよ」と
大人たちは苦笑いで見過ごしてくれた。
文化祭となると準備のために無断で学校に泊まり込み
「帰れ!!」と怒鳴り込んできた先生と
なぜ泊まり込みが必要なのか、なぜ帰らなければならないのか
膝詰めで討論し、結局認めてもらったりもした。
自分の好きな勉強は真剣に取り組んだが
興味が持てないことは宿題すら平気でパスしていた。
受験に失敗してもどこ吹く風で
「オレの実力が発揮されるのはこれからだ」とばかり
無頼な浪人生活を送る者もたくさんいた。
道のどこかでつまづいても、すぐに立ち上がれたし
どこかで道を外れても、また違った道があった。
そんな中でみんなさまざまな経験を積み、生きる力をつけ、
あちこち寄り道しながらも、自分の足で歩んでこの歳になった。

いまの言葉で言えば、ゆるい時代だったのだろう。
「しょうもない時代」だったのかも知れない。
いまと比べると、タバコの吸殻はあちこちに落ちていたし
繁華街には人だけでなくゴミもたくさん散乱していた。
路地は暗く汚かったし、野良犬はいたし、
夜行列車では通路に新聞紙を敷いて寝てる人もいた。
雑多で、テキトーで、ボロくて、ダサくて、
でも人と人との距離が近かった時代。

現代はどうだろうか。
どこもかしこもきれいに整備され、ゴミも落ちていない。
人々はみんな小綺麗な格好で歩いている。
酔っ払いは敬遠され、タバコの煙が少しでも漂っただけで
露骨に嫌な顔をし、避けて通る。
ちょっと人とは違う言動しただけで叩かれ、非難され
息の根が止まるまで徹底的に攻撃される。
みんな鵜の目鷹の目で人と違うことをする人間を識別し
ちょっとでもそこから足を踏み外すと奈落に転落して
元の道に戻ることもできない。
決まった道を歩まない者は敬遠され、蔑まれる。
ほんの少しでもつまづくと、そのまま取り残されていく。
ひとりひとりの人生は生まれた時からレールが決められて
そこから外れないように親たちが慎重に前を歩き
邪魔なものは本人の目に入る前に排除される。
レールを外れた人間のことは誰からも一瞥すらされない。
お互い、レールを外れないように、周りの人間ばかり見ている。

あの頃と比べて、ひとは幸せになったのだろうか。
相互監視による窮屈さ、ひとの揚げ足をとったり腐したり。
全てがシステマチックになった代わりに例外は通らなくなった。
「効率」が美徳の基準にとなって
無駄と思われることはすべて悪と判断される。
他人の目と、歩かなければいけないと強要されるレールとに
息すらできないほどがんじがらめで窮屈な時代。
空気を読んだり忖度できない人間は切り捨てられる。
いま若い人たちに「昭和」が魅力的に写っているのは
もしかしたらあの頃の「ゆるさ」の魅力なのではなかろうか。

先日、TVで山田洋次監督の特集を見た。
「男はつらいよ」シリーズ50作目を作っているという。
その番組での彼の言葉が耳に残っている。
「いま日本人に問われていること。
 僕たちは幸せなのだろうか。
 どう幸せなのか。
 自分の力で他の人たちを幸せにできているのか?」
寅さんはテキトーで、だらしなくて、ゆるくて、
いかにも昭和な人間の典型だけれど
でもその存在が他人に幸せをもたらしている。
だからこそおいちゃんも、おばちゃんも、さくらも
散々迷惑かけられても、振り回されても
毎回寅さんを温かく迎えるのだ。
これぞ無駄の極致。そこに効率なんざありはしない。
山田洋次さんは続ける。
「60年代後半から70年代前半にかけてが
 日本人が一番元気だった時代」
他人に目をかけ、許し、思い合っていた時代。
厳しい他人の目じゃなくて、お天道様の目を気にしていた時代。
それが昭和という時代だったと思うのだ。

今日は全国的に勤労感謝の日だけれど
本来は豊饒の神様に今年の収穫を感謝する日。
宮中では新嘗祭が執り行われるが
上根子熊野神社でも新穀感謝祭が行われる。
自然神に心から感謝を捧げるという考え方もまた
「効率生産」とは真逆の考え方。
こういう謙虚な心こそ、今大切だと思う。
コメント (2)
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