満佐子の爪先の気持ち
神由紀子主宰の朱の会による新企画である。出演は声優・ナレーターの横田砂選(よこたさえり)、講談と落語の二刀流で活動する釈亭あさ鯉、「言の葉だこっと」朗読会にキーボード伴奏者としてだけでなく、俳優としても出演してきた小山美幸で、いずれも朱の会初参加である。講談と外国の短編、そして三島由紀夫の短編というメリハリのある構成の朗読会に、客席数25のかふぇ&ほーる with遊の空間がよく合っており、休憩を挟んで2時間弱の佳きひと時となった。
☆第一部
釈亭あさ鯉/赤穂義士伝『赤垣源蔵 徳利の別れ』・・・「赤穂義士伝」のなかでは最もよく語られる読み物のひとつであり、題名でネット検索するとたちまちたくさんの講談や落語などの情報にアクセスできる。主君の仇討ちを見事に果たした赤穂浪士たちそれぞれに人生があり、別れがあった。切なくも温かな物語である。
釈亭あさ鯉/赤穂義士伝『赤垣源蔵 徳利の別れ』・・・「赤穂義士伝」のなかでは最もよく語られる読み物のひとつであり、題名でネット検索するとたちまちたくさんの講談や落語などの情報にアクセスできる。主君の仇討ちを見事に果たした赤穂浪士たちそれぞれに人生があり、別れがあった。切なくも温かな物語である。
横田砂選/『ふみたば』(モーリス・ルヴェル作)・・・大人のほろ苦い恋物語と見せて、いささか冷酷な終幕。
☆第二部 神由紀子/『橋づくし』(三島由紀夫)・・・陰暦8月15日の満月の夜、7つの橋を渡り切ったら願い事が叶う。ただしそのあいだ、誰とも口を利いてはならない。40過ぎの小弓、22歳のかな子の芸者ふたり、かな子と仲良しの料理屋の娘満佐子、そして東北から出て来たばかりの手伝いの少女みな。4人の女たちがそれぞれの思いを胸に(みなの心中は最後までわからない)、銀座、築地界隈をひたすら歩き、祈るその顛末は?
女性たちの心象の精緻な描写を、神由紀子は正確かつ情感を込めて語る。サスペンス的な要素もあるが、さっぱりと小粋な作品だ。満佐子がマニキュアをした爪先でみなの肩とつつく終幕の一文が面白い。「その爪は弾力のある重い肉に弾かれ、指先には鬱陶しい感触が残って、満佐子はその指のもってゆき場がないような気がした」。これを目で読んだとき、いったいどういう状況なのかわからず、それこそ「もってゆき場がないような」困惑を覚えたのだが、俳優の肉声で聴き、客席から思わず笑いが起こったとき、満佐子の指先の感触がリアルに伝わり、その心持にも共感できたのである。朗読されることによって文学が立ち上がった瞬間だ。
朱の会の公演に足を運ぶうち、出演俳優の顔ぶれや声、語り口、照明や音楽も含めて、いつの間にか、ある一定のイメージが構築されていることに気づく。そこには安定感と心地よさがあるが、さらに新しいものを求めたいという作り手の意志が伝わる今日のステージであった。客席の自分も、その意志に応えたい。これからも是非に。
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