因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

T Crossroad《花鳥風月》そして春 短編戯曲セレクション【2】

2023-06-08 | 舞台
*座・高円寺 夏の劇場 06 公式サイトはこちら 2021年冬上演の「2020年の世界」観劇の記録→1,2,3 2022年「夏」→1,2 同「秋」
 昨年春夏秋冬に開催した短編戯曲祭で「スタートラフ」として書き進められた戯曲がいよいよ完成版『カミの森』として登場。さらに《花鳥風月》集大成として、参加作品から3作品【1】と、『カミの森』と同テーマの参加劇作家による新作リーディング2作品【2】が上演される。

 『カミの森』に先駆けて【2】を観劇した。演出はいずれも川村毅。天井が高く、奥行きもある舞台には切株のようなものが並ぶ。その前に椅子を置くだけのシンプルで贅沢なリーディングだ。俳優は白いブラウスやTシャツに黒のスカートやパンツの衣装。

*波田野淳紘作『聖地と流血』・・・女/南果歩 男/川口覚
 母は救い主にひたすら祈っている。やってきた息子は教祖を撃ち殺したと言う。噛み合わないまま、やりとりは激しくなる。俳優は基本的に台本を手にして読む形式だが、母は悠然と椅子に掛け、息子は椅子の上で膝を抱えるなど、態勢によってそれぞれの心の様相や意識の違いを見せる。このまま進むのかと見守っていると、母が立ち上がり息子をぶつ。息子は台本を手に持った姿勢で床にころがる。本作ではト書きを読まない。拒否しているかのような印象すらある。観客はト書きを聞くことによって物語の設定や背景の情報、人物の行動を予測するのだが、このリーディングはそのような準備をさせず、観客を劇空間にぶち込む。本作を世相を反映したいわゆる「宗教二世」の話と時事的に捉えることをためらうのはこの激しさや、そこから生まれる悲しみのためだろう。

*萩谷至史作『アナタの声で眠らせて』・・・エーカム/南果歩 ドヴェー/高畑こと美 トリーニ/川口覚 ト書き/蓮見のりこ?(チラシに記載無)
 あやしげな新興宗教の信者が共同生活をしている場所。彼らは穢れを浄めるために修行に励んでいる。ベテランのエーカム、中堅どころで指導役見習いといった様子のドヴェー、新参のトリーニが繰り広げる宗教論議とあっけないその結末を描く。誰がまともで、誰がそうでないかを判断し、どこに視点を置くかを決めようとしてしまうのだが、その観客の意識を躱しつつ進行するやりとりに引き込まれる。

 これまでの《花鳥風月》公演観劇により、『カミの森』のおよその構造や物語の流れは自分なりに理解している。しかし今日の二作は『カミの森』のような笑い、観客の気持ちがほぐれる要素がほとんどなく、結末にも救いが見出しにくい。『カミの森』に対して若い劇作家が感じたこと、触発されたことは相当に厳しく、深いもののようである。まずは『カミの森』、続いて短編戯曲を観劇するのが順当であろうが、逆の流れになったことで完成作『カミの森』に対して安易な予想をすることなく、良き助走になったと思われる。千秋楽の観劇に向けて背筋を伸ばそう。
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