因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

山本さくらパントマイム 第51回公演『DOOR― 扉にまつわる物語』

2023-06-07 | 舞台
*公式サイトはこちら ザムザ阿佐谷 6月7日昼2回夜公演(1,2,3,4
 山本さくらが作り、構成・演出し出演する年に一度のパントマイム公演。リアル観劇は何と4年ぶりとなった。オンライン視聴ならではの魅力もあり、よき手応えを得ていたが、ザムザ阿佐谷の石の階段を地下に降り、木の温もりのある客席に座ると懐かしさが込み上げてきた。舞台中央には椅子が一つ。「DOOR」と書いためくりが置かれている。暗闇の持つ味わいや匂いに開演前の心身が落ち着き、期待が高まる。

 プログラムは「開かない!/手紙/開かない??/箱男/開かない!?/智恵の輪/開かない!!!/DOOR」とある。ひとつ終わると暗転し、女性スタッフが椅子に置かれためくりを1枚めくると、新しいタイトルが出て次々に披露される作りだ。デザートを楽しみにうちへ帰った子どもが、家族に食べられてしまったことに大泣きする場面に始まり、あまり幸せではない内容と思われる手紙を紙飛行機にして何度も飛ばしたり、宅配便で届いたの箱を開けると次々に箱が入っていたり、家のドア、冷蔵庫の扉、天窓などなどの「扉」と、それを「開く」こと、それが「開かない」こと、開いたその後の広がりなどが生き生きと展開する。

 物語がひとつ終わって暗転し、次のタイトルのめくりが示されて再び暗転までの時間は30秒に満たないと思われるが、山本は都度衣裳を替えている。衣裳の組み合わせ、着替えのタイミングなど、周到な準備が行われたことだろう。人物は大人から子どもと自由自在だ。ネクタイを締める仕草で勤め人の男性と見せるなど、工夫が凝らされている。いつものことながら、山本の動きのしなやかで美しいこと。手紙を紙飛行機に折る手指の動きから、手紙がだんだん小さく折りたたまれていく様子がよくわかる。また寝転んで煙草を吸いながらテレビを見る、缶ビールを空け、つまみ(柿ピーでは?)を一つひとつ口に入れる、カッターナイフで箱を開ける動作すべて、空気をふんわりと捉えるように自然で、しかも確かである。「見えないものが見えてくる」を越えて、ものの大きさや厚さまでもが感じられる。観客の触感が刺激されるのである。

 箱を開けようとしてどんどん中に入り込んでしまう不思議や、どうしても扉が開かなかったりの悪戦苦闘、またやっとのことで表に出て、大空を羽ばたきながらも再び地上に戻るところは、コロナ禍の閉塞感の反映を越えて、世の不条理や人の生きる普遍的な姿を示したのかもしれない。

 パントマイムゆえ、台詞を足掛かりに考えることはできない。見たばかりだというのに早くも記憶の曖昧なところもあり、作り手の意図を充分に受け止めていない点多々あるが、休憩無しの1時間、中身のみっしり詰まった一幕ものの趣を味わい、年に一度のザムザ阿佐谷の夜が帰ってきたことが嬉しい。
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