因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

シス・カンパニー『怪談 牡丹燈籠』

2009-08-30 | 舞台
*大西信行作 いのうえひでのり演出 シアターコクーン 31日まで
 観劇から2週間もたってしまったが、やっと明日が千秋楽である。本作は文学座の杉村春子主演版を衛星放送で、実際の上演は新橋耐子が引き継いだものをみたことがあるのだが、やはり2006年のハイリンドの公演(西沢栄治演出)の印象が忘れ難い。というか、「これはこういう話だったのか!」と驚き、ちくま文庫の三遊亭円朝の『怪談牡丹燈籠』をがつがつと読んで、男女のもろもろだけではない、親子の情愛や、家来があるじを慕い、あるじが家来を思う忠義の深さが何代にも渡って複雑に絡み合いながら展開するおもしろさにもっと驚いた。そして下北沢「劇」小劇場の空間で、出演俳優が複数の役柄を演じ分けながら、小道具はほとんど扇子1本だけで全力で走り抜けたハイリンドの頑張りを、いまだにわくわくと思い出す。あの夜はほんとうに楽しかった。
 今回のシス・カンパニー版は大西信行が文学座に書いたオリジナル版の上演で、伴蔵、お峰夫婦、新三郎、お露の若い2人、源次郎、お国夫婦の3組の男女が色と欲に人生を狂わせていく様子が中心になる。ベテラン、中堅、若手まで、実力派、売れっ子、新人をまんべんなく配役して多くの人が受け入れやすい作りである。皆それぞれのポジションを誠実に守り、「よい舞台にしたい」という気持ちが伝わってくる。

 だがやはり物足りなかった。新三郎、お露の出会いより前に遡った飯島平左衛門と孝助の話がないのはいかにも残念だ。特にこの物語を全身で引っ張っていく孝助が、自分にはとても魅力的に思える。シアターコクーンの空間で、いのうえひでのりの手腕をもってすれば、因果が複雑に絡み合った、「大河ドラマ」と言ってもいいこの長大な物語を作り上げることができるのではないか。
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