馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

馬回虫の駆虫

2009-08-18 | 急性腹症

生後数ヶ月までの子馬の駆虫で、もっとも重要なのは馬回虫の駆虫かもしれない。

回虫は虫体が大きく、ときには小腸の中で食べたもの以上の容積を占めるほどになってしまう。

そして、小腸を閉塞させたり、重積を起こす原因になる。

回虫が大量寄生している子馬を駆虫すると、死んだ 回虫が小腸に詰まって小腸閉塞を起こしたりもする。

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8月になってイベルメクチンで駆虫した子馬が1週間後小腸穿孔で死亡した。

剖検すると小腸の中でも、腹腔内でも回虫は生きていた。

イベルメクチンは・・・・効かなかったのだ。

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5月生まれで、すでに3回イベルメクチンで駆虫している子馬を小腸閉塞で開腹手術した。

かなりの量の回虫が小腸内に入っていた。

空腸を切開して排泄させた回虫はまだ元気よく生きていた。

大きい回虫も目で見えるかどうかの小さい回虫もいた。

イベルメクチンは・・・・効かなかったのだ。

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腸内にいる線虫だけでなく、体内移行中の線虫も殺せるイベルメクチンの利点はすばらしい効果を挙げてきた。

かつては、馬を解剖すると多かれ少なかれ腸間膜動脈根部には円虫による血栓があったものだ。

しかし、イベルメクチンによる駆虫の普及は寄生虫動脈瘤をめったに見られなくした。

ただ、イベルメクチンだけに頼った駆虫プログラムは、イベルメクチンに強い寄生虫を選択的に残してきてしまうのかもしれない。

イベルメクチンを多く使い、駆虫を徹底してきた牧場ほど、その傾向が進んでいる可能性がある。

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われわれ獣医師も駆虫プログラムを作って指導してきたし、

これからも効果があがる駆虫プログラムを推奨していく責任がある。

しかし、そのためには何種類かのプログラムを虫卵検査をしながら試していく必要が出てきたようだ・・・・・

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P8190841

洗面器(かおを洗う器ではありません;笑)に入れた回虫が(左)、P8190847

うにょうにょ泳いでいるうちに整列するのはなぜでしょう?(右)

私は、単に虫体の硬さと動きのせいだと思うのですが、別な答えを知っている人は教えてください。

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夜中に手術を終えて帰っての夕食は、素麺でした。いや、ホント。


19 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
スタミナの話では無くて、見た目の話ですね。ナム... (zebra)
2009-08-18 20:42:21
スタミナの話では無くて、見た目の話ですね。ナムルとか出られても切ないですね。。
しかし興味深いスタイルですね。円虫はある程度太いので消化管の中にとどまるためにはまっすぐでいることが好都合なのでしょうか。
糸状虫は蛇行スタイルで消化管にへばりついているように思えますが、如何でしょうか。

競合相手が駆虫された結果、他の寄生虫が増える可能性は高いように思えます。
虫卵検査をある程度持続していくと、生産者が負担に思わない程度の駆虫をどうするか?というヒントは意外に得やすいように思えます。
まあ、牛相手ならではの鷹揚っぷりかも知れません(笑)
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>zebraさん (hig)
2009-08-18 21:06:36
>zebraさん
 「選択的に残してしまう」は種類の違う寄生虫を意味したのではなく、同種の寄生虫の中で抵抗力のある個体を選抜し続けてしまうという意味でした。
 
 寄生部位も生活環も異なる他種の寄生虫が競合・拮抗しているとは考えていません。

 理想の駆虫プログラムは難しいです。駆虫薬代は少なく抑えたいし、いちいち虫卵検査していては検査代が高くついてしまいます。しかし、致命的な障害をおこしてしまうかもしれないのが、牛よりはるかに固体価格が高いサラブレッドなのです。
 
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イベルメクチン常用環境では耐性の出現しやすい株... (zebra)
2009-08-19 06:43:14
イベルメクチン常用環境では耐性の出現しやすい株?が選抜されてしまうのではないか、という事なのですね。
大学などで遺伝学的な調査をすれば、イベルメクチン農場とそれ以外の農場では検出される系統が違うなどという結果に至るかも知れません。
もしくは、ある程度のイベルメクチン投与レベルに達すると、イベルメクチンを投与した際のOPG減少率が鈍くなる事に現れたりするのでしょうか。

細菌類の耐性株は感受性のある株が殲滅した結果そろそろと増えてくると思うのですが、
寄生虫の場合は宿主の免疫能も併せて考えなければならないかも知れません。
現場の臨床検査だけではなかなか難しそうですね。

牛と同じくらいの市場価値の馬もいっぱいいると思うのですが、コストは頭数割で馬は高いですね。
費用対効果が見込める折角のサラブレッドでしたら、コストと神経を注ぐ価値はあろうかと思います。
牛はこんなもんでしょう、の神経ではそれも出来ないのですが。。
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イベルメクチンへの回虫の耐性は数年前から言われ... (shigie)
2009-08-19 07:22:51
イベルメクチンへの回虫の耐性は数年前から言われていますが、確かに臨床現場でも増えてきているようです。
イベルメクチンが発売されて以来、臨床では万能薬であるかのような幻想を抱き、信用しすぎてしまったのではないかと思います。文献を読むと先生のおっしゃるように、実は回虫にはあまり効かないのです。
現在は仔馬にはイベルメクチンとピランテルを交互に投与するように提案していますが、ある牧場ではピランテルにも耐性があるようだと言うことで、フルベンダゾールなどを試しているそうです。古い薬を見直すようですが、何だか時代に逆行しているようです。
洗面器の虫体の並び方は面白いですね。腸管の中でも同じ事が起こるのでしょう。確かにあの虫体がもぞもぞと動くと、物理的にああいう並びになるのでしょうね。
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これは1頭の馬の小腸に入っていたんですよね・・・... (きゃさりん)
2009-08-19 16:28:20
これは1頭の馬の小腸に入っていたんですよね・・・す、すごい。
私は「ごぼうのささがき」を連想してしました(失礼・・・)
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日々ご苦労様です。引き続き閲覧させていただいて... (TSUSHIMA)
2009-08-19 21:00:44
日々ご苦労様です。引き続き閲覧させていただいております。
不謹慎ですが、アルミの器から韓国風冷麺を思い出してしまいました・・・。

当たり前ですが駆虫には気を使わないといけませんね。

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私はもやしを連想しました・・・ (kinako)
2009-08-19 21:20:20
私はもやしを連想しました・・・
夏にぴったりの画像ですね!(背筋が涼しくなります^^;)

こちらで解剖した成馬ではこういう状態は見たことがなかったです、馬産地ならでは、なのでしょうか。
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初めてコメントします。 (flare)
2009-08-19 21:30:32
初めてコメントします。
イベルメクチン耐性虫はこれまでのプログラムできちんと駆虫してきた牧場ほど発生しやすいと解釈して良いのでしょうか?
先日届いた抄録に載っていますが、北海道獣医師会にも本件に関する発表が出ているようですし興味深い話ですね。
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いつも楽しく拝見させていただいております。 (かあさん牧夫)
2009-08-20 00:39:44
いつも楽しく拝見させていただいております。

この場をお借りしてお伺いしたいのですが・・・
4月生まれの当歳にエクイバランペーストをかけたのですが、駆虫後も回虫君たちが馬糞に混ざって出てきます。大小さまざま・・・
1週間おきに4回駆虫しましたが、数は少なくなりましたが、まだ出ます(汗)
しかもこの1頭だけ。
近日中に離乳予定ですが、特にストレスもなく、体は毛づやも良く、ボディスコアも高めです。
駆虫剤をかえた方が良いのでしょうか?ご教授お願いいたします。
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>shigieさん (hig)
2009-08-20 07:46:12
>shigieさん
 イベルメクチンは回虫にも効く。とイベルメクチンによる駆虫を推奨してきました。それは、臨床試験にもとづいたものだったのですが、そろそろ方向転換しなければいけないようです。
 ピランテル(ソルビー)でも落ちないとなると、ベンダゾールへ戻るしかないのでしょうかね。モキシデクチンはどうなのか・・・・
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