一時、便も出るようになり、食べるようにもなったが、下痢するようになり、徐々に衰弱し、起立不能になった。
廃用にしようとしたら死亡した、とのことで剖検に持って来られた。
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本当に内臓逆位なのか?
何もかも左右反転しているのか?
そんなことが本当にあるのか?
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きれいな仰臥にして剖検を始める。
子牛は開腹手術後の2週間でさらにやつれてしまっていた。
胸腔では心臓はちゃんと左にある。
腹腔では、左にあるのが第四胃。食滞状になって膨満している。
右側にあるのが第一胃。食べてないので容積は小さくなっている。
第四胃はやはり右湾し、幽門部から十二指腸は左側から背側へ走行し、肝臓と膵臓から胆管・膵管を受けている。
腸管はさらに左腹腔にある。
十二指腸は短くて、後走部がない。
上図は「牛の解剖アトラス」からお借りしました。
牛の十二指腸は不思議に尾側へ走ってから、また頭側へ戻って来て空腸へ移行して、いなければならない。のか?
頭側から腹腔を見ると、肝臓はやや左寄りにある。
胆嚢も左よりにある。
成牛の肝臓は、右寄りにあるのが本当。左葉が腹側にある。
臓側面はこうなっていて、尾状葉は右葉に付いている。
横隔膜面はこうなっていて、背側が右葉。
この牛の肝臓は尾状葉はなかった。
本来右側にあるべき肝臓が、頭側から観て反時計周りに90°回転している。とも言えるし、
この牛の右葉は本来の左葉で、(完全な逆位なら)完全に左側にあるべき肝臓が時計回転しているのかも??
この写真では右が頭側、左が尾側。上が牛の右、したが牛の左。
左の腎臓の方が頭側にあり、右の腎臓の方が尾側にある。
本当はこのように、右の腎臓が頭側にあり、左の腎臓が尾側にある、はず。
膀胱尖には、尿膜管の化膿ののこりと思われる袋状組織が付いていた。
開腹手術創には結腸の一部が癒着していた。
しかし、どちらの所見もこの牛の異常と経過にとって本質ではなく、重要ではなかっただろう。
胸腔は左右反転していなかった。
心臓はやや丸みをおびていて、肺動脈も弛緩していたが、心畸形や弁膜症はなかった。
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臓器の左右反転は、繊毛運動と関係があるらしい。
繊毛運動ができない異常があると、胚の発生時に繊毛運動による水流を創れず、そのため左右を作り出せないのだそうだ。
繊毛運動ができないと、副鼻腔炎や気管支拡張が生後に起こるとされている。
この牛は、肺の一部が無気肺化していたが肺炎による治療歴はなく、副鼻腔炎もなかった。
どうして腹腔臓器が逆位になったのか・・・・・わからない。
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開腹手術したことで、わずかに生前診断に近づいた稀有な経験だった。
詳しく超音波検査したらどうかとも思ったが、時間がかかる割りに成果は乏しかっただろう。
生きていける牛ではなかったようだ。
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こういう子牛、あるいは成牛は、内臓逆位を生前、食肉処理場、あるいは死亡畜焼却場で診断、または確認されているだろうか?
なんかヘン、と思われながら、そのままになっているのではないだろうか。
見つかって確認されている以上に内臓逆位はあるのではないかと思う。
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この本にたいへんお世話になった。
牛の腹腔手術は、第四胃変位、帝王切開、尿膜管か臍静脈膿瘍、など特定の手術ばかりが多い。
肝臓や十二指腸あたりや、腸間膜から結腸の走行、あるいは腎臓の固定など、解剖の知識不足を感じた。
臓器が左右逆転しても致命的ではない場合もあるようですが、この牛の場合は長くは生きられそうにもなかったようで。
あえて去勢手術も死因に関連した、と無理とに考えたら何かありそうでしょか?
この時期、晴れたらとても好きな涼しい朝。
一胃が回ってんじゃねと思った症例はない訳ではないのですがまあ気のせいでしょうね。
とはいえ遺伝が関連している可能性があるなら頭の片隅には置いておかなければならないのでしょう。
反芻に障害があって伸びない個体は一胃が発達せず特に腹囲が細いので判りやすいかも知れません。
この手は解剖に供された数で知識の程度は深まるみたいでして、牛の心畸形はヒトよりモデル化してるんだ、とそのスジの方が申されてました。
ヒトだとダメでバラしてが思うに任せない面もあるでしょうからね。
家畜だと治してどうするだけが足引っ張りですけど、その辺は飼養者も興味持ってくれるかですね。
求心性の神経支配があって、それを切ったので一時的に肺全体に響いたのだと思います。
こういうリアクションは覚えとかないとならないですね。
もともと、その臓器の構造の左右、位置の左右がどうしてそう発生するかが、ひとつひとつわかっていないのだからどうしようもありません。
私の右手が本当に右手で、反転した左手でないということを証明する方法は無いのでしょう;笑