馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

当歳馬2ヶ月齢の空腸捻転 開腹の判断

2021-06-16 | 急性腹症

ちょうど2ヶ月齢の子馬が夕方6時半から疝痛。

フルニキシン無効、鎮静してもまた痛くなる、ということで7時40分に来院。

転げまわるほど痛いわけではない。

心拍は100。親から離して連れて来られた昂奮もある。

蠕動は亢進気味。

PCV37%、乳酸値3.6mmol/l。

超音波検査しようとするが、じっとはしていない。

それで、メデトミジンとブトルファノールで鎮静した。

小腸が盛んに動いている。

完全に膨満している部分や肥厚した部位、あるいは動いていない部位は見当たらない。

                 -

蠕動亢進して痛いのか?

ブチルスコポラミンを投与してみる。

子馬の痙攣疝や異常な蠕動亢進には効くだろう。

しかし、子馬は寝込んでしまった。

聴診するとまだ蠕動亢進している。

寝ていると、腹囲膨満しているようだ。

フルニキシンを投与してみる。

疝痛を抑え、異常な蠕動を制限してくれることを期待する。

しかし、立つと身をよじり、前掻きしする。

倒れこんだり、転がりまわるほど痛いわけではない。

                -

来院してからもう1時間ほど経った。

再度超音波検査するために鎮静剤と鎮痛剤を投与する。

超音波所見は変わらない。

相変わらず蠕動は亢進気味。

                -

右側で数分かけて聴診する。

蠕動音は聞こえるが、しっかり内容が運ばれる音は少ない。

そして・・・回盲部の通過音、管から有響部がある部屋へ流れ込む特徴的な音、は聞こえない。

「手術しましょう」

これだけ蠕動亢進しながら小腸から盲腸への流れ込みがない、回復しない、のはおかしい。

                -

開腹し、盲腸から小腸を吻側へたどる。

すぐ出てこなくなった。

ループ状の小腸がまとわりついて絡んでいた。纏絡。

完全には締め付けられておらず、解くことができた。

そこから小腸をさらに上位へ辿っていく。

回腸は正常、その吻側の空腸下部は纏絡していた部分で点状出血し、肥厚もある。

空腸の中位は、腸間膜付着部に水腫があった。

内容を盲腸へ推送し、盲腸はポンポン。補液管を刺して減圧した。

                -

小腸全体は盛んに蠕動し始めた。

疑わしきは切除する、が判断基準なら予後不良だ。

切除するには範囲が長すぎる。

しかし、回復することを期待することにした。

腸管操作前に、ソディウムカルボキシ・メチルセルロース液をかけてある。

癒着防止に働いてくれる、はず。

                  -

術前PCV37%、

腸内容も抜かなかった。

順調なら明朝には哺乳できるだろう。

だから、術後の輸液はしないことにした。

それなら、入院しないで帰りましょう。

翌朝、子馬は調子良いということだった。

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とうちゃん ねぶそくだべ

いっしょにひるねしてやるか

 

 

                

 



4 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2021-06-16 21:01:57
 それほどひどくないのが解せない。
 ブチルスコポラミンでも蠕動亢進が落ち着かないのも解せない。
 もうちょっと様子見るか、とならなかったのが勝因でしょか?
 今時期2か月って美味しい草を食べる時期にちょうどよくていいなぁと思いました。
 オラ君は昼はいつでもねてるんじゃなくてぴとっとくっついて、きっとhig先生は心地よく眠れたことでしょう
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>はとぽっけさん (hig)
2021-06-17 05:09:30
ギュッとは締まっていなかったからでしょうね。それでも血行障害を起こしていて、通過障害もあるので、腸管としては一生懸命動かないではいられなかったのでしょう。
切除せずに済む最終的なタイミングでした。

二次診療施設ではあまり経験できない状態でした。たいていは完全膨満して、蠕動がなくなった状態で連れてこられますから。

いつも寄ってきてくれるの嬉しいですね。飼主の幸せです。毛だらけになりますけど;笑
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Unknown (風来坊)
2021-06-18 20:34:45
話が多少ズレますが、予定しているオペをしつつ、こういう急患も対応しているHig先生筆頭にセンターの獣医さん達の体力は半端ないなぁー
と、いつも羨ましく思っております

馬の獣医、必要なのは頭と腕と体力・・・
いかん、自分、全部足りない・・・

足りないなりに頑張ってはいますが・・・
年々この時期の疝痛が間違いなく本州増えてます
気候によるものか?人手不足からの管理の質の低下からか・・・
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>風来坊さん (hig)
2021-06-19 04:18:48
プロにとって、何よりまず体力(持久力)と人柄、というのはありますね。体育会系が重宝されてきたゆえんでしょう。
しかし、体育会系なんて流行らなくなってしまいました。

「働き方改革」も必要なんでしょうが、仕事を最優先してきた人のレベルには至れないでしょうね。

南関東の疝痛にも季節性があるのですね。暑さのせいでしょうか・・・?
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