家族の急病で獣医師が休んだので、午前中の手術は延期してもらった。
おかげで運ばれてきたRhodococcus equi 感染症の子馬をしっかり剖検することができた。
2月生まれで、生後32日から肺炎で治療し、途中、血液検査の急性炎症像が治まって治療を中断したことは2回あるものの、ほとんどずっと治療していた、とのこと。
先日、高度医療センターへ来院し、超音波検査で腹腔内膿瘍を確認し、もうあきらめた方が良い、ということになった。
径30cmほどの腹腔内膿瘍があった。
盲腸と結腸のリンパ節から派生したように見えるが、もう小腸も巻き込まれている。
腸閉塞を起こさなかったのが不思議なくらい。
何度も破れて、そのたびに癒着して治まり、また大きくなり、を繰り返したのだろう。
治療しなければもっと早くに症状も悪化したのだろう。
肺は肋骨側はきれい。わずかに横隔膜面にほとんど治りかけた膿瘍の痕があった。
肺膿瘍は血行盛んな肺実質に取り囲まれているので治せるし、自然に治ったりもする。
しかし、腸管のリンパ節が化膿してある程度の大きさになると、血行を失うし、実質臓器に取り囲まれているわけではないので治りようがない。
自潰すれば、癒着してまた大きくなる。
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例年、夏から秋にかけてRhodococcus equiで長期に治療した挙句にダメになった子馬を解剖する。
その都度、警告の記事を書くが、もうその季節は子馬の季節ではない。
牧場もロド感染症をなんとかしたいという意欲が薄れている。
だから、今年は2月16日に「ロドコッカス感染症を減らすために」という記事を書いた。
運ばれてきた子馬が生まれる前日のことだった。
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今年、肺炎子馬を入れていたパドックは今のうちに客土更新した方が良い。
今やっておけば、霜が降りる前に草が生える。
来年、新生子馬を入れるために。
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分娩馬房も、肺炎子馬が居た馬房も今から洗浄と消毒を繰り返したほうが良い。
壁にも天井にも床にもロド感染子馬の喀痰や糞便がこびりついている。
その中にはRhodococcus equi強毒株が乾燥して残っている。
洗ってもきれいにならなかったら、消毒薬などかけても意味はない。ペンキを塗ってしまうしかない。
来年、繁殖シーズン前にやろうなどと思っていても、2月や3月はまだ凍るので洗浄も消毒もできない。
子馬が生まれ出したら忙しくてそんなことはしていられない。
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来年、子馬が生まれたらロド感染症を減らすためにどうするか、獣医さんに相談したほうが良い。
獣医さん達もこの時期なら時間をとって相談に乗ってくれる。
日齢ごとに血液検査して炎症像があったら早期に治療することをお勧めする。
NOSAIは予算をとってロドチェック事業をやってくれる。
来年になってからでは獣医さんも忙しくて手が回らない。
やるなら、「今でしょ」。
来年の子馬のために。
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ロシアンセージ。
ロシア原産でもなければ、セージでもないらしい。
ロシアンセージ、乾燥に強いけど、じめじめ、蒸し蒸しにめっぽう弱い印象。広いところでのびのび育っている姿は壮観。
猛烈な排菌をしながら今まで生存してきたわけです。
もしかするとこのパターンで農場を汚染するなら肺よりも腸を指向するタイプを選択しているかも知れません(そういう型があれば)。
シスト形成と崩壊を疑うなら肺より腹腔の徹底的な探索が必要そうですね。
一刻も早く予後判定して淘汰するというネクラなモチベーションでしかないですが。。
パドックに消石灰撒いた、とか意味のないことをしがちですから。家畜保健所だって、検疫所だって、研究所だって、実践的な方法を指導できるか怪しいものです。
そんなに腹腔内膿瘍型が糞便中に排菌しているかどうかはわかりません。ゴロゴロ気管中に強毒株を持っている子馬の方が、喀痰を飲み込むことで糞便内にも菌を排泄しているのではないかと思います。
サラブレッドは個体価格が高いですからね。簡単にあきらめる、とはなりにくいです。
仔馬は顕性感染でしか強毒株を選択していないのでしょうか。
そのプロセスの中にロドコッカスエクイは無毒株を含めて他の細菌と同等の増殖しかしないのだろうかという疑問も含まれます。
もしそうであるなら環境浄化能が相当勝る筈ですから、不幸な感染個体の摘発淘汰により飼養環境は維持できそうなものですが、如何なものでしょうか。
子牛の臍帯炎ですら拡大しているなら散らせないと判断されますから、膿瘍を早く見つけてそれがどうなっているかを観察する事は治療効果と予後判断の参考になりそうな気もします。
強毒株も自然治癒していることの方が多いと思います。骨折などの偶発事故で死亡した子馬の肺にも病巣は見つかります。強毒株が分離されます。
感染率はとても高いので摘発淘汰はできません。予後不良例をあきらめきれずに長期間おいておくのはやめた方が良い、と言えるだけです。
超音波の肺のスキャンが活用されていますが、腹腔内もよく観た方が良いようです。
個体差とともに環境浄化の難しさも納得できます。
日常的に抗生剤治療がなされるなら、耐性菌の蔓延も予断許しませんね。
その攻防の中で行き着く所の一つが腹腔内リンパ節なのかも知れません。
勉強になりました。ありがとうございます。