馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

R.equi高度免疫血漿はどのように効果を示すのか?のひとつの検証

2024-07-24 | 感染症

高度免疫血漿で抗体を上昇させてオプソナイズ(抗原に抗体や補体がくっつき食細胞に貪食されやすくなること)されると、

R.equiは貪食されやすくなるのか?

貪食されて殺されるのか?

貪食以外には効果はないのか?

をin vitro で検証した報告が出ている。

Effects of opsonization of Rhodococcus equi on bacterial viability and phagocyte activation

Am J Vet Res 2011 Nov;72(11):1465-75.

Objective: To investigate the effect of opsonization of Rhodococcus equi with R. equi-specific antibodies in plasma on bacterial viability and phagocyte activation in a cell culture model of infection.

Sample: Neutrophils and monocyte-derived macrophages from 6 healthy 1-week-old foals and 1 adult horse.

Procedures: Foal and adult horse phagocytes were incubated with either opsonized or nonopsonized bacteria. Opsonization was achieved by use of plasma containing high or low concentrations of R. equi-specific antibodies. Phagocyte oxidative burst activity was measured by use of flow cytometry, and macrophage tumor necrosis factor (TNF)-α production was measured via an ELISA. Extracellular and intracellular bacterial viability was measured with a novel R. equi-luciferase construct that used a luminometer.

Results: Opsonized bacteria increased oxidative burst activity in adult horse phagocytes, and neutrophil activity was dependent on the concentration of specific antibody. Secretion of TNF-α was higher in macrophages infected with opsonized bacteria. Opsonization had no significant effect on bacterial viability in macrophages; however, extracellular bacterial viability was decreased in broth containing plasma with R. equi-specific antibodies, compared with viability in broth alone.

Conclusions and clinical relevance: The use of plasma enriched with specific antibodies for the opsonization of R. equi increased the activation of phagocytes and decreased bacterial viability in the extracellular space. Although opsonized R. equi increased TNF-α secretion and oxidative burst in macrophages, additional factors may be necessary for effective intracellular bacterial killing. These data have suggested a possible role of plasma antibody in protection of foals from R. equi pneumonia.

目的: 感染の細胞培養モデルにおける細菌の生存率と食細胞の活性化に対する血漿中のR.equi特異抗体によるRhodococcus equiのオプソニン化の影響を調査すること。

サンプル: 健康な1週間齢の子馬6頭と成馬1頭の好中球および単球由来のマクロファージ。

手技: 仔馬および成体のウマの食細胞を、オプソナイズされた細菌または非オプソナイズ細菌のいずれかとインキュベートした。オプソニン化は、高濃度または低濃度のR.equi特異的抗体を含む血漿を使用して達成された。貪食細胞の酸化バースト活性はフローサイトメトリーを用いて測定し、マクロファージ腫瘍壊死因子(TNF)-α産生はELISAを用いて測定した。細胞外および細胞内細菌の生存率は、ルミノメーターを使用した新しいR.equiイノルシフェラーゼコンストラクトで測定された。

結果: オプソナイズされた細菌は、成体のウマ食細胞における酸化バースト活性を増加させ、好中球活性は特異的抗体の濃度に依存していた。TNF-αの分泌は、オプソニン化細菌に感染したマクロファージで高かった。オプソニン化は、マクロファージの細菌生存率に有意な影響を及ぼさなかった。しかし、細胞外細菌の生存率は、R.equi特異的抗体を含む血漿を含む培養液では、培養液単独の生存率と比較して低下した。

結論と臨床的関連性: R. equiのオプソニン化に特異的抗体を豊富に含む血漿を使用すると、食細胞の活性化が増加し、細胞外空間での細菌の生存率が低下した。オプソナイズされたR.equiはマクロファージのTNF-α分泌と酸化バーストを増加させたが、効果的な細胞内細菌の死滅には追加の要因が必要になる可能性がある。これらのデータは、R. equi肺炎からの子馬の保護における血漿抗体の役割の可能性を示唆している。

             ー

どうやら高度免疫血漿を投与することで、R.equiはマクロファージに貪食されやすくなるし、

マクロファージや好中球内で殺されやすくなるし、

細胞内でも死にやすくなる、らしい、たぶん、きっと、かも、という報告。

野外調査での、R.equi高度免疫血漿の予防効果と一致するように思われるし、

その機序を裏付けるものだ。

しかし、高度免疫血漿でオプソナイズしたR.equiは、マクロファージに貪食されてすべて死滅しました、という結果ではない。

これも、野外調査での結果と一致する。

効果はあるはず。しかし、過剰な期待はできない。

           ////////////////

層雲峡・銀河の滝。

冬になるとこの高さと水量がある滝が凍って氷瀑になる。

20代の頃、凍ったこの滝を登りに2回来た。

馬鹿?

ディック・フランシスは馬業界を舞台にした推理小説で馬関係者にも知られている。

彼が著作の中でこう書いているそうだ。

一国を滅ぼすのに、若い世代に危険を冒すことはばかげていると教えこむくらい手っ取り早い方法はないーー

(『飛翔』菊池光訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)

 



4 コメント

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Unknown (zebra)
2024-07-25 05:31:39
移行抗体でそれは実現されないのか?子馬の血清および血漿で実験を平行すれば判るのでしょうか。
そっちの方先にやっていそうな物ですが。
勿論量的な補強が有意差に及ぶ可能性もあるのでしょう。

登ってみたけどダメだったーも良い経験ですからね。
体験型コンテンツが売れるご時世なようですが、VRでは現状そのシステムが体験であって、中身は体験したことにならないのでしょうね。
外科仕事も写真とかみて自分もその中に入ってみたい、で始める人もいるでしょうね。
しかし写真なんて都合の良い切り取りで現実はいやはや。
その体験に金払ってくれと要求できるのはアイドルとか芸能人を使うマスメディアならともかく、獣医稼業としては成立してないでしょうね。
24時間テレビの季節です。
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Unknown (はとぽっけ)
2024-07-25 07:11:14
 TNF-α以外にも様々なサイトカインがうじゃうじゃもりもり複雑に関与し合っていたりもしているのでしょう。治療に関してのみならずワクチンの効果を引き上げるのにも有効な視点かな?と思います。
 どんなものが世に出るか、待たれます。
 研究費を余す勢いでひょっこり、なんてことにならないかなぁ。海外でより早く製品化され日本でも承認されたら開発への研究、治験、助成、省けるものもあるでしょう?命や経済的な危機にある末端としてはそれはそれでいいわけで。

 若いころのhig先生はやんちゃ盛りだったのですね。氷瀑のぼりは征服欲の部類なのでしょうか?楽しかったですか?
 危なくなく勝算のあることは冒険ではなくなりますが、そもそもそれは犯罪だ、ということに思い至らなかったり、油断やおごりが冒険にかえちゃって命を落とすことにならないといいな、と思います。
 芝生地にケーブル埋め込む作業がスマートで、あれを放牧地の浄化に応用できないものかと思ったりもしましたが、あまり現実的ではないようです。そう思うこと自体がアホなのかも。たぶんそうなんだ。
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>zebraさん (hig)
2024-07-26 04:16:17
移行抗体では濃度が不足なんでしょうね。それと血漿を使ってオプソナイズするときには抗体以外の免疫成分も含まれているところが鍵なのかもしれません。仔馬の好中球とマクロファージも実験に使っています。

VRとかシュミレーションと実体験はどこがちがうのか?これから検討課題になっていくのかもしれませんね。少なくとも本物の探検や冒険にはなり得ないでしょう。
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>はとぽっけさん (hig)
2024-07-26 04:28:47
インターフェロンが夢の新薬として期待されたこともありましたが、今も使われているのでしょうか?コロナ騒動の中ではさっぱり聞きませんでしたね。免疫を賦活化して成果を上げるのはなかなか難しいことなのでしょう。

生物学的製剤は認可がなかなか厳しいのでしょう。輸入にせよ、国産にせよ。頭数の少ない馬では採算もとれないのでどの業者もやろうとしない。

寒くて、怖くて、危ないことをどうしてやったのか、今となっては覚えてないしわかりません。若者がやろうとしたら、今の私は止めます;笑 でも、それは一国を滅ぼすようなことなのかも。イングランドの作家です。イングランドは探検と冒険で世界を制覇した国ですから。
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