馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

盲腸重積 結腸切開して盲腸切除して引き出す

2011-11-22 | 急性腹症

  盲腸結腸重積(盲腸が右腹側結腸へ入り込む)して、盲腸を引き出せないときどうするか?

その方法が詳細に紹介されている。

Cecal Amputation Within the Right Ventral Colon for Surgical Treatment of Nonreducible Cecocolic Intussusception in 8 Horses

8頭の馬での整復できない盲腸結腸重積の外科的修復のための右腹側結腸内盲腸切除

この英文タイトル。冠詞や前置詞は小文字で表示されているのだが、withinだけはWithinとなっている。盲腸「内」での、という感じだろうか。

Louisiana州立大、Ohio州立大、Michigan州立大からの共同発表だ。

症例が少ない病気ではときどき見られる発表方法だが、ちょっとズルい気がする;笑。

外科手術は外科医によって細部は異なるし、まして 施設が異なると同じ手技と言っても違いが大きいかもしれない。

Veterinary Surgery 29:317-325,2000

Pb191655 盲結腸開口部(CCO)を通って右腹側結腸内へ重積している盲腸(点線)。

盲腸重積が頭にないと、開腹手術してもなかなか気づかないことがある。

盲腸に付いている回腸も閉塞するので、小腸も膨満していたりもする。

そのうち盲腸が探し当てられず、右腹側結腸の中に何か腫れあがった内容を触って気づく・・・なんてことが経験が乏しいころにはある。

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Pb191656

こんだけ入り込んでいると、重積している盲腸を引っ張ってもまず出てこないので、滅菌したプラスチックバッグ(ビニル袋)を右腹側結腸の腸紐に縫い付ける。

「滅菌した」と書いてはあるが、実際には特別な病原菌で汚れていない限り滅菌してある必要はないかもしれない。

どうせ結腸内容でかなり汚れるから。

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Pb191657ビニル袋を縫いつけたら、結腸紐を切開する。

RVC ; Right Ventral Colon

右腹側結腸。

上行・下行とか、上層下層とか言う人がいるが、右左、腹側背側で表現するのが馬の結腸の場合正しいのだと思う。

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Pb191658 できるだけ盲腸を大きく切除できるように引き出しておいて、根元に臥褥縫合縫合する。

このことで残った重積部分を整復できるようになる。

この重積した盲腸は裏返っているので、見えているのは粘膜面。

つまりひどく汚染している。

                       -Pb191659_2

そして、盲腸を切除する。

基部を縫合したのは盲腸重積を整復して盲腸を引き出したときに内容が漏れて腹腔を汚染しないように、ということだ。

ステープル(自動吻合器)を使う方法もあるが、盲腸はひどく腫れ上がっているのでうまく閉じれるかどうかわからないし、日本では自動吻合器はひどく高い。

                        -Pb191660

重積している盲腸の残り部分を注意深く整復する。

この絵では盲腸の断端をつまんで盲結腸口を通しているが、実際にはこんな風にはいかない;笑。

盲腸の断端だよ。

指でつまめるほど幅細いわけがない。押し込むだけで整復できたりはしない。

押し込むのと、引っ張り出すのと平行して行うことになるだろう。

そして、盲腸と結腸がくっついている部分は腹腔から出せない背中側にあるので、もしどこか破れてひどく腹腔が汚染されたらひどい腹膜炎を起こすことになる。

                      -Pb191661

重積していた盲腸の残り部分を引き出したら、組織が生存している部分だけを残すように2回目の盲腸切除 typhlectomy を行う。

盲腸は英語で Cecum なのだが、

盲腸を表す接頭語は typhlo-

typhlitis 盲腸炎、typhlectasis 盲腸拡張、typhlotomy 盲腸切開(術)、etc.

                       -

Despite efforts to minimize contamination, some degree of contamination occured in all horses.

汚染を少なくしようとする努力にかかわらず、ある程度の汚染は全ての馬で起こった。

8頭全部が生存して退院し、1頭は3ヶ月後に死亡したものの、残りは生存し、もとの飼養目的に復帰した。

                                                      ////////

オウムの裁判が終結したと言う。

とくに注目してきたわけではないが、死刑判決を受けた一人遠藤誠一は大学の1年後輩だ。

彼に淹れてもらった茶を飲んだことがある。

大人しい、真面目な奴だった。

死刑廃止論を唱える人が法務大臣になることさえあるこのご時勢に、死刑判決を受けるほどの邪悪な資質を、彼が、あの日に持っていたとは私には思えない。

人の選択や生き方やその結果としての過ち(あやまち)というのは恐ろしいものだと思う。

Dsc_0793

                     


4 コメント

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wikipediaを見ますと hig先生と生年月日がまった... (遠眼鏡)
2011-11-23 04:12:13
wikipediaを見ますと hig先生と生年月日がまったく同じです。

同じ星の下に産まれて同じように優秀な人なのに、なんという人生の差。

当時の報道で、彼はとても素直に取り調べに応じているとあって、彼もある意味被害者だなと思ったことを思い出しました。

一部の政治家たちもひっそりやっている星占い X ですね。
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>遠眼鏡さん (hig)
2011-11-23 05:50:13
>遠眼鏡さん
 ほんとうですね。知りませんでした。何が彼をそうさせたのか、誰もがあんなことをしてしまう可能性を持っているのか、彼には何か欠落していたのか・・・わかりません。
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Hig先生 (Rowdy Pony)
2011-11-23 13:14:07
Hig先生
いつも興味深い記事をありがとうございます。

この結腸内での盲腸切除手術には、私も何度かサブオペしましたが、かなり重度の腹腔汚染は避けられないので、癒着や腹膜炎を起こし易いのではないかという印象を持っています。いくらビニール袋を縫いつけると言っても、大きな糞塊はともかく、流れ出た腸内容液を完全に止めるのは難しかったのを記憶しています。

ただ、全長に及ぶ盲腸結腸重積に対しては、外科手技の熟練すれば、かなり有用な術式ではないかと考えています。
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>Rowdy Ponyさん (hig)
2011-11-23 17:30:37
>Rowdy Ponyさん
 そうですよね。著者達も書いているとおり、多少の汚染は避けられないのだと思います。これをやるか、あるいは・・・ということで、もう少し盲腸重積について続けます。
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