馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

腹腔が糞で汚れても助けられるか? 1 分娩による直腸破裂

2022-03-23 | 急性腹症

私が居ないときに来た症例。

分娩中に直腸が破れ、肛門から腸が出てきたのだそうだ。

すぐに来院し、直腸は開創器を入れたら肛門括約筋を切らなくても縫合できたとのこと。

そのあと開腹手術し、腹腔内を洗浄した。

腹腔内には植物繊維が確認された。

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その馬は、もう術後治療も終了し、発熱もなく、経過良好とのこと。

私も以前に分娩中に直腸穿孔した馬を直腸を縫合修復して助けたことがある。

その時は幸い腹腔内に糞塊は漏れなかったようで、開腹しての腹腔洗浄はしないで済んだ。

その症例は、北海道獣医師会雑誌に短報として掲載されている

自分自身でも記憶はあいまいになっていくので、記録を残しておくのはだいじなことだ。

もちろん同様の症例を経験する後生の獣医師にも役に立つ。

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糞便で腹腔が汚染される、されている、ことはしばしばある。

胃破裂もそうだし、

小腸穿孔もそうだし、

盲腸便秘で盲腸が破裂することもあるし、

胎動で結腸が破裂することもあるし、

異物による穿孔、腸間膜裂による壊死、で小結腸の内容が漏れることもあるし、

直腸も、直腸検査、分娩、種付け中のペニスの誤挿入、などで損傷することがある。

子馬でも、胎便除去の失敗、浣腸、などで直腸穿孔がおきることがある。

ひどい腹膜炎が起こると予後は悪い。

今まで、小腸穿孔した馬が助かった記憶はあるが、腹腔内に糞便や植物繊維が目視できる症例はあきらめてきた。

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特に、胃内容や小腸内容とちがい、大腸の内容は含まれる細菌の量が桁違いに多いのだろうと思う。

細菌は胃酸でかなりが殺されるし、胆汁は胃酸を中和するが腸内細菌以外は発育が抑制される。

小腸内容は液状あるいは粥状のままどんどん送られる。

しかし、盲腸や結腸は発酵槽で細菌の増殖に適した環境になっている。

そして小結腸では水分が失われ濃縮される。

だから、大腸内容による腹腔汚染は、胃液が漏れたり、小腸内容が漏れるより腹膜炎は重篤になるし、予後は悪いのだろう。

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さて、直腸便で腹腔が汚染された馬が本当に助かるか、

長期に生存し、繁殖供用に耐えられるか。

もし、助かるならその程度はどこまでか?

注目してみていきたい。

          /////////////////

あちこちに相棒の思い出が残っている。

居ないことが、ただただ寂しい。

 

 

 



6 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2022-03-23 20:09:33
 大腸穿孔、ヒトでは高齢化で憩室が増えているので治療方法や予後が気になるところ。
 突発の大腸穿孔も諦めずに治療にもちこんで、エンドトキシン、敗血症を回避し、経過から治療方法の確立へつなげられるといいですね。

 オラ君、若い!楽しそう!
 寂しいものですよね。思い出がいっぱいなのは、ちょっとうらやましかったりもする。発掘画像みせていただけるのがうれしい。
 おじいちゃまのお散歩も様変わりですかねぇ。
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>はとぽっけさん (hig)
2022-03-24 05:10:49
馬は感染に弱い、癒着が致命傷になる、エンドトキシンに弱い。ですが、どこまでやれるのか、どこまでだったら助けられるのか、また新しい可能性かと思います。なかなか厳しいですけどね。

まだ、そこにいる気がしてしまいます。しっかり思い出してやることも大切なんでしょう。
じいちゃんも散歩を再開しました。
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Unknown (zebra)
2022-03-24 06:29:12
直腸穿孔にどの時点で気づいたかがなれない獣医師の場合は問題になりそうな気がします。
感染が問題になるなら新生馬の穿孔の場合要素として小さいでしょうから、比較対象になりそうです。
子牛の偽膜性腸炎なんかもダメになるのが少なからずありますが、これは穿孔と共通してくる予後要素があるのでしょうね。

かけた手間への喪失感もありますよね。
それも一緒に送ってやると相棒さんも困らないでしょうし、そうなるまでは留まっているのかもしれません。
いなくなったスペースも何かが埋めていくのかもしれません。
例えば、いっつもおしっこかけて枯れてたところからこの春に生えてくるものも、また相棒さんかもしれませんよ。
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>zebraさん (hig)
2022-03-24 19:19:24
たしかに時間との戦いでもあります。分娩で直腸から子馬の鼻先や肢が出てきたら、押し戻しても、直腸穿孔したことがすぐにわかるので二次診療施設へすぐに連れて来られる・・・のでしょう。助けたい気があれば。

新生子馬の胎便は”無菌”なんでしょうけど。成馬とは大きさがまったく違うので、それゆえの難しさもあります。

毎日、散歩して、フードやって、居場所を整えて、etc. それがなくなると楽ですが、とても寂しいです。
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Unknown (satomita)
2022-03-26 18:16:30
サファリパーク時代、フタコブラクダ雄同士の闘争により、腹壁が食い破られ(鋭く大きな犬歯があるのです)結腸が敗れ、腹腔内に糞塊が多量に漏出した事がありました。奥に入り込んだ糞が残り、屋外での手術で洗浄も不十分でしたが、見事に回復しました。反芻動物は腹腔内の感染に強いですね。
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>satomitaさん (hig)
2022-03-27 06:06:16
回復しましたか!?
反芻動物はたしかに馬より腹腔の感染や汚染に強いですね。そのぶん発見が遅れたりしますが。
しかし、フタコブラクダ最強!!
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