真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「挑発デリバリー 誰にも言へない裏メニュー」(2022/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/脚本・編集・監督:石川欣/プロデューサー:髙原秀和/撮影監督:田宮健彦/録音:百瀬賢一/助監督:須上和泰/演出部応援:末永賢・柿原利幸・堂ノ本敬太/制作応援:中村貞祐/メイク:ビューティー☆佐口/撮影協力:森川圭/制作担当:森山茂雄/スチール:本田あきら/撮影助手:宮原かおり/メイク助手:鈴木愛/仕上げ:東映ラボ・テック/使用楽曲:『A Little Love,little kiss』⦅Eddie Lang/public domain⦆・『Improvisation』⦅Django Reinhardt/public domain⦆・『Pavane pour une infante defunte』⦅Maurice Ravel/public domain⦆ ギター、カズー演奏:Arther Simon/出演:きみと歩実・加藤ツバキ・初愛ねんね・加藤絵莉・重松隆志・安藤ヒロキオ・稲田錠・仲野茂・小滝正大・加賀谷圭・柳沼宏孝・BATA・山鼻朝樹・高橋マシュー)。凄まじいこの期に及びぶりに我ながらクラクラ来るが、今となつてはとても同じ人間の監督作とは信じ難い、レガシー感すら漂ふ名作「痴漢バス バックもオーライ」(昭和62/主演:長谷川かおり)脚本の、アーサーシモンといふのは石川欣の変名だつたのね。石川欣が自ら鳴らす、劇伴のクレジットを見てゐて気がついた。といふか、ググッてみるにとうの昔にバカでもレベルの既知やがな、当サイトはバカ以下か。
 気を取り直してど頭は、忘れかけた頃お目にかゝる“この物語はフィクション”云々の断りスーパー。競馬―か場外馬券―場周辺の、ゴミの舞ふ風景にサクッとタイトル・イン、クレジットも先行する。先行しつつ、お馬さんに全財産をツッ込んだその日暮らしの武田武三(重松)が大勝。電話で女を買ふまでを描く限りなく存在しないアバンと、タイトルバックは比較的まとまつてゐなくもなかつた。勝手に悦に入る風情が癪に障る、華がなければ味もない男主役にさへ目を瞑れば。
 デリヘル「宝石レディース」のNo.1嬢・ダイヤ(きみと)と対面した武田が、大喜びでいざ挿さうかと、したところ。俄かに嘔吐の発作に見舞はれるダイヤが、実は妊娠してゐた。看板美術的には町医者どころか闇医者に映る、路地裏の「セント・ゼームス病院」にダイヤを放り込んだ武田は、神父も兼ねる医師・ヤコブ(加賀谷)立会の下、ダイヤとキリスト教式の結婚をする破目になる。
 配役残り、安藤ヒロキオは堕胎手術後療養中のダイヤを、連れ戻しに来る宝レディの若い衆・リュウキ。稲田錠が宝レディの劇中用語でリーダー、レッドスパロウことアカスズメで、柳沼宏孝・BATA・山鼻朝樹の三人が親衛隊的なシャークスの皆さん、誰がどれなんてもうどうでもいゝ。小滝正大は、戦線に復帰したダイヤの常連客。如何にも三番手らしい三番手の、初愛ねんねも宝レディの嬢・ルビー。綺麗な一幕・アンド・アウェイを敢行する、濡れ場の中途をさて措けば。宝レディにはその他登場しない、エメラルドとサファイアが少なくとも在籍してゐる模様。加藤絵莉はダイヤと故郷を出奔、その後生き別れたチヒロ。加藤ツバキは、ダイヤが小滝正大と長丁場を戦つてゐる間、送迎の座に納まつた武田が「籠の鳥」から呼ぶデリヘル嬢・インコ。普段からチキンラーメン風の被り物を常用する、トンチキな大美人。当人が偉ぶらないのと、決定的な主演作には必ずしも恵まれてゐない不運もあつてか、案外軽視されがちなのかも知れないが、この人の存在は、現代ピンクにとつて結構重要であると思ふ。武田を捕まへるポン引きは―パッと見高橋祐太似の―末永賢で、ちひろと武田の邂逅時、尺八を吹かれてゐた前の客は髙原秀和。仲野茂はダイヤと武田がマッチングアプリで捕まへる、豹柄の全身タイツを着た頓珍漢、もとい好色漢・シャチ。而して素頓狂な扮装には反するその正体は、アカスズメとリュウキが再三再四“名前も出すのも憚られる”と勿体ぶる、某組織の顔役、某は暴かも。武田がシャチを刺すファミレスの、客は多分末永賢の二役、店員はlove punk勢か。問題が、確かな自信を以て言ひきるが高橋マシューは、R18のピンク版には出てゐない。
 「優しいおしおき おやすみ、ご主人様」(2020/主演:あけみみう)で疑つた目が、同年半年後の「月と寝る女/またぐらの面影」(主演:奥田咲)で確信ないし諦観へと変つた、石川欣の大蔵第三作。三度目の正直?ねえよ、そんなもん。結論を急いだあまり実も蓋もケシ飛んでしまつたので、戯れに仲野茂(亜無亜危異/Vo.)と稲田錠(G.D.FLICKERS/Vo.)のフィルモグラフィを振り返ると。安藤尋のデビュー作「超アブノーマルSEX 変態まみれ」(1993/脚本:加藤正人/主演:石原ゆり)で初土俵を踏んだ仲野茂は、「制服美少女 先生あたしを抱いて」(2004/脚本・監督:高原秀和/主演:蒼井そら)と、矢張り髙原秀和の大蔵第二作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/うかみ綾乃と共同脚本/主演:榎本美咲)を経ての四本目。一方稲田錠は、柴原光の「若菜瀬菜 恥ぢらひの性」(1999/脚本:沢木毅彦)がボサッとした顔見せ。その後「トーキョー情歌」と、よもやまさかの「制服美少女」続篇、髙原秀和大蔵第三作「濡れた愛情 ふしだらに暖めて」(2019/宍戸英紀と共同脚本/主演:小倉由菜)に、更にその次作「悶撫乱の女 ~ふしだらに濡れて~」(2020/宍戸英紀と共同脚本/主演:奥田咲)で気づくと本数では仲野茂を一本追ひ抜いてゐた。
 住所の有無から怪しい無軌道な男が、偶さか出会つた放埓な女と行動をともにする。小倉で観戦したのち帰福、ウィキペディアのインストに目を通し直して、今作がファム・ファタルものであつたのかと、軽く驚いたのはこゝだけの内緒。男かよ!以外に一切の面白味も欠いた、端々でサルでも呆れる茶番を仕出かす弛緩しきつた物語に、四の五の突(つゝ)くほどのツッコミ処も最早見当たらない。武田がインコに―当然追加料金の発生する―相互飲尿プレイを乞ふ件の、吃驚するくらゐ無頓着な構図の画には、流石に「何だこれ」と引つ繰り返つたけれど。
 雉も鳴かずば、何とやら。大人しくしてゐれば単に詰まらないで片付いた映画の、ギアを腹立たしいに捻じ込むのは重松隆志、あの鐘を鳴らすのはあなた。武田が譫言のやうに繰り返す、ホントに箍の外れた延々捏ね繰り続ける“背中合はせ”。ダイヤと武田が背中合はせで、スナップノーズと馬鹿デカいマグナムを撃ち倒すイメージ・ショット。ついでで終盤、中野茂もそこら辺の往来で無造作にオートマチックを振り回して発砲する。文字通り火柱感覚の盛大なマズルフラッシュを、一目瞭然具合が寧ろ清々しい、チャチい合成で噴かせる随分な臆面のなさにも畏れ入る、遥か遠い彼方の以前に。武田いはく、“背中合はせで撃ちまく”る対象が、クソみたいな世間とのこと。何も石川欣から改めて御教示願ふまでもなく、世間がクソなのは常日頃のエンドレス、重々存じあげてゐこそすれ。他愛ない能書未満の戯言を重松隆志が垂れ流すばかりで、結実させる―に足る―シークエンスひとつ設けられないでは、クソな世間を撃つ、折角のアクチュアルにして普遍的なエモーションも、所詮は木に接いだ竹どころか、枯れ木の枝葉に括りつけた安つぽい造花。挙句はふはふの体で辿り着いた、体のいゝラストが躓いたところに宝が、とか来た日には。受領かよ、これは所謂、釣られたらといふ奴なのであらうか。最低限の方便も用立てられるとはいへ、きみと歩実を踊り散らかさせるパートは疎かに尺を喰ひ、陳腐な造形にも足を引かれる初老ロッカーの薄つぺらい醜態は、所詮空々しい始終ですら飾り損ねる。霞より薄い真空に近い一篇を、演者と脚本がある意味仲良く共倒れる、徹頭徹尾意味なり重みを欠いた大根の独白で綴る暴挙は、空虚の領域に易々と敷居を跨ぐ。平板な撮影と、粗雑か類型的な展開を、すつかりエッジの取れた演出が、凡そ満足に統べられよう筈もなく。撮影当時、御年六十三。耄碌するには些か早い気もしなくはないが、あの「バックもオーライ」を撮つた石川欣も、齢をとつてしまつたものだなあ。さういふ何も生み出さぬ感慨くらゐしか、精々湧いて来ない消極的な問題作。だー、かー、らー。性懲りもなく持論を蒸し返すと、今や量産型娯楽映画をいふほど量産し得ないいよいよの状況下にあつて、斯様な煮ても焼いても食へない―比較的―若ロートル連れて来て、全体大蔵は何がしたいの。石川欣の御名は、そんな客が呼べるの。

 いや、幾ら何でも看過し難い、根源的なツッコミ処が一点あるぞ。初見の馬の骨同士の結婚式を挙げて呉れる時点で、プロテスタントにせよところでヤコブ、神はその中絶を赦すのか。


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