真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「和服夫人の身悶え -ソフトSM編-」(1999/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:岩崎智之・藤井昌之・渡辺隆輔/照明:上妻敏厚・河内大輔/編集:《有》フィルム・クラフト/音楽:中空龍/助監督:松岡誠・増田庄吾/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:今井恭子・風間今日子・やまきよ・真央はじめ・中村和彦・柳東史・村上ゆう)。因みに、よしんば旦々舎外にせよ、-ハードSM編-が別に存在する訳ではない。
 共に和服姿で護岸に佇む、俳句結社「触覚」主宰の市森雅光(やまきよ)と、こちらは複雑な表情も浮かべる元は直系弟子の妻・彩乃(今井)。挨拶代りにおとなしめの一句、「カラス鳴き三千世界肌寒く」。ぶら下がり健康器(?)に固定した彩乃にくすぐり責めを加へる夫婦生活、「触覚」が掲げるのは皮膚感覚の俳句だとかで、雅光によるとスピノザ曰く“愛とはくすぐりであり、これにより思慕の情を伝へる”とのこと。スピノザが絶対そんなこといつてないだろとも思つたが、よくよく調べてみると案外さうでもないらしい。そこで一句、「スピノザの合縁奇縁UCHACHA」、無季自由律にもほどがある。といふか、無季自由律を形式として認容するならば、そこから先は何でもありなのではないか―そもそもそれは形式の名に値するのか―といふのは、浅墓な門外漢の粗雑な素人考へに過ぎないのであらうか。二人の歪曲した営みに、判り易いイメージで誕生裏から覗き魔が視線を滾らせる。今度は、何時ものチンコのやうな髪型ではなくして珍しく短髪をツンツンにアップした真央はじめが、新聞配達がてらに一句「時の人海千山千餓鬼の群れ」。この二人は夫婦なのか、雅光が見守る中新聞配達が村上ゆうにスパンキング。“尻打ちは罰する為ではなく子宮を開かせる為のものであり、交感中枢を刺激することで苦痛の感覚は最終的にオーガズムに撥ね上げる”とやらで雅光作中三句目、「子宮開き水魚之交《まじはり》オーガズム」。この句は雅光的に満足の行くものらしい、小生の如き即物的に過ぎ品性下劣の挙句に目下無職の輩には、到底手の届き得ぬ領域ではある。今度は今度は、無農薬を売りにする八百屋の中村和彦登場、マヤ(風間)が大根を買ひに来る。風間今日子が小さく見える中村和彦のデカさに、この期に及んで軽く驚かされる。帰つて行くマヤの尻に喚起された八百屋は絶妙に軽妙な表情でポンと掌を打ち一句、「大根や一心同体尻割つて」、油を売る亭主をドヤす鬼女房の声は不明。恐妻家の八百屋とマヤは野菜で愛人契約を結ぶ間柄にあり、再び雅光が見守る中シェービング・クリームを塗りたくつてのくすぐり責め、ここで雅光が詠んだ句が「泡立ちて五臓六腑の肉騒ぎ」。日を改め庭にて、爆弾を抱へてゐるのか、雅光は立ち眩む。雅光の弟・広人は、三十歳も目前にして引きこもつてゐた。腹を立てた雅光は洋服ダンスの中で音楽を聴く広人(柳)に雷を落とすが、今居る兄夫婦は別人の入れ替りだとポップな妄想に囚はれる広人は、凶暴性を秘かに拗らせる。順に新聞配達・村上ゆう・雅光・彩乃を一人づつ人数を増やしながら抜くカメラ・ワークが映画的な行進噛ませて、森中で実際に今井恭子と村上ゆうの尻を真つ赤にしてみせるスワップしてのスパンキング。新聞配達が「野外にて竜虎相搏つ白昼夢」と、雅光会心の第五句「尻腫れて輪廻転生スペルマ」。後述する一幕挿んで、実は雅光について行けぬものを感じる彩乃に対し、「男達はイイ気なもんね」と呑気な村上ゆうも戯れに一句「風立ちぬ森羅万象襞の中」。
 残る句はあまりの出来に恍惚とまでする雅光六句目「妻が鳴き一蓮托生ZUBUBUBUBU」(アテレコはズボボボボ)と、彩乃も一句「六根清浄淫液溢れWACHACHACHACHACHA」。流石直系弟子にして妻だけのことはあるのか、正直触覚一派の句は理解にも吟味にも果てしなく遠い。
 ハイク・オブ・ワンダーランド!大怪優・やまきよ(a.k.a.山本清彦)の妖しい魅力が爆裂する、山邦紀会心のアヴァンギャルド・ピンク。これだけ好き勝手やつてなほ疑問を残すとしたら、逆に許されないやうな感すら漂ふフリーダムな迷宮作略して迷作。スワップ・スパンキングと村上ゆうの一句の間では、小賢しいばかりで本質に到達する体力に欠くペンペン草評論を雅光の口を借り堂々と排斥し、続けて安吾受け売りの“意味を超えた高笑ひの世界、即ちファルス”こそを“芸術の最高形式”と宣言した上で、“だがこれが私達にも難しい”と惚けてみせる。おこがましくも評論を標榜するつもりなど車に撥ねられたとて毛頭ないが、さうすると当方の積み重ねる無為も当然に全否定とならう相談ではありつつ、そこはこちらも蛙の面に小便と、華麗にではなく臆面もなく遣り過ごしてみせよう。山邦紀を表面的な変幻怪異だけではなく、寧ろそれら有象無象の織り成す変態博覧会を最終的には冷徹に統べる強固な論理性により注目する立場からは、触覚一派の妄動と広人の蠢動とを突き放して見る視点の一つも欲しくはなるところが、一旦は雅光と触覚の美学とから離れて行く彩乃の立ち位置は、今井恭子ごと決して強くはない。村上ゆうと風間今日子は何れも既存の戦績含めて十二分に批判的な視座たり得るところが、村上ゆうは案外機嫌よく触覚派の枠内に止(とど)まり、マヤは八百屋にくつゝいてゐるだけで実は俳句には全然興味がないことが判明するのは、彩乃がか細い非難の声を上げる更に随分後である。となると要は、至極冷静なツッコミが入れられることもなければ混乱を極める軌道の修正が図られることもなく、舞台の上には終に気違ひだらけといふ格好になる。それはそれで清々しいといへば清々しい反面、劇中世界に基点として機能する者が一切居ない、即ち幾ら魅力的とはいへ混沌が混沌のまま放置される結果的逆説的な平板さにも繋がる。折角漸く動き出したのに、外されるどころか梯子が消滅してしまつた広人の悲喜劇と、旦々舎らしいといふのも脊髄反射的な節穴なのか極妻風味の男女逆転劇。狙ひ通りである以上右往左往ではない錯綜を極めた上で、もう一つ山邦紀が隠し持つ第三の必殺が文字通りのフィニッシュ・ホールドに火を噴く。現(うつゝ)では非ざる幸福で穏やかなデス・マーチが、取つてつけられたものである筈のエモーションを、不可思議な磐石感で固定する。ワン・カット、今回はタップリと費やすが尺なんて十秒もあれば十分だ、何時何処からでもロマンティックを捻じ込める意外と豪胆な作家的腕力が、トッ散らかり放しの始終を、正体不明の美しさで締め括る。全篇隈なく冥界もとい明快なヤマザキ印は見えてゐるつもりなのに、全体像を俄には把握し難い。一度遣り過ごしてみたはいいものの、ションベン感想はおとなしく完敗を認めるのが吉のやうである。


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 「令嬢肉奴隷」(昭和60/製作配給:株式会社にっかつ/監督:すずきじゅんいち/脚本:三井優・阿木深志/プロデューサー:鶴英次/企画:千葉好二・栗原いそみ/撮影:野田悌男/照明:矢部一男/録音:佐藤富士男/美術:渡辺平八郎/編集:奥原茂/色彩計測:森島章雄/助監督:金沢克次/音楽:峰善雅/製作担当者:栗原啓祐/出演:赤坂麗・黒木玲奈・早坂明記《新人》・手塚英明・水城蘭子・坂元貞美)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。それにしても脚本の阿木深志だなどと如何にもな名義は、一体誰の変名だ?
 薄暗い砂浜を歩く女の足下、赤坂麗が波打ち際の仮面に目を留める。クレジット明け、湘南の別荘で創作活動に耽る敷島家長女で画家の澄子(赤坂)は、祖父も敷島家に仕へる身であつた使用人・荻須道太郎(手塚)の、これ見よがしに粗野な佇まひに美しい眉を顰める。日傘を差しホテホテ歩く黒木玲奈を、一台のベンツが横柄に追ひ抜いて行く。「バッカヤロー!」と声を荒げる黒木玲奈が、実に昭和の風情を漂はせる。後々同趣向のシークエンス、ベンツがわざわざ右に蛇行し黒木玲奈の全身に泥を撥ねる不自然極まりないドライビングは、殆どギャグだ。ベンツに乗るのは運転手除き澄子は長女とはいへ実は妾の子につき、母は母でも厳密には継母に当たる萌子(水城)と直系の敷島家次女・直美(早坂)に、婚約して既に二年になる澄子のフィアンセ・仁科継男(貞元)。ところで黒木玲奈はといふと、荻須を追ひ湘南の町に現れた、情婦・待鳥まち子、何時の間にかスナックのママの座に納まり逗留を通り越した定住を図る。荻須が挑発的なモーションを澄子にかけ続ける一方で、画家としての評価の獲得に固執する澄子に、要は待たされることに疲れた仁科は次第に決定的な距離を覚え、そんな義兄候補に直美がコケティッシュに接近する。
 敷島家主催のナイト・パーティーに招待される、夥しく潤沢なパーティー要員はクレジットも素通りする故なほ一層不明。現地動員か、何某かの実際の宴席を撮影に連動させたものか。
 すずきじゅんいち昭和60年第二作、已むに已まれず突入を決意した「DMM荒野篇」が初戦にして早速木端微塵に粉砕される中、二週ぶりの小屋での本戦が、ロマンポルノの一点買ひといふのは率直なところ寂しい限りではある。全く以て純然たる、泣き言の私事でしかないが。因みに残りの二本は竹洞哲也の2008年第二作の新版と、翼の折れたエクセス生え抜きの旧新星・工藤雅典の2010作。話を戻して、そもそも小生が明るくないどころか明確に暗いといふ造詣不足も当然にあらうが、ロマンポルノは基本的な普請が整つてゐる分、映画単体の出来不出来以外の遊びが少なく思へ、正直あまり得意ではない。重ねて全く全く以て純然たる、私事の泣き言でしかない。澄子と荻須といふ正しく美女と野獣を劇中世界の中心に据ゑ、呑気なブルジョア夫人の萌子は措いておくとしてまち子と仁科とついでに直美、判り易く愛憎を渦巻かせる布陣を周囲に配置する。物語の構成は手堅くはあるもののあくまで手堅いに止(とど)まり、自画像に閉ぢこもる“自分にしか興味のない”澄子造形の描き込みも、投売りされた大葉健二の出来の悪いレプリカ程度にしか見えない手塚英明の獣性も共に些か覚束なく、定石ばかりの展開は逆に平板な始終といふ印象に繋がる。尤もクライマックスの、オッパイをガラス戸に押しつけての―前フリで急に始まつた生理を受けた―アナル責めは突発的な裸映画としてのエクストリームに到達し、萌子・直美・仁科を事実上放逐した格好の敷島家別邸。澄子と荻須がフルスイングで乳繰り合ふ最中に、嫉妬に狂つたまち子が飛び込んで来る。牡を巡るキャットファイトの最中に、当の荻須は勝手に捌けそれをまち子が「待つてアンター」と縋る間の抜けた牧歌性は、当時的には別に可笑しなものではなかつたのかも知れないが、今にしてみると奥行きのある映画的な構図が却つていい塩梅で笑かせる。尤も尤も、開巻を御丁寧に回収するオーラス、仮面を拾つた澄子が仮面を捨てるのは、何を小賢しいモチーフをと矢張り洒落臭い。


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 「人妻淫らな情欲」(2000/製作:杉の子プロダクション/配給:大蔵映画/脚本・監督・音楽:杉浦昭嘉/撮影:藤原千史/照明:渡部和成/編集:酒井正次/助監督:増田正吾/演出助手:躰中洋蔵/撮影助手:長谷川卓也/製作:安井千穂/録音:東映化学/現像:シネキャビン/スチール:梶原英輔/協力:菊森久美・横川一郎・村田寿郎・西村いずみ・上田啓嗣・愛光株式会社・小林プ ロダ クション・日本映機株式会社・飛鷹スタジオ/出演:杉 裏の助・葉月螢・池谷早苗・桜居加奈・サイコ・鈴木敦子・鍛冶大臓・椎名鵺子・水原美々)。録音が東映化学で現像がシネキャビンなのは、本篇クレジットまま。
 カメラマンの猪狩シンジ(杉 裏の助=杉浦昭嘉)は日々の瑣末な仕事を離れ、自分の撮りたい写真を撮る為に山中に入る。立ちションしてゐて妙な気配を感じた猪狩が荷物の下に戻ると、そこには30cm大のチンコの形をした奇妙な青い石像があつた。猪狩がシャッターを七回切るのに合はせて、チンコ石の白黒写真に切り貼りが一枚一文字づつ重ねられるタイトル・イン。写真を見ながらの短い遣り取り挿んで、猪狩と妻・美里(水原)の夜の営み。結婚僅か三年にして、贅沢極まりなくも美里に勃たなくなつた猪狩ではありつつ、その夜は違つた。“何かが自分の中で爆発、物凄いパワーが股間に満ちて来る”のを感じた猪狩は発作的に発情し、以来連夜狂つたやうに燃えた。朝のゴミ捨て場で隣家の主婦・赤木律子(桜居)と顔を合はせた猪狩は雑誌社に顔を出した帰りの電車の車中、隣で眠る鈴木敦子に恐ろしく無造作に電車痴漢を敢行、逃げられる。美里には先に眠られた夜、不意に起動した猪狩は隈取りを自らに施すと、赤木家に侵入、旦那は上手いこと出張中で一人寝の律子を犯す。翌朝、ウッスラ残る前夜の記憶を夢オチで片付けようとした猪狩は、隣に警察が来てゐることに愕然とする。しかもパジャマの胸ポケットからは、律子のさくらんぼ柄のパンティまで出て来てしまつた。河原で黄昏る猪狩は、対岸で素頓狂に踊る狐面の男の幻影を見る。男が面を外すと、中身は隈取られた猪狩であつた。卒業後の進路に関し父親と喧嘩した、美里の妹で女子高生のレイ(池谷)が猪狩家に泊まりに来る。今作限定では桜居加奈(a.k.a.夢乃)をも凌駕し得よう、池谷早苗のファースト・カットの可愛らしさが素晴らしい。再び美里は先に就寝、写真を撮つてあげる流れから、猪狩はレイも犯す。その場に美里に飛び込まれ我に帰つた猪狩は、明確に自身の異変を自覚し神経科を巡るも、医学的な異常は認められなかつた。思ひあぐね、人伝の噂で高名なお坊さん(サイコ=国沢実)を頼ることにした猪狩曰く、「私は藁にも縋る気持ちでその人を訪ねた」。杉浦昭嘉にとつて、国沢実は藁扱ひなのか
 当時賛否は判れずに物議を醸した、今にしてみると結果的に過小評価の元凶とさへなつたのではなからうかと思へなくもない、問題の杉浦昭嘉第三作。猪狩シンジの妻が美里で姪がレイ、ついでにお隣は赤木律子。既に地表に露出した起爆装置に加へ、猪狩の訪問を受けた国沢坊は石像の写真を見るやインスタントに事の真相を開陳する。卑弥呼に封印された二万人斬りを目標に女といふ女を犯しまくつた大魔人オマンゲリオンの怨霊である、妖怪マンゲリに猪狩はとり憑かれてゐるといふのだ。政治と権力を象徴する金印と対を成す、全ての生命の生殖能力を象徴してゐる銀印とやらをサクッと取り出した国沢坊は、妖怪祓ひをするべく銀印の精・アスカ(葉月)を召喚する。召喚されたアスカこと葉月螢が、思ひきり自然落下でフレーム内にボテッと降るではなくあくまで落ちて来るカットの、プリミティブな衝撃は今でもよく覚えてゐる。とかいふ次第で、挙句にオマンゲリオンにアスカと来たもんだ。そもそも何でまたここで持ち出さなくてはならないのかから非感動的に清々しく理解出来ない、エヴァンゲリオンの愚劣なパロディの小癪さに火に油を注ぐ、マンゲリ経由で終にオマンゲリオンへと覚醒した猪狩と国沢坊がてれんこてれんこ激突する、杉浦昭嘉V.S.国沢実の茶番は完膚なきまでに酷い。とはいへ、その片方だけでも万死に値する二つの致命傷をさて措けば―措けるかといふ異論に対しては、無論反論するつもりはない―案外物語自体の作りは満更でもないのではなからうか。魔物に憑依された主人公が、生来の優しさから破滅を免れ得る、といふところまでの平板さは兎も角として、オマンゲリオンから解放されたはいいものの、結局猪狩は元の妻に対して勃起しない役立たずに戻る。そこから「だが、それでいいのか」と再起動、新しい希望・野望・欲望・人生・光を摸索した果てに、“新しい、俺”に辿り着く力強いフィニッシュは決して悪くなく、始終の着地点が、夫婦生活といふ形で濡れ場に無理なく直結する構成はピンク映画として満点。ともいへそれにしても、杉浦昭嘉のイキ顔がラスト・ショットといふのは改めて如何なものかと思へなくはないが。

 配役残り鍛冶大臓は、仕事の減少を告げ猪狩を落胆させる編集者。問題が椎名鵺子、それらしき登場人物が本当に全く見当たらないのだが、もしかして、開巻猪狩が立ちションする画面手前を一瞬横切る、青い人影?


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 「女子大生 朝まで抱いて」(1999/製作:?/配給:大蔵映画/脚本・監督・音楽:杉浦昭嘉/撮影:藤原千史/照明:渡部和成/編集:酒井正次/助監督:増田正吾/撮影助手:岩崎智之/照明助手:藤森玄一郎/制作:秋浜瑞紀/録音:シネキャビン/現像:東映化学/スチール:梶原英輔/協力:村上宣敬・菊森久美・横川一郎・本居佳菜子・渡辺聖子・日本映機株式会社・愛光株式会社・小林プロダクション・道川プロダクション・早稲田大学映画研究会/出演:さとう樹菜子・七月もみじ・葉月螢・サイコ・石井雅也・森内克朗)。
 学内ロケから自動推定で早稲田大学に通ふ真紀(七月)が狭い風呂に入つてゐると、幼馴染で同級生でルームシェアする照菜(さとう)が割り込んで来る。真紀が近隣で頻発する空巣被害の噂話を落とした上で、オッパイ比べだ真紀に出来た彼氏を照菜がやつかむだと仲良く喧嘩しつつ、学内風景に被せて先にクレジット・イン。東京の私大の次第なんぞ外国の風俗並に知る由もないが、早稲田の学生て案外野暮天もとい地味なのか?クレジットを通過、唐突な夜景に被せてタイトル・イン。照菜が家に戻ると、玄関には見慣れぬ男物のブーツが。すは真紀の彼氏が来てるのかと軽くときめいた照菜は身繕ひするも、二人は既に事の真最中。後背位は拒否する真紀のセックスと、アテられた照菜のオナニーとが併走する序盤は鉄板。翌朝、知らぬ間に帰つて来てゐた照菜に覗かれてたかなとポップに驚きながらも、真紀と彼氏・増田(石井)はその日は授業がなく―実は後半この点は覆るが、細かいことは気にするな―未だ眠る照菜を残し、フードを被りアパート共用通路をうろつく黒田(サイコ=国沢実)の存在は不自然に無視した上で学校に行く。ここで見慣れぬ名前の石井雅也とは、何のことはない石川雄也。真紀が無用心に如雨露に放り込んだ鍵を使ひ部屋に侵入した黒田は、起きて来た照菜と衝撃の御対面。国沢実の持ちキャラで感動的に挙動不審な黒田をも、照菜は豪快に真紀の彼氏と誤解。照菜が冒頭風呂場にて自ら投げた、真紀曰くのカッコいい彼氏がカッコよかつた試がないといふ妬み心が、派手な飛躍を埋める方便として一応活きる。よくそれで女同士の友情が終らないものだとも思ふが、伝統的に真紀の彼氏を寝取る悪い手癖のある照菜は、風呂上りに着替へを隠された導入から黒田と寝る。事後、「俺も、なかなかの名演技だねえ、ディカプリオ並だね」、「俺が、アカデミー泥棒だ」と悦に入る国沢実が凶暴にムカつかせる黒田がシャワーを浴びてゐる隙に、照菜は真紀に懺悔する謝罪文を残し姿を消す。風呂上りの黒田が牛乳をパック飲みしてゐると、今度は入れ替りで真紀帰宅。君らは黒ヤギと白ヤギ―それは少し違ふだろ、少しか?―か、黒田を照菜の彼氏と器用に誤認した真紀に対し、黒田は山田を名乗る。
 白衣姿の葉月螢は、増田の先輩女史。「人体に於ける興奮の伝達速度の遺伝性と環境ホルモンの影響について」なる博士論文テーマの御許に増田と致すのは、ルーチンな流れと難じて難じられないこともない。照菜の謝罪文に激怒した真紀からのメールを、葉月センパイに喰はれた後に増田は読み、何故に現在進行形の浮気がバレてゐるのかと誤解が連鎖する展開は、三番手の起用法まで含めて実に見事。こちらは森村克朗と同一人物の森内克朗は、罪の意識に苛まれ頬杖をつきまるで上の空の照菜が、てんで講義を聴いちやゐない―他の学生も聴いてないが―インド哲学専攻の助教授・保田か安田。
 ここから観覚えのある、杉浦昭嘉第二作。照菜の誤解と真紀の誤解が黒田的にはダブルヘッダー込みで正面衝突し、真紀の誤解は更に増田の誤解を生むトリプルクロスは抜群の出来、物語的な面白さとしては、現状全十二作(もう一作の薔薇族は知らん)の中で杉浦昭嘉の最高傑作ではなからうか。勿論俺はファンなので、御当人が御存命である以上何時までも執念深く電撃復活を諦めたりはしない、中村和愛もな。増田には後背位を拒否した真紀が、逆上ついでに黒田には菊穴をも開放するのも、ピンク映画的に地味に秀逸な一手。ところが、そこまではいいものの茫然自失とした照菜を保田が導く形で幕を開くスピリチュアル風味の濡れ場が、終盤に及んで延々十分を喰つてみせるに至つては、折角のリズムを完全に手放してしまつたものと、一旦は早とちりさせられる。ところがところが、長い長い瞑想の果てに照菜が到達する“光の向かうに見えたもの”の抜群の強度には、いい意味でまんまと裏をかゝれた。明らかに平衡を失したものと一見思はせた、絡みの長尺を照菜が潜り抜ける葛藤の深さに直結させる大胆な力技には感服。以降は照菜の回復を鮮やかな突破口に、真紀とバッくれかけた黒田に、増田と照菜も時間差で照菜&真紀宅に揃ふユーモラスな一幕から、黒田が「ィヤッホーイ!」と思ひきり放り投げたパーカーが、フレームから外れたまま降つて来ないマジック乃至はラックが炸裂する爽やかなラストまで一気呵成に一直線。開巻を引つ繰り返した事実上のエピローグが、磐石に映画を締め括る。当時は、当時アイドル的人気を博してゐたさとう樹菜子本位で評されることも多かつたやうにうろ覚えるもので、なほかつ個人的にはさとう樹菜子にピンと来なかつた故、正直今作の印象は薄かつた。とはいへ改めて見てみると、予想外の完成度の高さに驚かされた。今からでも決して遅くはない、杉浦昭嘉ルネッサンスの呼び水にならぬものかと期待したい青春ピンクの名作。銀幕の中に知る中で、最も活き活きとした国沢実の姿も拝める。


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 「淫気妻 つまみ喰ひ」(1998/製作:?/配給:大蔵映画/脚本・監督・音楽:杉浦昭嘉/撮影:藤原千史/照明:渡部和成/編集:酒井正次/助監督:佐藤祐子/演出助手:増田正吾/撮影助手:岩崎智之/照明助手:伊東亮介/勢作:国沢実/応援:川津一修/車輌:別府慎之介/現像:東映化学/録音:シネキャビン/スチール:梶原英輔/協力:赤塚佳仁・菊森久美・横川一郎・梶原英輔・日本映機株式会社・愛光株式会社・小林プロダクション・道川プロダクション/出演:葉月螢・吉田チホ・夢乃・森村克朗・浅木大・銀冶・サイコ)。オープニングとエンディングとでビリングが異なる、エンディングのビリングは吉田チホ・夢乃・葉月螢・森村克朗・浅木大・サイコ・銀冶。
 開巻から杉浦サウンド起動、映画も兎も角この人の少なくとも劇伴の穏やかながら確かなエモーションは、もう少し評価されて然るべきではないのかと日々強く思ふ。目覚まし時計が鳴り女子高生のナオコ(夢乃)が、如何にも寝起きが悪さうに目覚める。截然と無防備に筆を滑らせてのけると、私はこの夢乃(a.k.a.桜居加奈)といふ女優さんが端的なタイプとして大好きなので、全ての一挙手一投足が愛ほしくて狂ほしくて仕方がない。既にシャキッと着替へ朝食を摂る姉の立花か橘房江(葉月)は横目に、ナオコの朝シャン流しでタイトル・イン。改めて食卓、ナオコは中間テストの勉強でマナミ(一切登場しない)の家に泊まつて来ることと、房江の夫ナオコからは義兄の建一(森村)が、出張から戻るのは次の日であることとが語られる。一人きりの立花家、ナオコの部屋を掃除する房江は、ワイヤレスのリモコン式バイブを発見、目を丸くする。彼氏の野原シンスケ(銀冶)と遊んでゐるナオコの前に、予定よりも一日早く仕事が終つた建一(森村)が現れる。多分佐藤祐子の声で伝へる一つ目小僧の覆面を被つた銀行強盗―然し何でまた襲はれるのが山口銀行なのか、杉浦昭嘉は山口の人間なのか?―のTVニュースを見る房江は、何となく妹のバイブで一人遊び。ところがそこに折悪しく、何しに行つたのかアフリカ帰りの知人・竹内(サイコ=国沢実)が、キリン革の太鼓を土産に訪れる。慌てて本体を咥へ込んだまま房江は竹内を応対、ところがところが人の家のものを勝手に触る竹内がリモコンを入れたものだから、房江の膣内でバイブ起動、国沢実が嬉々と大ハッスルする一戦に突入する。トリプルところがそこに重ねて折悪しく建一帰宅、妻と竹内の不貞に大概間延びして愕然とした建一は、手土産に買つて来た洋菓子を叩き潰し、帰つて来たばかりの家を飛び出す。
 建一が逆とんぼ返りする全体の転機で飛び込んで来るタイミングは完璧な吉田チホは、見るからに危なかしいヒッチハイカー・安田か保田理恵。見れば一発で判るが、泉由紀子である。調べ直してみると泉由紀子でデビュー後柚子かおると今回の吉田チホを散発的に一作づつ挿んで、いずみゆきこにといふのが、ピンク映画に於ける沿革。因みに、「盲獣VS一寸法師」(2001/プロデューサー・監督・脚本・撮影:石井輝男)に際してはチホならぬ吉田千穂。正直これだけあると、端役で使用した名義が更に眠つてゐるやうな気もしないではない。目下制作部なり演出部の浅木大と同一人物なのか、浅木大の車が理恵を拾ふ。とはいへここは申し訳ないが浅木大の目的は、初めから理恵の男好きする肉体。車を脱出した理恵は建一に助けを求めるも、佇まひだけでなく腕つ節の方もまるで心許ない建一は、体格では勝るにも関らず浅木大にマウントを取られる。そこを理恵が背後から漬物を漬けられるくらゐの大きさの石で強打、浅木大を殺してしまふ。死体をトランクに押し込むと、仏の車で建一と理恵はとりあへず逃げる。遺体を山中に埋めた後、当てもなく走らせる車中、理恵は後部座席に一つ目の覆面を見付ける。
 リアルタイムでも故福岡オークラ劇場で観た覚えのない、杉浦昭嘉デビュー作。妻の浮気に茫然自失と彷徨ふ男が、巻き込まれるセクシーな女との逃避行。となれば判り易いといへば判り易くロードムービー的な物語ではあるのだが、穴なり難点も実に判り易い。何はともあれ、銀冶以外の男優部の脆弱さが壊滅的。比較的役目が終ればアッサリ退場する国沢実と浅木大に関しては千歩譲つて目を瞑るにしても、精々人は好ささうに見える程度で直截には何処の馬の骨とも知れないでくの坊の森村克朗が主役といふのは、処女作にして負け戦を挑むにもほどがある。あるいは、森村克朗を回避しようとした苦肉の策が却つて裏目に出たものやも知れぬが、房江V.S.竹内戦とマナミの家にといふのは案の定嘘であつたナオコV.S.野原戦の二戦が展開の進行もそつちのけで明らかに尺を過食する、構成のへべれけ加減も如何ともし難い。尤も、前者に関しては徹頭徹尾不完全無欠に弁護の余地はないが、気付くと吉田チホの濡れ場も未だだといふのに残り僅か十分となつた終盤。ヒューマニスティックでもあるものの御都合感の否めなくはない着地点を、地味に必殺の自劇伴と騒動を見守る者のポジションを頑丈に務め上げる夢乃の力強い眼差しとに頼り勢ひで押し込むエンディングは、振り逃げ気味なれどこれで案外形になつてゐるやうにも見える怪我の功名が興味深い。


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 「痴漢の指2 不倫妻みだらな挑発」(1999/製作:新東宝映画株式会社、ジャパン・ホーム・ビデオ株式会社/配給:新東宝映画/監督:神野太/脚本:竹橋民也/プロデューサー:黒須功/撮影:茂呂高志/照明:加藤孝信/録音:福島音響/美術:西村徹/編集:大永昌弘/音楽:中西一八/助監督:村田啓一郎・菊川誠/制作:平原大志・有国浩/撮影助手:渡辺純一/照明助手:宮城任/美術助手:立花芳理/編集助手:佐藤崇/衣装:宮田弘子/ヘア・メイク:国信幸子/スチール:佐藤初太郎/キャスティング:綿引近人/ネガ編集:三陽編集室/現像所:東映化学/タイトル:道川昭/出演:勝虎未来・江原修・佐々木麻由子・山下真広・港雄一・南けい子・野上正義・森羅万象・和田智・野々内雄・工藤強・梅田宏)。
 「SCORE」(1996/監督・共同脚本:室賀厚/編集:室賀厚・鵜飼邦彦)軍団テキーラこと江原修がショッポに火を点ける。数人通行人を遣り過ごして同じく「SCORE」軍団ダックこと山下真広の姿を確認した、興信所「浜田総合調査」の調査員・次郎(江原)は行動開始、「九月二十九日尾行三日目、調査対象野崎浩介《山下》十七時十一分に退社、銀座線青山一丁目駅へ」。地下鉄の駅に下りる、地下鉄で痴漢電車やらかすのか?といふのは早とちり、左から電車が来ると暗転して右隅にタイトル・イン。地下鉄を降りた野崎は、自宅の方向とは異なるJRの路線に乗り換へる、次郎が振り回され気味に追ひつつ、調査依頼の様子がインサート。浮気を度重ねる野崎に対し、後々の段取りもつけてゐるらしき妻・ゆきえ(佐々木)は、決定的な証拠を求めてゐた。港雄一は「浜田総合調査」所長の多分浜田、普段はコーラのロング缶を常飲する。車輌を移動した野崎は、合図を交した二人の仲間(和田智・野々内雄・工藤強の中から二人)と合流、スーツ姿の勝虎未来に集団痴漢を敢行し、女をイカせると悠然と電車を降りる。報告を受けた浜田はその現場の写真を押さへてゆきえにせよ野崎にせよ、高い値をつけた方に売ればいいと節操のない皮算用を膨らませる。尾行十日目、相変らずJRに寄り道した野崎を苦笑気味に尾行する次郎は絶句する、三人組が再び勝虎未来を嬲つてゐたからだ。心を奪はれた次郎は野崎もホッぽり出し勝虎未来をストーク、勝虎未来は北多摩女子大の学生寮に暮らす女子大生・由美子であつた。
 後述する裏もしくは真主役の一人除き配役残り、和田智・野々内雄・工藤強の内誰か一人が、ゆきえが慰謝料をタップリふんだくつて新しい生活を送るつもりの、正しくツバメ感が迸る若い間男・ヒロキ。野上正義は野崎が由美子を宛がふ、助平専務。南けい子は野崎のミッションが失敗する形で終了した次の調査対象、単身赴任中の夫から不貞を疑はれる北川リエで、森羅万象がそのお相手氏。南けい子V.S.森羅万象戦の大層な重量感と、三番手の濡れ場で終盤を軌道に乗せる構成の堅実さは地味に光る。台詞ひとつなく通り過ぎるだけの登場ではガミさんと被る混同は否めない梅田宏は、森羅万象を追跡中次郎が出くはす、由美子の新しいボス。「北多摩女子学生会館」管理人と、由美子の同級生要員二名、運よく夢の島を切り抜けた次郎を助ける男は不明。
 「本気汁たれ流し」(1995/エクセス/脚本:上野由比/主演:宏岡みらい)から三年空いた、「痴漢の指 背徳の美人秘書」(1998/脚本:竹橋民也/主演:里見瑶子)挿んでの神野太ピンク映画第五作。因みに次作は四年後のPINK‐Xプロジェクト第六弾「痴漢電車2003 さはられたい女」(2003/主演:中谷友美)で、更にその二年後エクセスに帰還する。現状、沈黙は五年目に突入する。中途半端な仕上がりの多かつたPINK‐Xプロジェクトを先取るかのやうに、普請はパッと見にも常ならざる潤沢さを窺はせ、驚くなかれ、尺も六十分を堂々と七分も跨ぐ。尤も、リアルタイムではテキーラが出て来ただけで喜んで大騒ぎして観てゐたものの、改めて再見してみるとビリング頭二人が然程どころでもなく強くはなく、標準的からより直接には平板な仕上がりのよくある探偵物語といふ印象が強い。野崎の痴漢現場を如何に撮影するかに関し、丸投げな浜田と現場担当の次郎とで口論になる件があるのだが、最終的に次郎が思ひきり普通に顔の前に構へたカメラを向けてみせる無造作さには、それは笑かせたいのかと呆れさせられた。尤も尤も、今作の主眼は兎も角見所は案外初心な探偵が、ミステリアスな女に翻弄される本筋にはない。“東京都清掃局”を自称し、由美子に一杯喰はされた格好の次郎を襲撃する文字通りの強面役。御本人様より伺つたところによると事務所を通してゐない故のポスター・クレジットとも黙らせた鬼出電入のカメオ出演にて、チャンスこと我等が「SCORE」軍団総帥・小沢仁志が飛び込んで来るのだ!度派手なジャケットに黒の革パンを合はせ蛇革のブーツをキメた小沢仁志が、情容赦ない戦闘力で次郎を圧倒、夢の島に放棄したかと思へば、ラストのひとつ前に再登場しては美味しいところを根こそぎ持つて行く。かうなつてはピンクもへつたくれもない、小沢仁志が出張つて来た以上、これはもう小沢仁志の映画だ。それでそれだけで俺は全然満足だし、今作をラインナップに加へて呉れてゐたDMMのピンク映画chには心から感謝した。

 映画の中身とは清々しく関係ないが、難敵・コブラ(宮坂ひろし)といよいよケリをつける段にチャンスが吐く、日本アクション映画史上一番カッコいい名台詞「どんなクソヤローにも、必ずチャンスは来るもんさ」。


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 「セミドキュメント 離婚妻の性」(昭和61/製作:新映企画?/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:世良じゅん/企画:伊能竜/撮影:国立二郎/照明:秋山知夫/編集:酒井正次/助監督:佐藤俊キ/監督助手:勝山茂雄/撮影助手:福島佳樹/照明助手:須賀一夫/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/スチール:津田一郎/出演:鈴木美子・早乙女宏美・水野さおり・井上真愉見・久須美欽一・山本竜二・石部金吉・西本健吾・坂入正三)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。企画に伊能竜の名前があるといふことは、製作は新映企画ではないかと思はれつつ、勢作プロダクションがクレジットには明示されず。照明の秋山知夫といふのは、和夫の当方が仕出かした誤記ではない。助監督の佐藤俊キといふ頓珍漢な表記の所以は、キが七を三つ三角形に重ねた“喜”の略字。
 全篇を通して薮蛇に彩るといふか直截には時代を生温かく偲ばせる、テンポの速いシンセがフニャフニャ鳴る劇伴がミャーンと哭きタイトル・イン。幾らテーマに即してゐるとはいへ、クレジット中の画がそこら辺を歩いてゐるカップルを適当に抜いてゐるのが凄い。そんな次第で―どんなだ―久須美欽一のナレーション“現在、三分に一組のカップルが離婚するといはれてゐます”、中略して“今回は離婚して一人身となつた女性に、離婚の原因を追究して行きたいと思ひます”とかいふコンセプトを宣言した上で、久須美カウンセラーのカウンセリングルーム。最初の相談者は大きなサングラスで顔を隠した土田真弓二十九歳(鈴木)、夫・鉄雄(坂入)との離婚事由は、鉄雄が同居する真弓の妹・真理(水野)と仕出かした不貞。てことでドラマ性を極限まで排除した、姉に十分妹も十分費やす姉妹丼で二十分尺を喰ふつもりかと本気で心配させた二連戦が、真理戦は七分強に止(とど)まるものの―実質的には全然止まつてない―延々展開される。真弓が一旦捌け、久須美カウンセラーが一服吹かしてゐると竹田沙織二十三歳(早乙女)が呼び込みもされないのに鼻息荒く飛び込んで来る。沙織が離婚した原因は、テレビが壊れた為呼んだ村田電気の修理人(山本)からレイプされたにも関らず、直後に帰宅した夜勤明けの夫(後述)には男を連れ込んだと誤解されたといふ無体なもの。引き続き濡れ場を延々延々ひたすらに延々消化、話してる内に頭に来た沙織は入場時と同様、勝手に退場する。「然し仕事とはいへ、セックスの話ばかりでウンザリして来るなあ」と久須美カウンセラーが溜息、ちよつと待て、俺にも同調させて呉れ「然しピンク映画とはいへ、絡みばかりでウンザリして来るなあ」。「十人十色とはよくいつたもんで、色んな人が居るもんだ。次の方どうぞ」と山野ケイコ二十一歳(井上)が入室、ケイコの場合は原因はケイコ側にあり、夫(一切登場しない)には内緒の借金を抱へ、架空のゴルフ場会員権を売り捌く会社で日給一万円の電話番をしてゐたケイコは、社長の酒巻か坂巻か坂牧(石部)に日々手をつけられる。酒巻の変態的なセックスに燃えるケイコは、正常位一辺倒の夫との単調な夫婦生活には嫌気が差してしまつたのだつた。
 新田栄昭和61年全二十作中第十八作、jmdbに記載されるだけで東活十五本+新東宝二本+日本シネマ三本だなどといふ闇雲さが、もう無茶苦茶な世界だ。そして、わざわざDMM戦に際してまで随一の小屋の番組占拠率を誇る無官の帝王・新田栄を選んだのは、今作が同じくjmdbに記録の残る、坂入正三の最も古い出演作だからである、それがどうしたといふ疑問をお抱きになるのは御容赦願ひたい。外堀から攻めると、“セミドキュメント”なる今では耳慣れない用語は、要は当サイトがこれまでモキュモキュメンタリーと仮称して来た一群の作風に関する公式名称といつた寸法か。モキュメンタリーといふ言葉が未だ存在しない時代に案出されたものでもあり、中々以上に絶妙な造語であると改めて感心させられる。本丸に飛び込んでは既に答へも事実上提示したつもりではあるが、三篇が有機的に連ねられることもない本当に果てのない濡れ場の砂漠には、石部金吉=清水大敬が繰り出す粘着質のプレイを通して映える井上真愉見のオッパイで終盤持ち直さなくもないとはいへ、正直否応のない徒労感は禁じ得ない。こちらは話してる内に催して来たケイコ篇通過、すると久須美カウンセラーは「それにしても別れた妻達のその後はどうなつてゐることやら」、「それでは土田真弓の場合を見てみませう」。何時の間にか夜の店のママの座に納まつてゐた真弓と、店のボーイ・ナカちやん(西本)との一戦。また出し抜けな未来だと呆れかけるのは些か早計、六十分を二分二十五秒も超過しておいて、沙織とケイコ残り二人は綺麗に放置して済ますルーズな構成には、塞ぎ方を忘れた口を開けたものやら閉口したものやら戸惑ふばかり、腰骨も粉砕骨折必至の危険な一作である。

 そんな今作の明後日な見所は、後回しにした沙織の夜勤明けの夫。声は新田栄のアテレコなのだが、繰り返すとキは七を三つ三角形に重ねた“喜”の略字の、助監督の佐藤俊キ。佐藤俊喜と表記するとお気付き頂けたであらうか、西本健吾よりも余程男前な、何と若き日のサトウトシキその人である。


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 「浮気妻 したがる三十路」(1998/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:天野健一/照明:小野弘文/編集:金子尚樹/撮影助手:田宮健彦/照明助手:藤塚正行・大橋陽一郎/助監督:周富芳・高田亮・山本テツ/製作担当:真弓学/ヘアメイク:塚本ゆき/スチール:本田あきら/タイトル:道川昭/編集:《有》フィルムクラフト/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:立花優・村上ゆう・里見瑶子・山本清彦・山内健嗣・久須美欽一)。脚本の国見岳志は、勝利一の変名。
 路面電車を斜め前から捉へてタイトル・イン、別に痴漢電車といふ訳ではない。視点を移し電車が左から右に通過すると踏切の向かうには、ロングでは華がないゆゑ風景に埋れがちとなるエクセスライクな主演女優。ボサッと買物帰りの主婦・旧姓竹上の大橋景子(立花)に、何某かの工事中の作業員・田辺信介(山本清彦)が聞こえよがしなので陰ではない憎まれ口を叩く、「女もああなつちまふともうお仕舞だなあ」。もう三人見切れる同僚作業員は、定石から考へると演出部動員か。帰宅するや受話器越しの声も聞かせぬ実家の母親から孫を催促する電話が入り、結婚後七年、連夜帰りの遅い亭主・哲夫(久須美)とはただでさへ御無沙汰気味な景子のフラストレーションは火に油を注がれる。挙句にその夜、夫婦の寝室ではなく居間で眠るのを叩き起こして無理から夜の営みに突入するも、何と哲夫は勃たない始末。そんなこんなで河原でホケーッと黄昏る景子は、秘書の浜田健二(山内)を連れた、高校時代の同級生で下着会社社長の小室麗子(村上)と再会する。景子の悩みを聞いた麗子は、三人でレインボーな照明の連れ込みに。「旦那がしたがらないの、貴女に問題あるのよ」、といきなり本丸に攻め込んだ麗子は目を丸くする景子の前で浜田とオッ始めると、華麗に巴戦に移行、地味に浜田強い。とか何とかいふ次第で大橋家食卓、頻りに使ふ景子の色目に哲夫が反応を示さないどころか、化粧が濃いと不平まで垂れるのが笑かせる。景子は買物で家を空けた休日、哲夫がエロ本に垂涎しながらマスをかいてゐる―ティッシュが二固まり転がる―ところに、麗子が訪ねて来る。それは所定の段取りで、景子が偶々再会した田辺と作業車のライトバンでの一戦を交へてみたりもする中、麗子は過呼吸の介抱を装つた強引極まりない導入であれよあれよと哲夫を誘惑。したにも関らず、麗子御自慢の淫技にも、矢張り勃たない形で哲夫は陥落しなかつた。プライドを傷つけられつつ、麗子はヒントを掴む。
 配役残り里見瑶子は、麗子の命を受けた浜田の尾行も知らず、講和産業の高橋との商談を済ませた哲夫が密会する援交JK・優香、実は二十五歳。
 共に初陣となる勝利一と佐々木乃武良の間で坂本太がガッチリ扇の要を果たす、オムニバス作「痴漢エロ恥態 電車・便所・公園」(1998)に続く、勝利一一人立ちデビュー作。大雑把に譬へれば量産型速水今日子のレストア機、とでもいつた風情の―どんな風情だ―劇中夫婦生活第一戦までは本当にお仕舞に見えた立花優が、単に化粧と対田辺第二戦に際しては照明部決死の大健闘とにより、現に麗子の指南によつて次第に女として磨かれて行くやうに見えるのは、鮮やかな映画的マジック。一聴適当にズンドコしてゐるやうに聞こえて、案外的確な劇伴も何気に光る。何よりも素晴らしいのは、麗子大橋家急襲時にオチが見えたと思はせて実際にそれが半分は間違つてゐなかつたのは、寧ろ勝利一の術中にまんまとハメられてしまつたといふことなのか。四球を選び塁に出た久須美欽一を、村上ゆうが犠打で進め、里見瑶子と山内健嗣が本塁に返すのは実は二段構へのフィニッシュの序段。立花優と山本清彦のアシストを受けた、久須美欽一が大ハッスルのゴールを決める真のオーラスには脱帽した。朝つぱらから自宅に連れ込んでの三番手挿んで昼下がりにまで至る、明らかに平衡を失した長期戦にも思はせた対田辺第二戦が、実は計算され尽くされたものであることが明らかとなる瞬間に火を噴く、緻密な論理と完璧な構成美。今作で目下最終2005年の全十三作+1/3の監督作をコンプした格好となる、勝利一はこの時点で既に完成されてゐたのかといふ驚きと同時に、自ら選んだ沈黙にせよ状況に強ひられた不遇にせよ、これだけのタレントを遊ばせておく現状が激越に勿体ない。


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 「艶熟女 悶え肌」(1993『本番熟女 -こすり合ひ-』の1999年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/美術:衣恭介/音楽:MGC/効果:協立音響/編集:井上和夫/助監督:小林豊/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:神代弓子《イヴ》・二階堂美穂・羽田将弘・神坂広志・神戸顕一・珠瑠美)。
 珠瑠美の腋毛から入るといふ暴力的な開巻、乳を揉まれるイヴちゃんを短く置いて、クレジット流しのタイトル・イン。ミサトニックな田嶋か田島か但馬邸、女主人の鞠子(珠)が庭のプールに下手糞に飛び込んでテレテレ泳いでゐると養女の友里(神代)が顔を出し、何かのレッスンに向かふ。コーネリアスとかイレイザーヘッドのパブを選んで抜くのがムカつく街頭ショット挿んで、この人も外出する鞠子に、オーラスにもう一度火を噴く渋いことは確かに渋いナレーションが被さる。“かつては日本財界の子女で元女優だが、今は引退してイタリアの交流ヌード雑誌の輸出入で活躍・話題の人。だが、人知れぬ陰を背負つてゐる”、二重引用符内は劇中ママ、勿体つけた造形以前に、“日本財界の子女”だとかいふ不自由な日本語が一昨日に琴線に触れる。そんなこんなで鞠子の会社、「EROS PIONEEL AN ART Office Mari」と表札にはあるが、電話に出る際には「クリエイティブ・マリ」。社員の多恵子(二階堂)とユージ(神坂)が社長は未だ出て来ないと高を括つて致すところに鞠子出社、銀幕の内外から邪魔するな感が迸る。それと、ユージの眼鏡の巨大さには戦慄を禁じ得ない。鞠子が仕事の真似事をしてゐると、吉田?治(羽田)から電話がかゝつて来る。羽田将弘といふ微妙に見慣れぬ名前は、羽田勝博と同一人物。吉田家は元々は田嶋家使用人の家系であつたが、財産を奪ひ立場が逆転、現在鞠子は吉田の愛人の座にあつた。何を好き好んで、といふのはピンクスの情けでいはない相談だ。友里帰宅、裸で泳ぐ。日は高く見えるがアフター5らしき多恵子とユージの姿を噛ませて、鞠子とは百合の花香る間柄にある友里の自慰。「この可愛い割れ目ちやん、誰にも触らせない、ママだけのもの」云々かんぬんと、イヴちゃんの裸の素直な鑑賞を妨げ続ける珠瑠美の声が鬱陶しくて鬱陶しくて仕方がない。例によつてといふかいふまでもなくとでも片付けるべきか、本筋が存在しないどころか粗筋にしても覚束ない始終を掻い摘む営みを放棄すると、配役残り神戸顕一は、吉田の依頼でハワイから拳銃を密輸する運び屋、実に無造作な話の転がし方だ。
 珠瑠美1993年全五作中第四作、わざわざ珠瑠美でDMM戦を挑むといふのは、何も終に発狂した当方が錯乱してゐる訳では多分ない、ハル・ハートリーのカミさんが見たかつたのだ。半欠片も有難くはない珠瑠美との絡みが多い、イヴちゃんのことはいつそ忘れることにしてロック・オンに集中すると、物語的な加速にも相手役にも全く恵まれない逆風の中でも、パキパキッとした男顔が堪らない二階堂美穂の大美人ぶりが圧巻。全てはそれでよしといふことに、強ひてしてしまふ以外に今作に対する積極的評価の途は見付かるまい。出し抜けに実も蓋もない、結論に達してしまつたが。正体不明なイメージの挿入にも、徒な不協和音の劇伴に頭を抱へさせられることも共にない一方で、相変らず官憲の力に頼つた唐突な結末まで右往左往するのは逆の意味で安定感抜群な珠瑠美仕事、頼むから偶には裏切つて欲しい。大御大・小林悟と今上御大・小川欽也、無冠の帝王・新田栄に次期御大候補・関根和美。四天王に劣るとも勝らない破壊力を誇れない真の三強もとい三凶は、実は珠瑠美と清水大敬と、そして日本映画界の暗黒を突き抜けた白夜・関良平なのではないか。頓珍漢な与太は兎も角、取材旅行で香港に三日間行くとか行かないとかいふ、鞠子のスケジュールを友里から電話で聞き出す吉田が、口では八時に成田といひながら、メモは6時成田と取る辺りから最大速でへべれけな最終盤がグルッと一周して最早画期的。時間が違ふことをしつこく訴へながら友里は吉田から二度目に手篭めにされるのだが、そもそも、初めに正解のタイム・テーブルが提示されない。破綻する以前に成立すらしてゐないサスペンス描写なんて初めて見たよ、一体何の気体を呼吸して生きてゐれば、斯くも抜けた底がメビウスの輪を通過してドリフ桶よろしく頭上から降つて来るやうな展開が撮れるのか。
 オーラスに変な無常観を爆裂させるナレーション“だが、爛れた二人のレズ関係は淫らに続く”、続くのは別に構はんが、だから鞠子が背負ふ“人知れぬ陰”とは一体何なのよ。ホモ・セクシュアルのことなのか?何を今更。

 二人登場する刑事役は、若い方は定石からいふと小林豊かと思へなくもないが何れも不明。チョコチョコ画像検索に苦心してはみたものの、年長の方の刑事は木俣堯喬でも和泉聖治でも微妙にないやうに見える。年長刑事とナレーションは同じ声なのだが、アテレコである可能性も考慮に入れるとなほ一層不明。


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 「異常に燃える女」(1990/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:大沢祐介/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:金子編集室/助監督:石崎雅幸/監督助手:浜本正機/撮影助手:岸本勝則/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:水鳥川彩・白戸好美・風間ひとみ・工藤正人・山科薫・浜本万造・野上正義)。 フォーマルではないが一応黒い服の水鳥川彩が墓参、カメラがパンすると、デカいグラサンで煙草を吹かす工藤正人。水鳥川彩は何かを破り捨て工藤正人の下に歩み寄ると、真山とは完全に縁を切つた旨を告げる。水鳥川彩が捨てた、ポラロイドのいはゆるハメ撮り写真を抜いてタイトル・イン。近年オーピーでは見られないオープニング・クレジットに乗せて、美也子(水鳥川)の回想に突入する。卒業式を間近に控へた高三の冬、美也子は真山(野上)と出会ふ。無粋をいふと、卒業式直前となると二月の真冬に咲きはしない花に立ち止まり目を留める美也子に近づいた真山曰く、「綺麗だね、君は花が好きですか」、英語の教科書みたいな会話だ。ロスト・バージンを焦る美也子は三万円で純潔を真山に安売り、ホテルを出た後単身赴任中といふ真山宅まで転がり込む。美也子が工藤正人と適当に移動する劇中現在時制を適宜差し挟みつつ、恋愛感情はないままに、長けた真山の性戯に美也子が溺れて行く過程が描かれ、続ける。
 その他配役、卒業後美也子は進学することはなく、比較的時間も自由なコンパニオンに就職、山科薫は、真山と会へない時に男を漁る美也子と、手短に一戦交へるテレクラ男。ほかに登場人物も見当たらないゆゑ、恐らくはセカンド助監督の浜本正機と同一人物と思しき浜本万造が、山科薫登場の直前にワン・カット見切れるナンパ男か。白戸好美は、ある日美也子が真山を訪ねたところ、事の真最中であつた女、真山は一欠片たりとて悪びれることもなく巴戦に突入にする。「その頃ね、貴方に初めて会つたのは」、工藤正人は、美也子が真山に連れられたスナック「摩天楼」(大絶賛仮称)で働くアルバイトのバーテン・若松ヤスオ。風間ひとみが「摩天楼」のママで、実は合意の上での円満別居する真山妻。真山は初めから、美也子に嘘をついてゐたのだ。
 主演が水鳥川彩といふ理由だけで適当に選んでみた、和久名義の小川欽也1990年全十一作中第七作、薔薇族入れると十二の八。堅気であることは堅気であるのだが熟練の色事師に開花された一人の女が辿る、些か飛躍の大きな結末に至るまでの過程。よくよく見ると、タイトルの最短距離感が渋い。物語らしい物語が特にある訳でもなく、ひたすらに濡れ場濡れ場を連ねるに終始する誠鮮やかな裸映画。といふ評価も確かに間違ひではなからうが、案外緻密に計算された白戸好美・風間ひとみ・工藤正人の投入を機に美也子の心境の変化を丁寧に紡ぐ展開は、地味に実に見応へがある。二番手・三番手とも裸見せは一度きりに止(とど)め、多少筋張つた辺りがまた堪らない水鳥川彩の美しい肢体を目一杯魅せきることに徹した戦略も秀逸に、意外と素面の映画的にも充実した丹精な一作。出来はさて措いた表面的な作りが今と然程違はないので一見気付きにくいが、もう凡そ二昔前の映画であることにフと驚かされる。

 エンド・マークが被さる脱ぎ散らかされた衣服が、絶妙に何かの形に見えなくもないもののどうにも答へが出ないのは、多分考へ過ぎに違ひあるまい。


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 「痴漢と覗き 女課長の私生活」(1996/製作:キクフィルム/提供:Xces Film/監督:小林悟/脚本:如月吹雪/撮影:柳田友貴/照明:渡部和成/編集:フィルム・クラフト/助監督:佐藤吏/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワ・プロ/録音:シネキャビン/現像:東映化学《株》/出演:三代目葵マリー・姫川夢子・桃井良子・白都翔一・坂入正三・山本清彦・港雄一)。
 要は小林悟の略か、「KSリサーチ」社。社長の佐野(港)は電話で話中で、佐伯久美子(三代目)が茶を汲んで回る、もう二人見切れる社員要員は判らん。カット変り、佐野が久美子に中村社長(一切登場せず)に対する社運を賭けた枕接待を乞ひつつの一戦経て、成長したのか「KSリサーチ」新社屋。功が認められたらしく、営業課長に昇進した久美子がプカーッと横柄に煙草を吹かしてタイトルとクレジット・イン。森田(山本清彦/a.k.a.やまきよ)が手も足も出せないニューヨークからの国際電話を受けた久美子は、「アー」とか「ハー」ばかりの中学以前の英会話でナチュラル社との契約を纏めると、森田の対面に吉川(姫川)・右後ろには小林悟と左後ろにもう一名が居る中、公然と高圧的に森田を罵倒する。社長室にて佐野が吉川に軽く手をつけ、そこに久美子が人員の増員を求めて訪れる一幕挿んで、深夜の営業課。森田がその日は結婚記念日であることを知りながら残業させてゐた久美子は、執拗な足舐め責めでいたぶると、「汚いメス豚のところに帰りな!」と森田を放逐、貫禄の女王様風を吹かせる。帰宅する久美子を、見る側含めて不意を討ちノン・クレジットの真央元(a.k.a.真央はじめ/アテレコなのだが、呻き声程度しか発さないゆゑ主は不明)が襲撃、公衆トイレに連れ込み強姦し、しかもその模様を実は森田が目撃する。トイレからフラフラと外に出た久美子は、ちやうど用を足さうとした白都翔一と交錯する。翌日、早速現れた入社志望の面接に参加するかとした久美子は驚く、応募して来た相沢優太(白都)が、昨晩陵辱された直後に出くはした男であつたからだ。
 桃井良子は、大卒でないといふ理由でその場で無体に落とされた相沢が、凹むこともなくセックスする彼女。そこに久美子からの電話がかゝり、まさかの逆転採用が告げられる。久美子は相沢が実際にレイプを覗いてゐたのか確認した上で、鶴にする腹であつた。もしかすると本篇クレジットが真央元と仕出かして、本当に出て来るものかと本気で心配した坂入正三は、尺的には五十分前といふ最終盤に漸く飛び込んで来る、劇中二人目の久美子強姦男。
 大御大・小林悟の1996年全十一作中第四作、ピンクに限定すれば全九作中第三作は、非新田栄の「痴漢と覗き」。ここで改めて「痴漢と覗き」シリーズ―と、いふほどのものでは全くない―の沿革をjmdb頼りで簡略に掻い摘むと、足かけ十二年に都合十三作が製作された本家―何だそれ―新田栄のほか、順に北沢幸雄、何と佐藤寿保、坂本太、今作の大御大と、的場ちせ(=浜野佐知)の新東宝版までもが存在する。看板を拝借するに当たつて、新東宝はエクセスに話をキチンと通したのか。更には新田栄の新版が何時の間にか「痴漢と覗き」冠で勝手改題されてゐたりすることもあり、事ここに至ると正直収拾がつかない。所々で適宜適当に濡れ場が放り込まれるのはカテゴリー上不可避の要請として、真相を知らない久美子の、相沢が真央元に痴漢される現場を覗いてゐたのではないかと踏む疑心が暗鬼を生じさせる本筋に、桃井良子といふ抜群の彼女が居るにも関らず、デキる女の久美子に心を移す相沢の変態的な恋物語が絡んで行く構成が、小林悟にしては驚異的に素直に積み重ねられて行く。順当に展開を追ふことが、意外だといふのも一体どういふ世界だ。柳田友貴先生のカメラが何もない明後日にテローンと横滑りしては何事もなかつたかのやうに平然と元の位置に戻る、当サイト命名「柳田パン」が火を噴くこともない。尤もその点に関しては、劇中二度目の佐野V.S.吉川今度こそ本戦、折角ヤンチャな撮影部がおとなしくしてゐるものの、今度は照明部が馬鹿みたいに激越な照明を当て、ハレーションを迸らせてみたりなんかもする。坂入正三投入で強引に舵もといメガホンを切ると、恋のハッピー・エンドに力技で捻じ込む結末は、案外綺麗に形になる。なつたものを、なつたといふのに、心のこもらないオーラスを叩き込んでみせる辺りのドライさが、最終的には実に大御大仕事である。

 久美子が「KSリサーチ」社を飛び出す件、御大がシレッと隣の姫川夢子のオッパイに手を伸ばし怒られるのは、微笑ましい御愛嬌。
 ラスト・カットは吉川新課長が煙草をプカー


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 「変態プレイ 私はおもちや」(1996『変態願望実現クラブ』の1998年旧作改題版/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:河中金美・松本治樹・谷尾和也/照明:秋山和夫・新井豊/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:国沢実・佐藤吏/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:岩下あきら・桃井良子・真央はじめ・久須美欽一・樹かず・甲斐太郎・荒木太郎・ゴブリン・林由美香)。
 臨海副都心、逃げる修道女姿の岩下あきらを、樹かずが追ふ。橋のたもとに追ひ詰められた岩下あきらは、あれよあれよと背徳的か平板に犯される。あるいは新版公開に際しての兼合ひなのか、開戦後最初にカメラが引いたタイミングでよかつたやうにも素人目には思へつつ、若干時機を失し気味のタイトル・イン挿んで、今度はセクシーなチャイナドレスの桃井良子が階段を上がる。必ずしも明示はされないものの、『女優 林由美香』(洋泉社)の記述に従ふと「ビデオシネクラブ」。桃井良子が「ビデオシネクラブ」のママで、片腕兼男女の仲にもある安川(真央)が客からの電話を受ける。「ビデオシネクラブ」は客を監督と主演男優に、嬢との客のシナリオに沿つた絡みを撮影させる要は大概手の込んだデリヘルで、アバンの一戦も、現状唯一人在籍するびわ子(岩下)と、挫折した映画青年・橋田ユージのプレイであつた。因みに、のちにワン・カット抜かれるゆゑ判明する「ビデオシネクラブ」物件は、下北沢の「LA CAMERA」。ブログもサイトも更新が途絶えて久しいのが、少し気になる。こゝから一頻り、屋内の直截にいへばハメ撮りに移行したびわ子×橋田戦と、「ビデオシネクラブ」事務所でのママ×安川戦が併走、劇中最強の桃井良子の美しさに胸打たれる。柔らかい肌の下で艶かしく動く肋骨の魅力に、初めて心動かせられた。女優になるといふ目標と、エロスの探求なるライフテーマを胸に、ママの強欲に時には臍を曲げながらも健気に奮闘するびわ子は、ママが体調に異変を覚えたある日後述するゴブリンとの接触を経て、ウエディングドレス好きの甲斐太郎の下に出向く。事後甲斐太郎がピンク映画の監督で、しかも次回作が大ファンの林由美香の主演映画であると知つたびわ子は驚喜ついでに立候補、その場の勢ひでサクサクと出演に漕ぎつける。
 配役残り、ゴブリンは公園でエロ本を広げるびわ子に声をかけ、後々超重要な一幕に再登場を果たす紳士。ゴブリンだなどと正体不明の名義ではあれ、山﨑邦紀その人である。久須美欽一は、びわ子が足を踏み入れた仮称甲斐組撮影現場にて、林由美香(当然ハーセルフ)と濡れ場の撮影の真最中の男優・樋口。因みに因みに、林由美香が林由美香役で出演するピンク映画といふと、少なくとももう一作「最新!!性風俗ドキュメント」(1994/監督:深町章/構成《事実上の脚本》:甲賀三郎=瀬々敬久/主演:林由美香・荒木太郎)が挙げられる。水泳用のゴーグルに前頭部を残し刈り上げた、パッと見トラヴィッシュな風味に見えなくもない荒木太郎は、樋口は軽い気持ちで―撮影の―本番に突入したびわ子初陣、びわ子が樋口の肛門を舐め始めたゆゑのNGに頭を抱へたカイ監督が急遽招聘を決断する、“何でもオッケー”な変態男優、通称マシーン。最終的に、本番をオッ始めたびわ子とマシーンに林由美香が激怒、すつたもんだの末びわ子とマシーンはお払ひ箱となる。尤も、ほかでもない林由美香自身が、監督からいはれるまゝとはいへ、ピンク映画デビュー作「貝如花<BEI JU HWA> 獲物」(1989/監督:カサイ雅弘/脚本:周知安/主演:貝如花《BEI JU HWA》・イヴ)に於いて本番を仕出かしてもゐるのだけれど。それと国沢実も、一言二言の台詞も与へられるヒムセルフ役で見切れる。
 純然たるどうでもいゝ私事でしかないが、まさかの監督第一作を見つけるまでは、この映画との再会を「DMM荒野篇」初戦にと心に決めてゐた山﨑邦紀1996年全六作中第二作、薔薇族入れると七の二。主に女優部から吹く逆風にもめげず、陽性に夢を追ひ続けるびわ子の桃色で爽やかな青春映画を、そこかしこに飛び道具を仕掛けた布陣と、丁寧に織り込まれたエモーションとが面白可笑しく、そして美しく彩る一撃必殺の感動作。ネタが割れるのを回避すると、痒いところの服の上にすら手を届けさせられないのは歯痒いばかりではあるが、終盤の端緒とエンド・クレジット時の二度エクストリームに火を噴く、中空龍の物悲しくも力強い旋律が狂ほしく決定的。朗らかなびわ子を太陽の如く中心に据ゑ、煮え切らない橋田の惰弱さ。素直でないママの優しさと、ママとびわ子に板挟まれる安川の困惑気味の色男ぶり。由美香の今でいふツンデレに、樋口の微妙なオカマキャラ、由美香に花嫁属性を暴露された甲斐監督の狼狽、マシーンの人を喰つた風情。そしてそして、不意に事切れた母親を前に為す術もなく立ち尽くす幼児のやうな山﨑邦紀、今作の何もかもが愛ほしくて愛ほしくて堪らない。そこかしこで謳はれるピンク映画愛も繰言じみるでなく清々しく、山﨑邦紀を表面的な変幻怪異と、確かに偏つてはゐる嗜好にのみ注目した狭い射程からは恐らく捉へ難いのであらう、ストレートなストレートな一作。決して思ひ出でしかない後ろでなく、未知なる前を向き空を仰ぐびわ子の一言に続けて、繰り返すが中空龍の劇伴が鳴り始めるオーラスは完璧中の完璧。悪いことはいはん、兎に角観るのは無理でも見ろ、そして心洗はれろ。九十九の石ころの山に埋もれた宝玉は、こゝにある。

 ところでびわ子の宝物は、「乱熟妻 嬲る」(1993/監督・脚本:川井健二《=関根和美》/主演:林由美香)のポスター。あはよくばこれもピンク映画chにないものかと探したが、残念ながら見当たらなかつた。
 締めの台詞は「ママの出たピンク映画、観てみたいな」


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 「痴漢電車 ムリ女を狙へ」(1999/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督・脚本:関根和美/撮影:柳田友貴/照明:秋山和夫/編集:《有》フィルムクラフト/助監督:片山圭太/監督助手:城定秀夫/撮影助手:荒谷通広/照明助手:白井幸男/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/音楽:ザ・リハビリテーションズ/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/協力:竹洞哲也・浜口高寿/出演:愛川るり・風間今日子・林由美香・亜希いずみ・村井智丸・やまきよ・山内健嗣・岡田謙一郎・吉田祐健/友情出演:出口彰紀・飯島大介)。
 ロングで鉄橋を電車が左から右に渡つて手短にタイトル・イン。最初に押さへておくと、結構潤沢な乗客要員は、飯島大介と城定秀夫しか確認出来なかつた。一人そこそこ以上に可愛い女の子も出て来るのだが、クレジットの中にそれらしき名前は見当たらず。実車輌とセットを適宜往き来する電車の車中、医学部志望の浪人生・健一(村井)が、苦い別れを想起する。時代錯誤の貼紙にまみれた自室、高校時代は水泳部のキャプテンで女子の人気の的であつたものの、目下完全に先の見えない浪人生活に手詰まる健一は、彼女の梨沙(愛川)から愛想を尽かされてゐた。鬱屈とした健一に、如何にもただならぬ様子の林由美香がもたれかゝる。由美香の背後には、嘯いた表情が絶品のやまきよ(a.k.a.山本清彦)が、由美香はやまきよに痴漢されてゐた。健一は咄嗟にやまきよの腕を掴み捕まへるが、助けた筈の由美香は、まるで邪魔をされたかのやうな風情で姿を消す。健一と下車したやまきよは、痴漢のスリルを楽しむのは男だけではないと煙に巻き、自身も二浪経験があると不貞腐れる健一を生温かく慰めた上で、一流企業の藤山物産に勤務する村岡智則の名詞を渡しその日は捌ける。後日、健一は電車の中でゆり子(林)と再会、ここで、開巻に引き続き二度目の登場の飯島大介がdj hondaのキャップを被つてゐるダサさが別の意味で堪らない。正しくミイラ取りがミイラに、電車痴漢を仕掛けた健一を連れゆり子は下車、鉄橋のたもとの河原にて一戦交へる。すつかり味を占めた健一は、今度は茜(亜希)に手を出す。ところが茜は長髪のウィッグで歳を誤魔化した痴漢Gメンで、コンビを組む山内健嗣との二人に健一はまんまとトッ捕まつてしまふ。関根和美愛妻の亜希いずみが薮蛇にキレ倒す、異常に長いワン・カットで正体不明に尺を浪費する取調べを経て、村岡は身元を引き受けた健一を、“週に一度満員電車に乗り込んでこれはと思ふターゲットを見付けては、集団で痴漢行為に及ぶ”その名も「痴漢同盟」に勧誘する。
 脱退後に痴漢を働いた場合に加へ、同盟の存在を知りながら加盟しなかつた者にも指を切り落とす制裁を加へる。だなとといふといふ物騒極まりない話に屈し、健一は村岡に「痴漢同盟」がアジトとする閉店後のスナック「美風」―因みに林由美香は、キャリア八作後新田組に於いてママを務める―に連れて行かれる。岡田謙一郎と吉田祐健は、そこで新人を不遜に待ち構へるコードネーム・教授と組長。驚くことにマッポこと山内健嗣と、ユリッペことゆり子も「痴漢同盟」のメンバーであつた。健一は無神経な教授に、浪人といふコードネームをつけられる。因みに村岡はエリート、七曲署もマッ青だ。風間今日子は、実地訓練に入つた健一が狙ひを定める、マッポ推測でオールドミスの女教師・冴子。この人が痴漢するに際して最も手強い相手、即ちタイトルにあるムリ女“め”の標的に当たるといふ寸法。
 関根和美1999年、二本の薔薇族除くと全七作中第一作は、袋小路に陥つた若者が、海千山千の痴漢師軍団に鍛へ上げられる変則青春物語。村井智丸は兎も角としても、「痴漢同盟」にあまりにも魅力的な面子が揃ふだけに、普通に充実した健一トレーニングの過程に満足してゐると、フと気付けば予想外の女の裸比率の低さに驚かされもする。兎にも角にも特筆すべきは、“GO!”で親指を立てる「痴漢同盟」の合言葉「痴漢電車で、GO!」。やまきよ×山内健嗣×岡田謙一郎×吉田祐健、何れもイイ顔の男達が、「痴漢電車で、GO!」の掛け声とともに不敵な面構へで一斉に動き出すショット―山内健嗣は、立てた親指を横に傾けるのもポイント―が奇跡的、あの―どのだ―関根和美の映画が、ジョニー・トーばりにカッコいい。いや。本当なんだつてば。贅沢にも一度きりのしかも短い風間今日子の濡れ場を通過後、やまきよのアシストが渋く決まる泣かせの名場面挿んで、不意の別れと思はぬ形の再会とが、散らかつた、もとい賑々しい始終を磐石に締め括る。即物的あるいは腰から下方面の痴漢要素は決して高くはないものの、同時にれつきとした痴漢電車の名作。些か褒め過ぎたやうな気もしないではないが、細かいことは気にするな、柳田友貴大先生のカメラが一昨日に滑る殺法ならぬ四次元撮法もないことだし。宝の山をDMMに眠らせておくのは勿体ない、新作を作り続ける決意ないしは作り続けてゐる自負もあるのかも知れないが、オーピーは遡つた新版公開に、現状ほぼ絶無―2009年に、吉行由実のデビュー作を突発的に放り込んだ―なので少しは目を向けても罰は当たらぬのではないかとも、希望込みの素人考へとしては思ふところである、「旧作改題で、GO!」。


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 「《生》異常性体験 淫婦たちの群れ」(1990『超アブノーマル・ペッティング 異常快楽』の1994年旧作改題版/製作:多分旦々舎/配給:新東宝映画/監督:山崎邦紀/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・青木克弘・伊東信久/照明:秋山和夫・谷博文/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/助監督:広瀬博己・山村幸司/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/作画協力:ゴブリン森口/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:栗原早記・原ひとみ・小雪・石原まりえ・山瀬みち・池島ゆたか・芳田正浩・栗原良)。チーフ助監督の広瀬博己は、当方が仕出かした博巳の誤記ではない。

【早速面目ない前書】 要は大間抜けの節穴がクレジットにまんまと釣られ、「DMM荒野篇」は初戦にして早くも木端微塵に粉砕されてしまつた。コメント欄も必ず併せてお読み頂きたい、といふか、寧ろ本文に目を通す必要がないのか。本来ならば全面的な改稿を施さねばならないところが、面倒臭さよりも正直打ちひしがれたといふ無力感の爆裂する理由で、最早直さない、恥を曝す。但し、バラエティに富んだ濡れ場の海に最終的には沈みがちに、魅力的な筈のエモーションの前髪を掴み損ねてしまつた。とした大枠自体に改める要をこの期に臆面もなく認めないことに関しては、決して開き直つてみせるつもりではない。全く以て、コメを頂戴する度に愕然としてばかりの、東洋一粗忽で打たれ弱い管理人である   >思ひ上がるな銀河系一だボケ

 最初に白旗を揚げさせて貰ふと、栗原早記以外の女優部の特定に清々しく手も足も出ないことを予めお詫び申し上げる。
 二十年勤務した「ブランココーヒー販売」を退職した小熊幸太郎(栗原良)が、自宅居間にて鹿を始め諸々の動物のスケッチに熱中する。達者なスケッチの主である、作画協力のゴブリン森口といふのは要は森口抜きのあのゴブリンなのだが、地味に侮れぬ地力に感心する。ここからエロマンガを描くとああなるのが、逆に不思議だ。小熊は会社を辞めることにした自身と、元同僚の小鹿由美子(栗原早記)との別れを惜しんだ社内での情事を想起。次の仕事を探すでもなく、絵なんぞ描いて油を売る亭主に邪険に接する妻・美登里(ビリング推定で恐らく原ひとみか小雪)の顔見せ挿んで、再び同趣向の、牛島香澄(同じく小雪か原ひとみ)との社内情事の想起に及んで、二戦は事実の回想ではなく、小熊の切ないイマジンであることが明らかとなる。「そんな楽しいことがあつたら、会社辞めてないか」、といふ小熊の独白は何気に泣かせる名台詞。その夜、逆ギレした小熊がコーヒー豆を持ち出す流石に非現実的な夫婦生活噛ませて、日を改め昼下りの公園、小熊は公衆電話から由美子に接触を図つてみる。したところが予想外に常識的には気色の悪い誘ひに乗つた由美子は、直近の日曜日に会ふや、いきなり小熊を同僚四人で借りる自宅に招く、自発的な社宅か。仕事以外に大切なものを忘れて来た、会社にはもつと美しいものがあつたのではないか云々と突然の退社を振り返る他愛ない遣り取りを経たところで、由美子はお願ひと称して藪から棒に種々の淫具を持ち出すと、生理不順を理由とする診察、その前に検温を小熊に求める。といふ訳で大胆な流れから流麗に、左から早記の尻、続いて右からは恐々と体温計を手にした良といふダブル栗原フレーム・インは、この時点での山邦紀の手法の確立を窺はせる。それ以上はお預ける事後、由美子は小熊に、「貴方の置き忘れて来た、会社の美しい部分を見せてあげるは」と妖しく誘(いざな)ふ。
 配役残り、由美子は休んだのか翌月曜日の午後三時、再び四人宅に由美子と小熊が潜む中現れるだからビリング推定で石原まりえか山瀬みちと池島ゆたかは、由美子のルームメイトで人妻、兼拷問マニアの白鳥玲子と部長。部長は玲子が川島に色目を使つたと因縁をつけ、スパンキング・首から上まで含め文字通りの全身タイツ責め・乳首責め・鼻フック等々と手の込んだ一戦を長尺も費やし披露、物語の進行を願ふと、若干中弛む。くどいが山瀬みちか石原まりえと芳田正浩は更に次の夜に狭い世間で乱れる、アナル拡張マニアの鮎川瞳と猪又。然し川島のことは忘れると動物園のやうな会社だ、社長の名前は志々雄ならぬ獅子緒か何かか?
 「DMM荒野篇」初戦は、ずつと観たかつた山邦紀デビュー作!DMMさん本当に有難う、個人的にはこの一本に三千円でも元は取れる。因みに、十二月の今作に遡る一月公開の「アブノーマル・ペッティング」(1990/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/主演:大沢裕子)なる姉妹の姉作も存在するのだが、内容的には色んなセックスが開陳される点を除けば特段も何も掠りもしない。話を戻すと、話の基本線としては、足場の揺らいだ中年男が彷徨ひ込む、といふかより直截には引き摺り込まれる性の魔宮。一見攻撃的な強面にも見えて、実は磐石の受けの芝居を誇る栗原良(a.k.a.リョウ・ジョージ川崎、更に相原涼二)を絞り取る、もとい迎へ撃つは展開の牽引力に富む栗原早記―それと忘れてはならないのは、キャラクターは薄いが香澄役はプロポーションが理想的に素晴らしい―を筆頭に、処女作祝儀か全員脱ぐ女優陣が通例六割六部増しの豪華五人態勢。尤も、加へて様々なアブノーマル・プレイを繰り広げるに至つては、諸刃の剣といふ評価も否めなくはない。バラエティに富み過ぎた絡みの数々を消化するのに手一杯で、“置き忘れて来た美しいもの”なる如何にも魅力的なエモーションの前髪を提示しておきながら、結局はそれが深化されることはなく濡れ場の海に沈んでしまつた印象は強い。再び尤も、開巻に連なるオーラス、鳴り続ける電話に出ることすら叶はずに、「どうしたらいいんだ」と力なく逡巡するほかはない小熊の情けない姿には、既定の着地点も透けて見える。結局は始終を通過した主人公が、より一層途方に暮れるといふオフ・ビートは、ある意味山邦紀らしい捻くれた結末であるといへるのではなからうか。小熊の動物スケッチが何時しか交尾のものばかりに変つてしまつてゐるのも、さりげない笑ひ処だ。


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 今エントリーは、要は三年前に端を発した泣き言のエクストリーム後日譚に当たる。

 さて、改めてにもほどがあるが“ピンク映画は観ただけ全部感想を書く”ことを唯一のポリシーに掲げ、かうして虚空を撃ち続ける無為を細々と積み重ねて来た当サイトのどうでもいい沿革を、無駄な章立てに従ひマキシマムに簡略に振り返つてみる。旧旗艦館の閉館に伴ひ、「福岡オークラ死闘篇」は平成十八年の五月末に終了。当初から死闘篇と併走してゐた「駅前ロマン地獄篇」に加へ、福博から北九に遠征を仕掛けての「前田有楽旅情篇」が次回で第二百五十次、「小倉名画座急襲篇」も、遅れ馳せながら節目の百次を通過した。ここだけ―何処だけだ―の話、僅か一年強で幕を閉ぢた「天神シネマ新興篇」のことは、今項の下ごしらへをするまで忘れてゐたのは面目ない。個人的な目下旗艦館は八幡の前田有楽劇場であるが、我が無用の人生の中で最も美しい色合で映写する35mm主砲は、小倉名画座のものでもある。ついでに、最大も通り越して最悪の難点であつた音響は、目出度く昨年超改善された。それは兎も角、昨今悩ましいのも越えて正しく致命的なのが、地元駅前ロマンと前田有楽と小倉名画座、三館の小屋を股にかけるとはいひながら、新作数が激減してゐることと新版公開が近い旧作で足踏みしてしまひがちなこともあり、小屋小屋の番組中に、新旧問はず未感想のピンクが兎にも角にも来ないのだ。具体的にいふと先月の九本はまだマシな方で、一月は五本。今月に至つては、驚くなかれ三本しかない。駅前がエクセスと復縁したにしても、それでも三本しかない。吃驚するより先に、俺としては正直泣けて来る。僅かどころの騒ぎですらなく、最早かうなつては仕方がない。ピンクスは、小屋でピンクを観るのがジャスティス。さう固く信じ本来ならば小屋が残存する内は手を出さないつもりではあつたのだが、決断した、

 DMMに突入する。

 月額三千円で見放題のピンク映画chのバナーが、作品に恵まれた明花でさへなく何故北川絵美なのかはよく判らないが、覘いてみると不足もなくはないにせよなかなかに宝の山。五十音順に小川欽也(和久)や小林悟や関根和美や山邦紀等々の未見―未感想も含む―旧作がゴロゴロしてゐるのは十三分にも十四分にも魅力的であるし、勝利一や大門通ら、コンプ間近の名前にケリをつけに行くことも狙へる。さういふ次第で、新章にして恐らくは「真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館」最終章、「DMM荒野篇」の火蓋を切る。DMMで見たものに関しては、小屋で観たものとの差別化を図る為に、冒頭のリンク付きタイトル―今項でいふと“最終章突入のお報せ”―に“何とかかんとか/DMM戦”といつた形で特記を設ける。いいか、受領とピンクスは、転んでもただでは起きないんだぜ。といふか、俺の場合は転びぱなしといふ声も、寝たきりか。


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