「人妻淫らな情欲」(2000/製作:杉の子プロダクション/配給:大蔵映画/脚本・監督・音楽:杉浦昭嘉/撮影:藤原千史/照明:渡部和成/編集:酒井正次/助監督:増田正吾/演出助手:躰中洋蔵/撮影助手:長谷川卓也/製作:安井千穂/録音:東映化学/現像:シネキャビン/スチール:梶原英輔/協力:菊森久美・横川一郎・村田寿郎・西村いずみ・上田啓嗣・愛光株式会社・小林プ ロダ クション・日本映機株式会社・飛鷹スタジオ/出演:杉 裏の助・葉月螢・池谷早苗・桜居加奈・サイコ・鈴木敦子・鍛冶大臓・椎名鵺子・水原美々)。録音が東映化学で現像がシネキャビンなのは、本篇クレジットまま。
カメラマンの猪狩シンジ(杉 裏の助=杉浦昭嘉)は日々の瑣末な仕事を離れ、自分の撮りたい写真を撮る為に山中に入る。立ちションしてゐて妙な気配を感じた猪狩が荷物の下に戻ると、そこには30cm大のチンコの形をした奇妙な青い石像があつた。猪狩がシャッターを七回切るのに合はせて、チンコ石の白黒写真に切り貼りが一枚一文字づつ重ねられるタイトル・イン。写真を見ながらの短い遣り取り挿んで、猪狩と妻・美里(水原)の夜の営み。結婚僅か三年にして、贅沢極まりなくも美里に勃たなくなつた猪狩ではありつつ、その夜は違つた。“何かが自分の中で爆発、物凄いパワーが股間に満ちて来る”のを感じた猪狩は発作的に発情し、以来連夜狂つたやうに燃えた。朝のゴミ捨て場で隣家の主婦・赤木律子(桜居)と顔を合はせた猪狩は雑誌社に顔を出した帰りの電車の車中、隣で眠る鈴木敦子に恐ろしく無造作に電車痴漢を敢行、逃げられる。美里には先に眠られた夜、不意に起動した猪狩は隈取りを自らに施すと、赤木家に侵入、旦那は上手いこと出張中で一人寝の律子を犯す。翌朝、ウッスラ残る前夜の記憶を夢オチで片付けようとした猪狩は、隣に警察が来てゐることに愕然とする。しかもパジャマの胸ポケットからは、律子のさくらんぼ柄のパンティまで出て来てしまつた。河原で黄昏る猪狩は、対岸で素頓狂に踊る狐面の男の幻影を見る。男が面を外すと、中身は隈取られた猪狩であつた。卒業後の進路に関し父親と喧嘩した、美里の妹で女子高生のレイ(池谷)が猪狩家に泊まりに来る。今作限定では桜居加奈(a.k.a.夢乃)をも凌駕し得よう、池谷早苗のファースト・カットの可愛らしさが素晴らしい。再び美里は先に就寝、写真を撮つてあげる流れから、猪狩はレイも犯す。その場に美里に飛び込まれ我に帰つた猪狩は、明確に自身の異変を自覚し神経科を巡るも、医学的な異常は認められなかつた。思ひあぐね、人伝の噂で高名なお坊さん(サイコ=国沢実)を頼ることにした猪狩曰く、「私は藁にも縋る気持ちでその人を訪ねた」。杉浦昭嘉にとつて、国沢実は藁扱ひなのか。
当時賛否は判れずに物議を醸した、今にしてみると結果的に過小評価の元凶とさへなつたのではなからうかと思へなくもない、問題の杉浦昭嘉第三作。猪狩シンジの妻が美里で姪がレイ、ついでにお隣は赤木律子。既に地表に露出した起爆装置に加へ、猪狩の訪問を受けた国沢坊は石像の写真を見るやインスタントに事の真相を開陳する。卑弥呼に封印された二万人斬りを目標に女といふ女を犯しまくつた大魔人オマンゲリオンの怨霊である、妖怪マンゲリに猪狩はとり憑かれてゐるといふのだ。政治と権力を象徴する金印と対を成す、全ての生命の生殖能力を象徴してゐる銀印とやらをサクッと取り出した国沢坊は、妖怪祓ひをするべく銀印の精・アスカ(葉月)を召喚する。召喚されたアスカこと葉月螢が、思ひきり自然落下でフレーム内にボテッと降るではなくあくまで落ちて来るカットの、プリミティブな衝撃は今でもよく覚えてゐる。とかいふ次第で、挙句にオマンゲリオンにアスカと来たもんだ。そもそも何でまたここで持ち出さなくてはならないのかから非感動的に清々しく理解出来ない、エヴァンゲリオンの愚劣なパロディの小癪さに火に油を注ぐ、マンゲリ経由で終にオマンゲリオンへと覚醒した猪狩と国沢坊がてれんこてれんこ激突する、杉浦昭嘉V.S.国沢実の茶番は完膚なきまでに酷い。とはいへ、その片方だけでも万死に値する二つの致命傷をさて措けば―措けるかといふ異論に対しては、無論反論するつもりはない―案外物語自体の作りは満更でもないのではなからうか。魔物に憑依された主人公が、生来の優しさから破滅を免れ得る、といふところまでの平板さは兎も角として、オマンゲリオンから解放されたはいいものの、結局猪狩は元の妻に対して勃起しない役立たずに戻る。そこから「だが、それでいいのか」と再起動、新しい希望・野望・欲望・人生・光を摸索した果てに、“新しい、俺”に辿り着く力強いフィニッシュは決して悪くなく、始終の着地点が、夫婦生活といふ形で濡れ場に無理なく直結する構成はピンク映画として満点。ともいへそれにしても、杉浦昭嘉のイキ顔がラスト・ショットといふのは改めて如何なものかと思へなくはないが。
配役残り鍛冶大臓は、仕事の減少を告げ猪狩を落胆させる編集者。問題が椎名鵺子、それらしき登場人物が本当に全く見当たらないのだが、もしかして、開巻猪狩が立ちションする画面手前を一瞬横切る、青い人影?
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