真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「乱熟秘書 吸ひつく下半身」(1997/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:図書紀芳/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/音楽:OK企画/編集:《有》フィルムクラフト/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:田宮健彦・中野貴大/勢作進行:加藤義一/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーン・サービス/現像:東映化学《株》/スチール:津田一郎/出演:小川美那子・林由美香・新納敏正・萩原賢三・皆川衆・木澤雅博・北沢はじめ)。脚本の水谷一二三は、小川和久(=欽也)の変名。
 開巻即、シャワーを浴びる小川美那子の背中にタイトル・イン、オープニング・クレジットが出演者に差しかゝる際に、小川美那子は振り返り乳も見せる。同じ建設会社に勤める三十六歳の水上芳子(小川)と、八つ下の建築士・山田圭二(新納)との山田の部屋での情事。歳の差には拘らず結婚も辞さない構への山田に対し、芳子は頑強に二の足を踏み続ける。翌朝か勤務先、新社長に就任した大川(萩原)は、念願とのことで芳子を秘書に迎へる。ビル夜景がカウンターの右手に来るのが仮称摩天楼で、背中に来るのがこちらといふ識別法に漸く辿り着いた、スナック「美風」。山田が同僚の山下(木澤)と飲み、荒木太郎と内藤忠司を足して二で割つた感じの皆川衆がマスター。山田は、社内順位を大幅に跳び越す大川の大抜擢を受けてゐた。遅れて美風に到着した芳子は、山下の気配を察すると踵を返し山田の部屋に直行する。大川があくまで紳士的に芳子を口説く―細君の去就は一切語られない―傍ら、大川の娘・朱美(北沢)も山田に興味を抱く。ただでさへ芳子がウジウジと首を縦に振らない中、選りにも選つて社長の横槍がしかも挟撃する形で入つた格好の山田がやきもきさせられる一方で、挙句に出世頭の山田を明確にロック・オンした、塚本やよい(林)までもが飛び込み話は一層ややこしくなる。芳子不在の休日の山田宅を、御丁寧に雨に降られたやよいが急襲。出し抜けに脱ぎ始めるや「うわあ、下着まで濡れちやつた」、「体冷えちやつた、擦つて呉れる?」と雪崩れ込む一戦には、小川欽也の天才を確信せずにはをれない。後にそのことを芳子に指摘された山田の抗弁も、「会つて呉れないから、欲求不満で」だなどといふのは最短距離にもほどがある。
 和久名義の小川欽也1997年全四作中第三作、jmdbを鵜呑みにするとこの年は全て和久作らしい。要は芳子の意固地を全ての元凶に、色事とフリーに直結した恋路が判り易く交錯する、ピンクで綺麗な恋愛映画。絡みを担当するのが萩原賢三までで、その他周囲に配されるのも皆川衆と木澤雅博と、布陣には些かの遜色もない。ラブ・ストーリー自体の骨格がしつかりしてゐる故、濡れ場濡れ場で展開を繋げる話法に無理なりやつゝけぶりを感じさせることもなく、唯一残る疑問を除くと実に安定した裸映画。大体が初登場は林由美香を先んじるにも関らず、終にビリング・トメの北沢はじめが脱がない出し惜しみを差つ引けば。尤もその点に関しては、時機を失した三番手の捻じ込みがドラマの推移を阻害することを回避したともいへようし、如何せん北沢はじめといふ人の素性が全く判らないのだが、そもそもこの人は裸になる前提にはないのか?それ以前に、さうでなくては観客よりも先に大蔵が首を縦には振るまいが。少なくとも素材としては、普通にハキハキした若くて美人である。

 因みに今作のビリング順に小川美那子と林由美香と皆川衆は、翌年木澤雅博の「宿」(公開は2002年/製作・配給:回転ねこ/監督・原作・企画:木澤雅博)に出演してゐる。


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