真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女子大生 朝まで抱いて」(1999/製作:?/配給:大蔵映画/脚本・監督・音楽:杉浦昭嘉/撮影:藤原千史/照明:渡部和成/編集:酒井正次/助監督:増田正吾/撮影助手:岩崎智之/照明助手:藤森玄一郎/制作:秋浜瑞紀/録音:シネキャビン/現像:東映化学/スチール:梶原英輔/協力:村上宣敬・菊森久美・横川一郎・本居佳菜子・渡辺聖子・日本映機株式会社・愛光株式会社・小林プロダクション・道川プロダクション・早稲田大学映画研究会/出演:さとう樹菜子・七月もみじ・葉月螢・サイコ・石井雅也・森内克朗)。
 学内ロケから自動推定で早稲田大学に通ふ真紀(七月)が狭い風呂に入つてゐると、幼馴染で同級生でルームシェアする照菜(さとう)が割り込んで来る。真紀が近隣で頻発する空巣被害の噂話を落とした上で、オッパイ比べだ真紀に出来た彼氏を照菜がやつかむだと仲良く喧嘩しつつ、学内風景に被せて先にクレジット・イン。東京の私大の次第なんぞ外国の風俗並に知る由もないが、早稲田の学生て案外野暮天もとい地味なのか?クレジットを通過、唐突な夜景に被せてタイトル・イン。照菜が家に戻ると、玄関には見慣れぬ男物のブーツが。すは真紀の彼氏が来てるのかと軽くときめいた照菜は身繕ひするも、二人は既に事の真最中。後背位は拒否する真紀のセックスと、アテられた照菜のオナニーとが併走する序盤は鉄板。翌朝、知らぬ間に帰つて来てゐた照菜に覗かれてたかなとポップに驚きながらも、真紀と彼氏・増田(石井)はその日は授業がなく―実は後半この点は覆るが、細かいことは気にするな―未だ眠る照菜を残し、フードを被りアパート共用通路をうろつく黒田(サイコ=国沢実)の存在は不自然に無視した上で学校に行く。ここで見慣れぬ名前の石井雅也とは、何のことはない石川雄也。真紀が無用心に如雨露に放り込んだ鍵を使ひ部屋に侵入した黒田は、起きて来た照菜と衝撃の御対面。国沢実の持ちキャラで感動的に挙動不審な黒田をも、照菜は豪快に真紀の彼氏と誤解。照菜が冒頭風呂場にて自ら投げた、真紀曰くのカッコいい彼氏がカッコよかつた試がないといふ妬み心が、派手な飛躍を埋める方便として一応活きる。よくそれで女同士の友情が終らないものだとも思ふが、伝統的に真紀の彼氏を寝取る悪い手癖のある照菜は、風呂上りに着替へを隠された導入から黒田と寝る。事後、「俺も、なかなかの名演技だねえ、ディカプリオ並だね」、「俺が、アカデミー泥棒だ」と悦に入る国沢実が凶暴にムカつかせる黒田がシャワーを浴びてゐる隙に、照菜は真紀に懺悔する謝罪文を残し姿を消す。風呂上りの黒田が牛乳をパック飲みしてゐると、今度は入れ替りで真紀帰宅。君らは黒ヤギと白ヤギ―それは少し違ふだろ、少しか?―か、黒田を照菜の彼氏と器用に誤認した真紀に対し、黒田は山田を名乗る。
 白衣姿の葉月螢は、増田の先輩女史。「人体に於ける興奮の伝達速度の遺伝性と環境ホルモンの影響について」なる博士論文テーマの御許に増田と致すのは、ルーチンな流れと難じて難じられないこともない。照菜の謝罪文に激怒した真紀からのメールを、葉月センパイに喰はれた後に増田は読み、何故に現在進行形の浮気がバレてゐるのかと誤解が連鎖する展開は、三番手の起用法まで含めて実に見事。こちらは森村克朗と同一人物の森内克朗は、罪の意識に苛まれ頬杖をつきまるで上の空の照菜が、てんで講義を聴いちやゐない―他の学生も聴いてないが―インド哲学専攻の助教授・保田か安田。
 ここから観覚えのある、杉浦昭嘉第二作。照菜の誤解と真紀の誤解が黒田的にはダブルヘッダー込みで正面衝突し、真紀の誤解は更に増田の誤解を生むトリプルクロスは抜群の出来、物語的な面白さとしては、現状全十二作(もう一作の薔薇族は知らん)の中で杉浦昭嘉の最高傑作ではなからうか。勿論俺はファンなので、御当人が御存命である以上何時までも執念深く電撃復活を諦めたりはしない、中村和愛もな。増田には後背位を拒否した真紀が、逆上ついでに黒田には菊穴をも開放するのも、ピンク映画的に地味に秀逸な一手。ところが、そこまではいいものの茫然自失とした照菜を保田が導く形で幕を開くスピリチュアル風味の濡れ場が、終盤に及んで延々十分を喰つてみせるに至つては、折角のリズムを完全に手放してしまつたものと、一旦は早とちりさせられる。ところがところが、長い長い瞑想の果てに照菜が到達する“光の向かうに見えたもの”の抜群の強度には、いい意味でまんまと裏をかゝれた。明らかに平衡を失したものと一見思はせた、絡みの長尺を照菜が潜り抜ける葛藤の深さに直結させる大胆な力技には感服。以降は照菜の回復を鮮やかな突破口に、真紀とバッくれかけた黒田に、増田と照菜も時間差で照菜&真紀宅に揃ふユーモラスな一幕から、黒田が「ィヤッホーイ!」と思ひきり放り投げたパーカーが、フレームから外れたまま降つて来ないマジック乃至はラックが炸裂する爽やかなラストまで一気呵成に一直線。開巻を引つ繰り返した事実上のエピローグが、磐石に映画を締め括る。当時は、当時アイドル的人気を博してゐたさとう樹菜子本位で評されることも多かつたやうにうろ覚えるもので、なほかつ個人的にはさとう樹菜子にピンと来なかつた故、正直今作の印象は薄かつた。とはいへ改めて見てみると、予想外の完成度の高さに驚かされた。今からでも決して遅くはない、杉浦昭嘉ルネッサンスの呼び水にならぬものかと期待したい青春ピンクの名作。銀幕の中に知る中で、最も活き活きとした国沢実の姿も拝める。


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