真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ホテトル譲 悦楽とろけ乳」(2012/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『夕凪のスカイツリー』/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:北川帯寛・松井理子/撮影助手:海津真也・矢澤直子/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/劇中写真:大蔵俊介/協力:ステージ・ドアー、ASAKUSA FOTOBO、松下来吉、周磨要、仲根大/出演:周防ゆきこ・伊沢涼子・日高ゆりあ・三貝豪・世志男・野村貴浩・竹本泰志・近藤善揮・久保田泰也・池島ゆたか)。
 要は物件的には参加型写真ギャラリーとかいふ「ASAKUSA FOTOBO」の、壁に写真が掲示されるほかダダッ広い割に家具も殆ど見当たらず、部屋の中でも土足の生活感を欠いた一室。昼下がりに目覚めたホテトル嬢の凪(周防)がぼちぼち出勤、浅草からだと東の空にスカイツリーを見やつてタイトル・イン。
 無害でポップな変態客・田中(世志男)との愉快な仕事をこなした凪は、残念ながら九月の二十五日に閉館した―今作封切りは七月中旬―伝説的な構造を誇るピンク映画専門館「浅草世界館」の入る浅草新劇会館の表で、一眼レフを抱へ行き倒れるかのやうに眠る三貝豪を拾ふ。逆の形ならばまだしも、藪から棒に凪が男をしかも一人で自宅に連れ帰る、こゝの超飛躍はそれをいつては始まらないのでさて措くと、意識を取り戻した三貝豪はマキと名乗り、歳は凪の一つ下の二十二であつた。一方、凪の先輩ホテトル嬢・りょう(伊沢)と、常連客で富山の旅館の次男坊・加賀(竹本)の一戦。甚だ申し訳ないが、伊沢涼子はもう少しでなく体を絞らないとそこかしこ厳しいぞ。実は十八にもなりそろそろ施設を追ひ出される子持ちのりょうに、加賀は求婚する。凪宅に転がり込んだ格好のマキが出歩いてテレッテレ写真を撮つてゐると、地元・北海道の同級生で東大生の及川(久保田)と再会する。北大に通ふマキが仕出かした不倫騒動は、仲間内のSNSを騒がせてゐた。
 配役残り近藤善揮は、何故かオカマキャラのFOTOBO大家。野村貴浩は凪の客で攻撃的に横柄な井上。井上とのことと、りょう先輩の寿退職。諸々に揺れる凪を、己の面倒もまゝならない訳だからある意味仕方もないが、無力なマキにはどうすることも出来ない。テヘペロッと邪気もなく通り過ぎて行く日高ゆりあは、さういふ微妙なマキを自身通算五十八人目に喰ふみなみ。伊沢涼子と日高ゆりあ、投入のタイミング込みで場慣れした二番手・三番手の、ピンク初陣の主演女優を支援する態勢は完璧。そして貫禄の安定感で地味に劇中世界の鍵を握る池島ゆたかが、息子・ヨシヒコを連れ戻しに上京する北海大学教授・村上潤一郎。この人は主人公に北風を吹かす役所(やくどころ)の時の方が、打率が高いやうな気がする。
 スカイツリー推しも浅草推しも共々特に根を張るでもない、池島ゆたか2012年第二作。女と男が一つ屋根の下に暮らすにも関らず、手を出して来ない草食に風俗勤めを自嘲する凪に対し、マキがその件には何も一切答へずに何とはなしの雰囲気で乳繰り合ふ。ところから観てしまつた、小屋に入るタイミングをそもそも間違へてゐたのかも知れないが、ホテトル譲がある日、首からカメラなんぞプラ提げたクリエイティブだかセンシティブと出会ふ。一応イケメンだし、嫌な客にも当たるし、仲のいい先輩は結婚して足を洗ふんだつて。貯金もそこそこ貯まつたことだし、こゝいらで従兄弟とか嘘ついてる管理人さんにも彼氏だときちんとカミングアウトした上で、アタシも資格取つたりなんかして。新しい生活(≧∇≦)、なんて。だ、などと、別の意味で凶暴に表層的なマキと凪のいはゆる自分語り含め、地に足の着かない主役二人の佇まひに素直に連動して幼く心許ない寝言じみた物語を、池島ゆたかはこの期にどの面提げて確か大人の娯楽である筈のピンク映画で御座いと放り込んでみせるつもりか。と一旦は、確かに可愛らしいのは抜群に可愛らしい、周防ゆきこのグッド・ルッキングにも絆され憤懣やる方ないとまではいはないにせよ、ヤキモキ食傷しつつ観てゐた、ものであつたのだが。中盤久保田泰也に投げさせた伏線を回収する形で、大将自ら出陣の池島ゆたかが浮世離れしたそれまでを頑丈に固定。にしても変り映えのしないヒロインの境遇を、開巻に続き飛び込んで来た世志男が、よしんば便宜的な誤魔化しに過ぎなくとも明るく楽しく救ふ。詰まるところが年端も行かぬほどではない小娘が他愛もない夢を見て、醒めた。たつたそれだけの埒の明かない始終ながら、娯楽映画としての十全な設計が、それでもゴーズ・オンな人生を一旦力強く締め括る。最終的にはお話と演出次第で映画は形になるにしても、初顔の当代AVアイドルがビリングの頭に座る例(ためし)が比較的多いエクセスライクな昨今の風潮に対しては、些か疑問を持たなくもない。とまれ、個人的には単なる貧乏性につき全部観ずに席を立つ豪気は余程腹が立たねば持ち合はせないが、全篇通して観ると納得させられる途中退場厳禁の一作、実に当たり前の結論でしかない。


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