真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「裸女の宅配便」(1990/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:喜久村徳章/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:金子編集室/助監督:石崎雅幸/撮影助手:井本康三・向後光徳/照明助手:佐野洋一郎/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真実・香園寺忍・俵ひとみ・井上真愉見・黒田武士・久須美欽一・工藤正人・吉岡市郎)。脚本の水谷一二三は、小川和久(=欽也)の変名。
 おこたで晩酌する工藤正人、しがないチョンガーに見えた印象は、半分正解。自身も団地暮らしで、後に離婚して二ヶ月であることを嬢に自己紹介する小林(工藤)は、折込の中に紛れ込んでゐたピンクチラシに団地の奥さん目当てで琴線を弾かれる。早速ダイヤル式の電話をかけてみた、小林の希望は二十五歳くらゐの人妻。同様の遣り取りを繰り返すところをみるに何処からのものなのか実はよく判らない、折り返しを小林が受けたところでタイトル・イン。三人のコールガールが同じ車に乗り合はせて移動、クレジットに連動して人妻の信子(小川)、OLのユリ(香園寺)、女子大生のマリ(俵)の順に抜かれる。ところでマリは石川恵美のアテレコにしか聞こえないが、あるいは杉原みさおと持田さつきと同じ関係、即ち画期的に声のよく似た二人であるのかも。車を回す山田(黒田)の指示で、マリは何処ぞのホテルの302号室で待つ小山(久須美)の所に。ユリは鈴木カズオ(吉岡)宅の一軒家、そして信子がE-14号棟308―凄え巨大団地だ―の小林の下へとそれぞれ出撃する。
 和久名義の小川欽也1990年全十一作中第二作、薔薇族含むと十二の三。jmdbも、それに引き摺られたのかDMMも共にタイトルを「裸女の宅急便」としてゐるものの、正しくは宅配便である。小林との挨拶がてら、信子は売春を始めた経緯を振り返る。出張ばかりの夫が月に一週間しか家に居ず、信子は欲求不満を持て余してゐた。女性週刊誌に触発されての自慰を一通り見せた上で、友人で週刊誌記者のエツコ(井上)が遊びに来る。エツコは信子を彼氏が始めたバーのアルバイトに誘ひ、山田の店「ナイトスポット」に連れて行く。山田が信子のビールにカプセル錠をバラした薬物を判り易く混入しつつ、マリを指名する電話が店にかゝつて来ると、裸女の宅配便をケロッと白状。さうかうしてゐる内に前後不覚に陥つた信子を二階に上げての巴戦に突入、以来今に至る。といふ回想が、延々十七分弱続く大胆不敵な構成には呆れついでに別の意味で度肝を抜かれたが、驚くのはまだ早い。302号室と小林の部屋と鈴木宅、忘れた頃にナイトスポット。以降も物語らしい物語が終ぞ起動すらすることなく、四箇所を行つたり来たりしながらひたすらに濡れ場濡れ場を連ね倒した挙句に、心がこもらなければ中身もない吉岡市郎のナレーションに乗せ各絡みのハイライトを更に適当に並べて終りといふある意味清々しさには、いつそ勘違ひして感心してしまへた方が寧ろ気が楽なのかも知れない。女の裸のみである以上、正真正銘の裸映画・オブ・裸映画とでもしか評しやうのない一作。ただそんな今作を紙一重救ふのが、これまで気付かされたことはなかつた吉岡市郎の芳醇さ。そこかしこで細かく織り込む小さなアクションの地味な味はひ深さと、鈴木が捌け際すつかり意気投合したユリに「これ持つてきなさい、好きな物買ひなさい」と、財布ごと―通常料金外の―金を渡すカットの男ぶりとは何気に光る。事後手料理を振舞ふ場面なども微笑ましく、鈴木パートはそれでも劇映画を見てゐる満足感を微かに残す。

 新田栄の「セミドキュメント 離婚妻の性」(昭和61)を見た時にも引つかゝつた点で一つ気になるのが、昨今我々が知る姿より確実に少なく見える久須美欽一の髪の量。・・・これもしかして、俺は消されるのか?


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