真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「井上あんりのザ・裏モデル」(昭和63/製作:㈱ビデオマガジン/提供:にっかつ/監督:神魔神/脚本:神魔神・石神井公延/原案:佐竹一男/企画:角田豊/プロデューサー:佐竹一男/撮影:米田実/照明:渡辺稔/技術:杉本隆史/録音:川西明泰/音楽:湯河原熱海/整音:今関幸一/助監督:松田行二/制作担当:西村裕之/演出助手:久保秀俊/撮影助手:田口晴久/照明助手:高山清/録音助手:古茂田耕吉/メイク:HABIT'S 仲本マミ/スタイリスト:HABIT'S 藤原慎二/スチール:部原文良/制作進行:加藤喜隆/現像所:IMAGICA/録音所:三友VTC/衣裳:HABIT'S/車輌:冨士プロ/出演:井上あんり・小川寿梨・浅井夏己・緑ヶ丘太郎・古都俊一・ロッキー伊藤・古田信幸・江崎幸一)。出演者中浅井夏己が、ポスターでは浅井夏巳。ポスターにのみ、田中純一とかいふニュートラルな名前が並ぶ。こゝからが、やゝこしい。共同脚本の石神井公延がポスターには上石神井公延の上、そもそも文字列の見るからな胡散臭さを隠さうともしない、神魔神と石神井公延がそれぞれガイラと佐竹一男の、ついででもしくは陰に隠れて、音楽の湯河原熱海も西田幸士郎の変名。
 案外満更でもない、といふと語弊も否み難いものの、もつと壮絶な代物に目を覆つた覚えも多いキネコはあくまでキネコ画質。よりも、寧ろクッソ適当な安シンセ劇伴が火に油を注いで酷い開巻に、五秒で絶望する。早いな!といふか、所詮脊髄で折り返して、匙を投げるに足る破壊力。泡沫モデル・山崎未来(井上)の撮影風景、都合三人見切れるカメラマンとアシにスタイリストは、もしかしなくとも実スタッフか。何やかや金に窮してゐる風情を投げ、未来は愛人の大山と会ふ。こゝで、潔く早々に白旗を揚げてしまふが確かに田中純一分ゐないと、絡みをこなす棹数もとい頭数が揃はない男衆に基本手も足も出ず。当代の、アダルトビデオ黎明期男優部に関する造詣に深ければ、あるいは太刀打ち出来もしたのであらうか。兎も角、未来は同じ事務所に所属するモデル仲間の田村江理子(小川)と沢井亜也(浅井)の三人で、個々に契約を結んだ男を、各々の本業と逢瀬が被つた際には互ひにカバーし合ふ愛人バンク的な稼業を始める。即ち、それが劇中用語の形で明示される訳では必ずしもない、“裏モデル”といふ寸法。因、みに。英里子の方のえりりんが、「ロコモーション・ドリーム」でデビューするのは翌平成元年。昭和に滑り込む仕事も若干あるにせよ、正月映画の本作が恐らく偶さか先んじてゐよう。
 ほぼ特定不能ともいへ、一応配役を整理。三本柱全員と寝てもゐる、事務所の社長・山中に、裏モデルで江理子と亜也が捕まへるパトロン計三名。そのうち、元々は江理子の担当であつたのが、ヘルプで入つた未来に心を移す男の固有名詞は岡か丘。終盤未来が受ける、実際そんなものなのか、矢鱈殺風景か安普請な水着オーディションの審査委員長が佐竹一男。佐竹一男が、ミリオンを皮切りに全五作プロデュースしてゐるといふのは寡聞にして知らなかつた。今作の十ヶ月後、五本目となる「悶絶!!処女の泉」は何と内藤忠司の第一回監督作。しかも、最初期のエクセス作。もしも仮に万が一、素材が残つてゐるのならエク動に飛び込んで来ないかな。話を戻して、審査員がもう三人ゐる中から未来が寝る、何某か山中と繋がりのあるらしき男は古田信幸。要はこの人、かつては生身俳優部もやつてゐた格好なのね。
 後年エロVシネがなくはない、小水一男の量産型裸映画最終作は、ヤケクソじみた変名も用ゐてのロマンX。とこ、ろで。処女美女のはらわた二部作(昭和61)や、前作「拷問貴婦人」(昭和62)をロマンXとする記述に所々で出くはすが、何れも正しくない。今でいふゴアなりスラッシュに中身が振れてゐるだけで、三作全て正規のロマポである、エックスは公式ブートかよ。
 体よくヤリ倒されてばかりの未来が、半ば以上だか以下に自業自得で大魚を釣り逃がし、つつ。牡丹餅の如く棚から舞ひ降りた、白馬のパパさんの手によつて木に竹を接ぐハッピー・エンドに辿り着く。デウス・エクス・マキナぶりが爆裂する、臆面もないドラマツルギーは清々しさへとグルッと一周しかねない他愛なさ。兎にも角にもひたすらに、ただひたすらに。闇雲に高い女の裸濃度以外、殊更特筆すべき点も見当たらない。高いのは高いが、訴求するとも別にいつてゐない。平素ピンクしか知らない目で触れるに、本番撮影といふ奴は男優の射精を最終的にはコントロールし得ない不可能性が、神々しい編集テクニックで上手いこと繋ぎでもしない限り、演出上根本的な困難だよなあ。だ、などと、この期に及んで大概原初的な感慨に耽つてみたり。全篇を通して繰り返し繰り出す手数を窺ふに、幾許か企図があると思しき、次の濡れ場がフライング気味に割り込んで来る。直截にいふと面喰ふほかない唐突なカッティングに如何なる意味があるのか―あるいは特にないのか―に関しては、甚だ即物的な当サイトの節穴には皆目見当すらつかない反面、大川を失ひ痛飲した未来が、山中に回収を乞ふ件。自販機の前にへたり込み、「みんな大嫌ひー」とかある意味ポップに管を巻く井上あんりと、軽く途方に暮れ立ち尽くす山中役の人を捉へたロングは情けない画調に屈するでなく、確実に映画の画として成立するショットを藪から棒に撃ち抜く。

 当時、井上あんりが通信ながら紛れもなく慶大生は慶大生で、ポスターに於いても“慶大生・あんりの赤裸々な性体験!”とその旨堂々と謳つてのける。痛快といへば痛快だが、慶応義塾的には面白くないにさうゐなく、二年後の90年に単位不足で除籍処分を喰らつた井上あんりは、更にその六年後、非業の転落死を遂げてゐる。
 機械仕掛けの備忘録< 文字通り手を差し伸べて来た、影に沈められた謎氏と未来は紐育へ、鈴木ハルか


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