真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「秘蔵尼寺 後家の乱れ腰」(2003『尼寺の後家 夜這ひ床枕』の2011年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:小川満/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:石井拓也/効果:中村半次郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:武藤さき・小川真実・ゆき・なかみつせいじ・樹かず・丘尚輝・前田恵一)。
 新田栄の尼寺映画と来れば、大成山御馴染み愛徳院、では今回はなく満光寺。何れにせよフザけた名前であるといふか、満光寺は東京以西のそこかしこに思ひのほか散在してゐるファクトに、戯れに調べてみたところ驚かされた。話を戻して、当然大絶賛男子禁制である筈のしかも深夜の満光寺に、なかみつせいじが忍び込んだタイミングでタイトル・イン。庵主・妙心(武藤)が就寝する寝床に、寺にも出入りを許された大工の雫石源太(なかみつ)が夜這ひを敢行する。エクセスの惨劇を幸にも回避した主演女優に安堵しつつ、出家前は元々後家であつたといふ妙心は、さしたる抵抗を見せるでなく、源太の急襲に普通に喜悦する。棹の根も乾かぬ翌日、満光寺を源太の妻・弓子(ゆき)が訪ねる。亭主の女癖の悪さを相談に訪れた弓子に、妙心が壊滅的にバツの悪い―受け容れた以上、自業自得といふほかない―心持ちにさせられる一方、満光寺のある山間の田舎町に、旅僧の照輝(丘)が現れる。照輝は快く喜捨に応じた主婦・松下恵(小川)の後を尾けると、敵が坊主だといふので油断したか、亭主は出稼ぎ中につき不在といふ松下家にまんまと上がり込む。劇中、山の季節が冬には特に見えないのだけれど。兎も角軽く遣り取りを交したのち、カット変るやいきなりいゝ感じに酔つ払つた照輝がガンガン裸踊りをカマしてゐたりなんかする底の抜けた破壊力は、流石新田栄である、とでもしか最早いひやうがない。恵宅をサクッと通過後今度は妙心と接触した照輝は、弓子の悩みを解決すべくサラサラッと御札を認(したた)める。効力を発生させるには、札を弓子のいはゆる観音様に貼るべしだなどといふのも、岡輝男は岡輝男で流石だ。因みに岡輝男は丘尚輝として照輝を演ずるに当たり、実際に頭髪を本当にツルッツルに剃り上げてみせた点は天晴である。
 その他配役登場順に前田恵一は、多分職業大工の源太弟分・中村典良。源太と中村が同夜に、それぞれ別個に満光寺に夜這ひを仕掛ける件に際しては、映画的に適宜な暗闇の中、互ひにさうとは知らぬまゝ二人が交錯を繰り返す、ドリフのコントばりのシークエンスを結構尺も費やし披露する。妙心には先に中村が辿り着き、筆卸を済ませる。樹かずは、妙心こと俗名は妙子の、出家前の不倫相手・野島光夫。尼だ後家だ挙句に不倫だと、箍の外れた属性の過積載ではある。
 エクセスライクな容姿で開巻早々映画に止めを刺すことはとりあへずないとはいへ、武藤さきが一本の劇映画を背負はせるヒロインには、お芝居にせよ存在感にしても素直に心許ない。小川真実はへべれけな濡れ場をそれでもベテランの地力で支へ抜く、頑丈な実質三番手の座に従順に納まり、物語の本筋にそれなりに絡みこそすれ、ex.横浜ゆきのゆきも、ビリングを華麗に飛び越えるほどの決定力ないしは突進力は感じさせず。女優三本柱が何れも最終的には機能しない中で、豪快な生臭ながら意外と霊力の高さも併せ持つ照輝こと岡輝男が、後半の主導権を地味に握つてみせる展開が興味深い。劇中既に二度もの夜這ひに見舞はれる愉快な尼寺を舞台に、予想される野島来襲を前に、妙心は照輝に弓子に渡したものとは逆ver.の御札を乞ふ。ところが後に呪文を間違へてゐた粗相に気づいた照輝が残す、「矢張り人の愛には勝てん、儂の負けぢや」なる適当な捨て台詞に続く、妙心と中島との一戦を下手に美しいピアノの旋律で締め括る終幕は、適当極まりない物語を案外実直に纏め上げてみせた、裸映画として実は磐石の強度を誇る。決してセンターに躍り出て来る訳ではあるまいしそれで別に構はないが、量産型娯楽映画が膨大な塵を積もらせた大山の周縁を、それなりにさりげなく飾らう燻し銀の一作、些かならず褒め過ぎたかも。


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