真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「出会ひ系不倫 堕ちた人妻たち」(2004/製作:杉の子プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/撮影:前井一作/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/監督助手:広瀬寛巳/応援:横井有紀/出演:里見瑤子・渡辺弓恵・松葉まどか・岡田智宏・柳東史・小林達夫・井上淳一)。どうもポスターに見慣れない名前があると思ふと、撮影・照明が“前田”一作に、誰だよ前田。撮影・照明助手に力尽きる。
  “ペコちやん”といふハンドルで出会ひ系サイトに身を投じた山下和美(里見)は、初陣として上田正彦(柳)と会ふ。緊張気味の和美に対し如何にも手慣れた風情の上田は、ペコちやんに出会ひ系を始めた理由を尋ねる。二日前、結婚四年目の夫・直樹(岡田)が現金支給の給料を持つて帰つて来た。御褒美といふ訳でもなからうがおつ始めた夫婦生活は、いざ挿入といふ段ともなると直樹が萎えてしまひ、仕方なく和美は淫具で自らを慰める。翌朝、燃えるゴミの日であることに慌てた和美がゴミと一緒に給料袋を捨ててしまつた為、大粗相を直樹には内緒で穴埋めるべく、出会ひ系サイトを通して援助交際といふ名の売春を始めたといふのだ。一ヵ月後、順調に和美が金を得る中、一方直樹は同級生か何かか、実は旧知であつた上田と再会する。旧交を温め酒を酌み交はした席で、直樹は上田から出会ひ系で寝た女達を自慢する写メを見せられる。写メの一人目は風間今日子、二人目は誰だか判らないがミチコ。そして三人目にペコちやんと称した妻が出て来た直樹は、静かに顔色を変へる。そんなこととは露知らぬ上田とのツー・ショットは、スマートに出来てゐる。抽斗は少なく天真爛漫な岡田智宏にしては、画期的な名演技か。面と向かつて和美を問ひ詰められない情けない直樹は、“ジョニー”として自らも出会ひ系の敷居を跨ぎ、ペコちやんに接触を図る。出会ひ系を始めた妻の相談を素知らぬふりして持ちかけるジョニーに対し、ペコちやんは夫との生活に精神的な不満はないとはいへ、女としての充足を求めもしたと偽りも憚りもない真情を吐露する。
 電脳空間に於ける射精産業を通しての夫婦の片務的な直面は、大袈裟な不出来こそない反面、不甲斐ない直樹の姿を反映し、何某かの真実、乃至はエモーションに辿り着き得る体力には欠く。その中で、枝葉中の枝葉ながら小気味いい飛び道具が井上淳一。戯れに自らも出会ひ系を利用してみることにしたジョニーこと直樹が、踏んでしまふ女装子・イザベルこと本名横浜正児、実に男らしい名前だ。綺麗な女装子ぶり―それは綺麗なのか汚いのかはさて措かれたし―を披露し、直樹が「ゴメンナサイ!」と逃げ出す件はストレートに笑かせる。イザベルに関しては、二度目の登場が更に秀逸。夫婦公認で出会ひ系に勤しむ上田の妻・良江(渡辺)と直樹とが待ち合はせるカットの画面一番奥に見切れ、そのひとつ手前にはイザベルと待ち合はせ、てしまつたハリソンこと広瀬寛巳。ここの超絶なキャスティングには、感服するほかない。
 調子に乗り過ぎ竹箆返しを喰らつたのか、和美は出会ひ系で引つかゝつた、二人組みの男に犯される。一人目の赤いジャンパーの男は不明だが―おとなしく小川隆史辺りか?―合流する黒いジャンパーの男は、杉浦昭嘉。身包みも剥がされた和美はジョニーに助けを求め、夫婦は妻の側からは一方的に驚きの再会を果たす。矢張り問題なのは、ここからのケリのつけ具合。書いてしまふが直樹は以前と同様和美との結婚生活を継続はしたいものの、さりとて―セックス―レスの状態が解消出来さうにはない。なので妻に対してルールを設けた上で、今後とも出会ひ系を続けても構はないなどといふのは一体全体何事か。それは理解があるだの優しいだのといつた世界ではなく、ただ単に意気地がないに過ぎまい。昨今いふところの“草食系男子”を先取りしてゐるとでもいへば聞こえもいいのかも知れないが、斯様な有様では物語が凡そ求心力を持ち得ず、一歩手前までは定石通り広げられた風呂敷も、まるで畳まらない。

 夫の吝嗇を嘆く割には服装が華美な松葉まどかは、和美が寝た斎藤ヤスオ(全く登場せず)の妻・真紀子。夫の尾行がてら「斎藤の妻ですが」と和美宅に突入する、これは恐ろしいシークエンスだ。その癖、何だかんだの末に自らも出会ひ系参戦を決意し、妙に意気投合した和美と共に西村達彦(小林)との巴戦に赴く辺りは、如何にもピンクピンクした展開ではある。
 ところで最後に。根本的に疑問を感じたのは、出会ひ系サイトを介しつつも互ひの携帯を通してのペコちやんとジョニーとの遣り取りは、ペコちやん即ち和美はメルアドで、ジョニーが直樹であることに気付かないものか。私は携帯を一貫して持たない人間なので多少覚束ないが、配偶者ともなるとアドレスは、普通その人と登録してゐるのでは?それとも、その際直樹は業端を使用してゐた、とでもいふことなのであらうか。


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