真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「和服義母 通夜に息子と」(1998『喪服義母 息子であへぐ』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:竹洞哲也/メイク:桜春美/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:大橋陽一郎/効果:中村半次郎/出演:橘美希・林由美香・麻生みゅう・中川大輔・杉本まこと・久須美欽一)。
 宮沢りえの邪神フィギュアのやうなエクセス主演女優が、田中家の墓を参る。田中さんとは実際にはどちら様なのか、もしやロケ“墓”地で適当に目星をつけただけの、全然関係ない家の墓ではあるまいな。七回忌を迎へた亡夫に対し、モッコスな宮沢りえが不義を詫びた流れで、正に六年前夫が死亡した当日の、義理の息子との一戦が挿入される。今は元姓柿島の当時田中悦子(橘)が、高校生の義息・健児(中川)と禁忌を犯す。幾分若く未だ肥えてゐない中川大輔は、パッと見にはいよいよ兵頭未来洋に見える。デビューは中川大輔の方が先なので、正確には兵頭未来洋が中川大輔に似てゐるといふべきなのかも知れないが。話を戻して、乳は一応豊かであると同時に、腹回りも見事にではなくダブつかせる悦子が、達するのに合はせてひとまづ順当極まりなくタイトル・イン。今作の顕著な特徴として、関根和美のやうにその境目がへべれけとなつてしまふことは、新田栄の実は意外に実直な地力を以てして必ずしもないものの、劇中現在時制よりも、度々度々本当に度々おまけに延々差し込まれる、最終的には十数年前にまで遡る回想ないしは過去パートの方が、圧倒的に長く尺を支配する。
 で、あるので、本篇の順番は華麗に前後しながら整理すると、会社社長の夫・友孝(杉本)は、商用で海外渡航中の不在につき悦子が一人で守る屋敷に、軽く不良風の高校生で、この時は酒井姓である筈の健児が現れる。友孝の息子である旨を告げ、文字通り藪から棒に田中家に厄介になることを言明し家に上がり込む健児に、当然困惑した悦子が連絡を取つてみたところ、仔細の説明は省いたままに、友孝は現にその通りであるので面倒を見ることを、案外気軽に求める。ここで麻生みゅうは、これ見よがしな健児が、悦子の目を憚るでもなく早速連れ込むカノジョ・水沢容子。友孝には元々、酒井美紀(若干オーバーウェイトの林由美香)といふ恋人が居た。ところが美紀は、友孝にとつても友人であると思しき山口(全く登場せず)と結婚する。ショックを受けた友孝は、それ以外には一切語られずその後別れた理由も不明な前妻と結婚した矢先に、山口は急死する。忙しい世間だ。葬儀に駆けつけた友孝は、美紀と再会。今度はここで丘尚輝が当日の段取りを取り仕切る、口調から多分葬儀社の人間で見切れる。山口との短い結婚生活に幸福な思ひ出のなかつた美紀は、衝動的に出棺までの間隙を突きラブホに突入、友孝と関係を持つ。電話越しの声は兎も角、キャメラの前での芝居はこの件にしか出演しない杉本まこと(現:なかみつせいじ)は、幸か不幸か橘美希との絡みは回避する。健児は、要はその時に出来た子供で、程なく山口家からは籍を抜き女手ひとつで息子を育てた美紀の死去に際して、父親を頼つて来たものであるといふのだ。改めて後述するが、徒にややこしい家族設定のお話ではある。そんな折、結局成長した息子と顔を合はせることもなく、健児来訪後程なく、友孝は出先でテロ事件に巻き込まれ客死する。事前に最低限それなりの助走も噛ませた上で、衝撃がてら悦子と健児は終に一線を越える。と、今度はそこに憎々しい貫禄が堪らない、特に何するでもなく、弟の会社の稼ぎで遊んで暮らす放蕩兄貴・邦之(久須美)が登場。邦之は会社を健児に継がせると、悦子には端金の手切れ金を押しつけチャッチャと田中家から追ひ出す。そんなこんなで漸く開巻に立ち戻り、友孝の墓を参つた健児は、直前の参拝者の存在に気付く。コソッと参りコソッと捌けるつもりの悦子は追ひ駆けて来た健児と、六年ぶりの再会を果たす。
 ラストに至つて不完全無欠の唐突ぶりを爆裂させつつ開陳される、夫を裏切つた妻と、義母を寝取つた息子との木に竹すら接ぎ損なふ贖罪のメロドラマは、主演女優のエクセスライクな容姿と、ひたすらに、しかも主には過去の濡れ場で埋め尽くすばかりで一向に深化の気配さへ見せない作劇の前に、綺麗に形になり損ねる。兎にも角にも、無闇に複雑な田中家の家族構成を説明するまでに、全体の凡そ3/4を費やしてしまふ頓珍漢なペース配分が、清々しいまでに致命的だ。さうなると残される僅かな見所といふか、直截にはツッコミ処といふ意に於いての捉へ所は、岡輝男(=丘尚輝)がそこかしこで繰り出す珍台詞の数々。最も最早鮮やかなのは、義母と関係を持つた事後、さうなることを望んでゐたといふ健児は、「オヤジが死ねばいいつて」と口を滑らせる。すると悦子はそれを途中で遮るでもなく、「駄目、それ以上いはないで」。以下はあつてもそれ以上はあるか、全部いふてしまふとるがな(´・ω・`)
 美紀も美紀で、山口家からとりあへず走らせた友孝の車の助手席から、出し抜けに明後日に突つ込む、「抱いて!あの人が灰になつてしまふ前に」。意味が判らんと頭を抱へかけたが、どうやらこれは、山口との不幸な日々に対する、復讐の意味合を込めたものであるとのこと。いやしくも男子たるもの、それは林由実香の据膳であれば喰はぬ者は居るまいが、それにしても、地雷の火薬臭のプンプンする思考回路ではある。一方友之は友之で、健児がコッソリ再び田中家の敷居を跨がせた悦子を手篭めにすると、「成程、これが父と息子を誑かしたオメコか」、「大したビラビラだ」。底の抜けたいい加減な科白でしかないとはいへ、それでもそれをそれはそれとして頑丈に撃ち抜き得る、久須美欽一の定着力は侮れぬと称へておきたい。オーラス、手と手を取り自由な未来を求めて逃げる悦子と健児の足は地に着きはしないが、その姿を俯瞰で目撃した友之が間抜けに地団太を踏むショットは、シークエンスを連ねる手続き上、実は極めて実直な一手間といへるのではないか。


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