真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 グッショリ濡らして」(昭和63/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/音楽:二野呂太/編集:酒井正次/監督助手:橋口卓明・瀬々敬久/撮影助手:片山浩・冴島敏/照明助手:馬田里庵/スチール:津田一郎/録音:東音スタジオ/現像:東映化学/出演:黒沢ひとみ・結城麻美・徳大寺笙子・橋本杏子・池島ゆたか・香川耕二・新井賢二・ジミー土田)。企画の伊能竜は向井寛の、脚本の周知安は片岡修二の変名。一応律儀にツッコンでおくと、ニーノ・ロータかよ、バタリアンもな(´・ω・`)
 時代はレンタルを豪語する、今風にいへば人材派遣会社とも矢張りいへない―いへねえのかよ―人間レンタル会社「ハッピーレンタル」社長(池島)は、ボディーガードを希望する黒崎悦子(黒沢)からの注文に、どうやら本業はサラリーマンで、レンタル要員はアルバイトらしき香川耕二(以下香川)を向かはせる。悦子と混雑する電車に乗り込んだ香川は、もつと密着して下さいだの、直接ガードして下さいだのと、底の抜けた求めに応じるまゝにミイラ取りがミイラにならぬ、痴漢ガードが痴漢させられる羽目に。すつかり気に入られた悦子から、就寝時の警護にも呼ばれた香川は、友人氏(新井)を自慢がてら連れて行く。固唾を呑んだ新井が庭から覗く中、明確な据膳の気配に香川は小躍りを隠せない一夜。ひとまづ香川は床で眠ることにした上でいよいよお休みなさいといふ段に、今作中最高の娯楽映画としての洗練が、さりげなく煌く。庭で新井が思はず漏らしてしまつたクシャミを、悦子は香川が寒いものと勘違ひしてシングル・ベッドに招くといふ段取りは、何気なくも実にスマートだ。逆からいふと、そのカットが頂点といふのは、一本の劇映画にしては如何なものなのよといふ話にもなるのだが。筆を滑らせるが以降は、結局事の最中に、今度こそ新井の存在に気づいた悦子が、騒ぎ始めハッピーレンタルとの契約も破棄。池島ゆたかからバイト料を貰へずに香川が吠え面をかく反面、悦子に見初められた新井が、棚から転がつて来た牡丹餅を頂くといふのが一幕目のフィニッシュ。
 二幕目、ロマンチックな恋人役でレンタルされた女(徳大寺)は、客の男(ジミー土田)ととりあへず電車に乗る。最終的にはジミー宅にまで乗り込むものの、自身はヤル気まんまんであるにも関らず、まるで乗つて来ないジミ土に業を煮やした笙子は仕事を終へた帰宅後、ムシャクシャが納まらず「レンタルヘラクレス」から男を呼ぶ。要するに、今作に登場するレンタル会社といふのは、単なる出張風俗に過ぎないのではなからうかといふ最短距離の疑問は、この際通り過ぎる方向で。
 三幕目、池島社長は妻・アキコ(橋本)の目を憚りつつ、部下兼不倫相手の倫子(結城)との情事を楽しむ。
 一応何れも意外な結末に落とし込み、且つ痴漢電車も絡める共通項で括られた三幕芝居。結末自体は他愛ない黒沢ひとみ篇から、コント風味な、といふかコントそのものの明後日な破壊力を振り抜く徳大寺笙子篇。朝の食卓での会話に際して、池島ゆたかが不用意に火遊びを自白したのかと一旦錯覚させておいて、更に予想外のサプライズが飛び込んで来る結城麻美&橋本杏子篇と、徐々に落とし処の強度が増して行く構成は意外と秀逸であつたやうにも思へるが、全般的な出来栄えがあまりにもよくいへば穏やかで、それゆゑ全体的な、求心力が発生し難い面は少々苦しい。女優陣に関しても、首から下は正直小粒ながら結構正統派の美人である徳大寺笙子と、圧倒的な安定感を誇る橋本杏子は殆ど二回り後の現在に於いても十二分に戦へようが、曲がつた首から上に未完成感が色濃い黒沢ひとみと、清々しく華に欠く結城麻美に関しては、些かならず時代の波を超え辛い。橋本杏子に最大の大技をサラリと決めさせたところで、チャッチャと映画を畳んでみせれば余韻のひとつも残せたのかも知れないものを、そこから無理矢理噛ませたしかもプレイ内容的には中途半端な電車痴漢で妙に費やす尺は、冗長といふ誹りも免れ得まい。レンタル社会といふ軸で貫いた各篇に、各々趣向を変へたオチを設けたアイデアまでは悪くなかつたが、以降そこかしこの詰めの甘さに大魚を釣り逃がした、非常に惜しい一作である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 妻のいとこ ... 深窓の令嬢 ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。