真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「喪失《妹》告白 恥ぢらひの震へ」(2010/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督・脚本:吉行由実/撮影:下元哲/編集:鵜飼邦彦/録音:シネキャビン/助監督:江尻大/監督助手:加藤学/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:榎本靖/スチール:津田一郎/音響効果:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/協力:羽賀香織、マイケル・アーノルド/出演:延山未来・真咲南朋・吉行由実・高木高一郎・井尻鯛・千葉尚之・樹カズ)。
 六年前の高校時代に両親を亡くし、現在は実家―の津田スタ―に一人住まひのOL・未来(延山)は、ベランダで英会話の学習用テープを聴いてゐたところ“virgin”といふ単語に一々律儀に催すと、家の中に駆け込み自慰に耽る。まるで、一昔前の中学生のやうなフットワークを感じさせる未来は、未だ処女であつた。生前のスナップ写真に見切れる母親は、後の展開と厳密には齟齬も生じさせぬでもない吉行由実。父親役の、隣の壮年の男は不明。未来には会社の先輩兼彼氏の明(千葉)が居たが、いよいよといふ段になるとそこそこまで経過しておきながら、いざ明の男性自身を前にするに未来は泣き出してしまひ、当然当該関係にとつても初めての性行為は未遂に終る。五年前、寝込んだ未来に風邪の塗付薬を優しく塗つて呉れた、互ひに満更でもない兄・慶介(樹)は、露にした妹の胸に―寒いだろ、それ―指を這はすと、やをら一物を取り出す。ところがそこで初めて見る男のモノに衝撃を受けた未来は矢張り泣き出し、その一件を機に慶介は家を出てゐた。そんな折、首から上は抜かれないDV彼氏(井尻)に怪我を負はされた、友人でAV女優の夏子(真咲)が、未来の家に避難して来る。慶介と瓜二つのAV男優と共演した経験があるといふ夏子は、その男優・大高(樹カズの二役)の出演作を未来に見せる。美しい瞳を輝かせた未来は、大高を相手としての処女喪失を決意、夏子に誘(いざな)はれ上京する。菓子を片手にAVに見入る延山未来のショットが、妙な強度でツボにはまる。
 改めて濡れ場もある女優三番手の吉行由実は、監督もこなす大高と喪服プレイを撮影中の、AV女優・あすか。二番手といはいへ真咲南朋との間に、裸については然程の比重の差を感じさせない。大高・あすかと三人でタバコを吸ふシークエンスに登場する高木高一郎は、AVプロデューサー。どうしても、必要な役にも別に思へないが。
 離れ離れの兄と生き写しのAV男優などといふ、頗る豪気なギミックも持ち出しての、妹のロスト・バージン物語。何はともあれ、冴島奈緒へのネグレクトが祟つた前作「アラフォー離婚妻 くはへて失神」(2009)にあつてはガッチガチにぎこちなく見えた延山未来が、前々作主演の上加Amuと同様二度目の現場で勝手も掴んだのか、見違へるやうにキラッキラと、且つ伸びやかに輝く。もしかすると白人の血も混ざつてゐるのか、色白で整つた顔立ちが正しくお人形さんのやうな延山未来が、ニコニコと微笑み、ワクワクと胸を高鳴らせ、ドキドキと恥ぢらふ様は、とりあへず劇映画としての仔細はさて措き、それぞれのカット単体で胸を鷲掴む決定力を有してゐる。といふのも反面、時に可愛く時に綺麗に、即ち延山未来を美しく捉へることに全精力を注ぎ込み過ぎたのか、物語本筋は、案外以上にガラガラである、あるいは以下か。未来がひとまづ大高の下に辿り着くまではいいとして、あすかも参戦させ、カメラさへ回した大高が何故か破瓜を散らしてみせない強大な疑問に関して、カットの変り際に乗じて通り過ぎると一応エクスキューズとして大高と夏子のシャワー・シーンを差し挿むものの、ほぼそのまゝで済ませてのける荒技にも驚かされたが、一見他愛もない夢オチに偽装しながらも、藪から棒に帰宅した慶介と、チャッカリ未来が無事念願叶ひ事を致す唐突なハッピー・エンドに対しては、これで腹が立たないのが不思議ですらある。未来と慶介が実は血は繋がつてゐないといふ秘密に際しても、一体その事実を、未来に教へたのは誰なのかといふ点まで含めて、都合のいい木に竹を接ぎぶりがさりげなく爆裂する。あるいは、よくよく勘繰るならばそれはオーピー・レイティングを回避するための、苦し紛れは承知の上での苦肉の策であつたのか。尤も、さういふ無粋はさて措けといはんばかりに、主演女優の魅力に心奪はれて完結するのも、幸運な映画の幸福のひとつといへよう。率直なところ劇映画としては結構本格的にへべれけでもあるのだが、延山未来をキレイにキレイに、主人公憧れの樹カズをカッコよくカッコよく撮り上げることだけに専念したポートレイト映画だと割り切つてしまへば、却つてそつちの方が戦へなくもない。延山未来の美的なエモーションは我々の腰から下といふよりは、寧ろ胸から上を撃ち抜く種類のものにも思へ、そもそも舵を取るのが吉行由実であるのを踏まへると、異性のみならず同性の心の琴線に触れる効果も十二分に期待出来るのではなからうか。さうなると、昨今大都市圏にて発生してゐなくもない、対女性客用装備としても、有効に機能し得るやも知れぬ一作である。

 井尻鯛(=江尻大)は大高組の撮影現場では、劇中初めて顔を出しての助監督も兼任。偶さか今回気がついたのでこの期に与太を吹くが、ピンク版「サザエさん」―絶対そんなの撮れねえだろ、などといふ潤ひを欠いたツッコミは禁止だ―を製作する場合、カツオくんはメガネを外した井尻鯛で行けると思ふ、フネは小川真実。そこから先は、横道の際限がなくなるゆゑまた改めて考へる。

 以下は再見に際しての付記< 両親の生前スナップ、父親役は下元哲


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