真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「究極尻美人 抜かないで」(1992『裏本番 女尻狂ひ』の2010年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二・植田中/照明:秋山和夫・川添秀芳/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:森山茂雄/制作:鈴木静夫/メイク:小川純子/スチール:岡崎一隆/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:三田沙織・早川よしみ・小泉綾・杉本まこと・芳田正浩・栗原良)。ポスターには名前のある平賀勘一が、驚く勿れ本篇クレジットから抜けてゐる。
 尻のイメージ・ショットとクレジット込みのタイトル・インに続いて、開巻は西条あやめ(三田)と、恋人・藤森亮一(芳田)の事実上婚前交渉。事後、藤森が結婚への段取りを急ぐ一方、既に仕事は退職してゐるにも関らずあやめの腰はどうにも重い。帰宅したあやめの部屋のドアは、借金取りからの手荒い催促の文句で埋め尽くされてゐた。あやめは以前海外旅行のために組んだローンを膨らませ、今や方々から金を借り完全に首が回らない状態にあつたのだ。藤森との結婚の前に、如何に借金を整理すべきかとあやめが悩んでゐると、呼鈴が鳴る。訪れたのはオッカナイ借金取り、ではなく怪し気な平賀勘一。尤も、怪し気でない平賀勘一といふのにも、あまりお目にかゝつた心当たりはないのだが。さて措き多重債務者の救済に取り組んでゐるとかいふ柿本庄司(平賀)は、あやめに―実際には浜野佐知の―自宅にて運営する「世田谷TVデート」でアルバイトをしないかと持ちかける。テレビ電話を通じて会員の男と会話し、相手のリクエストに応じた画像を適宜送ることで時給二万円。要はテレビ電話を使つただけの単なるテレクラではないかと、最短距離で正解に達し臍を曲げるあやめに対し、柿本はあくまで救済であるとの正しく一点張り。何ともいへぬ絶妙な平賀勘一の胡散臭さが味はひ深く機能、底の抜けた遣り取りをも、妙な支配力で定着させる。背に腹は代へられないあやめは、仕方なく柿本の話に乗ることに。尻好きの会員・竹田秀昭(杉本)の洗礼を受けつつひとまづTVデートを続けるあやめは、人妻で同じくTVデート嬢の鳴沢沙也(小泉)が、会員の太田昇(栗原)と“御対面”と称して、柿本宅で会ひセックスしてゐるのに衝撃を受ける。これではテレクラどころか売春ではないかと、全く以てその通りとしかいひやうがなくあやめが騒ぎたてると、柿本は相変らずだから救済だと強弁し、しかも御対面した場合、十万円を支払ふと回答する。どうでもいゝが時給二万円だ十万円だと女にそれだけの額を渡して、一体柿本は客からどれだけ法外な料金を取つてゐるのか。兎も角、新たに連れて来られた女子大生デート嬢・沢木真美子(早川)に竹田も奪はれたあやめに、柿本は重ねて御対面を強要する。そんな折、藤森が会社の同僚から面白いものを借りて来たと、「世田谷TVデート」のテレビ電話機を持つてあやめの部屋に現れる。
 実は今なほ新作が製作され続けてゐる、アリスJAPANの看板タイトル「女尻」シリーズに肖つての旧題であらうが、女優三本柱の訴求力が今ひとつ薄いのもあつてか、いふほど尻々してゐる訳でもない。物語自体も、動きに欠くロケーション同様大きな展開には乏しい。藤森があやめ宅から、へべれけな認証を突破し「世田谷TVデート」にアクセスした件で正直種も明ける、微笑ましいオチによる一点突破は、腰も砕ける間抜けさが堪らない平賀勘一の絶品ショットの力も借りそれなりに形にならなくもないものの、元はといへば、そもそもあやめが自ら蒔いた種ではないか。主人公たるあやめに、自身の不徳を省みる契機が与へられるでないまゝに訪れる、都合のいいハッピー・エンドに関しては幾らメジャー・コードの娯楽映画とはいへ、平衡が保たれない不安定に伴ふ不満も拭ひ難い。浜野佐知らしい強靭な女性主義の雄叫びもとい雌叫びも不発に終り、全般的に粒も小さめの一作ではある。主モチーフとしての、当時的には真新しかつたのかも知れない直截にいへば新機軸風俗も、流石に凡そ二十年後ともなるとこの期には到底鮮度も失してゐよう。ところが、正にその点が全く逆転することもあるのが、今回改めて発見した新版公開の側面的な醍醐味。映画の本筋からは清々しく横道ながら今の感覚で見てみるとある意味画期的なのが、「世田谷TVデート」が提供するサービスの、インフラ上の基幹を担ふテレビ電話。テレビ電話とはいへ静止画で、しかも白黒。SONYのロゴが確認出来るゆゑ、昭和末期に発売された「みえてる」か。堪へきれなくいはずもがなに触れてしまふと、“見える”と“tel”を合はせて“みえてる”、何と鮮やかにポップなネーミングか。固定電話にコードで接続して使用し、送信者側が自分で確認した画像を、受信者側にジワーッと送る。予想外のシンプルさに軽く驚かされたのが、藤森が持参したテレビ電話を、あやめの部屋でセット・アップするシークエンス。手提げ袋の中から取り出した、牛乳パックを二回りばかり大きくしたかのやうな装置を机の上にドーンと置くと、コードをガチャッと電話機に繋いではい、完了。とりあへず機器を固定電話に直接続するといふ光景に、逆の意味での新鮮さを覚えた。当時の電話回線をそのまゝ使用してゐては、それは白黒の静止画像を、ジワーッとしか送れないのも仕方あるまい。仮に現に「みえてる」であるとするならば、画像をオーディオテープにデータとして保存可能といふのも更に凄い。実際の使用には送受信者双方が同じガジェットを有してゐなければならないのだが、ジワーッとした受信カットが劇中見られるのを窺ふに、撮影には最低実機を二台揃へて挑んだのであらうか。


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