真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「抱きたい人妻 こすれる感触」(2012/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:下元哲/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:江尻大/編集助手:鷹野朋子/監督助手:小鷹裕/スチール:津田一郎/選曲:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/出演:羽月希・智弓胡蝶・山口真理・久保田泰也・白石雅彦・サーモン鮭山・柳東史)。
 「田中ロックサービス」―多分―アルバイトの明(久保田)が、後に見切れる編集画面からFC2であるのも看て取れる、自ブログ「夜明け鳥の日記」を昼食がてらチョコチョコ編集する。二十六歳にして童貞×天涯孤独、属性の過積載のきらひも否めなくはない孤独な明が、ブログの形で細々と自らが生きた足跡を残さうとする姿を、田中ロックサービス社員の杉田(白石)は生温かく見守る。ある朝、友人からの急を告げる電話を寝起きの明はてんで満足に聞いちやゐないところに、明の高校の同級生で不良の先輩と結婚した麻衣(羽月)が、当のヤバイ筋に借金を抱へ逃亡中の夫・前田和也(柳)と転がり込む。平身低頭の麻衣に対し、黒い柳東史が好演する何処から見ても堅気には見えない和也は、有無をいはせず明宅に居据わる旨言明する。明に意気地がなく成就はしなかつたものの、高校時代、明と麻衣はイイ仲になりかけたこともあつた。和也が積極的に憚らない夫婦生活と、関根和美をも凌駕する臆面のなさで明が度々膨らませるイマジンとで羽月希の上品な巨乳をタップリと堪能させつつ、素振りすら見せない和也に対し、麻衣は時給八百五十円で店長は吉行由実の喫茶店「マリエール」でウエイトレスとして働き始める。やがて、麻衣の化粧も服装も華美になつたある日。風邪気味の明が早退けすると、麻衣一人を働かせておきながら、和也は厳密には風俗嬢明示はない正体不明の女・夏美(智弓)を―しかも人の部屋なのに―連れ込んでゐた。ここでどうしても立ち止まらざるを得ないのが、ツイッターのプロフィールによると“SMやさん”とある智弓胡蝶―ツイアカはさくら智弓―の、体が傷だらけな点。左脇腹に複数見られる切傷は、それは自傷か?右腰にも銃創かと見紛ふ、派手な傷が。さて措き、遂に激昂し喰つてかゝれど和也にまんまとボコられた明は、自室を飛び出し以来戻らなくなる。
 配役残りサーモン鮭山は、和也に強ひられ時給三万円でデリ嬢を始めた麻衣の、菊をも散らす粘着質の客。どうでもよかないが移動時間のロス等も考慮すれば嬢に時給三万円を渡すとなると、一体この店は客から幾ら取つてゐるのか。杉田が相変らず覇気のない明を奢りで風俗に誘ふ流れに乗り飛び込んで来る山口真理は、明を優しく筆卸して呉れ、ようとはした―推定―泡姫・ユカ。土壇場で麻衣を想起し中折れる贅沢極まりなく情けない明にも終始温かく接する、改めて後述するが徹頭徹尾南風を吹かせると同時に、完璧にスマートな三番手投入のタイミングは地味に出色。
 吉行由実の2012年第一作は、最後まで性懲りもなく妄想を積み重ねるばかりで喪男の主人公が結局一皮剥けはしない、一見、肌触りは心地よくも他愛ない疑問作。暴力男に盲目的に尽くす麻衣も、ナイーブなのか単にだらしがないだけなのか、ウジウジと童貞を拗らせる明の造形もともに、吉行由実御当人からしてみれば、恐らくは唾棄すべき否定的な対象となるのかとも邪推し得る。とはいへ、そこで首を傾げてゐては再後述する非現実的に都合のいいオーラスまで含め、一貫して明に注がれ続ける優しい眼差しは理解出来まい。具体的には薫桜子と出会ひ王道娯楽路線に開眼する以前、かつての吉行由実作に顕著であつた、自称お姫様が何時まで経つても白馬に乗つた王子様を待ち続けるが如き、ステレオタイプですらあるからこそ同時にある意味力強さも失はない少女趣味。少年趣味だなどといふと正太郎コンプレックスに意味が変つてしまひかねないが、お花畑の少女趣味をそのまま裏返すや意外や意外、大人になりきれぬ点では同罪といへようピンク映画の若年層観客―どれだけ実在するのかよく判らんが―の惰弱な琴線に延髄斬りを叩き込む、思ひのほか素直に充実した商品性の一丁上がり。さういふアクロバティックな評価が、実はより正当であるのではなからうか。牽強付会?悪いけど一寸黙つてて貰へるかな。パッと見自堕落にもみせて、微温とはいへ確かなエモーションを撃ち抜く一作。ダメ男を慰撫する術を心得たものであるならば、これで案外吉行由実は、また新しい扉を一枚開けたのかも知れない。

 その他内トラ勢、(彼女のゐない)明の周囲に都合二組不自然に見切れるカップルと、ラスト間際の同窓会カット、最初に明と遣り取りする同窓生は不明。和也のヤサを突き止め、明の部屋に乗り込んで来るオッカナイ借金取りは、兄貴分が田中康文で連れが北川帯寛。画面の片隅を飾る、田中康文や国沢実や広瀬寛巳の安定感は異常、これが量産型娯楽映画の底力だ。同窓会に話を戻すと三人目に顔を出す同窓生が江尻大なのはいいとして、問題は、オーラス明と待ち合はせる「夜明け鳥の日記」に度々米をつける“ゆかり”役。普通に可愛らしい娘なのだが、一体どちら様?それにしても、非モテの管理人が常連といはゆるオフで会つてみたところ、ストレートに美人が現れた。・・・・何といふか、この際工夫もリアリティも要らねえよ、嘘でも夢でも構ふもんか。このくらゐ振りきつてみせて呉れると、グルッと一周して寧ろ清々しいぜ。

 以下は再見時の付記< 内トラ勢追加、マリエール店内で一人明確に顔を抜かれるのは下元哲


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
大です。 (江尻)
2013-04-12 20:53:32
最初にやりとりする同窓生は僕です。
ラスト間際の同窓会は、僕、こたか、吉行、羽月。
見切れるカップルは、助監督小山悟、僕の学校の後輩。
最後のかわいらしい娘も、僕の学校の後輩、
ちなみに、カメラマンの下元哲も喫茶店で
この作品は内トラすごすぎです。

の割に、スタッフ吉行組で一番最少スタッフでやりました。監督、カメラマン、僕、こたかの4人。
 
 
 
>大です。 (ドロップアウト@管理人)
2013-04-12 22:10:03
 おお!詳細なコメを頂き感激至極です。
 ゆかり嬢には映画の神の微笑を感じました。

 下元カメラマンのお顔を私は存じ上げませんが、
 薔薇族の主役にと声をかけたものの、
 断られたとする凄い逸話を、
 山邦紀監督からお聞きしたことがあります。

>スタッフ吉行組で一番最少スタッフ

 そこが凄いですね。
 そんなこと観てて全然判らないところが凄い、感服致しました。
 
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