真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻OL セクハラ裏現場」(2011/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:金沢勇大/撮影助手:宇野寛之・宮原かおり/編集助手:鷹野朋子/演出助手:佐藤心/ポスター:本田あきら/応援:小林徹哉・田中康文/協力:静活・佐藤選人/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/出演:安達亜美《新人》・佐々木基子・浅井舞香・那波隆史・那波隆史・野村貴浩・柳東史・小林節彦・太田始・遠藤潤・名越孝太郎・別所万伸、他三名・ドンキー宮川・田中康文・牧村耕次)。出演者中、名越孝太郎とドンキー宮川・田中康文、他三名は本篇クレジットのみ。那波隆史の二重表記は間抜け管理人が仕出かしたのではなく、本篇クレジットに従ふ。
 緊張した面持で深呼吸する主演女優、無人の広い劇場内に、オリオン座の最終公演である旨を告げるアナウンスが流れてタイトル・イン。因みに―静岡―オリオン座(定員五百九十名)とは、静岡市内で映画館を経営・運営する静活がかつて有してゐた旗艦館、本作公開二ヶ月前の十月に閉館してゐる。
 古道具屋が深夜営業してゐるのか、釈然とはしないが早朝の「我楽多屋」。雇はれ店長兼作家の有吉タカユキ(那波)一人の店内に、明るくネガティブなラジオ番組「西藤尚の朝からスタンド・アップ」が流れる、朝立ちか。タカユキに起こされた、妻・祥子(安達)の職業は公務員。祥子はタカユキに、生活の心配は要らないゆゑ望み通りの創作活動に励むやう、何処かしら上から目線で望む。そんなこんなで、窓口に詰めかけた田中康文に祥子がぼんやり対応する、何処ぞの役所の福祉課。ここで佐々木基子は祥子の同僚・アサ、ビリング順に野村貴浩・柳東史・遠藤潤・別所万伸も同僚で、大して仕事もしなければ祥子に憚りもない下卑た視線を向ける枝野・亀井・内田比呂志・吉崎。多分最年長の吉崎が、一番の上長。アサにアフター5のお誘ひを受けた祥子に、就職も世話した吉崎が資料室にてセクハラ紛ひに言ひ寄る件噛ませて、更衣室で着替へる祥子が靴を履き替へようとすると、ハイヒールは精液で汚されてゐた。半ベソをかきながら流しで足を洗ふ祥子の前に、ヌボーッと不気味に現れる警備員は小林徹哉。アサとの待ち合はせ場所に向かふ祥子は、若い三人組の男(全員不明)に袋叩きにされる、タカユキと瓜二つの労務者風―後に判明する稼業はポスティング―の男(当然那波隆史の二役)を目撃。祥子と目が合つたポスティング男は、キキキキキと奇声を上げニヤーッと薄気味悪く笑ふ。気を取り直して“何時もの”飲食店、アサはタカユキの単行本『発情の国』を取り出し、サインして貰へないかと祥子に求める。テレビ好きで小説に興味はなく、これまで読んだことはなかつたタカユキの本を半笑ひのアサから薦められ、手に取つた祥子は驚く。祥子をモデルにしてゐない訳がない、公務員の妻が奔放も通り越した情欲に溺れる過激な内容であつたからだ。作中祥子は庁舎内でポスティング男にレイプされ、傍らでは、その模様を見るアサと吉崎が助けもせずに乳繰り合つてゐた。激昂した祥子は、タカユキに詰め寄る。
 残る配役を無理矢理整理すると、随時登場する窓口要員に、ドンキー宮川(=宮川透)以下その他。名越孝太郎も、多分ここに含まれるのか。小林節彦と牧村耕次に荒木太郎は、祥子を拉致・陵辱する、取り壊しの決まつたオリオン座の元従業員。それぞれのヘルメットに書かれた文言が、順に“造反有理”・“自己批判”・“総括せよ!”。この辺りの、機能不全のアナクロニズムは煮ても焼いても喰へない。太田始は、祥子の身代りにオリオン座に飛び込む小林部長。小林が内田からの電話報告を受けるカットに、内田と小林警備員に加へて更に二名の公務員が見切れる。「恋情乙女 ぐつしよりな薄毛」(2010/主演:桜木凛)以来となる浅井舞香は、お断りのチラシを放り込んだことを注意したところ、ポスティング男に犯される肉感的な主婦。増量した色香が、ギリッギリ堪らない、ここが徳俵だ。もう一人、オリオン座から帰還後の祥子がポスティング男と見紛ふ、同じ服装の男が登場する。
 タカユキとの夫婦喧嘩の後(のち)、祥子は三日間無断欠勤する。その際のタカユキの台詞に“レイプされて三日”とある点から、これは現実世界に復帰したやうに見せかけて、実は依然『発情の国』内の出来事なのかと邪推したが、最終的にはその辺りも木端微塵に覚束ない。荒木太郎2011年薔薇族を一本挿んでピンク第三作は、ヒロインが主にセクシュアルな方向に壊れて行く過程を、壊れ行く映画を通して描いた問題作。とでもいつた寸法に、なるのかも知れないが。何はともあれ、何が何だかサッパリ判らないのだ。劇中虚実の別は混濁したまゝ、とりあへずといふか兎に角といふべきか、兎も角祥子がレイプされ倒す不条理展開に、失はれる小屋への惜別はまだしも、悪し様に片付けると負け犬根性満載の営利主義と公務員に対する批判が矢継ぎ早に薮の蛇を突き、重ねてオリオン座の舞台で安達亜美が舞踏する謎ショットが、折に触れ幾度となく木に正体不明の竹を接ぎ続ける。挙句に、福祉課事務卓上での祥子と内田の情事を、枝野と亀井が延々ガチャガチャに掻き回す。煽情性の霧消した出来損なひの濡れ場を端緒かつ逆の意味での頂点―直截には谷底である―に、緩急が決してなくはない割に全体的にはメリハリを激しく欠き、たかだか尺は六十分の中篇が、途方もない長大な苦行に感じられる。恐るべき映画的反魔術は、頼むから勘弁して欲しい。浅井舞香の起用法なんぞも、三上紗恵子の影が見当たらないにも関らず無茶苦茶大雑把な放り込みやうなのだが、それ以前に全篇が火にガソリンを注いで滅茶苦茶なので、寧ろ三番手補正もかゝると全然自然にすら思へてしまふ始末。今作が、閉館するオリオン座に捧げられたことと、荒木太郎の無造作なルサンチマンだけならば寝落ちてさへゐなければ容易に酌めるものの、残りの一切は清々しいまでに支離滅裂。そもそも、タカユキとポスティング男が同じ男である意味ないしは必然性から非感動的に全く理解出来ない。理解出来ぬ小生が己の節穴ぶりを晒したに過ぎないとしても、俺はこんなもの呑み込めなくて結構だ。是非はさて措き破壊力の絶対値だけは闇雲な、純粋に詰まらないのも通り越し、最早怪作の領域に突入しかねない一作である。

 ところで、フト調べてみると荒木太郎の2012年現時点での公開予定まで含め三作に、三上紗恵子も淡島小鞠の名前も引き続き見当たらない件につき。筆を滑らせるにもほどがあるが、もしかして別れたのか?もしくは、単に足を洗つたか。


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