真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「黒下着の淫らな誘ひ」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:内藤忠司/企画:島田英男⦅大蔵映画⦆/撮影:郷田有/編集:酒井正次/助監督:田中康文/撮影助手:西村友宏/制作:小林徹哉/ポスター:平塚音四郎⦅スタジオOTO⦆/ピアノ:篠原さゆり/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:TJPスタジオ・大町孝三・下垣外純/出演:時任歩・風間今日子・篠原さゆり・快楽亭ブラック・太田始・内藤忠司・小林徹哉・広瀬寛巳・村山裕・近藤摩郎・櫻井晃一・関口香西・奈良勉・星野花太郎・大旗憲・杉本まこと)。
 湖の8mm、女が御々足を黒いガータに通す。カット跨ぎで知らん間に履いてゐたヒールを男の手が恭しく脱がし、正常位で突かれる状態にも似た、足をプラップラ振る画から割と唐突にタイトル・イン。掴み処のない叙情性を、当サイトが理解する日は多分来なささう。
 セクシャルハラスメントを報じる新聞記事を繋いで、就職活動中の女子大生・香山美紀(時任)の履歴書。恋人との性交渉は週何回、初潮は何時、好きな下着の色は。太田始以下、小林徹哉を除く大旗憲までが性的全開の質問を臆面もなくか無防備に振り回す、破廉恥面接の数々を美紀は被弾する。オフィスで美紀が無数のセクハラゾンビに群がられるのは、清々しいほどの所謂イヤボーンもとい、イヤーガバッで片づける美紀の悪夢。荒木太郎がその時傍らで寝てゐた、ナイトメアの原因を、美希のセックス拒否に求めるクソ彼氏・徹也。ゼミ教授・森山(名前のみ)の紹介で、美紀は徹也も軽く驚く最大手である慶出版の面接に漕ぎつける。人事部次長・山形勇(杉本)から非正規入社を餌に、美紀がまんまと釣られる当日の夕食の誘ひ。再度慶出版を訪ねた美紀は、定時で全員捌ける管理部門階にて、獣性を露にした山形に犯される。趣味は社交ダンスといふ山形が、軽快なステップを踏みながら踊るやうに美紀を追ふシークエンスは、荒木太郎の奇矯な作家性が商業映画と偶さか親和した、今作ほとんど唯一のハイライト。所詮、杉本まことの独壇場ないし一人勝ち。さういふ気も、否めなくはないにせよ。
 配役残り、風間今日子と小林徹哉は、結局バッドマガジンズを作る零細出版社に就職した、美紀が取材するサファイア女王様とその奴隷、ではなく編集長のヤベ。張形に―無修正で―熱ロウを落とす、苛烈通り越して激越な責め。小林徹哉はもう少し、でなく大暴れして苦痛にのたうち回るべきではあるまいか。ウルトラ熱いだろ、それ。普段通り着物で出て来る快楽亭ブラックは、サファイアが山形の身辺調査を乞ふ、変り者の探偵。調査結果の報告も、一席ぶつ形で行ふ。そして篠原さゆりが、のちに山形がダンス教室で出会ひ、結婚した社長令嬢のアサコ。
 カザキョン女王様にコッ酷く苛められたプレイ後、翌日子供の運動会である旨自嘲する小林徹哉の台詞が、記憶の片隅に残つてゐた荒木太郎2000年第一作。気づくと再来年で閉館二十年、今はどころかとうの昔に亡き福岡オークラで観たのだらうが全体、何処の枝葉で一本の映画を思ひだすものやら。
 前半のセクハラ凌辱篇、を経ての中盤。風間今日子なる既に旦々舎で十二分にブラッシュアップされた、ピンク史上最強級の援軍を得た上で、雪崩れ込む後半のリベンジ篇。温存し抜いた三番手を、クライマックスの供に用する一見強靭な構成まで含め、起承転結を釣瓶撃つ濡れ場で紡ぐ、腰の据わつた裸映画に思へかねない、ものの。世にいふ荒木調ならぬ、荒木臭。事の最中山形と美紀が交す、黒に関するただでさへ形而上学半歩手前の漠然ともしてゐない遣り取りを、子供の筆致じみた手書スーパーで事済ます木に竹しか接がないサイレント演出。いざ女の裸に徹したら徹したで、弛緩し始めるきらひは否めない、よくいへばセンシティビティと引き換へた、荒木太郎の最終的な資質の弱さ。美紀がピアノを叩き始める―実際に弾いてゐるのは篠原さゆり―や、操り人形の如く山形が踊り始めるシークエンスは確かに一旦輝きかけつつ、その後は漫然とフレームの片隅で右往左往よろめくに終始する、矢張り詰めの甘さ。そして、アバンを拾ひこそすれ、掉尾は飾り損ねる含意の不明瞭な8mm。諸々の足枷に歩を妨げられる、要は自縄自縛の結果。観客なり視聴者の精巣を轟然と、空にしてのけるエクストリームな煽情性には果てしなく遠い。そして、もしくはそれ以前に。最大の疑問は、サファイアに感化された美紀が、他愛ないミサンドリーを振り回すのは展開の進行上必要といへば必要な、取つてつけた方便にせよ。山形とのミーツが美紀の一件と全く以て無関係であるアサコを、単に山形を完全に破滅させるためだけの目的で、箍の外れた暴虐に完膚なきまで曝す。徹頭徹尾無実で一切非のないアサコに対し、美紀―とサファイア―が欠片たりとて悪びれぬまゝ、ぞんざいな攻撃性を叩きつける無自覚な図式は懲悪のカタルシスと、見事復讐を果たしたエモーション、何れの獲得にも如何せん難い、途方もなく難い。己の品性下劣の極みを憚りもせずいふと、一人の女が、大勢の男共に嬲られ尽す。さういふ腐りきつたシチュエーションが大好物とはいへ、流石にノリきれない残念な一作であつた。


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