真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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(本)噂のストリッパー
ま行
/
2023年09月11日
「
⦅本⦆噂のストリッパー
」(昭和57/製作・配給:株式会社にっかつ/監督・脚本:森田芳光/プロデューサー:八巻晶彦⦅N·C·P⦆/企画:大畑信政・進藤貴美男/撮影:水野尾信正/照明:矢部一男/録音:小野寺修/美術:後藤修孝/編集:川島章正/撮影協力:浦安劇場/製作協力:青木弘・日高捷夫/助監督:那須博之/選曲:甲斐八郎/色彩計測:高瀬比呂志/現像:東洋現像所/製作進行:霜村裕/出演:宮脇康之・岡本かおり⦅新人⦆・太田あや子・大高範子・金田明夫・吉川遊土・上野淳・鶴田忍・江藤漢・新井真一・石上一・佐藤恒治・玉井謙介・増尾久子・中原鏡子・三崎奈美・森田日記)。出演者中、石神でない石上一は本篇クレジットまゝ。ちな、みに。ポスターは普通に石神一なんだな、これが。となると未だ不安定な名義といふよりも、単に本クレが仕出かした可能性の方が寧ろ大きいのかも知れない。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
開演前の浦安劇場(とうに現存せず)場内、玉井謙介が盆の真ん中に持つて来たそれは電池式なのか、アンプラグドなテレビのスイッチを入れて「はいどうぞ」。ブラウン管に“日活株式会社製作”時代のカンパニー・ロゴが映し出され、劇伴起動。一転、風呂を浴びるストリッパーのみなさん、ビリング順にグロリア(岡本)と、姉貴分のレディ(三崎)。白黒ショーの女(ピンクチェリー?/大高範子)とキリス・アイ(吉川)に、増尾久子と中原鏡子の何れかが声を揃へ、玉謙に合はせて「本日は当浦安劇場に御来場頂きまして」云々、これといつた小ネタも足さない普通の場内アナウンス。レッツ・オープン・ザ・ミュージック!のアタックとともに、舞台に飛び込んで来たグロリアが客席に向かひ両手を広げる見得を切りタイトル・イン。割とてれんてれん躍る岡本かおりがオッパイまで見せ、照明が落ちる形で暗転しての監督クレジット。正直、タイトルバックは早速漫然としてゐなくもない。
ロングで見た感じ思ひきり住宅街的な立地に存する、案外小さいのが小屋みのある浦劇外景。客引き(佐藤)が、ノンクレの客を捕まへる。グロリアが「どうぞ」と客に手渡したシェービングクリーム?を、自分の体に塗りたくらせる謎パフォーマンス。この辺りズッブズブの門外漢につき、ストの演目なり風俗―劇中では“スプレー”と称される―に関する見識をまるで持ち合はせない、憚りながら悪しからず。アルバイト配送員の洋一(宮脇)は、忽ちグロリアに心奪はれる。
配役残り、ググってみると今は自身の名を冠した芸能プロダクションを構へてゐる上野淳は、照明係の照一、名に体を表させるポップ感。金田明夫は妹分であるグロリアの―マネジメント的な―面倒も見る、レディのヒモ・孝政、グロリアからの呼称はお兄さん。小水一男に結構似てゐる江藤漢はアイのヒモ、固有名詞不詳。
榎木兵衛(a.k.a.木夏衛)と庄司三郎
よろしく、ガイラとの兄弟役で全然イケさうな気がする。そして石上一が、最初に出て来た時は幕間のビール売り。三週間弱先行する―日付が合はないのは今作がかつての、フィックス敬老の日封切り―鈴木潤一(=すずきじゅんいち)昭和57年第二作にして通算第三作、且つ「女教師」シリーズ第七作「
女教師狩り
」(脚本:斎藤博/主演:風祭ゆき)が、jmdb準拠でこの人のデビュー作。弾けるやうな若さに、思はず相好を崩さされる。新井真一は大高範子の相方を務める男、鶴田忍が浦安劇場支配人。グロリアとヤリたい支配人は、その旨孝政に打診。孝政があくまで当人の意思を尊重する一方、金銭の提供も辞さない支配人に対し、軽く気色ばんだ金田明夫が放つ、「俺をポン引きにしないで下さいよ」はスパッと切れ味鋭く通る名台詞。そして太田あや子が、洋一の配達先・竹入か武入好子。見初めた洋一を、レコード針の交換を乞ふ方便で家に上げる盛大なファンタジーを美しく咲き誇らせる。中原鏡子と増尾久子の残つた方は、気がつくと楽屋にもう一人増えてゐるストリッパー要員。楽日の打ち上げ後、アイとレディにグロリアは、男衆(支配人とエトカンに孝政)と一旦別れ三人でディスコに。当時的にはポスターにこの人が載るバリューがあつたのか、不脱の森田日記はディスコの女王様。化粧室にてグロリアと会話を交す件にも以降に効いて来るサムシングは特段見当たらず、木に竹を接ぎに連れて来られたきらひは否み難い。その他小屋の主に客とディスコに、計数十人の頭数が投入される。あと、端々で目につくのがオープンの通行人がカメラの方を見すぎ、あるいは見させすぎ、那須博之もう少し仕事せんか。
抜けるだけの組に入つてゐた訳でも別にないものの、後年宮脇康之(現:宮脇健)共々ロマポに盃を返す岡本かおり(今は岡本椛里らしい)のデビュー作は、森田芳光がロマンポルノを二本撮つてゐるうちの一本目、商業通算第三作。初代ケンちやんで一世を風靡した、宮脇康之の結局果たせはしなかつた復活作といふ点に関しては、最初で最後の所詮賑やかし。この期に触れる必要性も量産型娯楽映画的に然程どころでなく見当たらないゆゑ、事もなげに等閑視して済ます。
限りなく少年に近い青年が踊り娘との―土台一方的でしかない―出会ひと別れの末に、幾分かは成長する?とかいふ、大筋ではあるのだらうけれど。ただでさへ尺に比すと頭数の多い中、グロリアと照一に、レディと孝政。チッチッチ妙にスポットの当てられるポン引きと、藪の蛇を突くトメ。洋一のゐないところでとかく分散しがちな焦点を絞り込む統合力を、寸から足らない文字通り童顔の、主演に据ゑるには激しく心許ない依然子供のやうな元子役と、エクセスライクな垢抜けない新人女優の、何れにも求め得ない脆弱なビリング頭二人が直截なアキレス腱。カット割りまで含め、壇上ないし絡みの演出に冴えなり煌めきを窺はせるでなく、裸映画としても全然平板。一日が終る風情を味はふ、好子の愛聴曲が「蛍の光」。洋一が好子に贈つた、「蛍の光」のオルゴールで関係の終了をそれとなく悟らせる。辺りのシークエンスは洒落てゐこそすれ、森田芳光の名前に脊髄で折り返してワーキャーするには必ずしもあたらない、精々水準的な一作。その“水準”もしくは全般的な感触といふのが、画面の厚み込みでロマポの方が、ピンクより基本上といふのは認める。
但し、個別の面白い詰まらない、素晴らしい他愛ないはまた全く別の話。ジャスタモメン、極めて大事な点を忘れてゐた。夜景も凄まじく映える浦安劇場の、在りし日の姿を35mmで記録した意義は絶大。
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