真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「襲はれる女教師」(昭和58/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:斉藤信幸/脚本:桂千穂/プロデューサー:秋山みよ/企画:進藤貴美男/撮影:野田悌男/照明:木村誠作/録音:伊藤晴康/美術:金田克美/編集:井上治/アシスタントプロデューサー:沖野晴久/選曲:細井正次/助監督:児玉高志/色彩計測:森島章雄/現像:東洋現像所/製作担当者:香西靖仁/協力:錦糸町クリスタルHOTEL/出演:風祭ゆき・水木薫・聖ミカ・朝吹ケイト⦅新人⦆・下元史朗・添田聡司・川上伸之・永田豪史・高木常吉・奥村樹里・丹治信恭)。
 最初に根本的な白旗を揚げてさせて貰ひたいのが、ヒロインの、固有名詞下の名前に関して。添田聡司は確かに恵子と呼んでゐる反面、パールマンション203号室の表札が英子となつてゐるのは、何れが正解なのかもう当サイトは知らない、それはこちら側の黒星なのか。ち、なみに。恐らくプレスシート辺り準拠の、各種資料に於ける粗筋文中では英子とされつつ同時にあるいは同様の、キャスト一覧では恵子とされてゐる。さうなると五分五分に思へなくもないものの、こゝはひとまづ、俳優部が声に出す恵子を尊重してみる、ごめんね美術部。
 踏切の向かうに立つ、正直女子大生には見えない完成された美人。小脇に音楽史の教科書を抱へ、この頃は芸大生の津島恵子(風祭)が歩く、枯葉舞ふ往来にタイトル・イン。背後から自転車で接近した、甲斐太郎とささきまことを足して二で割つたやうな暴漢(高木)が、白昼の路上堂々と恵子を襲撃、一応地下道に連れ込んだ上で犯す。田舎者の、哀しさよ。ロケ地を特定しかねる、何処ぞの大学構内。恵子は絵画系の彼氏・今井広之(添田)に、噂されるレイプ被害を認める。相談を持ちかけた恵子のアパートに結局、今井は来なかつた。一人の部屋で今井を待つ、恵子が想起する何時かのクリスマスの夜。就寝中の恵子宅を、ツリーの電飾だけ携へた今井がコソッと来訪。寝込みを騒がす、ソフィスティケイトな一種の夜這ひ。部屋着の差異に気づかない限り、完全なノーモーションで回想に突入する、関根和美ばりの荒業を斉藤信幸が何気に仕出かす。
 ザクッと五年後が、劇中現在時制。配役残り聖ミカは、音楽教師となつた恵子が勤める荒淫、もとい光陰学園の女子高生・八坂ルリ子。奥村樹里と丹治信恭はルリ子が所謂“カンパ”を集める、同級生の菱田愛子と大江一郎、奥村樹里は不脱。そしてモサーッとした髪型が、80年代の仕業にしてもあんまりに映る水木薫は、保健室の養護教諭・夏木一美。メンタルヘルス的にはアリなのかも知れないけれど、保健室で小鳥を飼ふフィジカル衛生上の是非や如何に。下元史朗は日々甲斐甲斐しく車で恵子を自宅―近くのコンビニ―まで送る、同僚教師の白石信夫。永田豪史は恵子から、断じて合鍵は渡して貰へないセフレで浪人生の山上昭、遊んでゐないで勉強せれ。いや、風祭ゆき相手なら遊びの方が重要か。川上伸之は一夜を過ごす恵子ルールに触れた山上の放逐後、ディスコみたいに煌びやかなローラースケート場にて、恵子が新たにミーツする次の若い男・鈴川純一。そして満を持し損ねる朝吹ケイトが、五年の間に結婚してゐた今井の妻・雅代、朝吹ケイトは別に悪くない。その他校内よりも、主に恵子が出没する校外のそこかしこに寧ろ、大量の頭数が投入される。そ、んな中。恵子と今井の再会時、今井と悶着を起こしてゐる髭と、ゲーセンでルリ子の筐体対面に座る正体不明の二枚目が、とりあへず抜かれこそすれ、蒙昧ゆゑ辿り着けぬクレジットの狭間に沈む謎。
 斉藤信幸第六作は、年二本づつ後半は公開されてもゐた、「女教師」シリーズ全九作中第八作。明けての正月映画にせよ厳密には前年、既にれつきとした初土俵を踏んでゐる朝吹ケイトが、二本目であるにも関らず依然括弧新人特記を引き摺つてゐる所以がよく判らない。「女子大生の下半身 な〜んも知らん親」(監督:楠田恵子⦅成城大学⦆=吉村元希/脚本:小宮三和⦅跡見女子短大⦆・松本貴子⦅東海大学⦆)を満足な一本として数へてゐない、一種の差別意識でも酌めばよいのかしらん。兎も角、汚されたり狩られたり、相変らずバイオレントな憂き目に遭ふ、唯一人複数作の主演を果す風祭ゆき的には、シリーズ通算第三作にあたる。三度目の、正直ならず不誠実。
 襲はれ恋人と別れた過去を持つ一方、今はベッドバディを絶やさない案外か予想外に享楽的な生活を送る女教師が、改めて襲はれる、未遂含め二回。何はともあれ斉藤信幸といふと、傑作ニューシネマ「黒い下着の女」(昭和57/脚本:いどあきお/主演:倉吉朝子・上野淳)のしかも次作といふので、勝手に期待して見てみたところが結構どころでなく、派手に宜しくない出来だつた。風祭ゆきの、スレンダーな肢体をひたすらに拝ませ倒す。観客が最も求めてゐる、女の裸をしこたま見せる、その至誠は勿論酌める。さうは、いふてもだな。序盤はおろか前半をも優に通過してなほ、二番手以降を温存。三番手が漸く本格的な絡みを披露するのが四十一分、その後二十五分強がガッチャガチャ。雅代から妊娠を告げられた広之が、見せてみろといふので未だ膨らみ始めてもゐない腹かと思へば、よもやまさかの観音様御本尊。ハモニカを吹きがてら事に及ぶへべれけな導入は、流石に裸映画としての要諦ないし要請に、劇映画が完全に負けてしまつてゐる。昭和58年当時、安定期の概念が発見されてゐなかつた訳でもあるまい。そんな四番手―の処遇―に、火にガソリンを注ぐのが二番手。幾ら一美が白石に横恋慕を焦がす、布石を再三再四打つてゐたとはいへ。一時間も跨ぎラスト五分に突入しての大概土壇場に至つて、藪から棒に水木薫の濡れ場を放り込む。三上紗恵子脚本の荒木太郎に劣るとも勝らない、出鱈目な用兵と木端微塵のペース配分には引つ繰り返つた、卒倒ともいふ。挙句その期に及んで一度ならず二度までも、最中雑にカットを飛ばしてのける始末、もしくは不始末。この点今作に限らず、ロマポに触れてゐてしばしば躓くのが、肝心要である筈にしては、選りにも選つての見せ場で乱れる繋ぎ。そ、れとも。撮影所に籍を置く編集マンの、技術が足らないとも思ひ難い以上、もしかして。最終的には何処かで裸映画を虚仮にした態度の、ひとつの現れなのであらうか。話を今作単体に戻すと、二三四番手がトッ散らかした映画に、止めを刺すのが主演女優である流れはある意味といふか、より直截には逆の意味でビリング通り。鈴川に犯された―シークエンス自体も実は地味に酷い、後述する―恵子は、雅代が最初に出る今井家に電話。来て呉れるやう望む恵子に対し、夜分に余所の女から電話がかゝつて来て、当然不安ないし不審がる雅代の傍ら、今井は一旦黙つて受話器を置く。置き、ながら。そのまゝ家で大人しくしてゐればいゝものを、のこのこ今井が恵子の下に現れる展開には普通に吃驚した。曰く「五年前は僕が悪かつた」、ぢやねえだろ。今また悪いんだよ、輪をかけて悪いんだよ。家には、御子を授かつたばかりの配偶者もゐるんだろ。言葉を選べば頭がおかしい場面は他にもあつて、斉藤信幸らしいロケーションといつてもいゝのか、波止場に停めた車中。三年前亡妻に先立たれた―それもそれで、のちに白石が一美のモーションを、三回忌を方便に断る件と齟齬を来す、去年済ませてる―白石が、恵子に求婚。断られるや勢ひ余つたか端的に箍が外れたか、白石は恵子を手篭めにしかける。裸の腿に鉛筆を突き刺され、撃退された格好の白石が一旦一息ついた流れで、性懲りもなく再度プロポーズを申し出るのには度肝を抜かれた。桂千穂なら幾ら狂つてゐたとて、何をしても許されるだなどとゆめゆめ思ふなよ。兎に角、五年前を取り戻せた格好にして。当然、その間恵子が学校に出てゐなければ今井も家に戻つてゐない、数昼夜に亘る爛れた情交の果て。カーテンを開け放した陽光に風祭ゆきの裸身が霞む、画だけは綺麗な恵子が適当に吹つ切れる奈落の底も抜くクソ以下のラストは、斉藤信幸が斯くも碌でもない映画を撮るのかと、別の意味で衝撃的。こゝまで壮絶な有様だと扱ひは随分ぞんざいでもあれ、出奔する大江と、駅のホームに佇むロング。ショット自体は印象的な、ルリ子が限りなく登場人物全滅に近い死屍累々の中で、実は最も恵まれてゐたとする評価も、この際成り立ちかねない。頭三本が未見につき、最終的な結論は出せないが「女教師」シリーズのワースト有力候補。逆に依然これといつた有望株の特に見当たらない、ベストはと問はれると途端に考へ込んで答へに窮す。

 水の抜かれた、冬のプールに潜んだ鈴川があくまでフレームの中に於いては見えない角度から、恵子の足首をヒッ掴むサスペンス。いや、それさ、立ち位置的に端から恵子には見えとるぢやろ。映画の嘘すら、最早満足につけてゐない。


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