真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「SM 刺青本番」(昭和59/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:片岡修二/製作:伊能竜/撮影:志村敏夫/照明:斉藤正明/音楽:周知安/編集:酒井正次/助監督:渡辺元嗣/録音:銀座サウンド/現像:恐らく東映化学/出演:スージー明日香・花真衣・いとうようこ・麻生うさぎ・狼狂二・ジミー土田・外波山文明・江口高信・BBB《ビーブラッドボーイ》・大杉漣)。BBBまで俳優部は網羅しただけ、マシなうちと評価する南風を吹かせるべきなのか。配信動画が流石に片岡修二はまだしも、スタッフを志村敏夫と斉藤正明しか拾はない。ふざけ倒したビデオ版クレジットにつき、残りは三月に発売された円盤のパケから補つた。よもやまさか、2022年リリースのブルーレイも同じ腐れ仕様ではあるまいな、暴れる奴が現れるぞ。気を取り直して製作の伊能竜と音楽の周知安は、それぞれ向井寛と片岡修二の変名。
 汽笛とエンジンの起動音鳴る港湾風景、カメラが右から左にグルーッと回り込んだ先に、鳥の巣みたいなパーマ頭で肩にボンサック引つかけたスージー明日香。この主人公は流れ者ですといはんばかりの、造形に於けるクリシェが清々しい。助けを呼ぶ女の悲鳴に、ハードロックがズンドコ起動。一応ズベ公らしいものの、メタルフレームのダダッ広いロイドが決してさういふ風にも映らない、奈々(いとう)が当地を仕切る暴走族「ボンバーズ」(ジミー土田とBBBから赤毛と黒マスク)に追はれてゐる。赤毛が投げ縄で奈々を捕縛すると、適当なロケーションにバイパススリップ。挿されはしない程度にいとうようこのオッパイを拝ませた上で、その場に明日香(大体ハーセルフ)が漸く介入する。黒マスクの振るふヌンチャクに何故か切り裂かれたシャツの中から、御尊顔を覗かせる菩薩様?にタイトル・イン。矢鱈鋭利なヌンチャクも兎も角、暴走族が二尻の単車―運転するのはジミ土―から縄を投げ女を捕らへる!アバンから飛ばすに飛ばす、底を抜いてヒャッハーな世界観が堪らない。
 苗字は野沢と思しき、マスターの俊介(江口)が妻の亜紀子(花)と二人で切り盛りする居酒屋「波止場」。たむろする奈々に連れられ、明日香は人手の足らぬ波止場に転がり込む。十人前後は投入される客要員の中から、若かりしナベは見つけられず。自身も墨を入れてゐる亜紀子は明日香に親近感を懐き、明日香が働き始めた波止場がなほ一層繁盛する一方、俊介に対して横恋慕を拗らせるボンバーズの頭・マコ(麻生)は、チームを率ゐ店を襲撃。実は身重の亜紀子と、明日香を豪快に拉致する、法が機能してゐないのか。
 配役残り狼狂二と、ビーブラッドボーイあと三人もボンバーズ頭数。本物の暴走族なのかはたまた劇団の類なのか、BBBの正体には全く以て手も足も出ない。大杉漣は亜紀子と明日香の危機に奈々が頼る、五年ぶりで地元に舞ひ戻つて来てゐた凄腕・佐伯、と来ると下の名前はまづ恭司。二人の関係を俊介も知る、亜紀子にとつては昔の男。何処に如何なる形で登場するのかまるで読めなかつた外波山文明は、二人を救出か奪還すべくボンバーズ根城にカチ込む佐伯が、あへて安物のライフルを調達する銃砲店店主。多分、所謂パラレルな世間での出来事を描いた物語なのだらう。きつとさうだ、さうに違ひない。外波文に話を戻すと、刹那的な端役なのが惜しい、少なくとも片足アウトサイドに突つ込んだガンスミスが様になる。
 特に好きな監督といふ訳でもないのもあつてか、ピンクとロマポ、合はせて四本ex.DMMに未見作を残してゐた、片岡修二昭和59年第五作。通算だと、六と三分の一作。フィルモグラフィに共同監督のオムニバス作が含まれると、カウントがやゝこしくなる。
 無法地帯の港町を舞台に、流れて来た刺青女が点火した騒動に、地場の刺青女も巻き込まれる倶利迦羅紋紋ウェスタン。フリーダムに血の気の多い暴走族と風来坊が激突する、よくいへば大雑把な活劇に、修羅場に際しての壮絶なカット割りに頭を抱へ―バッド―トリップでもする以外には、普通にカッコよく単車を駆る、ジミー土田の意外な雄姿くらゐしか琴線の触れ処は別にない。そもそも二枚看板的なスージー明日香と花真衣が、リアルに背負つた和彫りが確かに見栄えはするにせよ、お芝居の方は共々ぎこちないか心許なく、所詮ドラマツルギー自体へべれけと来た日には、劇映画的には精々御愛嬌。散発的といふか、より正確には暴発するが如く爆ぜてみせるのが関の山。さうは、いへども。そんな中でも最大のハイライトは、明日香が彫れる、もとい惚れる男も特に現れず、どの組み合はせで断行するのか、皆目見当のつかなかつた締めの濡れ場。あまりにも意味が判らなくて、くらくらするほど唐突に明日香と明子が兎に角突入する、出し抜けに狂ひ咲く正しく極彩色の百合には驚かされた。さうか、ガチ刺青女同士の絡み。その飛び道具を隠してゐたんだ。事そこに至る、脈略は木端微塵なんだけど。他方、裸映画として標準的な意味での白眉は、中折れした狼狂二―この人松岡充と大体同じ顔―に、マコがワンマンショーを見せつける件。刺青といふ一種の特殊装備持ちの頭二人は兎も角、いとうようこより低位に甘んじるビリングは正直解せない、麻生うさぎが最も女優らしい地力を披露する。総じての面白くない詰まらないならまあ、それはさて措きとでもいつたところながら、所々ベクトルの絶対値は結構デカい一作。正負は問ふてない、といふか問ふな。

 最後に、BBBともうひとつ謎なのが、ラストにフルコーラス流れる歌謡曲。“女だてらといふけれど”、“女泣かせる世の中にや”、“許しちやならない奴が多すぎる”。歌詞でググッてみたところで何も出て来なければ、スージー明日香がレコードを出してゐたといふ記録も見当たらない。ただ視覚デバイスに劣るとも勝らない節穴で聞いてみた感じ、劇中明日香が発する素の台詞同様、不安定な声色がスージー明日香のヴォーカルに響いたものだが果たして真相は如何に。


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