真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「拷問貴婦人」(昭和62/製作:六月劇場/提供:にっかつ/脚本・監督:ガイラ/製作:佐藤祀夫/プロデューサー:半沢浩《フィルム・シティ》/撮影:伊藤昭裕/照明:淡路俊之/編集:沢田まこと/特殊美術:松井優一/音楽:高橋洋一/撮影助手:三浦忠・小山田勝治/照明助手:西池彰・平岡裕/助監督:岡田周一・竹内敬明・嶋公浩/録音:ニューメグロスタジオ/効果:井橋正美/現像:東映化学/メイク:大石聖子/スタイリスト:武田芳子/スチール:有原裕晶/SPECIAL THANKS:寺野伊佐雄・篠原哲雄・田山雅邦・金子高士・関野直人・宮坂政志・旭光電機工業㈱/製作主任:渡辺正/進行:石毛朗/出演:麻野桂子・木築沙絵子・清川鮎・坂西良太・風間ひとみ・野中功・吉原平和・津崎公平)。
 百合の花咲かせる女二人を、遥か遠くにしかも滲ませた上で、チャッチャと暗転タイトル・イン。束の間のアバンで既に、見たいものが、より直截にいふとおぼろげな遠目にも確かに凄い、麻野桂子のお胸がきちんと見えないもどかしさ腹立たしさが募るばかり。
 座布団みたいな乳極乳―珍奇な用語に関しては改めて後述―を振り乱し、麻野桂子が渡る股縄がバイブに繋がれてゐて、その電動張形を木築沙絵子が自身の手で挿入する。下心弾むエロくてエモいシークエンスにしては、にも関らず全体像を満足に見せて呉れないものだから、とかく覚束ぬ濡れ場にやきもきしかさせられない一方、一億六千万の被害届を提出したバンコク銀行―万国かも―新宿支店の、元行員・吉田徹(吉原)を帝国陸軍の制服を着用した小柳一郎(津崎)と、多分曲芸師的な扮装の飯田(野中)が責める。小柳は元憲兵少佐で、“拷問の名人”なる悪名を馳せたといふ造形。そこに要は一発ヌイて来た、小柳と飯田が仕へる一条家の令嬢・宏子(麻野)と小柳の孫娘・美久(木築)が大登場。宏子の指揮下、美久がペンチで吉田の右足親指の爪を剥ぎ、奥の方の歯を抜く。抜かれたとて吉田が口を割らないのに、宏子が放つある意味清々しい名台詞が「こやつのチンチンを根こそぎ千切り取つておしまひ」。トランクス越しではあれ逸物を捩り上げられた末、吉田は終に金を隠した貸金庫の暗証番号を白状する。但し、届曰くの被害総額一億六千万に対し、吉田が現に横領したのは四分の一に過ぎない四千万。残りは被害届を出した支店長の仕業にさうゐないと、一同はその場の脊髄反射で大雑把な目星をつける。
 配役残り、坂西良太が件の支店長・森山か守山シュージで、風間ひとみは森山の愛人、兼共犯者の高原か髙原ナツ。清川鮎は、森山の正妻・ヒデコ。咥へて、もとい加へて森山が実は入婿で、森山家の総資産額も〆て十六億円也。濡れ手で、粟を掴め。
 処女美女、前年のはらわた二部作―と「GUZOO」―を経て、劇中いはゆる人体損壊描写も一応程度になくはないものの、パブから“スプラッタ・エロス”の括りは消えたガイラ(a.k.a.小水一男)昭和62年一本きり作。麻野桂子には括弧新人特記のほか、“乳極の“G”カップ女優”なる素敵なキャプションも火を噴く。究極を乳繰つて乳極、流石に、日活の担当者の天才的な閃きにより、この時発明された新造語なのではあるまいか。“乳極”、単語自体の持つ力が強すぎて、却つて使ひ勝手が悪い気がしなくもない。
 それは、兎も角。何が逆の意味で凄いといつて、没落した元華族―昭和22年、日本国憲法施行に伴ひ廃止―の後胤らしい宏子を社長としての中心に、この人の役職は不明な、一条家の使用人であつた小柳。帝国陸軍の少佐殿が、何でまた華族の召使に転職したのかは知らん。逆に、徴兵された兵卒が、佐官まで上がつて行けるのかも含め。閑話休題、小柳の孫娘・美久が専務で、話を窺ふに多分運転手辺りの飯田は部長。四人で法人登記してゐる訳がない―株式発行も―「日本拷問株式会社」を設立、脛に傷持つ人間をトッ捕まへては、凄惨な拷問を通して金を強奪。何処かしらヨーロッパに渡り、昔日の豪奢で優雅な暮らしぶりを取り戻さんとする。因みに、被害者―発端たる経済犯的には加害者―が最終的には、手挽きでミンチに挽かれ豚の餌。だなどと豪快か大概な基本設定を、ポスターに「日本拷問株式会社」―と“貴族の末裔”―の文言が仰々しく躍るのみで、本篇に於いては綺麗にスルーしてみせるぞんざいかへべれけな大省略。これ、一切のイントロに触れず、いきなり見るなり観た場合果たしてお話理解出来るのかな。挙句火に油を注ぐのが、全篇通してあちこち通り越した逐一、録音部が仕出かしたのか俳優部に帰すべき責なのか、ヘッドフォンでも台詞の中身が結構聞き取れない。割とでなく全滅の様相を呈するゆゑ、さうなるとニューメグロの罪かなあ。素人考へでは、アフレコして聞こえない意味が判らないんだけど。
 それ以外にも、表層的に復古趣味の上つ面を撫でるのが関の山の、全篇を貫き小柳が性懲りもなく垂れ続ける、紋切型を羅列した憂国の譫言。矢張り小柳発明の、デカい待ち針のやうな突起物が大量に生えた、謎めいたベッドがその名も同時オルガスムス昇天ベッド。致す二人の官能パルスを昇天ベッドが感知、ベッドから適当な機器を介してヘッドギアに繋ぎ、ヘッドギア装着者は増幅されたパルスで多幸感的な悦楽を得る。反面、ベッドの上の二人は、絶頂に達した瞬間二万ボルトの静電気で即死する。とかいふ、まるで山﨑邦紀が幾分バイオレントに振れたやうなある意味画期的ギミック。をも、何故か単身二万ボルトを被弾―お相手はヒデコ―した筈の飯田が、結局ピンッピン元気とあつては、木に竹も接ぎ損なふ無駄意匠に過ぎない。さうなると山﨑邦紀といふよりも、その限りに於いては今をときめかない荒木太郎に寧ろ近い。ヒデコに接触を図つた飯田が、漸く突入したかに安堵した絡みすら、オッ始まつた途端無下に切つて済ます。即ち概ねあゝだかうだ口説いてゐる―だけの―シークエンスに、驚く勿れ七分もの尺を割いてのける、中盤の途方もない中弛みにも呆れ返つた。だらだら撮つた七十分を持て余すくらゐなら、潔く一時間に収めてしまへばいゝ。等々、二番手以降も、別に何処からでもビリング頭を窺へる磐石の布陣を擁してゐながら、日本人的な乳房感の爆裂する麻野桂子のオッパイを、オッパイ・オブ・オッパイなオッパイを黙つて撮つてさへゐれば、幾らでも形になつたらう裸映画をみすみす濁して駄目にした実に勿体ない一作。そもそも、麻野桂子が責められるのでなく責める側、といふのが、根本的に釦をかけ損じてゐたのかも知れない。一旦は森山の強靭な意思ないし不屈の強欲に屈した宏子が、究極の必殺技で再戦を挑むクライマックスは、最終的にそのフィニッシュ・ホールド自体のプリミティブな他愛なさをさて措けば、案外鉄板の展開でもあつたものを。エンド・クレジットの通過後、純然たる蛇足のオーラスが一篇を綺麗に締め括り損ねる、藪蛇か無様が実に象徴的。

 誰も何も思はなかつたのか、それとも不可避の技術的問題か。一点、一見地味にも見えて実は派手に間違へてゐるのが、飯田が森山邸に単身乗り込み、ヒデコに森山とナツの情事を盗撮したビデオを見せる件。森山が挿入するや、映像そのものにモザイクが起動するのはそれは本質的におかしい。律に阻まれる以上修正を施すのは仕方ないにせよ、ブラウン管の、外側あるいは手前でモザイクはかゝつてあるのが然るべき状態だらう。
 備忘録< 宏子お嬢様の究極技といふのが、紐で棹をキュッと縛るシンプユ極まりない物理攻撃。オラースは小柳と飯田が「立つ鳥跡を濁さず」×「終りよければ全てよし」


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