真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「箱の中の女 処女いけにへ」(昭和60/提供:にっかつ/監督:小沼勝/脚本:ガイラ/プロデューサー:半沢浩/企画:植木実/撮影:遠藤政史/照明:田島武志/録音:佐藤富士男/美術:川船夏夫/編集:奥原茂/VE:遠藤進一/助監督:高根美博/選曲:山川繁/音声:田村和生/現像:東洋現像所/小道具協力:SM用品専門店 セビアン/ロープハンター:髭/宣伝:東康彦/製作担当:江島進/出演:蔡令子・田村寛・草薙幸二郎・三上剛仙・小原孝士・木築沙絵子)。脚本のガイラは、小水一男の変名、製作のクレジットが見当たらなんだ。
 そもそもビデオで撮影した上でフィルムに転写したキネコを、デジタル上映する地獄の底の、更に床下。・・・では流石になく、ビデオ原版。何だか軽く残念な、複雑な心境。ファッションの酷さに頭が腐りさうな嫌悪感を覚える、80年代新宿の雑踏。路駐したライトバンの内側視点に切替り、窓ガラスに女が手を張る。勇一(田村)と由紀子(葵)が、手マンから騎乗位に繋げる車中夫婦生活。外から見えないのかよといふ疑問に関しては、いはゆるマジックミラー仕様。助手席とフロントは除くのと、因みにSODが御馴染マジックミラー号シリーズの第一作を発売したのは、実に十一年後となる1996年。公の発言を鵜呑みにする限りでは、テレビバラエティの企画に想を得たもので、今作の影響は受けてゐない模様。
 クレジットは遥か昔に通過、藪蛇に国会議事堂なんて抜いてみせたりもしつつ、勇一と由紀子が、何某か腹に含んでゐる様子を匂はせる。鉄格子や吊るされた鎖で物々しい一室、勇一がDIYに勤しむ七分四十秒、漸くのタイトル・イン。獲物の女を捜す二人は、軒先で雨宿りする保母志望の女子大生・池田実千代(木築)に目をつける。由紀子が接触、親切を装ひ車に乗せた実千代を、ナイフで脅して誘拐。保安車輌でも走らせるのか、線路の敷設された巨大な地下水路?を経て、勇一と由紀子は実千代を頭部は左右に割れる形、首から下は天面に頭を通す穴の開いた観音開きの箱の中に監禁。破瓜を散らせるに止(とど)まらず、後ろも劇中用語で肛門セックス。一度逃亡を図つた後(のち)には、小陰唇を穿孔し鎖を通す、壮絶な凌辱を加へる。
 配役残り草薙幸二郎と小原孝士は、勇一と由紀子を取調する刑事。遣り取りと胸元のバッジを窺ふに、三上剛仙は被害者側の弁護士か。事件後何故か一躍脚光を浴びる実千代が、凄まじくダサいイメージビデオ風の謎撮影に臨む一幕、大量に見切れるスタッフとか報道陣は不明といふか知るか。あと、マジミラ要員の女二人も。
 勃興するアダルトビデオに追ひ込まれた瀕死のロマポが、ビデオ撮り本番撮影の過激路線で逆襲を試みた晩年の毒々しい徒花企画「ロマンX」。の、エース格・小沼勝を擁した第一弾。鬼畜男―と隷属する妻―が二十歳の女を七年の長期に亘り監禁した、前年世界を震撼させた実話に基づいてゐる。百年を超える懲役を喰らつた犯人は、死んだといふ話も聞かないゆゑ、恐らく今なほ服役中。
 アナルとビアスについては何処まで本番なのかは兎も角、未だ少女のあどけなさも残す木築沙絵子が大概な加虐を通り越した暴虐に曝される様は、低劣な琴線に触れるどころか引き千切る箍のトッ外れた迫力に溢れる。犯罪史に、その名と所業を残す。夫妻の明後日か一昨日な野望が巻き起こす後半の急展開は、グルッと一周して陳腐なラストまではある程度秀逸で、海を背に、大小二つの立方体がポカーンと置かれたロングは形容し難いシュールさを醸す。単に忍び込むだけならばまだしも、実際に鉄道車輌を走行させもする巨大水路のロケーションは、如何に撮影したのか確かにAV離れした映画の水準に達してゐよう。
 親告罪の範疇をとうに通り越してゐるにも関らず、実千代が告訴しない結果、勇一・由紀子は何でか知らんけど釈放される。自身らに浴びせられる世間の激しい罵声と憎悪、即ち裏返した強い関心を夢想し恍惚の表情を浮かべる勇一が、それらの一切存在しない現実に愕然と我に返るシークエンスなどは実に見事ではあれ、ところが画質以前のアキレス腱がクソ以下に温い劇伴、でさへなく、変態夫婦の脆弱なキャスティング。体こそ綺麗なものの、顎のしやくれた蔡令子は美人不美人の徳俵を割るはおろか走り幅跳びで豪快に飛び越える。田村寛も田村寛で、大杉漣の下卑た劣化レプリカ。フィルム補正の下駄も履けない以上、ビリング頭二人が画面を支へるにどうにも難い。さうなると繰り上がるハイライトは、刑事部の見守る中、三上剛仙の質問を受けながらも、完全に調教の終了した風情の実千代が俄かに点火し殆ど乱交へと雪崩れ込む件。実千代は―まだつけてゐた―ラブ鎖を最初三上剛仙に渡し、扱ひに窮した三上剛仙が、草薙幸二郎に押しつける。押しつけられた草薙幸二郎が腰も入れて身構へ、神妙な面持ちでクイックイッ。引かれるや実千代は喜悦、また草薙幸二郎は神妙な面持ちでクイックイッ。クイックイッ、途轍もない下らなさに感動した。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )