真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「はめられて」(1991/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/原案:三条まゆみ/脚本:池袋高介/撮影:大道行男/照明:内田清/編集:金子編集室/音楽:OK企画/助監督:石崎雅幸/撮影助手:青山弘・伊東仲久/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真実・水鳥川彩・織木かおり・武藤樹一郎・久須美欽一・工藤正人・太田和幸・姿良三・熊谷一佳・小出徹・鳥羽美子・野上正義)。出演者中、織本でなく織木かおりは本篇クレジットまゝ。同じく姿良三は、小川和久(現:欽也)の変名。
 シャワーを浴びる妻の美子(織木)から呼ばれ、三村健二(武藤)も風呂場に入りオッ始める。乳を揉まれるバストショットに、まるで怪談映画のやうな仰々しい劇伴を鳴らしてタイトル・イン。新進ミステリ作家である三村の仕事場は、未だ団地住まひのダイニングキッチン。やれテレビ、やれ講演会と急増した執筆以外の仕事に三村は嬉しい悲鳴をあげつつ、燻るのも通り越し荒れてゐた三年前を回想する。客とホステスといふ形で出会つた、無軌道な女・香山―加山とかかも―明美(小川)。ピストルはアタシが処分するだ、誰にも見られてないだの物騒な会話も飛び交ふ絡みは中途で端折る。ヤクザに殺されたとかいふ噂もあつた明美はところがどつこい生きてゐて、サラ金の利息代りと称して久須美欽一に犯されてゐた。久須りんが辞した流れでテレビを点けた明美は、出演する三村を見て驚く。問題の三年前、三村は明美の手引きで、改造銃を得物に強盗目的で丸安ビルに侵入。ところが秒殺で見つかつた警備員(太田)を、ものの弾みと思ひのほかな殺傷力で三村は撃ち殺してしまつてゐた。
 配役残り熊谷一佳・小出徹・鳥羽美子は、ホスト二人と豪遊する女。工藤正人が、三村から毟り取つた金で明美が買ふか飼ふホスト・アキラ。熊谷一佳と小出徹に鳥羽美子に話を戻すと、二度ある出番は何れも三人越しに明美とアキラを抜くためだけの、純然たる置物要員。そして、ある意味でのハイライト。アキラ相手に明美が爆裂させる史上空前に煌めくツンデレが、「アンタはドジだけど、モノだけは立派なんだからあ」。よしんばその一言のみであらうとも、小川真実にさういはしめさせた今作には確固たる意味があつたと思ふ、異論は認める。
 気を取り直して水鳥川彩は、アキラの情婦。裸映画的になほさら地味に際立つ難点が、代り映えしない室内での絡みがおまけに画面のルックまで変らないゆゑ、アキラと水鳥川彩の情交から三村家の夫婦生活に繋げた際、体位移動に一々暗転したのかと軽く混乱させられる。声―と背格好―で判断するしかない姿良三は、三村家に原稿を貰ひに来る編集者、首から上は満足に捉へられない。満を持して最後に大登場、後述する画期的な構成を頑丈に支へ抜く野上正義は、明美殺害事件を捜査、するかのやうに装ふ刑事、刑事は確かに刑事。
 どうもjmdbが、織本かおると織本かおりを混同してゐるのではないかといふ疑念に基づいての、小川和久1991年第三作。織本かおる川上雅代に改名後、五年のブランクを経てひよつこり復帰してゐるかの如くjmdbに記載されてあるのは、案の定織本かおりとのコンフュージョン。また本クレが御丁寧に横棒を一本忘れて織木にしてゐるとはいへ、一目瞭然、三村の嫁役は紛ふことなき織本かおるである。
 成功した男が、過去を知る女から強請られる。尤もその、脛の傷がデカ過ぎて感情移入なり擁護する気にもなれない、ほぼ全員悪人なアウトレイジ・ピンク。明美に虐げられ爆ぜるアキラは、明美曰く二人ゐる“何でもいふことを聞く男”の自分でないもう一人に、明美殺しをヒッ被せようかと思ひかける。色んな男が殺したくなる女、といふ魅力的なサスペンスには、必ずしも発展しないものの。二度目の水鳥川彩との絡みを経て、アキラが自首しての残り十分。女の裸を僅かなインサートの誘惑さへグッと我慢、ガミさんと武藤樹一郎の丁々発止で乗り切る、凡そ小川欽也の映画とは思へない大胆な構成には吃驚した。中身も一難去つてまた一難、一人の悪党が退場したかと思へば次の悪党がやつて来る、無間地獄展開にそもそもな悪党が豪快なクロスカウンター。いはゆる持たざる者の強み的なテーマにも辿り着き、普通に面白く見させるのが直截にいへば予想外。元々の原案が秀でてゐたのか、膨大な主演作を撮つた三条まゆみの叩き台に、今上御大がイズイズムも捨てる余所行きの意欲を見せたものかは判らないが、時期的な特徴なのか無造作どころか無作為な画面の暗さには目を瞑ると、ぞんざいな公開題に反しなかなかの一作である。


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