真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「風かおる 獣色」(昭和58『獣色官能婦人』のVHS題/製作?/配給:新東宝映画/監督:梅沢薫/撮影:志村敏雄/出演:風かおる・亜希いずみ・末次真三郎・伊達邦彦・荒木太郎・ラッキー《コリー犬》)。
 新東宝ビデオ開巻、階段の下に控へるノースリーブの男と、顔は可愛らしい割に結構な大型犬。呼び鈴が鳴り、犬に続き男も二階を見上げてVHS題でのタイトル・イン。即座に当サイトが涙の海に沈んだ惨劇に関しては、後述する、までもないかしら。
 ロベール(ラッキー)を悩ましく迎へた山荘―劇中用語は別荘―の女主人・高杉美保(風)は、御犬様に煙草の匂ひがついてゐるのに激昂、下男の荒木(伊達)を鞭でしばき倒す。しばき倒しながらも、すぐさま気を取り直して“何時ものやうに”と指示。荒木がこすこす扱いて大きくしたロベールの犬根を、挿入させ喜悦する。尤も、御犬様的には所詮知つたことでもないとはいへ、このロベールが全く以て芝居勘が悪く、犬マターの間が矢鱈とまどろこしいのと、いざインサートする段もする段で、何をどうしてゐるのか正直よく判らなかつたりもする。禁忌に触れるセンセーションといふよりは、漫然か漠然とした印象が如何せん強い。直截なところ、風かおるが乳を自分で揉み恍惚とする。そのショットだけで寧ろ、余程満足に戦へたのではなからうか。
 配役残り、初戦は兎も角完遂、カット跨ぐと朝の身支度で飛び込んで来る亜希いずみは、RESTAURANT & JAZZ SPOT「J」―新宿区新宿五丁目に現存する!―のピアノ弾き・ミヤコ。末次真三郎がミヤコの夫で、小説家のウエダノリオ。荒木太郎は「J」の浪人生アルバイト店員・杉村、まさか椙村とか、杉邨なのか。ミヤコに激しく執心、忸怩たる劣情を拗らせ滅多矢鱈に突つ込む様は、俳優部荒木太郎の十八番。もう一人、「J」の支配人が台詞も一言二言なくもない程度に見切れる。ところでウエダを間に挟んで美保とミヤコは三年前、ウエダが美保ではなく、ミヤコを選んだ三角関係にあつた。その後結婚した資産家が死去、財産を相続した美保は、「J」に電話を入れミヤコを呼び出し、ウエダも伴ひ山荘に招く。
 インターフィルムの新着だからといつて、必ずしも国映作とは限らないのかも知れない梅沢薫昭和58年第二作。雲を掴むやうな塩梅で甚だ恐縮だが、そもそもスッカスカなjmdbの火に油を注ぎ、梅沢薫と志村敏雄に、俳優部も頭三人しかクレジットしない新東宝ビデオのクソ仕様が兎にも角にも話にならん。それ、でも。見られるだけマシの世界、量産型娯楽映画の地平は豊饒の沃野か、はたまた不毛の荒野か。
 ウエダの強姦プレイに激怒したミヤコは、一人で美保の山荘に。その夜も相変らず“何時ものやうに”憚らぬ美保の獣色に、ミヤコは脊髄で折り返して臍を曲げるか匙を投げ、翌朝踵を返さうとするも猟銃を操る荒木に捕らへられる。緊縛された上で美保と棹は棹でも人の棹どころか犬姉妹にさせられたミヤコが、何故だかロベールに完ッ全に囚はれる。個人的にはマーケティング的な訴求力がてんでピンと来なく、なほかつ実際の撮影現場では何せ動物を人間と正しく絡ませるだけに、相当な困難も容易に予想される。エクセスにせよ当の新東宝にせよ、現に当たつたといつてゐるでないかとはいふものの、蓋を開けてみれば生煮える試(ためし)の多い一大鬼門・獣姦もの。獣姦ものに、何でだか皆目判らないけれど―美保とは違ひ、ウエダのゐる―ミヤコがロベールの虜になる、裸映画の下駄も上手く履いた超展開で無理から起承転結を整へると、ミヤコが杉村をロベールに看做す効果的な大技も爆裂。困つた時か最後は荒木の猟銃に適宜火を噴かせ、木に竹を接ぐスレッスレの美保の絶対的な寂寥と、いはゆる終りなき日常的なラストに硬着陸。繰り返すが、丸々と膨らんだ悩ましいオッパイを風かおるが自分で揉みしだき恍惚とする。出来ればその甘美なる陶酔を延々と延々と何時までも永久(とこしへ)に眺めてゐたかつた心は確かに残しつつ、端から困難な素材を、どうにかかうにか劇映画として最低限の形に落とし込んだ形跡の窺へる、飛躍まで含め案外ロジカルな一作である。


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